株式会社設立の手続は、思いついた順に書類を作るのではなく、基本事項の決定、定款の作成・認証、出資の履行、設立時役員等の選任・調査、設立登記という順序で整理すると分かりやすくなります。
とくに実務では、発起人が設立時発行株式をすべて引き受ける「発起設立」が多く使われます。これに対し、発起人以外の引受人を設立段階で募集する「募集設立」は、創立総会や払込金の保管証明などが加わるため、手続が重くなります。
- 一般的な中小企業・スタートアップの設立は、まず発起設立を前提に検討する
- 定款認証の前に、目的・商号・本店所在地・資本金・役員構成を固める
- 出資の履行後に、設立時取締役等の調査と設立登記へ進む
- 募集設立では、設立時募集株式の募集、払込み、創立総会が加わる
- 登記後は、税務・社会保険・銀行口座・許認可などの実務対応も必要になる
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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株式会社設立の流れを先に確認
株式会社設立の大まかな流れは、次のとおりです。会社法上の根拠を確認しながら進める場合は、公式条文としてe-Gov法令検索の会社法も確認しておくと安全です。
| 段階 | 主な作業 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|---|
| 基本事項の決定 | 商号、目的、本店、資本金、株式、役員、事業年度などを決める | 許認可、金融機関審査、将来の資本政策に影響する |
| 発起人・設立方法の整理 | 発起設立か募集設立かを決め、発起人を確定する | 通常は発起設立が簡便。外部投資家を設立段階で入れるなら募集設立も検討する |
| 定款作成・認証 | 定款を作成し、公証人の認証を受ける | 絶対的記載事項、変態設立事項、電子定款の利用可否を確認する |
| 出資の履行 | 払込み又は現物出資を行う | 払込時期、払込口座、払込証明、現物出資の評価に注意する |
| 設立時役員等の選任・調査 | 設立時取締役等を選任し、設立手続の適法性を確認する | 就任承諾、印鑑証明、本人確認証明書、調査報告を確認する |
| 設立登記 | 本店所在地を管轄する法務局へ登記申請をする | 株式会社は設立登記によって成立する |
| 登記後の手続 | 税務署、都道府県、市区町村、年金事務所、労働保険、銀行口座、許認可など | 設立日は登記だけでなく、契約開始日・届出期限にも影響する |
法務省も、発起設立について、定款の作成、出資の履行、機関の設置、設立登記申請という流れで説明しています。公式の書式や登記申請の確認には、法務省の株式会社設立手続ページや法務局の商業・法人登記申請書様式を併せて確認するとよいでしょう。
「会社設立」という言葉は、実務上は定款作成から登記後届出までを広く指すことがあります。一方、会社法上、株式会社は本店所在地における設立登記によって成立します。登記前の準備作業と、会社の成立時期は分けて理解してください。
発起設立と募集設立の違い
株式会社の設立方法は、会社法25条により、発起設立と募集設立に分かれます。最初にここを決めると、その後に必要となる書類や手続が整理しやすくなります。
| 項目 | 発起設立 | 募集設立 |
|---|---|---|
| 設立時発行株式の引受け | 発起人が全部を引き受ける | 発起人が一部を引き受け、発起人以外の引受人も募集する |
| 典型場面 | 創業者・少人数で設立する中小企業、スタートアップ、一人会社 | 設立段階から外部投資家・多数の引受人を入れる場合 |
| 手続の重さ | 比較的シンプル | 募集、申込み、割当て、払込み、創立総会などが加わる |
| 創立総会 | 不要 | 原則として必要 |
| 払込金保管証明 | 通常は払込みを証する書面で対応する | 払込金保管証明が問題となる |
| 実務上の注意 | 発起人、定款、払込、役員、登記を正確に整える | 引受人保護と創立総会手続を含めて管理する |
実務上は、創業者や少人数の株主だけで設立する場合、まず発起設立を検討するのが通常です。募集設立は、設立前から広く出資者を集める必要がある場合に選択肢になりますが、創立総会などの手続負担が大きくなります。
発起人の意味や誰を発起人にすべきかは、発起人とは|役割・人数・要件・責任で詳しく整理しています。募集設立固有の手続は、募集設立とは|設立時募集株式・創立総会・払込までの実務フローも参照してください。
発起設立の具体的な手続
発起設立では、発起人が設立時発行株式の全部を引き受けるため、募集設立よりも手続を簡潔に進めやすいのが特徴です。ただし、簡単という意味ではなく、定款・出資・役員・登記書類の整合性が必要です。
基本事項を決める
最初に、定款と登記に反映される基本事項を決めます。後から変更できる事項もありますが、設立直後に変更登記や定款変更が必要になると、費用と手間が増えます。
- 商号
- 事業目的
- 本店所在地
- 資本金・出資額
- 設立時発行株式の数・払込金額
- 発行可能株式総数
- 取締役・代表取締役・監査役等の機関設計
- 事業年度
- 公告方法
目的は、許認可や金融機関審査、取引先審査に影響することがあります。定款目的の設計は、会社設立の「目的」の決め方を確認してください。本店所在地は、定款上の記載粒度、登記、レンタルオフィス利用時の注意点が問題になりやすいため、本店所在地の決め方も参考になります。
定款を作成し、公証人の認証を受ける
株式会社を設立するには、発起人が定款を作成し、発起人全員が署名又は記名押印をします。電子定款で作成する場合は、電子署名等の対応が必要です。
定款には、目的、商号、本店所在地、設立に際して出資される財産の価額又は最低額、発起人の氏名又は名称及び住所など、必ず記載すべき事項があります。定款の記載事項全体は、定款とは|絶対的・相対的・任意的記載事項、定款認証の実務は定款認証とは|公証役場の手続・費用・電子定款の注意点で詳しく扱います。
現物出資、財産引受け、発起人の報酬・特別利益、設立費用などの変態設立事項がある場合、定款への記載や検査役手続の要否が問題になります。後から「契約書を作ればよい」と考えると、会社に効力が及ばないリスクがあります。
変態設立事項がある場合は、現物出資・財産引受け(変態設立事項)を確認し、必要に応じて専門家に設計を確認することをおすすめします。
出資の履行を行う
発起人は、設立時発行株式の引受け後、遅滞なく出資を履行します。金銭出資の場合は、発起人が定めた銀行等の払込み取扱場所に払い込みます。現物出資の場合は、定款記載、評価、検査役調査の要否などが問題になります。
払込みの証明では、払込みを証する書面と通帳写し・取引明細などを組み合わせる運用が一般的です。払込口座、入金名義、払込時期、払込証明の作り方は、出資の履行(払込み)と払込証明で詳しく整理しています。
設立時役員等を選任し、調査を行う
定款又は発起人の決定により、設立時取締役、設立時代表取締役、必要に応じて設立時監査役等を整えます。設立時取締役等は、出資の履行が完了しているか、会社の設立手続が法令又は定款に違反していないかなどを調査します。
設立時役員等の選任は設立時取締役・監査役の選任方法、設立時代表取締役の選定は設立時代表取締役の選定、調査や検査役との関係は設立時取締役等による調査を参照してください。
設立登記を申請する
株式会社は、本店所在地において設立登記をすることによって成立します。発起設立では、設立時取締役等の調査が終了した日又は発起人が定めた日のいずれか遅い日から2週間以内に設立登記をする必要があります。
設立登記の条文上の要点は会社法911条の設立登記、商業登記の申請手続全般は商業登記の申請手続で整理しています。登記の申請方法には、書面申請、オンライン申請、QRコード付き書面申請などがあり、設立関連手続をまとめて進める場合は法人設立ワンストップサービスも選択肢になります。
募集設立の流れ
募集設立は、発起人が設立時発行株式を一部引き受けるほか、発起人以外の者にも設立時発行株式を引き受けてもらう方法です。発起設立に比べて、引受人の募集・申込み・割当て・払込み・創立総会などの手続が加わります。
| 段階 | 主な内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 募集事項の決定 | 設立時募集株式の数、払込金額、払込期日等を決める | 発起人全員の同意が必要となる場面を確認する |
| 申込み・割当て | 申込者へ募集事項を通知し、割当てを行う | 誰が何株を引き受けるかを証拠化する |
| 払込み | 引受人が払込期日又は期間内に払込みを行う | 払込未了者がいると設立手続全体に影響する |
| 保管証明 | 銀行等の払込金保管証明が問題となる | 発起設立の払込証明と混同しない |
| 創立総会 | 設立時役員等の選任、設立事項の報告などを行う | 招集通知、議決権、議事録、省略可否を確認する |
| 設立登記 | 創立総会後、必要書類を整えて登記申請を行う | 会社法911条2項の登記期限に注意する |
募集設立は、外部投資家を設立前から入れる必要がある場合には有用ですが、創立総会や保管証明の分だけ手続が複雑になります。通常の創業場面では、発起設立で会社を設立し、会社成立後に募集株式の発行や投資契約で資金調達する設計も検討されます。
募集設立の全体像は募集設立とは、創立総会の手続は創立総会の手続で詳しく扱います。
株式会社設立の必要書類
必要書類は、発起設立か募集設立か、取締役会を置くか、監査役を置くか、現物出資があるか、代表取締役をどのように選定するかによって変わります。ここでは、発起設立でよく使う書類を中心に整理します。
| 区分 | 主な書類 | 補足 |
|---|---|---|
| 定款関係 | 認証済定款、定款認証関係書類 | 株式会社では定款認証が必要 |
| 発起人決定関係 | 発起人決定書、発起人会議事録、発起人全員の同意書等 | 定款で定めていない事項を発起人が決める場合に必要 |
| 出資関係 | 払込みを証する書面、通帳写し、取引明細、現物出資関連書類 | 払込額、払込日、払込人、口座を確認できるようにする |
| 役員関係 | 就任承諾書、印鑑証明書、本人確認証明書 | 取締役会設置会社かどうかで印鑑証明書の要否が変わる |
| 代表取締役関係 | 代表取締役の選定書、就任承諾書等 | 定款、株主総会型、取締役互選型など選定方法に注意 |
| 調査関係 | 設立時取締役等の調査報告書、附属書類 | 現物出資や検査役調査が絡む場合は特に重要 |
| 登記申請関係 | 設立登記申請書、登録免許税納付用台紙、登記すべき事項、印鑑届書、委任状 | オンライン申請か書面申請かで提出方法が変わる |
法務局の様式例は便利ですが、会社の機関設計や定款内容によって添付書面が変わるため、ひな形をそのまま使うだけでは不足することがあります。とくに、現物出資、種類株式、取締役会設置、監査役設置、外国居住者が役員になる場合などは、早めに確認しておきましょう。
株式会社設立にかかる期間と費用の目安
期間は、定款内容の固まり具合、公証役場との事前確認、払込みの準備、登記申請の方法、法務局の処理状況によって変わります。書類が整っている発起設立であれば、1〜3週間程度を目安に進められることが多いですが、目的確認、許認可、現物出資、出資者調整がある場合は長めに見ておくべきです。
募集設立では、募集、払込み、保管証明、創立総会の準備があるため、発起設立よりも余裕を持ったスケジュールが必要です。
| 費用項目 | 目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 定款認証手数料 | 1万5,000円・3万円・4万円・5万円の区分 | 資本金の額等や一定の小規模発起設立要件により変わる。最新情報は日本公証人連合会の定款手数料改定ページを確認 |
| 定款の謄本手数料 | 1枚250円程度 | 必要枚数により変動 |
| 収入印紙 | 紙定款は4万円 | 電子定款では通常不要 |
| 登録免許税 | 資本金額の0.7%又は15万円の高い方 | 資本金が少額でも最低15万円が基本 |
| 払込金保管証明 | 募集設立で別途発生することがある | 発起設立の払込証明とは異なる |
| 印鑑・証明書・郵送等 | 数千円〜 | 会社実印、印鑑証明書、本人確認書類、郵送費など |
| 専門家報酬 | 依頼範囲により変動 | 定款作成、登記、許認可、契約書、資本政策などで変わる |
株式会社の設立費用は、法定費用だけでなく、専門家報酬、許認可費用、オフィス契約、会計・労務体制、資本金の実質的な必要額も含めて検討する必要があります。法定費用を最小化できても、資本金や目的の設計を誤ると、金融機関や許認可で詰まることがあります。
設立手続で詰まりやすい実務ポイント
株式会社設立では、書類の作成順序だけでなく、後から問題になりやすいポイントを先に潰しておくことが重要です。
事業目的と許認可を先に確認する
事業目的は、会社が行う事業の範囲を示すだけでなく、許認可、金融機関口座、補助金、取引先審査でも確認されることがあります。許認可が必要な業種では、目的文言が許認可要件に合っているかを先に確認してください。
資本金は「最低額」だけで決めない
会社法上、株式会社の設立に最低資本金制度はありません。しかし、資本金が少なすぎると、金融機関口座、融資、許認可、取引先審査で説明が必要になることがあります。創業直後の運転資金、許認可要件、対外信用を踏まえて決めるべきです。
現物出資・財産引受けは早めに切り分ける
創業者のパソコン、車両、在庫、知的財産、既存事業の資産を会社に入れる場合、単なる売買や貸付で足りるのか、現物出資・財産引受けとして定款記載や検査役手続が必要になるのかを整理する必要があります。ここを曖昧にすると、後から会社財産の帰属や発起人責任が問題になります。
払込みは見せ金・預合いにならないようにする
設立時の払込みは、形式だけ整えればよいものではありません。最高裁昭和38年12月6日判決は、真実の株式払込みとして会社資金を確保する意思がなく、一時的借入金で払込みの外形を整え、会社成立後直ちに払込金を払い戻して借入先に返済するような見せ金について、有効な払込みとはいえないと判断しています。
また、最高裁昭和35年6月21日決定は、払込取扱機関の役職員が発起人らと通謀して株金の払込みを仮装する行為を問題にしています。出資金は、会社の営業資金として実質的に確保される必要があります。
払込直後に資金を引き出すこと自体が常に違法というわけではありません。しかし、最初から会社資金として残す意思がなく、払込の外形だけを作る場合は、払込の効力や発起人等の責任が問題になります。
登記後の手続までスケジュールに入れる
設立登記が完了すると、登記事項証明書や印鑑証明書の取得、銀行口座開設、税務署・都道府県・市区町村への届出、社会保険・労働保険関係、許認可申請、契約名義の切替などが続きます。営業開始日や請求書発行日が決まっている場合は、登記完了予定日だけでなく、登記後の証明書取得や口座開設の時間も見込んでください。
株式会社設立に関するよくある質問
一人でも株式会社を設立できますか?
一人でも株式会社を設立できます。発起人が一人で、設立時取締役も一人という設計は実務上よくあります。ただし、会社の意思決定書類、就任承諾書、払込証明などは、一人会社であっても省略できないものがあります。
発起人と取締役は同じ人でよいですか?
同じ人でも構いません。発起人は設立手続を主導し、設立時発行株式を引き受ける立場です。取締役は会社成立後の業務執行・会社運営を担う立場です。兼ねることは可能ですが、役割は区別して書類を整える必要があります。
会社の設立日はいつになりますか?
会社法上、株式会社は設立登記によって成立します。登記が受理されて完了した場合、登記簿上の設立年月日は、登記所が設立登記申請を受け付けた日として扱われます。希望する設立日がある場合は、法務局の開庁日、申請方法、補正リスクを考えて準備しましょう。
資本金は1円でもよいですか?
会社法上の最低資本金制度はありません。ただし、資本金は会社の信用、許認可、融資、口座開設、初期運転資金に影響します。形式的に少額で設立できることと、事業運営上適切な資本金であることは別問題です。
株式会社と合同会社で迷う場合はどう考えればよいですか?
設立費用を抑えたい、柔軟な内部設計を重視したい場合は合同会社も候補になります。一方、株式による資金調達、将来の投資家参加、対外的な株式会社イメージ、役員・株主の分離を重視する場合は株式会社が向きやすいです。この記事では株式会社設立に絞って説明しています。
まとめ
株式会社設立は、定款を作って登記するだけの作業ではなく、会社法上の設立方法、定款記載事項、出資の履行、設立時役員等の選任・調査、登記後の実務をつなげて整理する必要があります。
- 通常の中小企業・スタートアップでは発起設立が多い
- 募集設立は創立総会や保管証明が加わり、手続が重くなる
- 定款認証前に、目的・本店・資本金・株式・役員を固める
- 払込みは会社資金の実質的確保として行い、見せ金を避ける
- 設立登記後の届出・口座開設・許認可まで見込んでスケジュールを組む
設立直後に株主間契約、投資契約、許認可、役員報酬、税務・労務体制が動き出す会社では、設立手続の段階で後のトラブルを防ぐ設計をしておくことが重要です。
坂尾陽弁護士
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