会社法29条〜31条は、株式会社の定款について、会社法27条・28条に続く補充ルールを定める条文です。会社法29条は定款に記載又は記録できる事項、会社法30条は公証人による定款認証、会社法31条は定款の備置き・閲覧等を定めています。
実務では、定款に何を書くか、いつ認証を受けるか、認証後に変更できるか、設立後どこに備え置いて誰に閲覧させる必要があるかを、設立手続の時系列で整理することが重要です。
- 会社法29条は、相対的記載事項と任意的記載事項を定款に置けることを定める
- 任意的記載事項は、書かなくても定款自体は有効だが、書くと定款変更手続の対象になり得る
- 会社法30条により、株式会社の原始定款は公証人の認証を受けなければ効力を生じない
- 認証後、会社成立前の定款変更は、会社法33条・37条などの例外場面を除き制限される
- 会社法31条により、成立後の会社は定款を本店・支店に備え置き、株主・債権者等からの閲覧請求に対応する必要がある
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法29条〜31条の位置づけ
株式会社の定款に関する入口規定は、会社法26条から31条までにまとまっています。公式条文は、e-Gov法令検索の会社法で確認できます。また、法務省の発起設立手続の説明でも、定款の記載事項には絶対的記載事項、相対的記載事項、任意的記載事項があることが示されています。定款作成から設立登記までの全体像は、株式会社設立の流れも参照してください。
| 条文 | 主な内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 会社法29条 | 会社法27条・28条以外に、定款に記載又は記録できる事項を定める | 相対的記載事項・任意的記載事項をどう設計するかを判断する |
| 会社法30条 | 会社法26条1項の定款は、公証人の認証を受けなければ効力を生じないと定める | 設立登記前に、原始定款の認証を受ける必要がある |
| 会社法31条 | 定款の備置き、閲覧、謄本・抄本交付、電磁的提供等を定める | 設立前は発起人、設立後は会社が定款を保管し、株主・債権者等に対応する |
会社法27条は、目的、商号、本店所在地などの絶対的記載事項を定めます。会社法28条は、現物出資、財産引受け、発起人の報酬・特別利益、設立費用という変態設立事項を定めます。これに対し、会社法29条〜31条は、定款に置ける追加ルール、認証、保管・閲覧という実務運用部分を補います。
定款の具体的な記載事項の整理は、会社法27条の解説と会社法28条の解説もあわせて確認すると分かりやすくなります。
会社法29条:定款に記載又は記録できる事項
会社法29条の条文構造
会社法29条は、会社法27条各号と会社法28条各号に掲げる事項のほか、株式会社の定款には、会社法の規定により定款の定めがなければ効力を生じない事項と、その他の事項で会社法の規定に違反しないものを記載又は記録できると定めています。
ここで重要なのは、会社法29条が単に「任意的記載事項」だけを定めているわけではないことです。条文上は、定款に定めなければ効力を生じない事項と、会社法に違反しない範囲で自由に定められる事項の双方を受けています。
| 分類 | 意味 | 例・確認ポイント |
|---|---|---|
| 絶対的記載事項 | 定款に必ず記載又は記録しなければならない事項 | 会社法27条の目的、商号、本店所在地、出資財産価額又は最低額、発起人の氏名・名称及び住所など |
| 相対的記載事項 | 定款に定めなければ、その法的効果が生じない事項 | 株式譲渡制限、株券発行、単元株式数、機関設計、取締役の任期伸長など、個別条文ごとに確認する |
| 任意的記載事項 | 定款に書かなくても効力発生に直結しないが、内部ルールとして定款に置ける事項 | 定時株主総会の時期、株主総会の議長、役付取締役、事業年度など。変更しやすさも考える |
相対的記載事項と任意的記載事項の違い
相対的記載事項は、法律上、その事項を定款に置かなければ特定の効力が生じないものです。たとえば、株式の譲渡制限や取締役会などの機関設計、株券発行、単元株式数などは、会社法上の個別規定とセットで確認します。
これに対し、任意的記載事項は、定款に記載しなくても直ちに無効になるものではありません。ただし、定款に書くと会社の内部ルールとしての意味を持ち、原則として変更には定款変更手続が必要になります。設立後の定款変更は、会社法466条の定款変更も関係します。
定款に書けない事項もある
会社法29条は、会社法に違反しない範囲で定款に事項を記載又は記録できるとしています。したがって、法律上認められた株主権を不当に奪う定め、強行法規に反する定め、公序良俗に反する定め、株式会社の本質に反する定めは、定款に書いても有効とは限りません。
たとえば、会社法上、株主総会決議が必要とされている事項を、定款だけで取締役の単独決定に移すような設計は慎重に検討する必要があります。定款自治は広いものの、会社法の強行規定を上書きできるものではありません。
設立時に検討しやすい定款事項
設立時には、最低限の記載事項だけでなく、将来の運営を見据えて次の事項を検討することがあります。もっとも、すべてを定款に入れるのではなく、登記事項か、会社法上の効力要件か、社内規程で足りるかを切り分けます。
| 検討事項 | 定款に入れる実務上の意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| 株式譲渡制限 | 非公開会社として株式移転をコントロールしやすくする | 登記事項にも関係するため、設立登記との整合が必要 |
| 機関設計 | 取締役会、監査役、会計参与等の設置を明確にする | 会社規模、株主構成、許認可、将来の資金調達を踏まえる |
| 事業年度 | 決算期や税務・総会スケジュールを設計しやすくする | 変更する場合の手続や税務実務も考える |
| 定時株主総会の時期 | 毎事業年度終了後の総会開催時期を明確にする | 会社法296条の定時株主総会の規律との関係を確認する |
| 株主総会の議長・役付取締役 | 会社運営の基本ルールを明文化する | 柔軟に変更したい事項は、定款以外の規程で足りるか検討する |
定款の記載事項全体を整理したい場合は、定款とは|絶対的・相対的・任意的記載事項も参照してください。
会社法30条:定款の認証
株式会社の原始定款は公証人の認証が必要
会社法30条1項は、会社法26条1項の定款について、公証人の認証を受けなければ効力を生じないと定めています。日本公証人連合会も、株式会社の設立当初の定款について公証人の認証が必要であることを説明しています。定款認証の制度全体は、日本公証人連合会の定款認証の案内も確認してください。
この認証を受ける定款は、会社設立時に作成される最初の定款であり、一般に原始定款と呼ばれます。株式会社の設立登記では、認証済みの定款が重要な添付・確認資料となるため、定款案の内容を固めてから認証へ進める必要があります。
定款認証の具体的な手続、必要書類、費用、電子定款の準備は、条文解説だけでは収まりにくい論点です。実務手順は、定款認証とは|公証役場の手続・費用・電子定款の注意点で確認してください。
認証後、会社成立前の定款変更は制限される
会社法30条2項は、公証人の認証を受けた定款について、株式会社の成立前は、会社法33条7項・9項又は37条1項・2項の場合を除き、変更することができないと定めています。
典型的には、変態設立事項について検査役調査を経た裁判所の変更決定がある場合や、発行可能株式総数の定めを会社成立時までに設ける又は変更する場合が問題になります。
| 場面 | 会社法30条との関係 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 認証前に目的・商号・本店・株式設計を修正する | 認証前であれば、定款案を修正して認証へ進む | 認証直前の修正漏れを防ぐため、発起人・専門家・公証役場間で最終確認する |
| 認証後、会社成立前に内容を変えたい | 30条2項により原則として変更できない | 例外に当たるか、作り直しや再認証が必要かを個別に確認する |
| 会社成立後に定款を変更する | 30条2項の局面ではなく、成立後の定款変更手続として整理する | 株主総会の特別決議や変更登記の要否を確認する |
紙の定款と電子定款
会社法26条2項は、定款を電磁的記録で作成できることを定めています。会社法30条の認証は、紙の定款だけでなく、電子定款でも問題になります。
電子定款を使う場合は、電子署名、オンライン申請、面前確認又はテレビ電話による確認、公証役場との事前調整など、条文以外の実務準備が必要です。法務省の発起設立手続の説明も、発起人による定款作成と認証の流れを示しています。詳しくは、法務省の株式会社の設立手続(発起設立)も参照してください。
認証後は設立登記へ進む
定款認証は、株式会社設立の途中段階です。認証後は、出資の履行、設立時役員等の選任・調査、設立登記へ進みます。設立登記の基本は、会社法911条の株式会社の設立の登記も関係します。
定款認証が済んでいても、定款の内容と登記事項が食い違っていると、登記申請やその後の会社運営で問題になります。特に、商号、本店所在地、目的、発行可能株式総数、株式譲渡制限、機関設計、公告方法などは、定款と登記の両方で確認してください。
会社法31条:定款の備置き・閲覧等
定款の備置き義務
会社法31条1項は、発起人が、株式会社成立前は発起人が定めた場所に、株式会社成立後は会社が本店及び支店に、定款を備え置かなければならないと定めています。
設立前は発起人が定款を管理する段階ですが、会社成立後は会社自身の書類管理の問題になります。支店がある会社では、支店での備置きも問題になります。ただし、電子定款について支店での閲覧等に応じるための法務省令上の措置をとっている場合には、31条4項の読み替えにも注意します。
| 時期 | 備置き場所 | 閲覧等を請求できる者 | 主な請求内容 |
|---|---|---|---|
| 株式会社成立前 | 発起人が定めた場所 | 発起人 | 定款の閲覧、謄本・抄本交付、電磁的記録の表示閲覧・電磁的提供等 |
| 株式会社成立後 | 本店及び支店 | 株主及び債権者 | 営業時間内の閲覧、謄本・抄本交付、電子定款の表示閲覧・電磁的提供等 |
| 親会社社員による請求 | 株式会社成立後の子会社の定款 | 裁判所の許可を得た親会社社員 | 権利行使に必要な場合に、31条2項各号の請求が可能 |
閲覧・謄本交付・電磁的提供の違い
会社法31条2項は、定款が書面で作成されている場合と、電磁的記録で作成されている場合を分けて、閲覧、謄本又は抄本の交付、電磁的記録に記録された事項の表示閲覧、電磁的方法による提供又は書面交付を定めています。
書面の謄本・抄本の交付や、電磁的記録の提供・書面交付を求める場合には、発起人又は会社が定めた費用を支払う必要があります。単なる閲覧と、コピー・交付・データ提供では、対応コストと社内処理が異なるため、受付方法や費用の扱いを社内で整理しておくと実務が安定します。
定款を誰でも自由に見られるわけではない
会社法31条に基づいて定款の閲覧等を請求できるのは、設立前であれば発起人、成立後であれば株主及び債権者です。親会社社員は、権利行使のため必要があるときに、裁判所の許可を得て請求できます。
したがって、一般の第三者が当然に会社へ定款の閲覧を請求できるわけではありません。一方で、株主や債権者から適法な請求を受けた場合には、正当な理由なく拒むと過料の問題が生じ得るため、会社側は請求者の資格、請求対象、費用、閲覧方法を確認して対応します。
現行定款の管理も重要
設立時の認証済み定款だけでなく、会社成立後に定款変更をした場合には、現行の定款を整備しておく必要があります。株式譲渡制限、機関設計、発行可能株式総数、公告方法、事業目的などが変更されているのに、古い定款だけを保管していると、株主対応、金融機関対応、M&A、許認可、登記実務で混乱します。
実務では、認証済み原始定款、変更決議の議事録、変更登記の履歴、現行定款をセットで管理しておくと、後日の説明やデューデリジェンスにも対応しやすくなります。
設立手続の時系列で見る29条〜31条
会社法29条〜31条は、条文番号順に読むだけでなく、設立手続の流れの中で理解すると実務に落とし込みやすくなります。
| 段階 | 確認する条文 | 実務上の作業 |
|---|---|---|
| 定款案の作成 | 会社法26条・27条・28条・29条 | 絶対的記載事項、変態設立事項、相対的記載事項、任意的記載事項を整理する |
| 認証前チェック | 会社法29条・30条 | 認証後に変更しにくい事項がないか、登記事項と矛盾がないかを確認する |
| 公証人認証 | 会社法30条 | 公証役場で原始定款の認証を受ける |
| 認証後から成立まで | 会社法30条2項・33条・37条 | 原則として定款変更は制限されるため、例外に当たるか慎重に確認する |
| 会社成立後 | 会社法31条・466条・911条 | 定款を本店・支店に備え置き、変更があれば定款変更手続や変更登記の要否を確認する |
この流れから分かるとおり、会社法29条の段階で定款事項を広く検討し、会社法30条の認証前に内容を固め、会社法31条の備置き・閲覧に耐えられる形で保管する、という順序が基本です。
実務で見落としやすいポイント
任意的記載事項を入れすぎると変更が重くなる
任意的記載事項は、定款に書くこと自体はできます。しかし、定款に書いた事項を後で変更するには、原則として定款変更手続が必要になります。株主構成が変わる予定のある会社、資金調達を予定する会社、将来機関設計を変える可能性がある会社では、どこまで定款で固定するかを慎重に検討します。
認証後に修正しにくい事項を認証前に洗い出す
認証後の会社成立前定款変更は制限されます。目的の許認可適合性、本店所在地、発行可能株式総数、株式譲渡制限、取締役会・監査役の有無、公告方法、変態設立事項などは、認証前にチェックリスト化して確認するのが安全です。
電子定款でも保管・閲覧対応は残る
電子定款を使う場合でも、会社法31条の備置き・閲覧等への対応は不要になりません。電子ファイルの保管場所、閲覧時の表示方法、電磁的提供の方法、バックアップ、アクセス権限を決めておく必要があります。
設立後の定款と登記の整合を確認する
定款の内容と登記事項が一致しないと、取引先、金融機関、株主、M&Aの相手方から説明を求められることがあります。変更登記が必要な事項を定款変更した場合は、会社法上の手続だけでなく、登記手続も忘れないようにします。
会社法29条〜31条のチェックリスト
定款案の作成から認証後の管理まで、次の項目を確認すると見落としを防ぎやすくなります。
| チェック項目 | 確認内容 | 関連条文 |
|---|---|---|
| 絶対的記載事項は漏れていないか | 目的、商号、本店所在地、出資財産価額又は最低額、発起人の氏名・名称及び住所を確認する | 会社法27条 |
| 変態設立事項はないか | 現物出資、財産引受け、発起人の報酬・特別利益、設立費用を確認する | 会社法28条 |
| 相対的記載事項を定款に入れるべきか | 譲渡制限、機関設計、単元株式数、株券発行などを個別条文と照合する | 会社法29条 |
| 任意的記載事項を入れすぎていないか | 将来変更しやすくすべき事項を定款に固定していないか確認する | 会社法29条 |
| 認証前に内容を最終確認したか | 認証後、会社成立前の変更制限を踏まえて、公証役場への提出前に見直す | 会社法30条 |
| 認証済み定款を適切に保管しているか | 紙定款・電子定款の保管場所、閲覧対応、バックアップを確認する | 会社法31条 |
| 成立後の備置き場所を確認したか | 本店・支店、電子定款の支店対応措置、閲覧窓口を整理する | 会社法31条 |
| 定款変更後の現行定款を更新しているか | 変更決議、変更登記、現行定款を一体で管理する | 会社法466条等 |
会社法29条〜31条に関するよくある質問
会社法29条は任意的記載事項だけを定める条文ですか?
会社法29条は、任意的記載事項だけでなく、会社法の規定により定款の定めがなければ効力を生じない事項も対象にしています。実務上は、相対的記載事項と任意的記載事項を分けて整理すると理解しやすくなります。
任意的記載事項は定款に書かない方がよいですか?
一律に書かない方がよいわけではありません。会社運営の基本ルールとして明確にしたい事項は定款に書く意味があります。ただし、頻繁に変更する可能性がある事項まで定款に入れると、後日の定款変更手続が重くなるため、社内規程や個別決定で足りるかも検討します。
株式会社の定款認証は必ず必要ですか?
株式会社の設立時の原始定款は、公証人の認証を受けなければ効力を生じません。合同会社など持分会社の定款認証とは扱いが異なるため、株式会社として設立する場合は、定款認証を設立フローに組み込む必要があります。
定款認証後に目的や本店を変更したくなった場合はどうすればよいですか?
会社成立前の認証後定款変更は、会社法30条2項により原則として制限されます。例外に当たるか、再度の対応が必要かは、変更内容と設立方法によって異なります。認証後に変更が必要になった場合は、公証役場や専門家に確認し、自己判断で登記申請まで進めないことが重要です。
会社成立後に定款を変更する場合も、公証人の認証が必要ですか?
会社成立後の定款変更は、通常、公証人の再認証ではなく、会社法上の定款変更手続として整理します。株主総会の特別決議が必要になることが多く、変更内容が登記事項であれば変更登記も必要になります。
定款は本店に置いておけば足りますか?
支店がない会社であれば、通常は本店での管理が中心になります。支店がある場合は、会社法31条1項により本店及び支店での備置きが問題になります。ただし、電子定款について支店での閲覧等に応じるための法務省令上の措置をとっている場合には、31条4項の読み替えにも注意します。
株主でなくても定款を閲覧できますか?
会社法31条に基づく閲覧等の請求権者は、成立後は株主及び債権者が中心です。親会社社員は、権利行使のため必要があるときに、裁判所の許可を得て請求できます。一般の第三者が、当然に会社へ定款閲覧を求められるわけではありません。
認証済みの原始定款と現行定款はどちらを保管すべきですか?
どちらも重要です。原始定款は設立時の根本資料として保管し、定款変更があった場合は変更後の現行定款も整備します。金融機関、許認可、株主対応、M&A、紛争対応では、現行定款と過去の変更履歴の両方を確認されることがあります。
まとめ
会社法29条〜31条は、定款の記載事項、認証、備置き・閲覧をつなぐ重要な条文です。会社法29条では、相対的記載事項と任意的記載事項を整理し、何を定款で固定すべきかを判断します。会社法30条では、公証人認証の必要性と認証後の変更制限を確認します。会社法31条では、設立前後の定款保管と閲覧対応を整えます。
定款は、会社設立時に一度作れば終わりではありません。設立後の株主対応、金融機関対応、許認可、登記、資金調達、M&Aにも影響するため、原始定款、変更履歴、現行定款を一体で管理することが大切です。
坂尾陽弁護士
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