【会社法110条・111条】定款の変更の手続の特則|条文の要点と実務ポイント

坂尾陽弁護士

会社法110条・111条は、取得条項・譲渡制限・全部取得条項などを後から定款で設定・変更するときの追加手続を定める条文です。通常の定款変更決議だけで進めると、株主全員同意や種類株主総会決議を欠き、定款変更の効力や登記・取得手続に影響するおそれがあります。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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会社法110条・111条の要点

会社法110条・111条は、株式の内容に関する定款変更のうち、株主の地位や投資回収に大きな影響を与えるものについて、通常の定款変更手続に加えて特別な同意・決議を求める規定です。

定款変更は、原則として株主総会の特別決議によります。しかし、発行済みの株式に後から取得条項を付ける場合などは、株主が望まない時期・条件で株式を取得される可能性が生じます。そのため、会社法110条・111条は、株主全員の同意、当該種類株主全員の同意、種類株主総会決議といった追加手続を要求しています。

確認項目 要点 実務上の意味
110条 種類株式発行会社でない会社が、全部の株式に取得条項を付ける・変更する場面を扱います。 株主総会の特別決議に加え、株主全員の同意を確認します。
111条1項 種類株式発行会社が、ある種類株式に取得条項を付ける・変更する場面を扱います。 株主総会決議に加え、当該種類株主全員の同意を確認します。
111条2項 ある種類株式に譲渡制限又は全部取得条項を設ける場面を扱います。 対象となる種類株主を構成員とする種類株主総会決議が効力要件になります。
廃止の場合 取得条項を廃止する定款変更は、110条・111条1項の全員同意の対象から除かれています。 もっとも、通常の定款変更決議や322条等の種類株主総会の要否は別途確認します。

種類株式全体の設計は、種類株式とは|内容・設計・定款変更のポイントで整理しています。本記事では、会社法110条・111条の定款変更手続の特則に絞って解説します。

会社法110条・111条の条文

会社法110条・111条は、株式の内容について定款を変更するときの特則です。条文の全文・最新表示は、会社法(e-Gov法令検索)で確認してください。

会社法110条

定款を変更してその発行する全部の株式の内容として第百七条第一項第三号に掲げる事項についての定款の定めを設け、又は当該事項についての定款の変更(当該事項についての定款の定めを廃止するものを除く。)をしようとする場合(株式会社が種類株式発行会社である場合を除く。)には、株主全員の同意を得なければならない。

110条の中心は、全部の株式に取得条項を付ける場合です。107条1項3号の「一定の事由が生じたことを条件として会社が株式を取得できること」を、後から定款に設けるときには、株主全員の同意が必要になります。

会社法111条

種類株式発行会社がある種類の株式の発行後に定款を変更して当該種類の株式の内容として第百八条第一項第六号に掲げる事項についての定款の定めを設け、又は当該事項についての定款の変更(当該事項についての定款の定めを廃止するものを除く。)をしようとするときは、当該種類の株式を有する株主全員の同意を得なければならない。

種類株式発行会社がある種類の株式の内容として第百八条第一項第四号又は第七号に掲げる事項についての定款の定めを設ける場合には、当該定款の変更は、所定の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じません。

111条は、種類株式発行会社における特則です。1項は取得条項、2項は譲渡制限又は全部取得条項を設ける場合を扱います。

110条と111条の違い

110条と111条はどちらも「定款の変更の手続の特則」ですが、対象となる会社と株式の範囲が異なります。最初に、会社が種類株式発行会社かどうかを確認してください。

区分 110条 111条
対象会社 種類株式発行会社でない株式会社 種類株式発行会社
対象株式 発行する全部の株式 ある種類の株式
取得条項を付ける場合 株主全員の同意 当該種類株主全員の同意
譲渡制限を付ける場合 110条の対象外。別途、107条・309条等を確認 111条2項により種類株主総会決議が効力要件になる場面があります。
全部取得条項を付ける場合 そもそも全部取得条項付種類株式は108条1項7号の種類株式の問題です。 111条2項により種類株主総会決議が効力要件になります。

実務では、「全株式に同じ内容を付けるから110条」と即断しないことが重要です。普通株式と優先株式など、内容の異なる二以上の種類の株式を発行できる定款になっている場合は、種類株式発行会社として111条側の検討になります。107条と108条の基本的な違いは、会社法107条の解説会社法108条の解説も確認してください。

会社法110条|全部の株式に取得条項を付ける場合

会社法110条は、種類株式発行会社でない株式会社が、発行する全部の株式について取得条項を設ける場合を想定しています。取得条項とは、一定の事由が発生したときに、会社が株式を取得できる旨の定めです。

例えば、株主が死亡した場合、競業会社に関与した場合、一定の期限が到来した場合などを取得事由として定める設計が考えられます。ただし、既に株式を持っている株主から見ると、後から会社に強制取得されるリスクを負うことになります。そのため、通常の多数決だけではなく、株主全員の同意が要求されます。

手続 確認ポイント 実務上の注意点
定款変更案の作成 取得事由、取得対価、取得手続、通知方法などを明確にします。 抽象的な文言にすると、取得できる場面や対価をめぐって紛争化しやすくなります。
株主総会決議 定款変更として、原則として特別決議が必要です。 招集通知、議案、議事録、決議要件を確認します。
株主全員の同意 株主全員から同意を取得します。 出席株主全員では足りません。株主名簿、相続、名義株、所在不明株主を確認します。
登記・書類整備 変更内容に応じて登記・添付書面を確認します。 同意書、議事録、定款、株主リストを整合させます。

株主が少数で全員が合意している会社では、110条の手続は比較的処理しやすい場合があります。一方で、株主数が多い会社、相続未了株式がある会社、名義株が残っている会社では、全員同意の取得が実務上の大きなハードルになります。

会社法111条1項|種類株式に取得条項を付ける場合

会社法111条1項は、種類株式発行会社が、ある種類の株式について取得条項を設ける場合の特則です。普通株式とは別にA種優先株式を発行している会社で、既に発行済みのA種優先株式に取得条項を後から付けるような場面を想定すると分かりやすいです。

この場合、全株主ではなく、当該種類の株式を有する株主全員の同意が必要になります。取得条項は当該種類株主の地位に直接影響するため、その種類株主全員の同意を要求する構造です。

  • 対象は、発行後の種類株式に取得条項を付ける又は変更する定款変更
  • 取得条項の廃止は、111条1項の全員同意の対象から除外
  • 当該種類株主全員の同意が必要
  • 通常の定款変更決議、種類株主総会、登記の要否は別途確認

投資ラウンドで優先株式に強制転換・強制取得の仕組みを後から加える場合、創業者株式に取得条項を付ける場合、事業承継対策で一定の事由発生時に会社が株式を取得できるようにする場合などでは、111条1項の検討が必要です。投資契約や株主間契約だけで処理せず、定款変更と会社法上の同意要件を確認してください。

会社法111条2項|譲渡制限・全部取得条項を設ける場合

会社法111条2項は、種類株式発行会社が、ある種類株式に譲渡制限又は全部取得条項を設ける場合に、所定の種類株主総会決議がなければ定款変更の効力が生じないと定めています。

対象となる定款変更 条文上の根拠 必要になる手続
ある種類株式に譲渡制限を設ける 108条1項4号 当該種類株主等を構成員とする種類株主総会決議
ある種類株式に全部取得条項を設ける 108条1項7号 当該種類株主等を構成員とする種類株主総会決議
取得請求権付株式・取得条項付株式の対価として当該種類株式が交付される設計 108条2項5号ロ・6号ロ その種類株主も111条2項の対象になり得ます。

譲渡制限を付けると、株主の投資回収や株式譲渡の自由が制限されます。全部取得条項を付けると、会社が株主総会決議によりその種類株式の全部を取得する手続につながります。いずれも種類株主に重大な影響を与えるため、通常の株主総会決議だけでなく、種類株主側の承認を効力要件としている点に注意してください。

全部取得条項付種類株式は、少数株主の締出しや組織再編前の株式整理で使われることがありますが、手続を誤ると反対株主の保護、価格決定、決議の効力が問題になります。反対株主保護の流れは、反対株主の株式買取請求・新株予約権買取請求も確認してください。

実務で確認すべき手続フロー

110条・111条の問題では、「定款変更案を作る」前に、どの株式にどの内容を付けるのかを分類することが重要です。実務では、次の順に確認すると手続漏れを防ぎやすくなります。

ステップ 確認事項 主なリスク
1 株式の現状確認 普通株式のみか、種類株式発行会社か、発行済みの種類と株主を確認します。 110条と111条の適用を取り違えるリスクがあります。
2 変更内容の分類 取得条項、譲渡制限、全部取得条項、その他の種類株式内容を区別します。 全員同意・種類株主総会の要否を誤るリスクがあります。
3 株主名簿の確認 株主、共有株式、相続未了株式、名義株、自己株式を確認します。 同意取得先や議決権数を誤るリスクがあります。
4 決議・同意の設計 株主総会、種類株主総会、株主全員同意、種類株主全員同意を整理します。 手続の一部欠缺により、定款変更の効力が争われるおそれがあります。
5 書類・登記 定款、議事録、同意書、株主リスト、登記申請書類を整合させます。 登記補正、後日の紛争、M&A・投資時のDD指摘につながります。

株主総会の招集通知や決議手続が必要な場合は、株主総会の招集手続も併せて確認してください。種類株主総会を開催する場合も、対象となる種類株主、議決権、招集通知、議事録の作成を個別に整理する必要があります。

つまずきやすいポイント

出席株主全員の賛成と株主全員同意を混同しない

110条の「株主全員の同意」や111条1項の「当該種類株主全員の同意」は、株主総会に出席した株主全員の賛成とは別です。欠席株主、所在不明株主、相続で準共有になっている株式、名義株の整理が必要になります。

取得条項と全部取得条項を混同しない

取得条項は、一定の事由が生じたときに会社が株式を取得できる内容です。これに対し、全部取得条項付種類株式は、会社が株主総会決議により、その種類株式の全部を取得できる内容です。取得の契機、手続、反対株主保護が異なるため、定款変更案の文言を分けて確認してください。

廃止なら常に手続が軽いとは限らない

110条・111条1項は、取得条項の定款の定めを廃止するものを全員同意の対象から除いています。ただし、廃止により他の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合や、他の定款変更と組み合わされる場合には、322条など別の種類株主総会の要否を検討します。

投資契約・株主間契約だけで済ませない

投資家との間で取得条項、転換、譲渡制限、拒否権を合意しても、会社法上の種類株式として効力を持たせるには、定款に反映する必要があります。契約、定款、発行要項、株主総会・種類株主総会議事録、登記を一体で確認してください。

将来発行株式と既発行株式を分けて考える

110条・111条は、既に株式を持つ株主の権利内容を後から重くする場面で特に重要です。将来発行する種類株式の内容を初めから定款で定める場合と、既発行株式の内容を変更する場合では、必要な手続や同意の範囲が異なります。

関連する会社法条文・記事

110条・111条は、107条・108条の株式内容の設計と、116条以下の反対株主保護、322条の種類株主総会と接続します。条文単体で読むよりも、どの制度の入口なのかを確認すると整理しやすくなります。

関連条文・制度 関係するポイント 確認先
会社法107条 全部の株式に譲渡制限・取得請求権・取得条項を付ける基本規定 会社法107条の解説
会社法108条 種類株式の9類型。111条は108条1項4号・6号・7号と特に関係します。 会社法108条の解説
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会社法116条・117条 一定の定款変更・種類株式の取得に反対する株主の買取請求・価格決定 会社法116条の解説
種類株式の総論 資金調達、事業承継、投資契約、拒否権、優先配当などの設計全体 種類株式とは

会社法110条・111条に関するQ&A

会社法110条と111条の違いは何ですか。

110条は種類株式発行会社でない会社が全部の株式に取得条項を付ける場合の規定です。111条は種類株式発行会社が、ある種類株式に取得条項、譲渡制限、全部取得条項を付ける場面を扱います。まず会社が種類株式発行会社かどうかを確認してください。

株主総会の特別決議だけで足りますか。

足りない場合があります。取得条項を後から付ける場合、110条では株主全員の同意、111条1項では当該種類株主全員の同意が必要です。111条2項の場面では、所定の種類株主総会決議がなければ定款変更の効力が生じません。

取得条項を廃止する場合も全員同意が必要ですか。

110条・111条1項は、取得条項についての定款の定めを廃止する変更を、全員同意の対象から除いています。ただし、通常の定款変更決議や、他の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の種類株主総会など、別の手続が必要になることがあります。

全株式に同じ取得条項を付ける場合は常に110条ですか。

いいえ。会社が種類株式発行会社である場合は、全株式に同じ内容を付けるように見えても、種類株式発行会社として111条側の検討が必要になります。定款上の発行可能種類株式や、発行済みの種類株式の有無を確認してください。

111条2項の種類株主総会と322条の種類株主総会は同じですか。

どちらも種類株主総会決議が問題になる点は共通しますが、根拠条文と要件が異なります。111条2項は、譲渡制限又は全部取得条項を設ける特定の定款変更について効力要件を定める規定です。322条は、一定の会社行為がある種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合の保護規定です。両方の要否を別々に確認してください。

同意は書面で取得すべきですか。

実務上は、後日の立証と登記・DD対応のため、同意書、株主総会議事録、種類株主総会議事録、株主リスト、定款変更案を整合する形で残すべきです。メールや口頭のやり取りだけでは、同意の有無や範囲が争われやすくなります。

関連記事

会社法110条・111条は、種類株式の設計、株主総会、反対株主保護と密接に関係します。関連する記事も併せて確認してください。

まとめ

会社法110条・111条は、株式の内容に関する定款変更のうち、株主の地位を大きく変えるものについて、通常の定款変更手続に加えて厳格な同意・種類株主総会決議を求める規定です。

特に、取得条項を後から付ける場合は、110条では株主全員の同意、111条1項では当該種類株主全員の同意が必要です。また、種類株式に譲渡制限又は全部取得条項を設ける場合は、111条2項により所定の種類株主総会決議が効力要件になります。実務では、107条・108条で何を定めようとしているのかを先に分類し、株主総会、種類株主総会、全員同意、登記、反対株主保護まで一体で確認してください。

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