【会社法53条〜55条】発起人等の損害賠償責任・連帯責任・責任免除|条文の要点と実務ポイント

会社法53条〜55条は、株式会社の設立に関わった発起人・設立時取締役・設立時監査役が、設立手続で任務を怠った場合の損害賠償責任、複数人が責任を負う場合の連帯責任、会社に対する責任を免除するための要件を定める規定です。

設立時の責任は、現物出資財産等の価額不足を扱う会社法52条や、払込み・現物給付の仮装を扱う会社法52条の2だけではありません。定款、出資、設立時役員の調査、設立登記前の確認、創立総会対応などについて任務懈怠があれば、会社又は第三者に対する損害賠償責任が問題になります。

  • 会社法53条1項は、設立について任務を怠った発起人等の会社に対する損害賠償責任を定めています。
  • 会社法53条2項は、職務執行について悪意又は重大な過失がある場合の第三者責任を定めています。
  • 会社法54条は、複数の発起人等が同じ損害について責任を負う場合の連帯責任を定めています。
  • 会社法55条は、52条1項・52条の2第1項第2項・53条1項の責任を免除するには総株主の同意が必要であることを定めています。

坂尾陽弁護士

会社設立の段階では、形式的に登記が完了しても、出資・定款・調査・説明に関する不備が後から問題になることがあります。責任の有無は、誰が、どの職務を、どのように怠り、どの損害につながったかを分けて確認することが重要です。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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会社法53条〜55条の位置づけ

会社法53条〜55条は、会社設立の最終段階で問題になり得る「発起人等の責任」を整理する条文です。会社法52条が現物出資財産等の価額不足、会社法52条の2が出資履行の仮装という特定場面を扱うのに対し、会社法53条は、設立について任務を怠ったことによる損害賠償責任を広く扱います。

条文を確認する場合は、e-Gov法令検索「会社法」で会社法53条から55条を確認してください。この記事では、条文の要点と、設立実務で問題になりやすい場面に絞って整理します。

条文 主な内容 実務上の確認ポイント
会社法53条1項 発起人等の会社に対する損害賠償責任 設立について任務を怠ったか、会社に損害が生じたか
会社法53条2項 発起人等の第三者に対する損害賠償責任 職務執行について悪意又は重大な過失があるか、第三者損害との因果関係があるか
会社法54条 発起人等の連帯責任 同じ損害について複数の者が責任を負うか
会社法55条 責任の免除 総株主の同意が必要な責任か、第三者責任ではないか
会社法52条・52条の2との違い

会社法52条は「現物出資財産等の価額不足」、会社法52条の2は「出資の履行の仮装」という特定の責任を定めます。会社法53条は、これらに限られない設立上の任務懈怠責任を扱う一般的な責任規定として理解すると整理しやすくなります。


会社法53条1項|会社に対する損害賠償責任

会社法53条1項は、発起人、設立時取締役又は設立時監査役が、株式会社の設立についてその任務を怠ったときに、当該株式会社に対して、これによって生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。

ここで重要なのは、責任の対象が「株式会社の設立について」の任務であることです。会社成立後の通常の取締役の業務執行責任とは場面が異なります。成立後の役員責任は、役員等の損害賠償責任(会社法423条〜430条)や、会社法423条の逐条解説で別に整理しています。

責任を負う可能性がある者

会社法53条1項の対象者は、発起人、設立時取締役、設立時監査役です。会社設立の関係者すべてが当然に対象となるわけではなく、条文上の対象者をまず確認します。

対象者 設立手続での主な役割 責任が問題になりやすい場面
発起人 定款作成、設立時発行株式の引受け、出資履行、設立手続の主導 定款記載漏れ、出資履行の不備、財産引受け、設立費用、設立中の契約
設立時取締役 設立時取締役等による調査、設立登記前の不備確認 払込み・現物出資・変態設立事項・定款との整合性の確認漏れ
設立時監査役 設立時監査役が置かれる会社での調査・監査に関する関与 調査・監査の対象となる事項の重大な見落とし

設立時取締役等による調査の内容は、設立時取締役等による調査(検査役含む)と、会社法46条の逐条解説で確認できます。

「任務を怠った」といえるか

任務懈怠があるかは、発起人等がその立場で行うべき確認・判断・説明・手続を尽くしたかで判断します。単に設立後に損害が発生しただけで、直ちに会社法53条1項の責任が生じるわけではありません。

  • 定款に必要事項を記載又は記録したか。
  • 現物出資・財産引受けなどの変態設立事項を適切に定款へ反映したか。
  • 払込みや現物給付の実体を確認したか。
  • 設立時取締役等の調査が形式的な確認だけで終わっていないか。
  • 創立総会や募集設立の場面で、重要な事項を適切に説明したか。
  • 設立中の契約や設立費用について、会社に不当な負担を負わせていないか。

たとえば、現物出資財産の評価が不十分である、財産引受けの定款記載がない、払込証明の外形はあるが入出金の実体が不自然である、といった事情は、会社法52条や52条の2だけでなく、設立上の任務懈怠としても問題になり得ます。

損害と因果関係が必要になる

会社法53条1項の責任では、任務懈怠があるだけでなく、会社に損害が生じ、その損害が任務懈怠によって生じたといえることが必要です。設立手続に不備があっても、会社が主張する損害との因果関係が弱い場合には、責任追及が難しくなります。

新潟地裁昭和52年12月26日判決では、発起人の任務懈怠が問題とされましたが、会社債権者が被った損害について、過剰な設備投資による倒産との関係が重視され、任務懈怠との因果関係が否定されています。設立時の不備と後日の損害との間に、法的に説明できるつながりがあるかが重要です。


会社法53条2項|第三者に対する損害賠償責任

会社法53条2項は、発起人、設立時取締役又は設立時監査役が、その職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときに、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うと定めています。

会社に対する責任を定める53条1項と異なり、第三者責任では、悪意又は重大な過失という重い主観的要件が明示されています。設立に関する不備があったとしても、第三者に対する責任を認めるには、職務執行についての悪意・重過失、第三者損害、因果関係を丁寧に検討する必要があります。

比較項目 会社法53条1項 会社法53条2項
請求主体 株式会社 第三者
責任の対象 設立について任務を怠ったこと 職務を行うについて悪意又は重大な過失があること
損害 会社に生じた損害 第三者に生じた損害
免除 会社法55条により総株主同意が必要 会社法55条の免除対象ではない

第三者に含まれ得る者

第三者としては、会社債権者、設立時募集株式の引受人、株式を取得した者、取引先などが問題になり得ます。ただし、誰でも容易に責任追及できるわけではありません。第三者自身にどのような損害があり、その損害が設立時の職務違反とどのようにつながるかを説明する必要があります。

会社成立から相当期間が経過した後に、通常の事業運営上の失敗や経営判断によって損害が発生した場合には、設立時の任務懈怠との因果関係を認めることは簡単ではありません。設立時の不備、第三者の取引判断、損害発生時期、損害の直接原因を分けて検討します。

成立後の役員等の第三者責任との違い

会社成立後の役員等の第三者責任は、会社法429条で問題になります。会社法53条2項は、会社設立に関する発起人等の職務を前提とした責任です。どちらも悪意又は重大な過失が問題になりますが、対象となる職務と時期が異なります。

成立後の取締役等の第三者責任は、会社法429条の逐条解説で扱います。設立時の責任を検討する場合は、会社法53条2項と会社法429条を混同しないことが重要です。


会社法54条|複数人が責任を負う場合の連帯責任

会社法54条は、発起人、設立時取締役又は設立時監査役が、株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の発起人、設立時取締役又は設立時監査役も同じ損害を賠償する責任を負うときは、これらの者を連帯債務者とすると定めています。

つまり、会社法54条は、それ自体で責任を発生させる規定ではありません。まず会社法53条などに基づき複数の者が損害賠償責任を負うことが前提となり、そのうえで責任者相互の対外的な関係を連帯債務として整理する規定です。

全員が当然に連帯責任を負うわけではありません

発起人が複数いる、又は設立時取締役が複数いるというだけで、全員が当然に連帯責任を負うわけではありません。それぞれについて任務懈怠、悪意・重過失、損害、因果関係が問題になります。

連帯責任の実務上の意味

連帯債務者となると、会社又は第三者は、責任を負う者の一人に対して損害全額を請求できることがあります。請求を受けた者が支払った後、内部的な負担割合や求償が別途問題になります。

場面 実務上の意味 確認すべき資料
会社が発起人らに請求する場合 誰にどの範囲で請求するか、和解するかを検討する 定款、発起人同意書、払込資料、議事録、調査報告書
第三者が複数人に請求する場合 悪意・重過失や因果関係を各人ごとに整理する 説明資料、勧誘資料、メール、契約書、登記関係書類
一部の者が支払った場合 内部負担割合、求償、和解条項を整理する 責任分担に関する合意、関与度合いの証拠、支払記録

成立後の役員等の連帯責任は会社法430条で整理されます。設立時の連帯責任は会社法54条、成立後の役員等の連帯責任は会社法430条の逐条解説というように、場面を分けて確認してください。


会社法55条|責任を免除するには総株主の同意が必要

会社法55条は、一定の設立時責任について、総株主の同意がなければ免除できないと定めています。設立時の責任は、会社に対する責任であっても、代表者や取締役会の判断だけで簡単に免除できるものではありません。

会社法55条の対象になるのは、会社法52条1項の価額不足責任、会社法52条の2第1項・第2項の出資履行仮装責任、会社法53条1項の会社に対する損害賠償責任です。

責任 会社法55条の免除対象か 注意点
会社法52条1項の価額不足責任 対象 総株主の同意が必要
会社法52条の2第1項の発起人の義務 対象 払込み・給付の仮装に関する義務
会社法52条の2第2項の関与者責任 対象 一定の発起人・設立時取締役の責任
会社法53条1項の会社に対する責任 対象 任務懈怠による会社損害の賠償責任
会社法53条2項の第三者責任 対象外 第三者の権利であり、総株主同意では免除できない

総株主の同意とは

会社法55条は「総株主の同意」を要求しています。これは、株主総会の普通決議や特別決議とは異なります。実務上は、対象責任、免除される者、免除範囲、同意日を明確にしたうえで、株主全員から同意を取得し、証拠化することが重要です。

議決権制限株式や種類株式がある場合、株主名簿上の株主と実質的な関係者がずれている場合、相続・譲渡・名義書換が未了の場合には、誰から同意を取るべきかを慎重に確認します。総株主同意を要する免除は、後日争われると責任整理全体が不安定になります。

成立後の役員責任免除との違い

会社成立後の役員等の会社に対する責任免除は、会社法424条以下で整理されます。会社法55条は、設立時の特定責任を対象にした免除規定です。総株主同意という点では似ていますが、責任主体、対象条文、免除できる範囲が異なります。

成立後の役員責任の免除は、会社法424条の逐条解説、責任限定契約は会社法427条の逐条解説で確認してください。


設立実務で会社法53条〜55条が問題になる典型場面

会社法53条〜55条は、日常的に表面化する条文ではありませんが、設立後に不備が発覚した場面、株主間紛争が生じた場面、資金調達やM&Aで過去の設立手続を確認する場面で重要になります。

典型場面 問題になり得る責任 初動対応
現物出資財産の評価・引渡しに不備がある 52条、53条、54条 定款、財産資料、評価資料、引渡し状況を確認する
財産引受けの定款記載がない 28条、52条、53条 契約時期、契約名義、定款記載、会社成立後の処理を確認する
払込みの外形はあるが資金移動が不自然 52条の2、53条、55条 入金・出金履歴、資金原資、返金先、借入関係を確認する
設立時取締役の調査が形式的 46条、53条、54条 調査報告書、確認資料、不備通知の有無を確認する
設立時の説明により第三者が損害を受けた 53条2項、54条 説明内容、悪意・重過失、第三者損害との因果関係を整理する
責任を免除して設立時の不備を整理したい 55条 対象責任、株主全員の同意、第三者責任の有無を確認する

財産引受けと発起人の権限

最高裁昭和38年12月24日判決は、発起人は、会社設立自体に必要な行為のほか、開業準備行為であっても原則として行うことはできず、原始定款に記載され法定要件を満たした財産引受けだけが例外的に許されると判示しました。

この裁判例は、会社法53条そのものの事案ではありませんが、発起人が設立中の会社のために契約や財産取得を行う場面で、権限・定款記載・会社への帰属を軽く扱うと、設立後に責任問題へ波及し得ることを示しています。財産引受けの実務は、現物出資・財産引受け(変態設立事項)で確認してください。

払込み・払込証明との関係

払込証明書や通帳写しがそろっていても、払込みの実体に問題があれば、会社法52条の2や53条の責任が問題になります。特に、設立直後に払込金が発起人や借入先へ戻っている場合は、仮装払込みの疑いが生じます。

通常の払込実務と証拠の残し方は、出資の履行(払込み)と払込証明で整理しています。責任問題を避けるには、入金だけでなく、入金後の出金・使途・契約関係も説明できるようにしておくことが重要です。


責任追及・防御のチェックポイント

会社法53条〜55条を検討する場合は、責任追及をする側でも、防御する側でも、条文だけでなく事実関係と証拠を整理する必要があります。

  1. 対象者が発起人・設立時取締役・設立時監査役に当たるかを確認する。
  2. どの設立上の任務が問題になっているかを特定する。
  3. 任務懈怠、悪意・重過失、損害、因果関係を分けて整理する。
  4. 会社に対する責任か、第三者に対する責任かを区別する。
  5. 複数の責任者がいる場合、会社法54条の連帯責任を検討する。
  6. 免除を検討する場合、会社法55条の対象責任か、総株主同意があるかを確認する。

会社側が確認すべき資料

会社が責任追及又は責任整理を検討する場合は、設立関係資料を可能な限り集めます。特に、定款、発起人の同意書、出資資料、払込証明、通帳写し、現物出資財産の資料、設立時役員の選任書類、調査報告書、設立登記申請書類、創立総会議事録が重要です。

また、メール、チャット、見積書、請求書、契約書、領収書、振込明細、会計処理資料も、誰がどの職務に関与したかを確認する資料になります。設立時の資料は後から再現しにくいため、早期に保存しておくことが重要です。

責任を問われた側が確認すべき事項

発起人等が責任を問われた場合は、自分が担当した職務の範囲、実際に確認した資料、専門家に確認した事項、他の発起人や設立時取締役との役割分担、会社又は第三者の損害との因果関係を整理します。

特に第三者責任では、悪意又は重大な過失の有無が重要になります。単なる軽微な見落としなのか、容易に分かる重大な不備を放置したのか、虚偽説明や隠ぺいがあったのかを、証拠に基づいて検討します。


会社法53条〜55条に関するよくある質問

会社法53条は、発起人全員に当然責任を負わせる規定ですか?

いいえ。発起人であるだけで当然に責任を負うわけではありません。会社法53条では、設立について任務を怠ったこと、損害が生じたこと、その間に因果関係があることが問題になります。会社法54条の連帯責任も、複数の者が同じ損害について責任を負う場合に問題になります。

会社法53条1項と2項の違いは何ですか?

53条1項は、会社に対する損害賠償責任です。53条2項は、第三者に対する損害賠償責任であり、職務を行うについて悪意又は重大な過失があることが必要です。請求主体、要件、免除の可否が異なります。

設立時取締役の調査を形式的に済ませても問題ありませんか?

問題になることがあります。設立時取締役等は、出資の履行、現物出資財産等、定款記載事項との整合性などを確認すべき場面があります。調査報告書が形式的で、容易に確認できる不備を見落としていた場合には、任務懈怠が問題になり得ます。

会社に対する責任は取締役会や代表取締役の判断で免除できますか?

会社法55条の対象となる責任については、総株主の同意がなければ免除できません。代表取締役や取締役会の判断だけで免除できると考えるのは危険です。免除する場合は、対象責任と同意者を明確にし、株主全員の同意を証拠化します。

第三者に対する責任も総株主の同意で免除できますか?

できません。会社法55条が対象としているのは、会社法53条1項の会社に対する責任などです。会社法53条2項の第三者責任は、損害を受けた第三者の権利であり、会社の株主全員の同意によって免除できるものではありません。

会社が成立しなかった場合も会社法53条で処理しますか?

会社が成立しなかった場合には、会社法56条の責任が問題になります。会社法53条は、成立した株式会社に対する責任や第三者責任を中心に整理する規定です。会社不成立時の責任は、会社法56条の逐条解説で確認してください。

募集設立の場合も同じように考えればよいですか?

募集設立では、設立時募集株式の引受人、払込み、創立総会などの手続が加わるため、会社法103条などとの関係も確認する必要があります。募集設立全体は、募集設立とは、関連する責任規定は会社法102条の2・103条の逐条解説を確認してください。


まとめ

会社法53条〜55条は、設立時の発起人等の責任を、損害賠償責任、連帯責任、責任免除の観点から整理する重要な条文です。会社設立の登記が完了しても、設立時の任務懈怠や出資・調査・説明の不備が後から問題になることがあります。

  • 会社法53条1項は、発起人等の会社に対する任務懈怠責任を定めています。
  • 会社法53条2項は、悪意又は重大な過失がある場合の第三者責任を定めています。
  • 会社法54条は、同じ損害について複数の者が責任を負う場合の連帯責任を定めています。
  • 会社法55条は、一定の会社に対する責任を免除するには総株主の同意が必要であることを定めています。
  • 責任の有無は、任務内容、損害、因果関係、悪意・重過失、免除対象かを分けて確認します。

設立時の責任問題を避けるには、定款、出資履行、現物出資・財産引受け、設立時取締役等の調査、設立登記に至るまでの資料を整え、形式だけでなく実体を確認することが重要です。設立後に不備が判明した場合は、責任追及・免除・是正措置・第三者対応を分けて検討しましょう。

坂尾陽弁護士

設立時の責任は、創業直後には見過ごされても、株主間紛争、M&A、資金調達、債権者対応の場面で表面化することがあります。設立関係資料を早期に保全し、誰のどの職務が問題なのかを整理することが、紛争予防と責任整理の出発点です。

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