株式質(株式の質入れ)|対抗要件・登録株式質権者・配当受領を整理

株式質とは、株主が保有する株式を担保に入れ、債権者がその株式について質権を取得する仕組みです。非上場会社では、役員・株主間の貸付、会社関係者への資金支援、事業承継やM&A前後の債権保全などで、株式を担保に取るかが問題になることがあります。

もっとも、株式質は「契約書を作れば終わり」ではありません。株券発行会社かどうか、株主名簿に登録するか、登録株式質権者として扱うか、配当や通知を誰に行うかによって、会社・株主・債権者の実務対応が変わります。

  • 株式には質権を設定できますが、株券発行会社では株券の交付が効力発生に関わります。
  • 対抗要件は、非株券発行会社では株主名簿の記載・記録、株券発行会社では株券の継続占有が中心です。
  • 登録株式質権者になると、会社からの通知、株主名簿記載、配当等の金銭処理で実務上の意味が生じます。
  • 株式質権者は、当然に株主になるわけではなく、議決権も当然には移りません。
  • 会社が質権設定を受け付けるときは、株主名簿、株券の有無、配当・通知先、担保実行時の承認手続をまとめて確認する必要があります。

坂尾陽弁護士

株式を担保に取る場面では、契約書だけでなく、会社法上の対抗要件と会社側の名簿対応をセットで確認することが重要です。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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株式質とは何か

株式質は、株式を目的物とする質権です。担保権者である質権者は、債務者が弁済しない場合に、株式から優先的に弁済を受けることを予定します。

株式は「物」ではなく株主の地位を表す権利ですが、会社法は、株主が有する株式に質権を設定できることを前提に、株券発行会社での効力発生、対抗要件、株主名簿への記載、登録株式質権者の効果を定めています。条文の全体像は、会社法146条から154条の2にまとまっています。最新の条文はe-Gov法令検索の会社法も確認してください。

株式質は、株式を移転する株式譲渡とは異なります。株式質では、原則として株主の地位自体は設定者側に残り、質権者は担保権者として保護されます。株式を担保に取る目的であっても、譲渡担保や代物弁済予約の形を使う場合とは、名義、議決権、配当、担保実行の設計が変わります。

株式質で最初に確認するポイント

株式質を検討するときは、最初に次の点を確認します。

  • 株券発行会社かどうか:株券発行会社では、株券の交付・継続占有が重要になります。
  • 株主名簿をどう扱うか:登録株式質権者として記載・記録するかにより、通知や金銭処理が変わります。
  • 対象株式を特定できるか:株式数、種類、株主名簿上の株主、譲渡制限の有無を確認します。
  • 担保実行時の出口を設計しているか:譲渡制限株式では、実行時に承認手続や買取問題が生じることがあります。

株式質の効力発生と対抗要件

株式質で最も重要なのは、「質権が当事者間で成立したか」と「会社や第三者に対抗できるか」を分けて考えることです。契約当事者の間で質権設定の合意があっても、会社や第三者に主張できるための要件を満たしていなければ、実務上の保全として不十分になることがあります。

会社法146条|株式に質権を設定できる

会社法146条は、株主がその有する株式に質権を設定できることを定めています。もっとも、株券発行会社の株式については、株券を交付しなければ株式の質入れの効力が生じません。

そのため、非株券発行会社では質権設定契約と株主名簿対応が中心になりますが、株券発行会社では、株券の現物がどこにあり、誰が占有しているかが実務上の出発点になります。会社法146条の入口論点は、会社法146条の記事で整理しています。

会社法147条|会社・第三者に対抗するための要件

会社法147条は、株式質の対抗要件を定めています。非株券発行会社の株式質では、質権者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載・記録しなければ、株式会社その他の第三者に対抗できません。

一方、株券発行会社の株式質では、株券を継続して占有することが対抗要件になります。株券発行会社では、株主名簿への登録だけでなく、株券の占有を失わないことが重要です。対抗要件の詳細は、会社法147条の記事も参照してください。

会社の種類 効力発生で重視する点 対抗要件で重視する点 実務上の注意
非株券発行会社 質権設定契約を中心に確認 株主名簿への質権者情報の記載・記録 会社が株主名簿を適切に整備していないと、担保権者の保全が弱くなります。
株券発行会社 株券の交付が必要 株券の継続占有が中心 株券を誰が保管するか、占有を失った場合にどうするかを契約で明確にします。
注意

株式質の対抗要件は、債権質の一般ルールだけで処理せず、会社法146条・147条を確認して判断する必要があります。特に株券発行会社では、株券の交付と継続占有を軽視しないことが重要です。


登録株式質権者と略式質の違い

株式質では、「登録株式質権者」と「略式質」の違いがよく問題になります。両者の違いは、会社が質権者を株主名簿上把握するか、質権者が会社法上の通知や金銭処理の保護を受けやすいかに関係します。

登録株式質権者とは

登録株式質権者とは、質権者の氏名又は名称及び住所、質権の目的である株式などが株主名簿に記載・記録された質権者をいいます。会社から見れば、株主名簿を確認することで、当該株式に質権が設定されていることを把握できます。

登録株式質権者になると、株主名簿記載事項の交付、会社からの通知・催告、配当等の金銭処理に関して、会社法上の取扱いが明確になります。会社法148条から150条の名簿記載・通知の流れは、会社法148条〜150条の記事で詳しく整理しています。

略式質とは

略式質とは、一般に、株主名簿に質権者として登録しない形の株式質を指します。典型的には、株券発行会社で質権者が株券を占有することにより、対抗要件を確保する場面で問題になります。

略式質は、会社に質権者情報が登録されていないため、会社からの通知や配当等の支払を質権者に直接行わせる設計には向きません。担保権者として会社に対して確実な実務対応を求めたい場合は、登録株式質権者としての記載・記録を検討します。

区分 中心となる公示方法 会社からの見え方 向いている場面
登録株式質 株主名簿への質権者情報の記載・記録 会社が質権者を把握しやすい 配当、通知、組織再編時の処理まで会社に明確に対応してほしい場合
略式質 株券発行会社での株券占有 会社が質権者を株主名簿上把握しないことが多い 株券の占有による担保保全を中心に考える場合

配当・通知・議決権は誰に帰属するか

株式質を設定した後も、質権者が当然に株主になるわけではありません。そのため、配当、通知、議決権については、それぞれ分けて整理する必要があります。

配当や金銭は質権の効力が及ぶことがある

会社法151条は、株式を目的とする質権の効力が、株主が受ける金銭等に及ぶ場面を定めています。たとえば、剰余金の配当、残余財産の分配、株式の取得、組織再編などにより株主が金銭等を受ける場合、株式質の効力がその金銭等に及ぶことがあります。

もっとも、会社が誰に支払えばよいかは、登録株式質権者として名簿に記載・記録されているか、会社が質権の存在をどのように把握しているかにより実務対応が変わります。質権の効果総論は会社法151条の記事、株式・株券・金銭の処理は会社法152条〜154条の記事も確認してください。

通知・催告は登録株式質権者への対応が必要になる

登録株式質権者がいる場合、会社が通知や催告を行う相手、通知先、到達の扱いを誤ると、手続上の紛争につながることがあります。特に、株式の取得、株式併合・分割、剰余金配当、組織再編のように株主の受ける権利に変動が生じる場面では、株主名簿上の記載を前提に、通知先を整理しておくべきです。

議決権は当然には質権者に移らない

株式質権者は、担保権者であって、当然に株主になるわけではありません。したがって、株主総会の議決権は、原則として株主が行使します。質権者が経営上のコントロールを確保したい場合、質権だけで足りるか、議決権行使に関する契約、委任状、譲渡担保、種類株式等の別設計が必要かを検討します。

実務メモ

金融機関や取引先が株式を担保に取る場合でも、質権者が当然に議決権を行使できるわけではありません。担保権の保全と経営権の確保は、別の論点として契約設計する必要があります。


会社・債権者が確認すべき実務チェック

株式質は、債権者側だけでなく、会社側の名簿実務にも影響します。非上場会社では株主名簿が十分に整備されていないこともあるため、質権設定の相談を受けた段階で、株主名簿・定款・株券の有無を確認することが重要です。

債権者側のチェックポイント

  • 対象株式の特定:株主、株式数、種類、譲渡制限、自己株式該当性を確認します。
  • 株券発行会社かどうか:定款と株券発行の実態を確認し、株券が必要な場合は交付と保管方法を定めます。
  • 株主名簿への登録:登録株式質権者として記載・記録するかを決め、必要書類を準備します。
  • 配当・組織再編時の処理:配当金、対価、株式分割、組織再編時の権利変動を契約上も確認します。
  • 担保実行の出口:譲渡制限株式では、担保実行時の承認手続や売却先を事前に想定します。

会社側のチェックポイント

  • 請求者の権限:株主本人、質権者、代理人の権限を確認します。
  • 株主名簿の整合性:現在の株主、株式数、種類、名義書換の未了がないかを確認します。
  • 株券の取扱い:株券発行会社では、株券の所在、占有、再発行リスクを確認します。
  • 通知・催告先:登録株式質権者がいる場合、株主だけに通知して足りるかを確認します。
  • 配当・金銭支払:株主へ支払うのか、登録株式質権者へ支払うのか、二重払いを防ぐ体制を整えます。

株主名簿の整備は、株式質だけでなく、株式譲渡、基準日、株主総会通知、配当にも関係します。名簿管理の基本は株主名簿の記事で整理しています。


株式質で問題になりやすい場面

非上場会社・譲渡制限株式を担保に取る場合

非上場会社の株式は、買い手が限られ、定款で譲渡制限が付いていることが多いです。そのため、債権者が株式を担保に取っても、担保実行時に株式を第三者へ売却できるか、会社の承認を得られるか、会社又は指定買取人による買取が問題になります。

担保実行の段階で初めて譲渡制限の承認手続を検討すると、時間がかかり、債権回収の実効性が下がることがあります。譲渡制限株式を担保に取る場合は、質権設定時から譲渡制限株式の承認手続を意識しておくべきです。

会社自身が自己株式を担保に取る場合

会社自身が自己の株式を担保に取るような場面では、自己株式取得規制との関係を別途検討する必要があります。旧商法下の事案ですが、最高裁昭和43年9月5日判決は、株式会社が自己株式を質権の目的として受けることは当時の自己株式取得禁止規定に反し、違反した質権設定は無効であると判断しました。

現行会社法では自己株式取得の制度が整理されていますが、会社自身が自己株式を担保に取る設計をする場合は、自己株式の取得、分配可能額、株主平等、取締役の責任との関係を確認する必要があります。自己株式の全体像は自己株式の記事で整理しています。

上場株式・振替株式を担保に取る場合

上場会社の株式や振替株式では、会社法上の株式質の基本に加えて、振替制度、口座管理機関、担保権設定の実務、金融商品取引に関するルールを確認する必要があります。本記事は会社法上の基本整理を中心にしているため、金融実務上の担保設定や担保実行は、個別の取引スキームに応じて確認してください。

信託財産に属する株式の場合

信託財産に属する株式では、株式質とは別に、信託財産に属する旨を会社や第三者に対抗するための名簿記載が問題になります。会社法154条の2はこの点を定めています。信託株式の対抗要件は、会社法154条の2の記事で確認してください。


株式質に関するよくある質問

株式を質入れするだけで債権者が株主になりますか?

いいえ。株式質権者は担保権者であり、質入れだけで当然に株主になるわけではありません。株主名簿上の株主は通常そのまま残ります。議決権や会社支配を移したい場合は、質権とは別の契約設計が必要です。

株式質の対抗要件は株主名簿だけで足りますか?

非株券発行会社では、株主名簿への質権者情報の記載・記録が中心になります。一方、株券発行会社では、株券の継続占有が重要です。会社が株券発行会社かどうかで確認事項が変わります。

登録株式質権者になるメリットは何ですか?

会社が質権者を株主名簿上把握できるため、通知、催告、配当等の金銭処理、株式分割や組織再編時の対応が明確になります。会社に対する実務上の保護を重視する場合は、登録株式質権者としての記載・記録を検討します。

配当は株主と質権者のどちらが受け取りますか?

株式質の効力は配当等の金銭に及ぶことがありますが、会社が誰に支払うべきかは、登録株式質権者として名簿に記載・記録されているかなどにより整理します。契約上も、配当金の受領、充当、返還、通知方法を明確にしておくべきです。

譲渡制限株式を担保に取る場合、承認手続は不要ですか?

質権設定自体と、担保実行により株式を移転する場面は分けて考えます。質権設定時に承認が不要と整理できる場合でも、担保実行で株式を譲渡するときは、譲渡制限株式の承認手続が問題になることがあります。


まとめ

株式質は、株式を担保に取るための有効な手段ですが、会社法上の効力発生、対抗要件、株主名簿、登録株式質権者、配当・通知の処理を誤ると、担保としての実効性が大きく下がります。

  • 株式には質権を設定できます。
  • 株券発行会社では、株券の交付・継続占有が重要です。
  • 非株券発行会社では、株主名簿への記載・記録を重視します。
  • 登録株式質権者になると、通知や金銭処理で会社法上の効果が生じます。
  • 議決権、担保実行、譲渡制限、自己株式は別途検討が必要です。

株式を担保に取る側は、契約書だけでなく、株券の有無、株主名簿、配当・通知、担保実行の出口まで確認してください。会社側も、登録株式質権者への対応を誤ると、通知漏れや二重払いのリスクが生じます。

坂尾陽弁護士

非上場株式を担保に取る場合は、質権設定時点だけでなく、弁済がされなかった場合に本当に回収できるかまで確認しておくことが重要です。

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