【会社法95条〜102条】募集設立における定款変更・引受取消し・発行可能株式総数の定め|条文の要点と実務ポイント

会社法95条から102条は、募集設立における定款変更、変態設立事項を変更した場合の引受取消し、発行可能株式総数の定め、種類株式がある場合の手続特則、設立時募集株式の引受人の権利などを定める条文です。

募集設立では、発起人だけで設立手続を完結させるのではなく、設立時募集株式の引受人が創立総会に参加します。そのため、定款変更や発行可能株式総数の決定について、発起人だけで決められる段階と、創立総会又は種類創立総会で決める段階を分けて理解する必要があります。

特に重要なのは、発起人が一定時点以後は定款変更をできなくなること、創立総会では定款変更ができること、会社法28条事項の変更に反対した設立時株主に引受取消権があること、発行可能株式総数を成立時までに定款へ置く必要があることです。

本記事では、会社法95条から102条について、募集設立の流れに沿って、定款変更・引受取消し・発行可能株式総数・種類株式の特則・設立時募集株式の引受人の地位を整理します。

  • 会社法95条は、募集設立で一定時点以後、発起人による定款変更を禁止する規定です。
  • 会社法96条は、創立総会の決議により定款を変更できることを定めています。
  • 会社法97条は、会社法28条事項を変更した場合に、反対した設立時株主が2週間以内に引受けを取り消せることを定めています。
  • 会社法98条は、募集設立で発行可能株式総数が未定の場合、成立時までに創立総会決議で定款に定める必要があることを定めています。
  • 会社法99条から101条は、種類株式発行会社で定款変更をする場合の全員同意・種類創立総会決議・取消権を定めています。
  • 会社法102条は、設立時募集株式の引受人による定款等の閲覧請求、成立時の株主取得、仮装払込み時の権利制限、錯誤・詐欺・強迫の主張制限などを定めています。

坂尾陽弁護士

会社法95条から102条は、募集設立の終盤で「誰が、いつ、どの決議で定款を変更できるか」を整理するための条文群です。発行可能株式総数、種類株式、変態設立事項が関係する場合は、創立総会議事録や種類創立総会の要否を早めに確認しましょう。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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会社法95条〜102条の位置づけ

会社法95条から101条は、会社法第2編第1章第9節「募集による設立」の中の「定款の変更」に置かれています。会社法102条は、その次の「設立手続等の特則」に置かれ、設立時募集株式の引受人の閲覧請求権や株主となる時期などを定めています。

募集設立では、発起人が設立時募集株式を募集し、引受人が払込みをし、創立総会で重要事項を決議した上で、設立登記により株式会社が成立します。会社法95条から102条は、この流れの中で、定款変更、種類株式、発行可能株式総数、引受人の地位を調整する役割を持ちます。

条文を確認する場合は、e-Gov法令検索「会社法」で会社法95条から102条を確認してください。会社法102条の2・103条は払込仮装責任や発起人の責任を扱うため、詳細は会社法102条の2・103条の逐条解説で整理しています。

条文 主な内容 実務上の確認事項
会社法95条 発起人による定款変更の禁止 募集開始後の一定時点以後、発起人だけで定款を変更できないことを確認する
会社法96条 創立総会における定款変更 創立総会決議で定款変更を行う場合の議案・決議要件・議事録を確認する
会社法97条 設立時発行株式の引受けの取消し 会社法28条事項を変更したときの反対者の取消権と2週間の期間を確認する
会社法98条 発行可能株式総数の定め 定款未記載の場合、成立時までに創立総会決議で定款に定める
会社法99条〜101条 種類株式発行会社の定款変更特則 全員同意又は種類創立総会決議が必要かを確認する
会社法102条 設立手続等の特則 引受人の閲覧請求、成立時の株主取得、仮装払込み時の権利制限等を確認する
95条〜102条は募集設立の終盤を整理する条文群です

設立時募集株式の募集・申込み・割当ては会社法57条〜62条の逐条解説、払込み・保管証明は会社法63条・64条の逐条解説、創立総会の基本手続は会社法65条〜83条の逐条解説で確認してください。本記事は、その後に問題になりやすい定款変更・発行可能株式総数・引受人の地位を扱います。


募集設立で定款変更が問題になる流れ

募集設立では、発起人が原始定款を作成した後、設立時募集株式の募集を行います。募集が進むと、発起人以外の引受人が出資予定者として関与するため、発起人だけで定款を変更すると、引受人の判断前提を一方的に変えてしまうおそれがあります。

そこで会社法95条は、一定時点以後の発起人による定款変更を禁止し、会社法96条は、創立総会決議による定款変更を認めています。つまり、募集設立では、定款変更の主体が、一定時点を境に発起人から創立総会へ移る構造です。

時期 主な手続 定款変更との関係
原始定款作成時 発起人が定款を作成し、公証人の認証を受ける 会社法27条・28条事項、機関設計、種類株式設計を確認する
募集事項の決定後 設立時募集株式の募集、申込み、割当てを行う 払込期日又は払込期間の初日が重要な基準になる
会社法95条の基準時以後 発起人だけでは定款変更ができない 必要な変更は創立総会決議で行う
創立総会 定款変更、設立時取締役等の選任、調査報告等を行う 会社法96条、98条、100条、101条などの適用を確認する
会社成立まで 登記書類を整え、設立登記を申請する 発行可能株式総数、種類株式、議事録、調査報告書の整合性を確認する

創立総会の招集、決議、議事録、省略手続については、創立総会の手続に関する実務解説で整理しています。会社法95条から102条を使う場面では、創立総会の議案設計と議事録作成が特に重要です。

定款変更は登記書類だけの問題ではありません

募集設立で定款を変更する場合、定款、創立総会議事録、種類創立総会議事録、払込資料、設立時取締役等の調査報告、設立登記申請書が相互に整合している必要があります。書類作成の段階で初めて気づくと、再招集や追加決議が必要になることがあります。


会社法95条|発起人による定款変更の禁止

会社法95条は、会社法57条1項の募集をする場合には、発起人は、会社法58条1項3号の期日又は同号の期間の初日のうち最も早い日以後は、会社法33条9項並びに37条1項・2項にかかわらず、定款の変更をすることができないと定めています。

会社法58条1項3号は、設立時募集株式の払込期日又は払込期間に関する事項です。つまり、払込期日又は払込期間の初日が到来する段階では、発起人だけで定款を変更して募集条件や会社設計を動かすことはできません。

この規定は、発起人の裁量を否定するだけでなく、設立時募集株式の引受人の判断前提を保護する意味を持ちます。引受人は、定款、募集事項、払込条件、機関設計、種類株式の内容などを前提に出資を判断するため、払込みの段階で発起人だけが定款を変えると、引受人の利益を害するおそれがあります。

確認項目 会社法95条での見方 実務対応
募集をしたか 会社法57条1項の設立時募集株式の募集がある場合に問題になる 発起設立のルールと混同しない
基準時 払込期日又は払込期間の初日のうち最も早い日以後 募集事項、申込書、払込資料の日付を確認する
発起人による変更 会社法33条9項、37条1項・2項に基づく発起人の定款変更ができなくなる 必要な変更は創立総会議案へ回す
登記への影響 成立時までに必要な定款事項が整っていないと登記書類に影響する 発行可能株式総数、種類株式、機関設計を早めに確認する
発起設立の感覚で定款変更を進めない

発起設立では、発起人全員の同意による定款変更が問題になる場面があります。しかし募集設立では、一定時点以後、発起人だけでは定款変更をできません。募集設立を選ぶ場合は、払込期日・払込期間を決める前に、定款内容と発行可能株式総数を確認しておくことが重要です。


会社法96条|創立総会における定款変更

会社法96条は、会社法30条2項にかかわらず、創立総会においては、その決議によって定款を変更することができると定めています。募集設立では、発起人だけで定款変更をできない段階に入った後、創立総会が定款変更の中心的な意思決定機関になります。

創立総会による定款変更は、設立時株主の共同の意思決定として行われます。そのため、定款変更をする場合は、招集通知の目的事項、議案内容、参考資料、決議要件、議事録の記載を整理する必要があります。

会社法96条は、創立総会で定款変更ができることを広く認める規定ですが、種類株式発行会社では会社法99条から101条の特則が問題になることがあります。通常の創立総会決議だけで足りるのか、種類創立総会決議や設立時種類株主全員の同意も必要なのかを確認する必要があります。

定款変更の内容 主に確認する条文 追加で確認すること
発行可能株式総数を新たに定める 会社法96条・98条 成立時までに創立総会決議で定める
会社法28条事項を変更する 会社法96条・97条 反対した設立時株主の引受取消権を確認する
種類株式の内容を変更する 会社法96条・99条〜101条 全員同意、種類創立総会、取消権の要否を確認する
機関設計・公告方法等を変更する 会社法96条 登記事項、定款、議事録との整合性を確認する

創立総会決議の基本要件や議事録については、会社法65条〜83条の逐条解説で扱っています。会社法96条を使う場合は、定款変更議案の内容だけでなく、創立総会の招集手続と決議要件もあわせて確認してください。


会社法97条|設立時発行株式の引受けの取消し

会社法97条は、創立総会において会社法28条各号に掲げる事項を変更する定款変更の決議をした場合に、その変更に反対した設立時株主が、決議後2週間以内に限り、設立時発行株式の引受けに係る意思表示を取り消すことができると定めています。

会社法28条各号に掲げる事項には、現物出資、財産引受け、発起人の報酬・特別利益、設立費用など、いわゆる変態設立事項が含まれます。これらは会社財産や設立時株主の利害に大きく影響するため、創立総会で変更する場合には、反対した設立時株主に引受取消権が認められています。

要件 内容 実務上の注意点
対象となる変更 会社法28条各号に掲げる事項を変更する定款変更 現物出資、財産引受け、発起人の報酬・特別利益、設立費用を確認する
権利者 当該創立総会でその変更に反対した設立時株主 反対の有無を議事録や議決権行使書面で確認する
行使期間 決議後2週間以内 期間管理を誤ると取消権行使の可否に影響する
効果 設立時発行株式の引受けに係る意思表示を取り消せる 払込額、株式数、設立時株主の構成、設立手続の見直しを検討する

現物出資や財産引受けの内容が変わる場合は、評価資料、検査役調査、専門家証明、設立時取締役等の調査とも連動します。変態設立事項については、現物出資・財産引受けの実務解説会社法32条・33条の逐条解説も確認してください。

反対者の取消権は議事録管理が重要です

会社法97条の取消権は、創立総会で変更に反対した設立時株主に認められます。誰が反対したか、反対の対象がどの議案か、2週間の起算点がいつかを曖昧にすると、払込額や設立時株主構成の管理が混乱します。


会社法98条|発行可能株式総数の定め

会社法98条は、会社法57条1項の募集をする場合において、発行可能株式総数を定款で定めていないときは、株式会社の成立の時までに、創立総会の決議によって、定款を変更して発行可能株式総数の定めを設けなければならないと定めています。

発行可能株式総数は、株式会社が発行することができる株式の総数です。原始定款で定めていない場合でも、株式会社成立時までには定款に定める必要があります。募集設立では、会社法95条により発起人だけで定款変更できない段階に入るため、会社法98条により創立総会決議で定めることになります。

比較項目 発起設立 募集設立
発行可能株式総数が未定の場合 会社成立時までに発起人全員の同意で定款変更する 会社成立時までに創立総会決議で定款変更する
主な根拠条文 会社法37条1項 会社法98条
意思決定の主体 発起人全員 創立総会
実務上の注意点 発起人間で株数設計を確認する 創立総会議案、議事録、登記書類に反映する

発行可能株式総数は、設立後の増資、種類株式設計、資本政策にも影響します。ただし、本記事の対象は募集設立における会社成立前の手続です。設立時発行株式や資本金・資本準備金の決め方は、設立時発行株式の実務解説で整理しています。

発行可能株式総数は成立時までに定款へ入れる

募集設立で発行可能株式総数を原始定款に置いていない場合、成立時までに創立総会決議で定款変更し、発行可能株式総数を定める必要があります。設立登記の段階で不足に気づくと、創立総会議事録の追加・見直しが必要になることがあります。


会社法99条|種類株式発行会社における全員同意の特則

会社法99条は、設立しようとする会社が種類株式発行会社である場合に、一定の定款変更をするときは、対象となる種類の設立時発行株式の設立時種類株主全員の同意を得なければならないと定めています。

対象となるのは、ある種類の株式の内容として会社法108条1項6号に掲げる事項、すなわち一定の事由が生じたことを条件として会社がその種類株式を取得できる旨の定めを設ける場合などです。また、ある種類の株式について会社法322条2項の定款の定めを設けようとする場合も対象になります。

会社法99条は、種類創立総会の多数決ではなく、設立時種類株主全員の同意を要求する点に特徴があります。特定の種類株式の内容や種類株主保護手続に大きな影響を与えるため、全員同意という強い要件が置かれています。

対象となる場合 必要な手続 実務上の注意点
取得条項付種類株式に関する一定の定めを設ける場合 対象種類の設立時種類株主全員の同意 誰が対象種類の設立時種類株主かを株式数・種類別に確認する
会社法322条2項の定款の定めを設ける場合 対象種類の設立時種類株主全員の同意 種類株主総会決議を不要とする定款設計の影響を確認する
全員同意が取れない場合 定款変更を進められない 種類株式設計の見直し又は募集条件の再検討が必要になる

種類株式の内容そのものは、種類株式の実務解説会社法108条の逐条解説で扱います。会社法99条は、募集設立の成立前に、その種類株式内容を変更又は追加する場合の手続特則として理解すると整理しやすくなります。


会社法100条|種類創立総会決議と反対者の取消権

会社法100条は、設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合に、定款を変更して、ある種類の株式の内容として会社法108条1項4号又は7号に掲げる事項を定めるときの特則を定めています。

会社法108条1項4号は、その種類株式の譲渡による取得について会社の承認を要すること、同項7号は、その種類株式の全部を株主総会決議によって取得することを内容とする種類株式です。このような定款変更は、当該種類の設立時種類株主などに大きな影響を及ぼすため、一定の種類創立総会決議がなければ効力を生じません。

また、会社法100条2項は、会社法100条1項の種類創立総会で当該定款変更に反対した設立時種類株主が、決議後2週間以内に限り、その設立時発行株式の引受けに係る意思表示を取り消すことができると定めています。

会社法100条で確認する事項 内容 実務対応
対象となる定款変更 譲渡制限種類株式や全部取得条項付種類株式に関する一定の定め 会社法108条1項4号・7号に該当するか確認する
必要な決議 対象となる設立時種類株主で構成する種類創立総会決議 種類ごとに議決権者、通知先、議決権数を整理する
例外 議決権を行使できる設立時種類株主がいない場合 議決権の有無を定款と株式内容から確認する
反対者の取消権 反対した設立時種類株主は決議後2週間以内に引受けを取り消せる 反対者と期間を議事録・通知で管理する

種類創立総会の基本手続は、会社法84条〜87条の逐条解説で整理しています。会社法100条を使う場合は、通常の創立総会議事録に加えて、種類創立総会の招集・決議・議事録を別に管理する必要があります。

種類株式を追加・変更する場合は種類別に手続を確認する

種類株式発行会社では、創立総会の定款変更決議だけで手続が終わらない場合があります。会社法99条の全員同意、会社法100条・101条の種類創立総会決議、反対者の取消権を、種類別に確認してください。


会社法101条|種類株主に損害を及ぼすおそれがある定款変更

会社法101条は、種類株式発行会社の設立において、一定の定款変更により、ある種類の設立時発行株式の設立時種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の特則を定めています。この場合、当該種類の設立時種類株主を構成員とする種類創立総会の決議がなければ、その定款変更は効力を生じません。

対象となる定款変更は、株式の種類の追加、株式の内容の変更、発行可能株式総数又は発行可能種類株式総数の増加です。これらは、既存の種類株主の希釈化、権利内容の変化、将来発行される株式の構成に影響するため、種類株主保護の観点から種類創立総会決議が要求されます。

会社法101条の対象 具体例 確認ポイント
株式の種類の追加 普通株式に加えて新たな優先株式を設ける 既存種類の設立時種類株主に損害を及ぼすおそれがあるか
株式の内容の変更 議決権、配当、取得条項、譲渡制限等の内容を変更する 変更対象の種類だけでなく影響を受ける種類を確認する
発行可能株式総数の増加 将来発行できる株式総数を増やす 希釈化や支配権への影響を確認する
発行可能種類株式総数の増加 特定種類の発行可能数を増やす 種類ごとの発行枠、設立時株主構成との整合性を確認する

会社法101条2項は、単元株式数についての定款変更で、会社法322条2項の定款の定めがある場合には、会社法101条1項の規定を適用しないと定めています。単元株式数や種類株主総会の要否に関する設計は、設立時だけでなく設立後の株式実務にも影響するため、安易に省略せず確認する必要があります。

発行可能株式総数や発行可能種類株式総数は、株式分野の条文とも関係します。会社成立後の株式制度との接続は、会社法112条〜115条の逐条解説も参照してください。


会社法102条|設立手続等の特則

会社法102条は、設立時募集株式の引受人の閲覧請求権、会社成立時に株主となる時期、仮装払込みがあった場合の権利制限、意思表示に関する民法規定の不適用、錯誤・詐欺・強迫の主張制限を定めています。

会社法102条1項は、設立時募集株式の引受人が、発起人の定めた時間内であれば、会社法31条2項各号に掲げる請求をいつでもできると定めています。これは、発起設立における定款等の備置き・閲覧請求に対応し、募集設立の引受人にも設立手続の情報を確認する機会を保障するものです。

会社法102条2項は、設立時募集株式の引受人が、株式会社の成立時に、会社法63条1項による払込みを行った設立時発行株式の株主となると定めています。会社は設立登記によって成立するため、引受人は払込みをしただけで直ちに成立後の株主になるのではなく、会社成立時に株主になります。

会社法102条の項目 主な内容 実務上の確認事項
1項 設立時募集株式の引受人による定款等の閲覧・謄写請求 発起人が閲覧時間、費用、提供方法を整理する
2項 払込みをした引受人が会社成立時に株主となる 払込済株式数、株主名簿、設立登記後の株主構成を確認する
3項 仮装払込みがあった場合の設立時株主・株主権の行使制限 払込仮装責任の履行前は権利行使が制限される
4項 仮装払込み株式等を譲り受けた者の権利行使 悪意又は重過失がある場合の例外を確認する
5項 民法93条ただし書・94条1項の不適用 申込み・割当て・総数引受契約の意思表示を安定させる
6項 成立後又は議決権行使後の錯誤・詐欺・強迫の主張制限 設立手続の安定と引受人保護の調整を理解する

会社法102条3項・4項は、払込みを仮装した場合の権利行使制限を定めています。仮装払込みの責任や発起人・設立時取締役の連帯責任は、会社法102条の2・103条で扱われます。詳しくは、会社法102条の2・103条の逐条解説を確認してください。

また、会社法102条6項は、会社成立後又は創立総会・種類創立総会で議決権を行使した後は、錯誤を理由とする引受けの無効主張や、詐欺・強迫を理由とする引受けの取消しができないと定めています。募集設立は多数の引受人と会社成立後の取引関係に影響するため、成立後に引受けの効力を広く争えると法律関係が不安定になるからです。

102条は設立時募集株式の引受人の地位を整理する規定です

会社法102条は、定款変更そのものの規定ではなく、設立時募集株式の引受人が、設立手続中にどのような情報を確認でき、いつ株主となり、どのような場合に権利行使が制限されるかを定める規定です。払込み・株主権・仮装払込みをつなぐ条文として確認しましょう。


設立登記・議事録・書類整合性の実務ポイント

会社法95条から102条が問題になる場面では、定款変更の決議だけでなく、設立登記に向けた書類整合性が重要です。発行可能株式総数を定めた場合、定款、創立総会議事録、登記申請書、設立時発行株式の総数、種類株式の内容が一致していなければなりません。

種類株式が関係する場合は、通常の創立総会議事録だけで足りるか、種類創立総会議事録や設立時種類株主全員の同意書が必要かを確認します。会社法99条から101条の手続を見落とすと、設立登記前の補正だけでなく、成立後の株主関係や決議瑕疵の問題にもつながる可能性があります。

書類・資料 確認する内容 関連条文
定款 発行可能株式総数、種類株式内容、会社法28条事項、機関設計 会社法95条〜101条
創立総会議事録 定款変更決議、発行可能株式総数の設定、反対者の有無 会社法96条〜98条
種類創立総会議事録 種類株式関連の定款変更、種類株主の議決権、反対者の有無 会社法100条・101条
設立時種類株主全員の同意書 会社法99条の全員同意が必要な場合の同意確認 会社法99条
払込資料 払込み済みの株式数、仮装払込みの有無、株主となる者 会社法102条、102条の2、103条
設立登記申請書 登記事項と定款・議事録の一致 会社法911条

株式会社の成立時期や設立登記との関係は、株式会社の成立時期に関する実務解説で整理しています。会社法95条から102条の手続は、最終的に「成立時までに定款・決議・登記書類が整っているか」という観点で確認することが重要です。

設立後の紛争に回さず、成立前に整合性を確認する

創立総会や種類創立総会の手続不備、発行可能株式総数の定款記載漏れ、反対者の取消権対応漏れは、会社成立後に株主関係や登記の問題として顕在化することがあります。設立登記前に、定款・議事録・払込資料・同意書を横断して確認しましょう。


手続不備がある場合の影響

会社法95条から102条に関する不備がある場合、まずは会社成立前に是正できるかを検討します。たとえば、発行可能株式総数を定めていない場合は、会社成立時までに創立総会決議で定款変更をする必要があります。種類創立総会や全員同意が必要な場合は、対象となる種類株主を確認し、必要な手続を追加します。

会社成立後に不備が顕在化した場合は、設立無効の訴え、決議取消し、役員や発起人の責任、株主権の帰属など、別の制度で処理することになります。ただし、成立後の法律関係を安易に覆すことはできないため、成立前に不備を発見し、必要な決議や同意を取り直すことが実務上重要です。

不備の例 成立前の初動対応 関連するリスク
発起人が会社法95条の基準時後に定款変更をした 創立総会決議による定款変更としてやり直せるか確認する 定款変更の効力、登記書類の不整合
会社法28条事項を変更したのに反対者対応をしていない 反対者の有無、2週間の期間、取消しの意思表示を確認する 引受取消し、払込額・株主構成の変動
発行可能株式総数を定めていない 成立時までに創立総会決議で定款変更する 設立登記書類の不備
種類創立総会を省略した 会社法99条〜101条の適用を確認し、必要な決議・同意を追加する 定款変更の効力、種類株主との紛争
払込みが仮装されている疑いがある 資金の実質、払込後の出金、責任履行の要否を確認する 株主権行使制限、102条の2・103条の責任

組織行為の無効や決議取消しの論点は、会社関係訴訟の分野で整理されます。設立無効などの基本は会社法828条の逐条解説、株主総会等の決議取消しは会社法831条の逐条解説も確認してください。ただし、本記事の実務上の主眼は、成立前に必要な手続を整えることです。


実務チェックリスト

会社法95条から102条が関係する募集設立では、次の順で確認すると、定款変更や種類株式の手続漏れを防ぎやすくなります。

  • 会社法57条1項の設立時募集株式の募集をしているか。
  • 会社法58条1項3号の払込期日又は払込期間の初日がいつか。
  • 会社法95条の基準時以後に、発起人だけで定款変更をしていないか。
  • 定款変更が必要な場合、創立総会の議案・招集通知・決議要件・議事録を整えているか。
  • 会社法28条事項を変更する場合、反対した設立時株主の取消権と2週間の期間を管理しているか。
  • 発行可能株式総数が定款に定められているか。未定の場合、成立時までに創立総会決議で定めているか。
  • 種類株式発行会社の場合、会社法99条の全員同意が必要な定款変更がないか。
  • 会社法100条・101条により種類創立総会決議が必要な定款変更がないか。
  • 設立時募集株式の引受人が閲覧請求できる資料や時間、費用を整理しているか。
  • 払込みが実質を伴っているか、仮装払込みの疑いがないか。
  • 定款、創立総会議事録、種類創立総会議事録、同意書、払込資料、登記申請書の内容が一致しているか。

坂尾陽弁護士

募集設立は発起設立より関係者が多く、定款変更や種類株式の手続が複雑になりやすい設立方法です。創立総会を開く前に、議案、反対者対応、発行可能株式総数、種類創立総会の要否を一覧化しておくと、設立登記直前の手戻りを減らせます。

会社法95条〜102条に関するよくある質問

募集設立では発起人がいつまで定款変更できますか?

会社法95条により、会社法58条1項3号の期日又は期間の初日のうち最も早い日以後は、発起人は定款変更をすることができません。必要な変更は、会社法96条に基づき創立総会決議で行うことになります。

創立総会ではどのような定款変更ができますか?

会社法96条により、創立総会では決議によって定款を変更できます。ただし、会社法28条事項を変更する場合は会社法97条の取消権、種類株式が関係する場合は会社法99条から101条の全員同意・種類創立総会決議を確認する必要があります。

会社法97条の2週間はいつから数えますか?

会社法97条では、当該創立総会の決議後2週間以内とされています。実務上は、決議日、反対した設立時株主、取消しの意思表示の到達を管理できるよう、議事録や通知書類を整理しておくことが重要です。

発行可能株式総数は原始定款に必ず書く必要がありますか?

原始定款作成時に必ず定めていない場合でも、株式会社の成立時までには定款に定める必要があります。募集設立で未定の場合は、会社法98条により、成立時までに創立総会決議で定款を変更して発行可能株式総数を定めます。

種類株式がある場合、創立総会だけで足りますか?

必ずしも足りません。種類株式発行会社で一定の定款変更を行う場合には、会社法99条の設立時種類株主全員の同意や、会社法100条・101条の種類創立総会決議が必要になることがあります。

会社法102条により、設立時募集株式の引受人はいつ株主になりますか?

設立時募集株式の引受人は、会社法63条1項による払込みを行った設立時発行株式について、株式会社の成立時に株主となります。払込みをしただけで直ちに成立後の株主になるわけではありません。

払込みを仮装した場合でも議決権を行使できますか?

会社法102条3項により、払込みを仮装した設立時募集株式については、会社法102条の2第1項又は103条2項の支払がされた後でなければ、設立時株主及び株主の権利を行使できません。詳細は会社法102条の2・103条の責任として確認する必要があります。

会社成立後に引受けの錯誤・詐欺・強迫を主張できますか?

会社法102条6項により、会社成立後又は創立総会・種類創立総会で議決権を行使した後は、錯誤を理由とする引受けの無効主張や、詐欺・強迫を理由とする引受けの取消しはできません。設立手続の安定を重視した規定です。


まとめ

会社法95条から102条は、募集設立における定款変更、発行可能株式総数、種類株式の手続特則、設立時募集株式の引受人の地位を整理する条文群です。募集設立では、発起人以外の引受人が関与するため、定款変更の主体・時期・反対者保護を明確にしておく必要があります。

  • 会社法95条により、募集設立では一定時点以後、発起人だけで定款変更をすることはできません。
  • 会社法96条により、創立総会では決議によって定款変更ができます。
  • 会社法97条により、会社法28条事項の変更に反対した設立時株主は、決議後2週間以内に引受けを取り消せます。
  • 会社法98条により、発行可能株式総数が未定の場合、成立時までに創立総会決議で定款に定める必要があります。
  • 会社法99条から101条により、種類株式が関係する定款変更では、全員同意や種類創立総会決議が必要になることがあります。
  • 会社法102条は、設立時募集株式の引受人の閲覧請求、株主となる時期、仮装払込み時の権利制限、錯誤等の主張制限を定めています。

募集設立で定款変更や種類株式設計がある場合は、創立総会前に、必要な議案、同意書、種類創立総会、反対者対応、登記添付書類を一覧化しておくことが重要です。特に、発行可能株式総数や種類株式の内容は、会社成立後の株式実務にも影響するため、設立段階で整合性を確認しておきましょう。

坂尾陽弁護士

会社法95条から102条の確認は、募集設立の「最後の詰め」です。定款変更を誰が決めるのか、引受人に取消権があるのか、種類創立総会が必要か、発行可能株式総数が登記書類に反映されているかを、成立前に一つずつ確認しましょう。

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