種類株式に関する論点(会社法108条)

 

会社法108条は種類株式発行会社が発行できる株式の内容を定めています。このうち、実務上とくに重要なのが議決権制限株式です。議決権制限株式を中心に、剰余金の配当、残余財産の分配に関する優先権を付与する等、いくつかの種類を組み合わせて種類株式が作られることが実務上多いと思われます。

ここでは、種類株式の内容の変更手続、議決権制限株式の内容として論点になる点、上場会社における種類株式の利用について解説いたします。

1. 種類株式の内容変更について

種類株式の内容を変更する場合、当該種類株式全部の内容を変更するケースと、特定の種類株式の一部だけを変更するケースがあります。

(1)          特定の種類株式全部の内容を変更するケース

種類株式の内容を変更するためには、定款変更を行う必要があるので株主総会の特別決議が必要となります。ちなみに、定款で要綱のみを定めている場合、要綱の範囲内で細則を変更するときでも定款変更の手続が必要と解されます。

さらに、特定の種類株式の内容が当該種類株主に不利に変更される場合(譲渡制限が付されたり、取得条項を付される場合等)は会社法111条等によって当該種類株主の同意が必要となります。重要な点を整理すると以下のとおりです。

①取得条項を付す場合 当該種類株主全員の同意(会社法11条1項)

②譲渡制限を付す場合 当該種類株主総会の特殊決議(会社法111条2項1号、会社法324条3項)

③全部取得条項を付す場合 当該種類株主総会の特別決議(会社法111条2項1号、会社法324条2項1号)

また、他の種類株主に損害が及ぼすおそれがある場合は、当該種類株主総会の特別決議が必要となります(会社法322条1項、会社法324条2項4号)。「損害を及ぼすおそれ」は、具体的な損害が生じることまでは必要ではなく、抽象的な権利として変更前より不利益になる場合を言うと解されているので、多くの事案では他の種類株主総会の特別決議が必要となります。例えば、取得条項を付す場合でも、他の種類株主は取得の対価次第で損害が生じ得るため、他の種類株主総会の特別決議が必要になると考えられます。

(2)          特定の種類株式の一部を変更するケース

例えば、普通株式のみを発行している会社が、発行済株式の一部を無議決権株式に変更する場合を考えてみます。

例えば、特定の株主が業種の規制や連結を外す目的で議決権割合を引き下げたい場合、普通株式を会社に自己株取得して貰い、同時に無議決権株式の発行を引き受けることも考えられます。しかし、自己株取得を行うと株主が課税されたり、また新たに無議決権株式を発行すると資本金の増加が生じるため、普通株式の自己株取得+無議決権株式の新規発行ではなく普通株式の一部を無議決権株式に変更するニーズがあるのです。

特定の種類株式の一部を他の種類株式にする場合、新たな種類株式の定めを設ける必要があれば定款変更が必要となります。

そして、特定の種類株式の一部を変更するケースについて会社法上は明文の規定はありませんが、登記実務上、(i)株式の内容を変更される株主と会社の合意、(ii)同一種類に属する他の株主全員の同意、(iii)損害を及ぼすおそれのあるその他種類株主総会の特別決議が必要であると解されています(松井信憲著商業登記ハンドブック(第3版)249頁)。

特定の種類株式の一部を変更する場合、発行済株式数の登記内容が変更されるため登記申請が必要となります。そのため、登記実務の取扱いを尊重して、上記要件を満たす必要があると実務上は考えるのです。

2. 議決権制限株式に関する論点

(1)          定められる内容

議決権制限株式の内容として、(i)株主総会決議事項の一切につき議決権がない(完全無議決権株式)や、(ii)一定の事項についてのみ議決権を有するものとすることを定めることができます。

他方で、1株に複数議決権を付与したり(但し、種類ごとに異なる単元株式数を定めることで実質的にこれを実現することは可能です。)、一定以上の株式を有する株主の議決権に上限を設けることはできないと解されています(江頭憲治郎「株式会社法(第7版)」146頁)。買収防衛策のために一定以上の株式を有する株主の議決権を制限するニーズがありますが(葉玉匡美「新会社法の特別解説 議決権制限株式を利用した買収防衛策」商事法務1742号300頁)、立法で新たに定められない限り実務上は導入が困難なように思われます。

また、一定の条件を満たすと議決権の制約がなくなる議決権復活条項を定めることも認められると解されます。例えば、株式会社伊藤園では、過去2年間において配当がなされなかったときは議決権が復活する旨の条項が定められているようです(太田洋・松尾拓也著「種類株式ハンドブック」18~21頁)。

(2)          少数株主権の行使

議決権制限株式は、少数株主権(総会招集権、株主提案権等)の行使に関しても、その株式が議決権を行使できる事項についてのみ少数株主権の行使が認められます。

(3)          議決権制限株式の上限数

公開会社においては、議決権制限株式の数が発行済株式総数の1/2を超えるに至ったときは、これを解消するために必要な措置を取る必要があります(会社法115条)。公開会社については経営者が少額の出資で会社を支配することを予防するためです。従って、実務上は公開会社の議決権制限株式は発行済株式総数の1/2と考えておくことになります。

もっとも、議決権制限株式が発行済株式総数の1/2を超えた場合でも、当該超過を生じた行為が無効になるのではなく、会社にこれを解消するべき義務が生じるにとどまります。

3. 上場会社における種類株式の注意点

上場会社が種類株式を利用する場合に、実務上とくに重要と考えられる注意点をいくつか取り上げます。

(1)          新規上場時の規制

新規上場時には、普通株式の身を上場させること、議決権制限株式のみを上場させること、普通株式と議決権制限株式の両方を上場させること等が認められています。

他方で、複数の議決権制限株式を発行している場合に、議決権の少ない株式と議決権の多い株式のうち、議決権の少ない株式のみを上場させることはできますが、両方を上場させることはできないとされています。

さらに、東京証券取引所の実質審査基準において、極めて小さい出資割合で会社を支配できる状況が生じた場合に議決権制限株式のスキームを解消できる見込みがあること等の一定の条件が定められています。

(2)          大量保有報告制度との関係

大量保有報告制度との関係では、まず完全無議決権株式でも発行済みであれば保有株式の割合を算定する場合の分母に加算されることに注意が必要です(自己株式も同じ)。

他方で、保有株式の割合を算定する場合に、議決権株式を対価とする取得条項又は取得請求権が付されていない完全無議決権株式は対象外となります。

(3)          上場無議決権株式の意義と評価

無議決権株式を用いて資金調達を行うことの意義は、既存株主にとって議決権の希薄化が生じないことや、優先配当権が付されている場合は高額の配当を好む投資家に歓迎されやすいことが挙げられます。

しかし、平成19年9月3日に上場された伊藤園優先株式においては、議決権制限株式は普通株式に比べて大きくディスカウントされた価格で取引がされており、市場の評価は高くないと言えそうです。この点に関しては、(i)伊藤園優先株式の時価総額が小さく、また機関投資家の運用対象でないため、流動性が低下していること、(ii)投資家が内容が良く分からないため「あいまい性回避行動」をとった可能性があること等が指摘されているようです(太田洋・松尾拓也著「種類株式ハンドブック」294~295頁)

会社法108条
(異なる種類の株式)
第百八条 株式会社は、次に掲げる事項について異なる定めをした内容の異なる二以上の種類の株式を発行することができる。ただし、指名委員会等設置会社及び公開会社は、第九号に掲げる事項についての定めがある種類の株式を発行することができない。
一 剰余金の配当
二 残余財産の分配
三 株主総会において議決権を行使することができる事項
四 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること。
五 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること。
六 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること。
七 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること。
八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社(第四百七十八条第八項に規定する清算人会設置会社をいう。以下この条において同じ。)にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの
九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役又はそれ以外の取締役。次項第九号及び第百十二条第一項において同じ。)又は監査役を選任すること。
2 株式会社は、次の各号に掲げる事項について内容の異なる二以上の種類の株式を発行する場合には、当該各号に定める事項及び発行可能種類株式総数を定款で定めなければならない。
一 剰余金の配当 当該種類の株主に交付する配当財産の価額の決定の方法、剰余金の配当をする条件その他剰余金の配当に関する取扱いの内容
二 残余財産の分配 当該種類の株主に交付する残余財産の価額の決定の方法、当該残余財産の種類その他残余財産の分配に関する取扱いの内容
三 株主総会において議決権を行使することができる事項 次に掲げる事項
イ 株主総会において議決権を行使することができる事項
ロ 当該種類の株式につき議決権の行使の条件を定めるときは、その条件
四 譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式会社の承認を要すること 当該種類の株式についての前条第二項第一号に定める事項
五 当該種類の株式について、株主が当該株式会社に対してその取得を請求することができること 次に掲げる事項
イ 当該種類の株式についての前条第二項第二号に定める事項
ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
六 当該種類の株式について、当該株式会社が一定の事由が生じたことを条件としてこれを取得することができること 次に掲げる事項
イ 当該種類の株式についての前条第二項第三号に定める事項
ロ 当該種類の株式一株を取得するのと引換えに当該株主に対して当該株式会社の他の株式を交付するときは、当該他の株式の種類及び種類ごとの数又はその算定方法
七 当該種類の株式について、当該株式会社が株主総会の決議によってその全部を取得すること 次に掲げる事項
イ 第百七十一条第一項第一号に規定する取得対価の価額の決定の方法
ロ 当該株主総会の決議をすることができるか否かについての条件を定めるときは、その条件
八 株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするもの 次に掲げる事項
イ 当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項
ロ 当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは、その条件
九 当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること 次に掲げる事項
イ 当該種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任すること及び選任する取締役又は監査役の数
ロ イの定めにより選任することができる取締役又は監査役の全部又は一部を他の種類株主と共同して選任することとするときは、当該他の種類株主の有する株式の種類及び共同して選任する取締役又は監査役の数
ハ イ又はロに掲げる事項を変更する条件があるときは、その条件及びその条件が成就した場合における変更後のイ又はロに掲げる事項
ニ イからハまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項
3 前項の規定にかかわらず、同項各号に定める事項(剰余金の配当について内容の異なる種類の種類株主が配当を受けることができる額その他法務省令で定める事項に限る。)の全部又は一部については、当該種類の株式を初めて発行する時までに、株主総会(取締役会設置会社にあっては株主総会又は取締役会、清算人会設置会社にあっては株主総会又は清算人会)の決議によって定める旨を定款で定めることができる。この場合においては、その内容の要綱を定款で定めなければならない。

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