M&Aが成立したあとで、対象会社に簿外債務、粉飾決算、未払税金、法令違反、重大なクレームなどが見つかることがあります。そのときにまず問題になるのが、契約書上の表明保証違反にあたるのか、売主に補償請求や損害賠償請求ができるのか、反対に売主としてどこまで責任を負うのかという点です。

表明保証違反とは、M&A契約で売主又は買主が「真実かつ正確である」と保証した事実が、実際には真実ではなかった、又は重要な事実が開示されていなかった状態をいいます。たとえば、財務諸表上は問題がないように見えても、実際には未払税金、未払残業代、保証債務、訴訟リスク、法令違反などが隠れていた場合には、表明保証条項・補償条項・責任制限条項を前提に対応を検討することになります。

本記事では、買主側・売主側の双方を対象に、M&Aにおける表明保証違反の基本構造、簿外債務や粉飾決算などの典型類型、発覚後の初動、損害賠償・補償請求・責任制限の関係を整理します。詳細な条項例や損害額の計算は関連する個別記事に譲りつつ、本記事だけでも全体像と次に確認すべき事項が分かるように解説します。

  • 表明保証違反では、まず契約条項・開示資料・通知期限を確認します。
  • 簿外債務、粉飾決算、税務・労務・法令違反は典型的な争点です。
  • 請求できる金額は、補償条項・損害額・因果関係・責任制限で変わります。
  • DDで見落とした場合でも、直ちに請求不可とは限りません。
  • 売主側は、開示済み事項、買主の認識、責任制限を確認します。

坂尾陽弁護士

問題発覚直後は、相手方への強い通知よりも、まず契約書・開示資料・証拠を整理することが重要です。
M&Aトラブルのご相談について

M&A後に簿外債務・粉飾・未払税金・法令違反が発覚した場合や、売主として表明保証違反を主張された場合は、通知期限や責任制限条項により対応できる期間・範囲が限られることがあります。早期に方針を整理したいときは、お問い合わせからご相談ください。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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表明保証違反・簿外債務トラブルとは何か

表明保証とは、M&A契約において、売主又は買主が一定の事実が真実かつ正確であることを表明し、その内容を保証する条項です。株式譲渡契約書や事業譲渡契約書では、対象会社の設立・権限、株式、財務諸表、簿外債務、法令遵守、重要契約、訴訟、労務、税務、知的財産、IT・個人情報など、幅広い事項について表明保証が置かれます。

表明保証違反とは、その表明保証の内容と実際の事実が食い違っている状態を指します。M&Aでは、買主が対象会社のすべてを事前に把握することは難しいため、DDで調査した内容だけでなく、契約上の表明保証によってリスクを分配します。そのため、問題が発覚したときは、単に「聞いていなかった」「想定外だった」というだけではなく、契約上どの表明保証条項に反するのかを確認する必要があります。

簿外債務とは

簿外債務とは、財務諸表に負債として計上されていない債務や、将来一定の条件で顕在化する潜在債務をいいます。典型例としては、未払税金、未払残業代、保証債務、訴訟リスク、環境対応費用、取引先への未払金、過去の不適切な会計処理により後から発生する是正費用などが挙げられます。

M&A後に簿外債務が発覚すると、買主側は「本来より高い価格で買収した」「想定外の支出が発生した」と主張し、売主側は「開示済みだった」「買主も認識していた」「責任制限条項で制限される」と反論することが多くあります。このように、簿外債務は表明保証違反の典型的な紛争原因です。

表明保証違反と債務不履行・補償請求・解除の違い

表明保証違反は、保証された事実と実態のズレを問題にするものです。これに対し、債務不履行は契約上の義務を履行しなかったことを問題にします。たとえば、売主が「対象会社に簿外債務はない」と保証したのに実際には未払税金があった場合は、表明保証違反が問題になります。他方、クロージング後に移転すべき資料を渡さない、競業避止義務に反するなどの行為は、契約上の履行義務違反として整理されることがあります。

補償請求は、表明保証違反があった場合に、契約で定めた補償条項に基づいて金銭補償を求めるものです。M&A契約では、表明保証条項だけでなく、補償条項、通知期限、責任上限、バスケット、サバイバル期間などを組み合わせて、誰がどこまでリスクを負担するかを定めるのが通常です。

解除については、契約の段階や条項の文言によって結論が変わります。クロージング前であれば、表明保証違反が前提条件の不充足や解除事由になることがありますが、クロージング後は補償請求による金銭解決が中心となる契約も少なくありません。契約解除ができるかどうかは、解除条項、違反の重大性、民法上の要件、当事者の帰責性、取引の実行段階を踏まえて個別に検討します。

論点 実務上の意味 最初に見る資料
表明保証違反 保証された事実と実態が違うか SPA・事業譲渡契約書の表明保証条項
補償請求 違反により生じた損害を契約上請求できるか 補償条項、通知条項、責任制限条項
債務不履行 契約上の義務違反として損害賠償を求められるか 義務条項、民法上の要件、履行状況
解除 契約を終了させられるか 解除条項、前提条件、クロージング状況

まず確認すべき事項

表明保証違反が疑われる場合、最初から請求額だけを考えるのではなく、契約上の根拠と証拠を順番に確認します。特に、次の事項は買主側・売主側のどちらにとっても重要です。

  • 表明保証条項:問題となる事実が、契約上どの保証事項に該当するかを確認します。
  • 補償条項・責任制限条項:補償対象、責任上限、バスケット、通知期限、サバイバル期間を確認します。
  • DD資料・開示資料:買主に開示されていた事実か、質問回答やディスクロージャー資料に記載があるかを確認します。
  • 損害額と因果関係:違反があったとして、どの損害がその違反から生じたといえるかを整理します。
  • 通知・交渉のタイミング:補償請求通知の期限や方式に従っているかを確認します。

表明保証条項そのものの意味や典型項目を先に確認したい場合は、M&Aにおける表明保証条項とは何かもあわせて確認してください。違反が疑われる場合の具体的な初動は、表明保証違反が疑われるときのチェックポイントと初動対応で詳しく整理します。

表明保証条項の基本構造と典型トラブル

M&A契約の表明保証条項は、対象会社の状態を広く保証する条項として設計されます。どの事項を保証するかは案件ごとに異なりますが、多くの契約では、会社の組織・権限、株式、財務諸表、簿外債務、法令遵守、重要契約、訴訟、税務、労務、知的財産、IT・個人情報などが対象になります。

表明保証条項は、単に契約書の定型文として入れるものではありません。買主にとっては、DDで把握しきれないリスクを契約上カバーするための仕組みです。売主にとっては、どの範囲まで責任を負うかを明確にするための条項です。そのため、表明保証違反の有無を検討するときは、まず条項ごとに「何を」「いつの時点で」「どの範囲で」保証しているかを確認します。

典型的な表明保証事項

  • 会社の有効な設立・存続、契約締結権限
  • 株式・持分の権利関係、担保権の不存在
  • 財務諸表の適正性、簿外債務の不存在
  • 法令遵守、許認可、行政指導の有無
  • 重要契約、取引先、訴訟・紛争の不存在
  • 税務、労務、知的財産、IT・個人情報

これらの項目の中でも、M&A後の紛争になりやすいのは、財務・税務・労務・法令遵守・重要契約の分野です。対象会社の企業価値や買収価格に直接影響しやすく、問題が発覚した後の損害額も大きくなりやすいためです。

M&Aで問題になりやすい典型トラブル

類型 典型例 主な確認資料 深掘り先
簿外債務・偶発債務 未払税金、保証債務、潜在訴訟、環境対応費用 財務諸表、税務資料、契約書、DD資料 簿外債務・粉飾決算が発覚した場合
粉飾・不正会計 売上の過大計上、費用の未計上、在庫評価の誤り 総勘定元帳、試算表、請求書、会計監査資料 簿外債務・粉飾決算が発覚した場合
税務申告漏れ 法人税・消費税・地方税の申告漏れ、追徴課税 税務申告書、税務調査資料、修正申告資料 損害賠償額・責任制限条項の実務
労務・労働紛争 未払残業代、労災、退職者紛争、潜在的な訴訟リスク 就業規則、勤怠資料、労務DD、紛争資料 事例と初動対応
未開示契約・売掛金 重要契約の未開示、追加代金、存在しない売掛金 契約一覧、請求書、取引履歴、債権管理資料 事例と初動対応
法令違反・許認可 本人確認義務違反、許認可不備、行政指導、業法違反 許認可資料、行政対応資料、法務DD資料 事例と初動対応
開示済みリスク DDで開示済み、買主が認識していた、質問回答に記載あり 開示資料、Q&A、議事録、ディスクロージャー資料 DD不足・情報開示不足と表明保証違反

DDと表明保証の役割分担

デューデリジェンスは、買主が対象会社の実態を調査するプロセスです。一方、表明保証は、契約時点又はクロージング時点の対象会社の状態について、当事者が契約上リスクを分配するための仕組みです。DDを実施したから表明保証が不要になるわけではなく、DDで発見できないリスクをどこまで売主に負担させるかが、表明保証条項と補償条項の重要な役割になります。

もっとも、DDで問題が開示されていた場合や、買主が問題を認識していた場合には、表明保証違反の請求が制限されることがあります。反対に、DDで見落としたというだけで常に請求できないわけでもありません。結論は、契約条項、開示資料、買主の認識、重要性要件、損害との因果関係によって変わります。

注意

「DDで見落としたから請求できない」「開示資料に少しでも触れていれば売主は免責される」といった単純な整理は危険です。実務では、どの資料に、どの程度具体的に、どのタイミングで開示されていたかが争点になります。

限定文言・開示済み事項が結果を左右する

表明保証条項には、「重要な点において」「売主の知る限り」「開示済み事項を除く」などの限定文言が置かれることがあります。これらの文言があると、同じ事実が発覚した場合でも、表明保証違反にあたるか、補償請求できるか、損害額がどこまで認められるかが変わります。

買主側は、問題となる事実が限定文言の外側にあるのか、開示資料で除外されていないのかを確認します。売主側は、開示資料、Q&A、議事録、メール、DD資料をもとに、買主が事前に認識していたリスクではないかを確認します。開示済みリスクや買主の認識が争点になる場合は、DD不足・情報開示不足と表明保証違反で詳しく整理しています。

表明保証違反が疑われるときのチェックポイントと初動の考え方

表明保証違反が疑われる場面では、相手方に請求通知を出す前に、まず事実関係と契約上の根拠を整理することが重要です。M&A後に問題が見つかると、社内では「すぐに売主へ請求したい」「買主からの通知に早く反論したい」という方向に進みがちですが、表明保証違反の成否は、発覚した事実だけで決まるわけではありません。

契約書上の表明保証条項に該当するか、開示資料で除外されていないか、補償請求の通知期限を過ぎていないか、責任制限条項で制限されないか、損害額と因果関係を説明できるかを順に確認する必要があります。初動で整理が不十分なまま通知や反論をすると、後の交渉・訴訟で不利な記録が残ることもあります。

初動フロー

表明保証違反が疑われる場合は、次の流れで確認すると、論点を整理しやすくなります。

  • 1. 発覚事実を証拠化する:発覚日、発覚経緯、関係資料、担当者の説明、会計・税務・労務資料などを保存します。
  • 2. 契約書の表明保証条項を確認する:問題となる事実が、財務諸表、簿外債務、法令遵守、重要契約、労務、税務など、どの保証事項に関係するかを確認します。
  • 3. 補償条項・通知期限・責任制限を確認する:補償対象、通知方法、補償期間、責任上限、バスケット、除外事項を確認します。
  • 4. DD資料・開示資料・Q&Aを確認する:売主が開示していた資料、買主が質問していた事項、議事録、メール、データルームの記録を確認します。
  • 5. 損害額と因果関係を整理する:支出済みの金額、将来発生し得る費用、対象会社の価値低下、第三者請求、調査費用などを整理します。
  • 6. 請求通知又は反論方針を決める:通知期限を踏まえ、請求するのか、追加調査を求めるのか、売主側として反論するのかを決めます。

この流れのうち、特に重要なのは、契約書と開示資料を同時に確認することです。契約書だけを見ると表明保証違反に見える場合でも、開示資料で具体的に説明されていたリスクであれば、請求が制限されることがあります。反対に、資料のどこかに一般的な記載があるだけでは、売主側の免責や買主側の認識を直ちに基礎づけられないこともあります。

表明保証違反が疑われる場面の具体的な初動対応や事例は、表明保証違反が疑われるときの初動対応で詳しく整理しています。

買主側が確認すべきこと

買主側では、発覚した問題について「契約上どの条項違反なのか」「どの損害を請求するのか」「売主側からどのような反論が想定されるのか」を整理します。特に、M&A後に簿外債務や粉飾決算が見つかった場合でも、その支出全額を当然に売主へ請求できるとは限りません。

確認事項 確認する理由 主な資料
表明保証条項への該当性 問題となる事実が契約上保証された事項に含まれるかを確認するため 株式譲渡契約書、事業譲渡契約書
開示済み事項かどうか 売主が事前に開示していたリスクである場合、請求が制限され得るため データルーム、DD資料、Q&A、議事録
通知期限・補償期間 期限経過により補償請求が制限される可能性があるため 補償条項、通知条項、サバイバル条項
損害額と因果関係 発覚事実と請求額との結びつきを説明する必要があるため 会計資料、請求書、調査報告書、評価資料
責任制限条項 キャップ、バスケット、免責事項により請求額が制限され得るため 責任制限条項、補償条項

買主側の初動では、相手方に対して断定的な通知を出す前に、請求の根拠となる条項番号、違反事実、損害の範囲、通知期限を整理しておくことが重要です。特に補償条項で通知の記載事項が定められている場合は、通知書にどの程度具体的な事実と金額を記載するかが問題になります。

売主側が確認すべきこと

売主側で表明保証違反を主張された場合は、まず「本当に表明保証違反にあたるのか」「買主が事前に認識していたリスクではないか」「請求額が過大ではないか」を確認します。売主側の防御では、事実関係を否認するだけでなく、契約上の責任制限や開示資料の位置づけを丁寧に整理することが重要です。

  • 開示済み事項:問題となった事実又はリスクを、どの資料で、どの程度具体的に開示していたかを確認します。
  • 買主の認識・認識可能性:DDで質問されていた事項、買主が把握していた資料、会議で説明した内容を確認します。
  • 重要性要件:「重要な点において」などの限定文言がある場合、違反といえる程度の重要性があるかを確認します。
  • 損害との因果関係:発覚した事実と請求額との間に合理的な結びつきがあるかを検討します。
  • 責任制限:責任上限、バスケット、免責、補償期間、請求手続の遵守を確認します。

売主側では、買主からの通知に対して感情的に反論するのではなく、開示資料・メール・議事録・データルームのアクセス履歴など、客観的に確認できる資料を集めることが先です。開示済みリスクやDDでの認識が争点になる場合は、DD不足・情報開示不足と表明保証違反もあわせて確認すると整理しやすくなります。

通知期限と証拠保全

表明保証違反の補償請求では、契約上の通知期限が大きな意味を持ちます。M&A契約では、表明保証違反に基づく補償請求について、クロージング日から一定期間内に通知すること、通知書に補償原因事実や概算請求額を記載することなどが定められている場合があります。

通知期限が近い場合は、調査が完了していなくても、契約上要求される範囲で暫定的な通知を検討することがあります。ただし、通知内容が抽象的すぎると、後に有効な補償請求通知といえるかが争われる可能性があります。反対に、十分な裏付けがないまま強い表現で通知すると、交渉を不要に硬直化させることもあります。

初動で注意すべきこと

相手方への通知前に、契約書、補償条項、通知期限、開示資料、損害資料を確認してください。特に、メール削除、資料の上書き、担当者の記憶だけに依存した整理は避け、発覚時点の資料と経緯を保全することが重要です。

M&A後の表明保証違反でお困りの場合

簿外債務・粉飾決算・未払税金・労務紛争・法令違反などが発覚した場合、通知期限や責任制限条項によって、対応できる期間と請求範囲が限られることがあります。買主側の請求方針、売主側の反論方針を早期に整理したい場合は、お問い合わせからご相談ください。

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表明保証違反と損害賠償・補償条項・責任制限条項の関係

表明保証違反があったとしても、それだけで請求額が自動的に決まるわけではありません。実務では、表明保証条項、補償条項、民法上の損害賠償、責任制限条項を組み合わせて、どの範囲で金銭請求ができるかを検討します。

特にM&A契約では、補償条項が詳細に定められていることが多く、損害賠償という言葉を使う場合でも、実際には契約上の補償請求として構成することがあります。補償条項の有無、補償対象の文言、請求手続、責任上限、免責事項によって、同じ表明保証違反でも結論が変わります。

金銭請求の基本構造

表明保証違反に関する金銭請求では、まず契約上の補償条項を確認します。補償条項がある場合は、表明保証違反に起因して買主が被った損害、損失、費用をどこまで売主が補償するかを、その条項の文言に従って検討します。

一方、補償条項が十分に定められていない場合や、補償条項だけでは請求範囲が明確でない場合には、債務不履行に基づく損害賠償請求や、不法行為、錯誤・詐欺などの主張が問題になることもあります。ただし、M&A契約では当事者間でリスク分担を詳細に合意していることが多いため、まずは契約書を出発点に検討する必要があります。

請求の根拠 確認すべき内容 実務上の注意点
表明保証条項 保証された事実と実態が異なるか 限定文言、開示済み事項、基準日を確認する
補償条項 補償対象、通知方法、補償期間、補償上限 請求手続を守らないと争点になり得る
損害賠償 損害額、因果関係、予見可能性、過失相殺等 契約上の補償条項との関係を整理する
責任制限条項 キャップ、バスケット、免責、期間制限 請求額が条項により減額又は排除され得る

損害として問題になりやすいもの

表明保証違反で問題になる損害には、単純な支払額だけでなく、買収価格への影響、対象会社の企業価値の減少、是正費用、第三者からの請求対応費用、調査費用などが含まれることがあります。ただし、どこまで請求できるかは、補償条項の文言と因果関係によって変わります。

  • 簿外債務の支出:未払税金、未払残業代、未払金、保証債務など、発覚後に実際に支払った金額です。
  • 是正費用:不適切な会計処理、法令違反、許認可不備、システム不備などを是正するための費用です。
  • 企業価値・株式価値の減少:表明保証違反がなければ評価されていた価値と、実際の価値との差額が問題になることがあります。
  • 第三者請求への対応費用:取引先、従業員、行政機関、訴訟相手などからの請求に対応するための費用です。
  • 調査費用・弁護士費用:事実調査、会計調査、法務調査、補償請求対応に要した費用です。

損害額の組み立てでは、「問題が発覚したからこの金額を請求する」という整理では足りません。どの表明保証違反によって、どの損害が、いつ、どのように発生したのかを説明する必要があります。表明保証違反の損害額や因果関係については、表明保証違反の損害賠償額・責任制限で詳しく解説しています。

補償条項と責任制限条項で結果が変わる

M&A契約では、表明保証違反があった場合でも、売主が無制限に責任を負うわけではないのが通常です。補償条項で請求できる範囲を定め、責任制限条項で責任上限や請求可能期間を定めることで、当事者間のリスク分担を調整します。

たとえば、補償上限額が譲渡価格の一定割合に制限されている場合、実際の損害額がそれを超えても、原則として上限額までしか請求できません。また、一定額未満の損害は請求できないバスケット条項や、1件あたり一定額未満の少額請求を除外するディミニマス条項が置かれることもあります。

条項 意味 確認ポイント
補償対象 どの損害・損失・費用を補償するか 直接損害、第三者請求、調査費用、弁護士費用が含まれるか
補償期間 いつまで請求できるか 表明保証事項ごとに期間が異なるか
責任上限 売主が負う責任の最大額 譲渡価格全額か、一部割合か、例外があるか
バスケット 一定額を超えた場合に請求可能とする仕組み 超過部分のみか、全額請求型か
免責・除外事項 責任を負わない事項 開示済み事項、買主認識、保険金、税務上の取扱いなど

補償条項の設計や請求手続は、M&Aの補償条項・インデムニティで、キャップ・バスケット・サバイバル期間などの責任制限は、M&Aの責任制限条項で詳しく整理しています。

DDで見落とした場合の扱い

買主がDDを実施していたにもかかわらず問題を見落とした場合、表明保証違反の請求ができるかは、契約条項と具体的な開示状況によって変わります。DDは買主側の調査プロセスですが、表明保証は契約上のリスク分担です。そのため、DDを行ったというだけで、表明保証違反に基づく請求が当然に排除されるわけではありません。

もっとも、売主が問題を具体的に開示していた場合や、買主がそのリスクを認識して価格や条件に反映していた場合には、買主の請求が制限されることがあります。反対に、抽象的な資料や断片的な記載だけでは、買主が当該リスクを具体的に認識していたとはいえない場合もあります。

坂尾陽弁護士

表明保証違反では、「DDで見落としたか」だけでなく、「契約がどのリスクを誰に負担させていたか」を見ることが重要です。

紛争化した場合の解決手段と予防策(DD・契約設計・R&W保険など)

表明保証違反が疑われる事案では、事実関係がある程度明らかになった後も、すぐに結論が出るとは限りません。実務上は、発覚した事実そのものだけでなく、契約書の文言、開示資料の内容、買主の認識、通知期限、損害額、責任制限条項の適用範囲が重なって争点になります。

特にM&A後のトラブルでは、対象会社の内部資料、データルームの記録、DD時のQ&A、メール、議事録、会計・税務資料、取引先との契約書などが重要になります。請求する側も、請求を受ける側も、「表明保証違反があったか」という結論だけでなく、なぜその結論になるのかを資料に基づいて説明できるようにしておくことが重要です。

裁判例から見る表明保証違反の争点マップ

表明保証違反の裁判例では、財務諸表・簿外債務・法令違反・未開示契約・労務リスク・事業計画など、さまざまな類型が問題になっています。以下では、実務上よく争点になりやすいポイントを把握するため、代表的な裁判例を類型別に整理します。

裁判例 問題となった類型 実務上の示唆
東京地裁平成18年1月17日判決〔アルコ事件〕 会計処理、財務諸表、DD、買主の認識、純資産ベースの損害 買収対象会社の会計処理や帳簿記録が、表明保証違反と損害額の双方で問題になり得ることを示す代表的な裁判例です。DDで取得した資料から買主が何を認識できたかも重要な争点になります。
東京地裁平成23年4月15日判決 未開示契約、追加納品代金、存在しない売掛金 重要契約や支払債務の存在、売掛金の実在性が問題になった事案です。契約一覧や売掛金明細だけでなく、その裏付けとなる契約書・請求書・取引履歴の確認が重要です。
東京地裁平成25年11月19日判決 労働紛争、訴訟リスク、偶発債務、重要事項の不開示 財務・税務だけでなく、労務紛争や潜在的な訴訟リスクも表明保証違反の問題になり得ます。労務DDや訴訟・紛争リスクの確認を軽視しないことが重要です。
東京地裁平成30年3月28日判決・東京高裁平成30年10月4日判決 税務申告漏れ、簿外負債、将来具体化する課税問題 租税債務や申告漏れは、簿外負債・財務諸表・判断影響事項として問題になりやすい類型です。M&A後に税務調査や修正申告が生じた場合は、表明保証条項と補償条項を早期に確認する必要があります。
東京地裁平成30年7月20日判決・東京高裁平成30年12月26日判決 法令遵守表明保証、本人確認義務違反、信託契約の解約、DCF法による損害算定 対象会社の法令違反が事業継続や契約解約に結びついた場合、企業価値・事業価値の減少が損害として問題になることがあります。法令遵守条項、補償条項、損害算定資料を一体で確認する必要があります。
東京地裁令和2年3月6日判決 開示済みリスク、税金未払、表明保証違反の否定 売主側の防御として、資料で開示済みだったか、買主が認識していたかが重要になることを示す事案です。請求を受けた売主は、データルーム、帳簿、DD時の質問回答、メールを確認することが重要です。
東京地裁令和2年10月26日判決 事業計画の下方修正、不開示、補償請求、留保金との相殺 非上場会社の株式価値評価では、事業計画や将来収益に関する情報が重要になることがあります。留保金や相殺条項がある場合、補償請求と代金支払請求が同時に問題になる点にも注意が必要です。

裁判例は、あくまで個別事案ごとの契約条項・開示資料・証拠関係に基づく判断です。そのため、ある裁判例で表明保証違反が認められたからといって、同じ類型の事案ですべて同じ結論になるわけではありません。もっとも、どのような資料が争点になりやすいか、どのような反論があり得るかを把握するうえでは有用です。

裁判例から見える共通争点

裁判例を踏まえると、表明保証違反の紛争では、次の争点が繰り返し問題になります。

  • 契約条項への該当性:発覚した事実が、財務諸表、簿外債務、法令遵守、重要契約、労務、税務など、どの表明保証事項に該当するか。
  • 開示済み事項か:売主がデータルーム、DD回答、メール、議事録などで具体的に開示していたか。
  • 買主の認識・認識可能性:買主がそのリスクを知っていたか、又は契約上それを問題にしない設計になっていたか。
  • 重要性要件・限定文言:「重要な点」「知る限り」「重大な悪影響」などの文言が、請求を制限するか。
  • 因果関係と損害額:表明保証違反と支出・価値低下・第三者請求との間に因果関係があるか。
  • 責任制限・通知期限:補償期間、キャップ、バスケット、除外事項により請求が制限されるか。

裁判例や事例の読み方は、表明保証違反が疑われるときの初動対応で、損害額や因果関係の組み立ては、表明保証違反の損害賠償額・責任制限で詳しく整理しています。

交渉・調停・訴訟・仲裁に進む場合

表明保証違反が紛争化した場合でも、最初から訴訟になるとは限りません。多くの場合、まず請求通知や反論書面を出し、契約書・開示資料・損害額資料をもとに交渉します。その過程で、追加資料の開示、損害額の再計算、責任制限条項の適用、和解金額、支払時期、守秘義務などを協議することになります。

交渉で解決できない場合は、契約書の紛争解決条項に従って、訴訟、仲裁、調停などを検討します。M&A契約では、管轄裁判所や仲裁条項、準拠法、通知方法が定められていることがあります。紛争解決条項を確認しないまま相手方に通知すると、手続面で無用な争いが生じることもあります。

M&Aトラブル全体の解決手段については、M&A紛争の解決手段も参考になります。

予防策:DD・開示資料・契約設計をセットで整える

表明保証違反の予防では、DDだけ、表明保証条項だけ、補償条項だけを個別に整えても十分ではありません。買主側は、重要リスクをDDで発見し、発見したリスクを価格、前提条件、特別補償、クロージング条件に反映させる必要があります。売主側は、開示済み事項を具体的に整理し、責任範囲を過度に広げないように条項を調整する必要があります。

立場 予防のポイント 関連する確認事項
買主側 DDで重点調査し、未確認リスクは表明保証・補償条項・前提条件に反映する 財務、税務、労務、重要契約、法令遵守、許認可
売主側 開示済み事項を明確化し、知る限り・重要性・責任制限を適切に設計する ディスクロージャー資料、Q&A、例外事項、補償期間
双方 通知方法、第三者請求対応、弁護士費用、調査費用、保険との関係を整理する 補償条項、責任制限条項、R&W保険、紛争解決条項

DDや開示資料が表明保証違反の請求・防御に与える影響は、DD不足・情報開示不足と表明保証違反で詳しく解説しています。補償条項の設計は、M&Aの補償条項・インデムニティもあわせて確認してください。

表明保証保険(R&W保険)は使えるか

表明保証保険(R&W保険)は、M&A契約上の表明保証違反により生じる一定の損害を保険でカバーする仕組みです。売主の責任を限定しつつ買主の回収可能性を確保したい場合や、売主がファンドでクロージング後の責任を限定したい場合などに検討されることがあります。

ただし、R&W保険は万能ではありません。保険の対象外となる既知リスク、免責金額、保険金額の上限、通知手続、保険会社による審査、保険料負担などを確認する必要があります。また、保険がある場合でも、契約書上の表明保証条項、補償条項、責任制限条項を曖昧にしてよいわけではありません。

弁護士に相談すべきタイミング

表明保証違反が疑われる場合、通知期限が迫っている、損害額が大きい、相手方が違反を否認している、開示済み事項や買主の認識が争点になっている、責任制限条項の適用が問題になっているときは、早期に相談する必要性が高い場面です。

特に、請求通知の文言、通知時期、請求額の算定根拠、証拠保全の方法は、後の交渉・訴訟に影響します。売主側でも、安易に違反を認める回答をしたり、資料を不用意に提出したりすると、防御方針を狭めてしまうことがあります。

相談時期や準備資料については、M&Aトラブルはいつ弁護士に相談すべきかも参考になります。

早期相談が有効な場面

通知期限が近い場合、相手方から補償請求通知が届いた場合、損害額の算定が難しい場合、開示済みリスクかどうかで見解が分かれている場合は、契約書・DD資料・損害資料を整理したうえで早めに方針を検討することが重要です。

よくある質問

表明保証違反とは何ですか?

表明保証違反とは、M&A契約で真実かつ正確であると保証された事実が、実際には真実ではなかった、又は重要な事実が開示されていなかった状態をいいます。簿外債務、粉飾決算、未払税金、法令違反、重要契約の未開示などが典型例です。

表明保証違反と債務不履行の違いは何ですか?

表明保証違反は、契約で保証された事実と実態が異なることを問題にします。債務不履行は、契約上の義務を履行しなかったことを問題にします。実際のM&A契約では、表明保証条項、補償条項、損害賠償条項を組み合わせて責任を判断します。

表明保証違反で損害賠償や補償請求はできますか?

契約条項、補償条項、損害額、因果関係、通知期限、責任制限条項によって変わります。違反がありそうに見えても、開示済み事項や買主の認識、キャップ・バスケットなどによって請求範囲が制限されることがあります。

DDで見落とした場合でも請求できますか?

DDで見落としたというだけで、直ちに請求できないわけではありません。ただし、問題が具体的に開示されていた場合や、買主がリスクを認識していた場合には、請求が制限される可能性があります。契約上、買主の認識が表明保証の効力に影響しないと定められているかも確認が必要です。

表明保証違反で契約解除はできますか?

解除できるかは、クロージング前か後か、解除条項があるか、違反が重大か、民法上の要件を満たすかによって変わります。クロージング後は、解除よりも補償請求や損害賠償請求として処理されることが多く、契約書の定めを確認する必要があります。

売主として表明保証違反を主張された場合はどう対応すべきですか?

まず、請求通知の期限・方法・請求額を確認し、該当する表明保証条項、開示済み事項、買主の認識、重要性要件、因果関係、責任制限条項を整理します。感情的に否認するのではなく、契約書と資料に基づいて反論の骨子を作ることが重要です。

まとめ

表明保証違反は、M&A後の簿外債務、粉飾決算、未払税金、労務紛争、法令違反、重要契約の未開示などが発覚したときに問題になります。もっとも、発覚した事実だけで直ちに請求の可否が決まるわけではありません。

実務では、契約書の表明保証条項、補償条項、責任制限条項、DD資料、開示資料、通知期限、損害額、因果関係をセットで確認する必要があります。買主側は、請求の根拠と損害額を資料で説明できるようにする必要があります。売主側は、開示済み事項、買主の認識、限定文言、責任制限をもとに、反論可能性を整理します。

坂尾陽弁護士

表明保証違反の対応では、「どちらが正しいか」を急いで決める前に、契約条項・開示資料・証拠・損害額を同じ順序で確認することが重要です。

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M&Aの表明保証違反でお困りの方へ

表明保証違反の請求・防御では、通知期限、証拠保全、損害額、開示済みリスク、責任制限条項を早期に整理することが重要です。M&A後に簿外債務・粉飾・未払税金・法令違反が発覚した場合や、売主として補償請求を受けた場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。

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