坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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株主総会等の利益供与とは|会社法120条の実務
株主総会等の利益供与とは、株式会社が、株主の議決権行使、株主提案、総会での発言、訴えの提起などの株主等の権利行使に関して、金銭・物品・経済的利益を供与することをいいます。会社法120条は、株式会社が、何人に対しても、株主等の権利の行使に関し、会社又は子会社の計算で財産上の利益を供与することを禁止しています。
この規制は、典型的には、総会屋に対して金銭等を渡し、株主総会での発言・議決権行使・妨害行為をコントロールしようとする場面を念頭に置くものです。もっとも、条文は総会屋に限定していません。上場会社だけでなく、非上場会社・同族会社でも、少数株主対応や株式買取り、株主優待、総会運営の場面で問題になります。
条文の原文や最新の法令表示は、会社法120条(e-Gov法令検索)を確認してください。条文別の詳しい整理は、【会社法120条】株主等の権利の行使に関する利益の供与|条文の要点と実務ポイントで解説します。
| 確認ポイント | 実務上の意味 | 典型的に確認する資料 |
|---|---|---|
| 誰が負担しているか | 会社名義でなくても、会社又は子会社の計算で利益を供与していれば問題になります。 | 支払伝票、契約書、稟議書、取締役会資料、関連会社の支出資料 |
| 誰に供与したか | 相手方は株主に限られません。第三者、関係会社、仲介者、株主の関係者も対象になり得ます。 | 相手方情報、反社チェック、株主名簿、実質株主情報 |
| 何を供与したか | 金銭だけでなく、物品、債務免除、過大な対価、便益提供など財産上の利益が対象です。 | 契約条件、評価資料、請求書、領収書、対価算定資料 |
| 株主権行使との関係 | 議決権行使、株主提案、総会での発言、訴訟提起、権利不行使に影響を与える趣旨があるかを見ます。 | 総会資料、委任状勧誘資料、交渉記録、メール、議事録 |
| 違反時の効果 | 受領者の返還義務、取締役等の連帯支払義務、総会決議取消し、刑事罰リスクが問題になります。 | 社内調査資料、法務メモ、訴訟資料、刑事リスク確認資料 |
会社法120条で禁止される利益供与の要件
株式会社又は子会社の計算で行われること
会社法120条が問題になるのは、会社又は子会社の計算で財産上の利益を供与した場合です。会社の銀行口座から直接支払った場合はもちろん、役員・従業員・関係会社が形式上支払っていても、後から報酬、業務委託料、経費精算、関連会社取引などで会社が実質的に負担していれば問題になります。
実務では、名義だけで判断せず、最終的に誰の負担になっているかを確認します。特に、総会対応費、IR費用、顧問料、コンサルティング料、和解金、株式取得対価、接待交際費、寄附金などの名目で処理されている場合は、支出の目的と対価関係を確認する必要があります。
相手方は株主に限定されない
会社法120条は「何人に対しても」と定めています。そのため、利益供与の相手方は、現在の株主に限られません。株主の親族・関係会社、総会屋、反社会的勢力、仲介者、株式を取得しようとする者、株主の代理人・支援者などに対する利益供与も対象になり得ます。
たとえば、株主本人に直接金銭を渡さず、株主の関係会社に不自然な業務委託料を支払う、株主の関係者から高額で物品を購入する、第三者を経由して利益を移転するような場合も、実質的に株主権行使に関する利益供与と評価される可能性があります。
財産上の利益であること
財産上の利益には、現金、商品券、QUOカード、優待券、物品、接待、債務免除、過大な業務委託料、不当に高い株式買取代金、不当に低い対価での資産譲渡など、経済的価値のあるものが広く含まれます。
有償取引であっても安全とは限りません。会社法120条2項は、特定の株主に無償で財産上の利益を供与したときだけでなく、有償で財産上の利益を供与した場合に、会社又は子会社が受けた利益が当該財産上の利益に比して著しく少ないときも、株主の権利の行使に関する利益供与と推定すると定めています。
株主等の権利の行使に関すること
最も問題になりやすいのは、「株主等の権利の行使に関し」といえるかです。単に株主に利益を与えたというだけでは、直ちに会社法120条違反になるわけではありません。利益供与が、株主としての権利行使又は権利不行使に影響を与える趣旨でされたかを確認します。
ここでいう権利行使には、議決権行使、委任状の提出、株主総会での質問・発言、株主提案、株主総会招集請求、帳簿閲覧請求、役員責任追及の訴え、組織再編や定款変更への賛否、権利行使をしないことなどが含まれます。株式譲渡それ自体は株主権の行使ではありませんが、好ましくないと判断される株主による議決権行使等を避ける目的で、株式の譲受けの対価を供与する場合には、利益供与と評価され得ます。
利益供与が問題になりやすい場面
利益供与の判断では、金額の大小だけでなく、会社と株主の対立状況、総会の時期、委任状勧誘の有無、支出の名目、対価の相当性、社内承認、記録の残し方が重要です。次のような場面では、事前に法務確認を行うべきです。
| 場面 | 問題になりやすい理由 | 実務上の対応 |
|---|---|---|
| 総会屋・反社会的勢力への支払い | 総会での発言、妨害、議決権行使、不行使に影響を与える趣旨が強く疑われます。 | 金銭で解決せず、警察・弁護士に相談し、取締役会・危機管理対応で処理します。 |
| 委任状争奪戦中の粗品・商品券 | 会社提案への賛成票獲得、反対票封じ、議決権行使促進と利益の関連が問題になります。 | 賛否を問わない設計でも、対立状況では特に慎重に判断し、配布趣旨を記録します。 |
| 株主総会のお土産・懇談会 | 通常の範囲なら問題になりにくい一方、金額・時期・対象者によっては権利行使との関連が疑われます。 | 社会通念上相当な範囲、全株主への公平な案内、議決権行使との切り離しを意識します。 |
| 特定株主からの株式取得 | 株式取得の対価を装い、議決権行使や会社への干渉を避ける目的で高額対価を支払う場合があります。 | 株価評価、取締役会判断、自己株式取得規制、利益供与規制をセットで確認します。 |
| 同族会社の少数株主への金銭支払い | 訴訟提起、帳簿閲覧、総会での反対、株主提案をやめてもらう目的の支払いと見られることがあります。 | 和解の対象、対価関係、相当性、守秘・不提訴条項の範囲を明確にします。 |
| 従業員持株会・ESOPへの奨励金 | 従業員福利厚生か、株主としての議決権行使に影響を与える支出かが問題になります。 | 議決権行使の独立性、福利厚生目的、合理的な金額、制度規程を整理します。 |
総会屋・反社会的勢力対応でしてはいけないこと
総会屋・反社会的勢力対応では、「総会を無事に終わらせたい」「株主や取引先に迷惑をかけたくない」という心理から、金銭や便宜供与で解決しようとすることがあります。しかし、会社法120条は、このような対応を厳しく制限します。
- 総会で発言しないことを条件に金銭を支払う
- 反対票を入れないことを条件に商品券・接待を提供する
- 暴力団関係者等への株式譲渡を避けるために、合理性のない高額対価を会社負担で支払う
- 株主権行使を取り下げさせるため、第三者名義の顧問料・コンサル料を支払う
- 議事運営を妨害しないように、特定者だけに便益を供与する
これらは、会社財産の流出にとどまらず、取締役の善管注意義務・忠実義務、株主代表訴訟、刑事罰、反社対応上の重大な問題につながります。要求を受けた場合は、相手方と密室で条件交渉を進めず、直ちに社内の危機管理ルート、顧問弁護士、必要に応じて警察へ相談し、記録を残すべきです。
株主総会の招集・議事運営の基本は、株主総会の招集手続も併せて確認してください。利益供与が刑事罰に発展する場面は、会社法の罰則とは|特別背任・虚偽文書・贈収賄・利益供与・過料を整理、【会社法970条〜972条】利益供与の罪・国外犯・法人における罰則適用で整理します。
裁判例から見る利益供与の判断ポイント
蛇の目ミシン事件|株式取得の対価でも利益供与になり得る
最高裁平成18年4月10日判決(蛇の目ミシン株主代表訴訟)は、総会屋対策・利益供与の代表的な裁判例です。いわゆる仕手筋が保有する大量の株式を暴力団関連会社に売却するなどと示唆した状況で、会社側が巨額の金員を融資金名目で供与したことが問題になりました。
最高裁は、株式譲渡はそれ自体としては株主権の行使ではないため、株式譲渡の対価を支払うことが当然に利益供与に当たるわけではないとしました。もっとも、会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主権を行使することを回避する目的で、株式を譲り受けるための対価を供与する行為は、株主の権利の行使に関する利益供与に当たり得ると判断しました。
この裁判例からは、株式買取り・株式譲渡の形をとっていても、実質が「株主権行使を避けるための利益供与」になっていないかを確認する必要があることが分かります。特に、対価が著しく高い、会社財産から支出される、反社・総会屋対応の文脈がある、取締役会で十分な検討がされていない場合は、危険度が高いといえます。
株主優待乗車券の裁判例|利益供与と善管注意義務の違い
高知地裁昭和62年9月30日判決は、株主優待乗車券の交付が利益供与に当たるとした事例です。その後の高松高裁平成2年4月11日判決は、株主優待乗車券の交付基準を超える交付について、利益供与禁止違反とは認めませんでしたが、代表取締役が超過交付の事実を知りながら是正措置をとらなかった点について、善管注意義務違反に基づく損害賠償責任を認めました。
この一連の裁判例は、「株主に経済的利益を与えたか」と「株主権行使に影響を与える趣旨があったか」を分けて検討する必要があることを示しています。また、仮に会社法120条違反とまではいえない場合でも、会社財産の不適切な流出を放置すれば、取締役の善管注意義務違反が問題になり得ます。
モリテックス事件|委任状争奪戦中のQUOカード
東京地裁平成19年12月6日判決(モリテックス事件・金融商事判例1281号37頁)は、委任状争奪戦が行われている状況で、議決権を行使した株主にQUOカードを提供したことが問題になった裁判例です。裁判所は、会社提案への賛成を求める文脈や議決権行使比率への影響などを踏まえ、会社法120条1項の利益供与に当たると判断し、株主総会決議の取消しを認めました。
通常時の株主総会のお土産や議決権行使促進策が常に違法になるわけではありません。しかし、会社と株主が対立している、株主提案が出ている、委任状勧誘が行われている、会社提案への賛成を強く求める文書と利益供与が結び付いている場合は、少額でもリスクが高くなります。
違反した場合の民事責任・刑事リスク
利益を受けた者の返還義務
会社法120条3項は、違法な利益供与を受けた者に対し、その利益を会社又は子会社に返還する義務を定めています。相手方が総会屋であるか、株主であるか、善意であったかにかかわらず、会社法上の返還義務が問題になります。
実務上は、返還請求をするか、どの範囲まで返還を求めるか、相手方が既に支払った対価との引換えをどう処理するか、社内調査・開示・刑事告訴をどう進めるかを検討します。
取締役等の連帯支払義務
会社法120条4項は、違法な利益供与に関与した取締役等に、供与した利益の価額に相当する額を会社に支払う義務を定めています。関与した取締役等は連帯して責任を負い、免除には総株主の同意が必要です。
取締役としては、「総会対応のためやむを得なかった」「会社を守るためだった」という説明だけでは足りません。支出の必要性、相当性、違法性の検討、代替手段、警察・弁護士への相談、取締役会での審議、反社対応方針を記録しておく必要があります。
株主総会決議取消し・会社訴訟への波及
利益供与が株主総会の議決権行使に影響した場合、その総会決議について、決議方法の法令違反として取消しが問題になることがあります。特に、役員選任、定款変更、組織再編、買収防衛策、第三者割当増資など、支配権や株主の利害に直結する議案では、利益供与の有無が総会決議の効力に大きく影響します。
会社側は、総会前に配布する資料、議決権行使促進策、株主向け説明、株主との面談記録を確認し、特定株主にだけ不自然な便益を与えていないかを点検してください。株主側は、利益供与が疑われる場合、招集通知、議決権行使書面、会社提案への賛成依頼文書、配布物、議決権行使状況を保存しておくことが重要です。
刑事罰・反社対応のリスク
会社法120条違反の利益供与は、民事上の返還義務・取締役責任だけでなく、会社法970条以下の刑事罰に発展することがあります。総会屋、反社会的勢力、威迫、会社財産の大規模流出が絡む場合は、会社法上の利益供与罪に加え、恐喝、背任、特別背任、暴力団排除条例、反社対応上の問題も検討対象になります。
刑事リスクがある事案では、通常の総会運営・株主対応として処理せず、危機管理案件として、証拠保全、関係者ヒアリング、取締役会報告、外部専門家の関与、警察相談、開示要否を整理します。
会社側の予防策・チェックリスト
利益供与リスクは、総会直前に発見してからでは対応が難しくなります。株主総会、株主対応、資本政策、株式買取り、持株会制度を設計する段階で、次の点を確認してください。
- 株主に提供する金銭・物品・サービスの目的を文書化する
- 議決権行使や株主提案の取下げと利益提供を結び付けない
- 特定株主だけを優遇する場合は、法的根拠と合理性を確認する
- 総会屋・反社・仕手筋対応では、金銭支払いで解決しない
- 株式買取りや和解では、価格評価と対価関係を明確にする
- 委任状争奪戦や株主提案がある総会では、粗品・商品券・お土産を慎重に扱う
- 従業員持株会・ESOPでは、福利厚生目的と議決権行使の独立性を制度規程に残す
- 取締役会・稟議・法務確認・反社チェックの記録を残す
- 違反が疑われる場合は、返還請求、役員責任、総会決議の効力、刑事リスクを同時に検討する
利益供与規制は、会社側の「善意の総会対策」や「実務上の慣行」でも問題になり得ます。特に、株主との対立が顕在化している場面では、平時なら許容されるように見える粗品・接待・便益提供でも、株主権行使との関係が強く疑われます。
よくある質問
株主総会のお土産はすべて禁止されますか?
すべて禁止されるわけではありません。社会通念上相当な範囲で、株主総会に出席した株主に一般的・公平に提供されるお土産は、直ちに会社法120条違反になるとは限りません。ただし、株主提案、委任状争奪戦、支配権争い、会社提案への賛成依頼がある場面では、少額でも株主権行使との関連が問題になり得ます。
議決権を行使した株主へのQUOカード配布は問題になりますか?
平時の議決権行使促進策として直ちに違法と断定されるわけではありませんが、対立型総会では慎重に判断すべきです。特に、会社提案への賛成依頼文書とセットで配布する場合や、議決権行使比率に影響を与える目的が強い場合は、会社法120条違反や総会決議取消しのリスクがあります。
株主からの請求を取り下げてもらう和解金は利益供与ですか?
和解金が常に違法な利益供与になるわけではありません。実際の紛争や損害、株式価値、請求内容に見合った合理的な和解であれば、権利行使に関する違法な利益供与とは区別されます。もっとも、実質が「議決権を行使しない」「訴えを提起しない」「総会で発言しない」ことの対価であり、金額や対価関係が不自然な場合は、会社法120条違反が問題になります。
従業員持株会への奨励金は利益供与ですか?
従業員持株会への奨励金は、福利厚生や長期的な従業員インセンティブとして合理的に設計され、議決権行使の独立性が確保されていれば、直ちに利益供与禁止に当たるとは限りません。ただし、特定議案への賛成を期待して奨励金を増額する、議決権行使方針と支給を結び付ける、会社側が持株会の議決権行使を実質的に支配する場合はリスクが高くなります。
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まとめ
株主総会等の利益供与は、総会屋対策だけでなく、株主総会のお土産、QUOカード、株主優待、株式買取り、同族会社の少数株主対応、従業員持株会でも問題になり得ます。会社法120条の判断では、会社又は子会社の計算で財産上の利益を供与したか、その利益が株主等の権利行使に関しているかを実質的に確認します。
違反すると、利益を受けた者の返還義務、取締役等の連帯支払義務、株主総会決議取消し、刑事罰リスクにつながります。会社側は、株主との対立がある場面ほど、利益提供の目的、対象者、金額、対価関係、承認手続、記録化を徹底し、総会屋・反社対応では金銭で解決せず、早期に専門家へ相談することが重要です。
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