定款は、会社の組織・運営の基本ルールを定める重要書類です。株式会社を設立する場合、発起人が定款を作成し、必要な事項を記載又は記録したうえで、原則として公証人の認証を受けます。
特に会社設立の実務では、定款に何を書くべきかを、絶対的記載事項・相対的記載事項・任意的記載事項に分けて確認することが重要です。分類を誤ると、定款認証や設立登記で補正が必要になったり、現物出資・財産引受けなどの定めの効力が問題になったりします。
- 絶対的記載事項は、欠けると定款の有効性に関わる事項です。
- 相対的記載事項は、定款に記載しないとその効力が生じない事項です。
- 任意的記載事項は、法令に反しない範囲で会社の内部ルールとして置ける事項です。
- 定款は、登記・許認可・株式設計・株主間トラブルの予防まで見据えて作成します。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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定款とは何か
定款とは、会社の目的、商号、本店所在地、株式、機関設計、株主総会、役員、計算、公告など、会社の基本ルールを定める書類又は電磁的記録です。会社設立の場面で作成する定款は、一般に「原始定款」と呼ばれます。
株式会社では、発起人が定款を作成し、発起人全員が署名又は記名押印をします。電子定款として作成する場合は、電子署名を用います。株式会社の原始定款は、公証人の認証を受けなければ効力を生じません。定款認証の流れや費用は、定款認証とは|公証役場の手続・費用・電子定款の注意点で詳しく整理しています。
条文を確認する場合は、e-Gov法令検索「会社法」で、会社法26条から31条付近を確認すると、定款作成、記載事項、変態設立事項、任意的記載事項、認証、備置きの関係を把握しやすくなります。
この記事は、主に非上場・中小企業が株式会社を設立する場面を想定しています。合同会社にも定款は必要ですが、株式会社とは必須記載事項や公証人認証の要否が異なります。
定款の記載事項は3種類に分けて考える
定款の記載事項は、大きく分けて、絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項の3種類です。名称は似ていますが、欠けた場合の効果が異なります。
| 区分 | 意味 | 欠けた場合の主な影響 | 主な例 |
|---|---|---|---|
| 絶対的記載事項 | 定款に必ず記載又は記録しなければならない事項 | 定款自体の効力に関わる | 目的、商号、本店所在地、出資財産の価額又は最低額、発起人の氏名・住所 |
| 相対的記載事項 | 定款に記載又は記録しなければ、その事項の効力が生じない事項 | 定款全体が当然に無効になるわけではないが、その定めの効力が問題になる | 現物出資、財産引受け、発起人の報酬・特別利益、設立費用、株式譲渡制限、機関設計など |
| 任意的記載事項 | 法令に反しない範囲で会社の運用ルールとして定款に記載できる事項 | 記載しなくても定款は成立するが、定款上のルールとしては明確化されない | 事業年度、役員の員数、定時株主総会の招集時期、株主総会の議長など |
実務では、まず絶対的記載事項を漏れなく決め、そのうえで、相対的記載事項に当たる設計がないかを確認し、最後に任意的記載事項として定款に置くべき運用ルールを整理します。
相対的記載事項は「書かなくてもよい事項」という意味ではありません。現物出資や財産引受けなど、効力を発生させたい事項がある場合は、定款に正しく記載する必要があります。
絶対的記載事項|株式会社の定款で必ず定める事項
株式会社の定款には、会社法27条により、次の事項を記載又は記録しなければなりません。これらは、会社の基本情報であり、設立登記や定款認証の前提にもなります。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
- 発起人の氏名又は名称及び住所
目的
目的は、会社がどのような事業を行うかを示す事項です。定款目的は、設立登記、銀行口座開設、許認可、取引先審査、補助金・融資審査などで確認されることがあります。
作成時は、現在行う事業だけでなく、近い将来に予定している事業も過不足なく入れることが実務上有効です。ただし、無関係な目的を大量に並べると、事業内容が分かりにくくなり、許認可や金融機関対応で説明が必要になることがあります。目的の書き方は、会社設立の「目的」の決め方で詳しく扱います。
会社の目的の範囲について、最高裁昭和45年6月24日判決は、定款に明示された目的に限らず、その目的を遂行するうえで直接又は間接に必要な行為も含まれると判断しています。もっとも、実務では裁判になってから範囲を争うのではなく、第三者が見ても事業内容を理解できる目的にしておくことが重要です。
商号
商号は会社名です。株式会社であれば、商号中に「株式会社」の文字を用いる必要があります。前株・後株、カタカナ、アルファベット、記号の使い方、サービス名や屋号との関係を整理して決めます。
商号は、登記、銀行口座、契約書、請求書、ウェブサイト、許認可申請などで繰り返し使われます。候補商号を決めた段階で、同一所在地の同一商号、商標、ドメイン、SNSアカウントとの関係も確認しておくと安全です。
本店の所在地
本店所在地は、会社の法律上の本店を置く場所です。定款では、最小行政区画である市区町村まで記載する方法が一般的です。たとえば「東京都千代田区」と定め、具体的な番地までは発起人決定書などで定める運用があります。
定款に番地まで書くと、同じ市区町村内の移転でも定款変更が必要になることがあります。レンタルオフィス、バーチャルオフィス、自宅、コワーキングスペースを本店にする場合は、登記可否、郵便物受領、許認可、金融機関審査も確認してください。詳しくは、本店所在地の決め方で整理しています。
設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
定款には、設立に際して出資される財産の価額又はその最低額を記載します。これは、会社設立時にどの程度の財産を出資するかを示す事項です。
実務上は、資本金、資本準備金、設立時発行株式数、1株当たりの払込金額と合わせて設計します。株数や払込金額の決め方は、設立時発行株式とはで確認してください。
発起人の氏名又は名称及び住所
発起人は、株式会社の設立に関する事務を行い、設立時発行株式を引き受ける者です。定款には、発起人の氏名又は名称及び住所を記載します。発起人が法人の場合は、法人の名称と本店所在地を確認します。
複数人で起業する場合は、発起人の持株比率、出資額、議決権、役員就任、将来の離脱時の取扱いを設立前に整理することが重要です。
発行可能株式総数は設立時までに定款で定める
発行可能株式総数は、会社が将来発行できる株式の上限です。会社法27条の絶対的記載事項とは別に、発起設立では、会社成立時までに定款で定める必要があります。設立登記でも登記事項になります。
相対的記載事項|定款に書かなければ効力が生じない事項
相対的記載事項とは、定款に記載しなくても定款全体が当然に無効になるわけではないものの、その事項について定款に定めなければ効力が生じない事項です。設立時に特に重要なのが、会社法28条の変態設立事項です。
| 事項 | 概要 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 現物出資 | 金銭以外の財産を出資する場合 | 出資者、財産内容、価額、割り当てる株式数を定款に記載します。 |
| 財産引受け | 会社成立後に特定財産を有償で譲り受ける約束 | 財産、価額、譲渡人を定款に記載しないと効力が問題になります。 |
| 発起人の報酬・特別利益 | 設立に関して発起人が受ける利益 | 利益の内容と対象発起人を明確にします。 |
| 設立費用 | 会社が負担する設立関係費用 | どの費用を会社負担にするか、定款・会計・証憑を整合させます。 |
現物出資や財産引受けは、会社の資本の充実や設立時の利害調整に直結します。必要に応じて検査役の調査や専門家の証明が問題になります。詳しくは、現物出資・財産引受け(変態設立事項)を確認してください。
裁判例でも、原始定款に記載のない財産引受けについて、会社成立後の株主総会の承認決議だけでは有効にならないとした最高裁昭和28年12月3日判決があります。また、最高裁昭和38年12月24日判決は、積極財産と消極財産を含む営業財産を一括して譲り受ける契約が財産引受けに当たると判断しています。財産引受けを「あとで承認すればよい」と軽く扱わないことが重要です。
相対的記載事項には、変態設立事項のほか、株式の譲渡制限、取締役会・監査役等を置く定め、存続期間又は解散事由、公告方法など、会社法上「定款で定める」ことが必要となる事項も含まれます。条文上の整理は、会社法28条の逐条解説も参考になります。
任意的記載事項|会社の内部ルールとして定款に置く事項
任意的記載事項とは、絶対的記載事項や相対的記載事項に当たらず、会社法の規定に違反しない範囲で定款に記載できる事項です。定款に記載すれば、会社の基本ルールとして明確になり、変更には原則として定款変更の手続が必要になります。
- 事業年度
- 定時株主総会の招集時期
- 株主総会の議長
- 取締役や監査役の員数
- 取締役の任期に関する定め
- 株主名簿や株式事務に関する補足ルール
任意的記載事項は、定款に入れれば安定したルールになりますが、変更するには株主総会の特別決議などが必要になります。頻繁に変わる細かな運用ルールまで定款に書き込みすぎると、後の変更コストが増えることがあります。
一方で、株主間の合意、経営権の安定、役員任期、事業年度、株主総会の運営など、会社の基本設計に関わる事項は、定款で明確にしておく実益があります。会社法29条から31条の整理は、会社法29条〜31条の逐条解説で扱います。
定款作成の実務フロー
定款は、次の順番で作成すると、記載漏れや設計ミスを減らしやすくなります。
- 会社形態、発起人、株主構成、出資額を決める
- 目的、商号、本店所在地を決める
- 出資財産の価額又は最低額、設立時発行株式、資本金・資本準備金を整理する
- 現物出資・財産引受けなどの相対的記載事項がないか確認する
- 株式譲渡制限、機関設計、公告方法、事業年度などを決める
- 許認可、銀行口座、税務、労務、将来の増資を見据えて見直す
- 公証役場での定款認証に進む
- 払込み、設立時役員の選任、設立登記へ進む
会社設立手続全体の流れは、株式会社設立の流れで整理しています。定款と設立登記の接続を確認する場合は、会社法911条の設立登記も参考になります。
定款作成でよくあるミス
定款作成で多いミスは、記載漏れだけではありません。テンプレートの意味を確認しないまま使う、許認可や登記との整合性を確認しない、将来変更しにくい内容を細かく書き込みすぎる、といったミスも実務上問題になります。
| ミス | 起こりやすい影響 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 目的が狭すぎる | 新規事業のたびに定款変更・登記変更が必要になる | 近い将来の事業、許認可、取引先審査と整合するか |
| 本店所在地を番地まで固定する | 同一市区町村内の移転でも定款変更が必要になる場合がある | 市区町村までにするか、番地まで記載するか |
| 現物出資・財産引受けの記載漏れ | その定めの効力や責任が問題になる | 財産内容、価額、譲渡人、検査役手続の要否 |
| 株式譲渡制限を検討しない | 想定外の第三者が株主になるリスクがある | 非公開会社として譲渡制限を置くか |
| 任意的記載事項を入れすぎる | 運用変更のたびに定款変更が必要になる | 定款に置く事項と社内規程で足りる事項を分ける |
よくある質問
資本金は絶対的記載事項ですか?
会社法27条で定款に必ず記載すべき事項は、「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」です。実務上は資本金・資本準備金の設計と密接に関係しますが、条文上の表現は資本金そのものではありません。
発行可能株式総数はいつまでに決める必要がありますか?
発行可能株式総数は、会社成立時までに定款で定める必要があります。公証人の認証時に必ず定めておかなければならない会社法27条の絶対的記載事項とは別に、設立登記までの流れの中で漏れなく定める必要があります。
現物出資は少額でも定款に書く必要がありますか?
現物出資をする場合は、金額の大小にかかわらず、会社法28条に基づく事項を定款に記載する必要があります。検査役調査が不要となる場合があることと、定款記載が不要になることは別問題です。
定款は設立後に変更できますか?
定款は設立後に変更できますが、原則として株主総会の特別決議が必要です。登記事項に関係する変更であれば変更登記も必要になります。設立後すぐに変更が必要になるような内容は、最初の定款設計段階で見直した方がよいでしょう。
ひな形を使っても問題ありませんか?
一般的なひな形を出発点にすることはありますが、そのまま流用するのは危険です。目的、株式、役員、譲渡制限、現物出資、公告方法、事業年度などは、会社ごとの事業内容や株主構成に合わせて確認する必要があります。
まとめ|定款は記載事項の分類と実務リスクを分けて確認する
定款の記載事項は、絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項に分けて整理すると、漏れやリスクを把握しやすくなります。
- 絶対的記載事項は、目的、商号、本店所在地、出資財産の価額又は最低額、発起人情報です。
- 相対的記載事項は、現物出資・財産引受けなど、定款に書かないと効力が生じない事項です。
- 任意的記載事項は、事業年度、総会運営、役員員数など、会社運営を安定させるための事項です。
- 定款作成では、登記、許認可、払込み、株式設計、株主間の合意との整合性まで確認することが重要です。
会社設立の定款は、設立手続を通すためだけでなく、設立後の会社運営の土台になります。特に、共同創業、現物出資、許認可事業、将来の資金調達を予定している場合は、早い段階で定款案を確認しておくと、後日の手戻りや紛争を予防しやすくなります。
坂尾陽弁護士
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