設立時取締役とは、株式会社の設立に際して取締役となる者をいいます。監査役を置く会社では、設立時監査役も選任します。会社設立では、定款、払込み、本店所在地、資本金だけでなく、誰が設立時取締役・監査役になるのかを、手続と登記書類の両面から整える必要があります。
特に実務では、「定款で役員を定めるのか」「発起人の決定で選ぶのか」「就任承諾書を別紙で作るのか」「印鑑証明書や本人確認証明書は誰の分が必要か」「欠格事由や兼任制限はないか」が問題になります。ここを曖昧にすると、設立登記の補正、役員構成のやり直し、代表取締役の選定漏れにつながります。
- 設立時取締役は、会社成立前の設立手続中に選任され、会社成立と同時に取締役となる予定者です。
- 発起設立では、定款で定める方法又は出資履行後の発起人決定で選任するのが基本です。
- 取締役会設置会社では、設立時取締役は3人以上必要です。
- 監査役を置く設計では、設立時監査役の選任、就任承諾、本人確認証明も忘れずに確認します。
- 代表取締役の選定、設立時取締役等の調査、設立登記書類は、設立時役員の選任とセットで整理します。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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設立時取締役・監査役とは
設立時取締役は、株式会社の設立に際して取締役となる者です。会社法では、発起人は、出資の履行が完了した後、遅滞なく設立時取締役を選任しなければならないとされています。もっとも、定款で設立時取締役として定められた者は、出資の履行が完了した時に選任されたものとみなされます。
監査役設置会社、会計参与設置会社、会計監査人設置会社などにする場合には、設立時監査役、設立時会計参与、設立時会計監査人も問題になります。中小企業の設立では、まず取締役だけのシンプルな会社にするのか、取締役会や監査役を置く会社にするのかを決め、その機関設計に合わせて設立時役員を選任します。
条文上の詳細は、会社法38条〜45条の逐条解説でも整理しています。最新の条文そのものを確認する場合は、e-Gov法令検索の会社法を参照してください。
設立時取締役は、会社成立前の設立手続中に選任される地位です。会社成立後は、通常の取締役として任期、権限、責任の問題が生じます。設立時の手続と、成立後の役員運営を混同しないことが重要です。
まず決めるべき機関設計
設立時取締役・監査役の選任方法を考える前に、会社の機関設計を決める必要があります。株式会社には一人又は二人以上の取締役を置かなければならず、定款の定めによって取締役会、会計参与、監査役、監査役会、会計監査人などを置くことができます。
小規模な非公開会社では、取締役1名の会社として設立することも可能です。他方で、取締役会設置会社にする場合は、設立時取締役が3人以上必要になり、原則として監査役を置く必要も出てきます。上場準備、外部投資家、金融機関対応、ガバナンス強化などの目的がある場合を除き、設立時から取締役会設置会社にする必要があるかは慎重に検討します。
| 設計 | 設立時役員の基本 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 取締役会を置かない会社 | 設立時取締役1名から可能 | 小規模会社で多い形です。代表者を1名にする場合でも、代表取締役の選定方法を確認します。 |
| 取締役会設置会社 | 設立時取締役3名以上 | 代表取締役の選定、議事録、印鑑証明、監査役の要否をセットで確認します。 |
| 監査役設置会社 | 設立時監査役を選任 | 監査役の就任承諾、本人確認証明、兼任禁止を確認します。 |
| 監査役会設置会社 | 設立時監査役3名以上 | 中小会社の通常設立では少数です。社外監査役や会計監査人との関係も確認します。 |
| 監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社 | 制度に応じた設立時役員等を選任 | 上場会社・大規模会社向けの設計が中心です。設立時から採用する場合は専門的な設計が必要です。 |
取締役会等の設置義務や機関設計の詳細は、会社法327条の解説で確認できます。
発起設立における設立時取締役・監査役の選任方法
発起設立では、発起人が会社の設立を進めます。設立時取締役・監査役の選任方法は、大きく分けると、定款で定める方法と、出資履行後に発起人が決定する方法があります。
定款で設立時役員を定める方法
定款に設立時取締役、設立時監査役等を記載しておく方法です。この場合、出資の履行が完了した時に、定款で定められた者が設立時役員等に選任されたものとみなされます。
定款に氏名を記載する方法は、役員構成が最初から固まっている小規模会社で使いやすい方法です。ただし、定款の内容、就任承諾、印鑑証明、本人確認証明、代表取締役の選定との整合性を取る必要があります。定款で役員を定めたからといって、登記添付書類の確認が不要になるわけではありません。
出資履行後に発起人が決定する方法
定款で設立時役員を定めない場合は、発起人が出資の履行を終えた後、遅滞なく設立時役員等を選任します。この選任は、発起人の議決権の過半数で決定します。ここでいう議決権は、原則として、出資の履行をした設立時発行株式1株につき1個です。
実務上は、設立時取締役選任決議書、発起人決定書、発起人会議事録などの形で、誰を設立時取締役・監査役に選任したかを記録します。書式名そのものよりも、選任した者、選任日、決議主体、出席者又は同意者、就任承諾の記載、住所・氏名の記載が整っているかが重要です。
発起人が複数いる場合、「人数の過半数」と「議決権の過半数」は一致しないことがあります。設立時発行株式の引受数が異なる場合は、発起人ごとの議決権を確認してから決定書を作成します。
募集設立では創立総会で選任する
募集設立では、発起人以外にも設立時募集株式を引き受ける者が関与します。そのため、設立時取締役、設立時監査役等の選任は、原則として創立総会の決議によって行います。
募集設立は、発起設立に比べて手続が重く、創立総会の招集、議決権、議事録、設立に関する事項の報告なども問題になります。通常の中小会社設立では発起設立が多いものの、外部投資家を設立段階から入れる場合などには、募集設立の手続全体を見て設立時役員の選任を設計する必要があります。
募集設立の全体像は、募集設立の実務フロー、創立総会の手続は創立総会の手続で詳しく整理しています。
就任承諾書・印鑑証明・本人確認証明書の準備
設立時取締役・監査役を選任したら、登記申請に向けて就任承諾書、印鑑証明書、本人確認証明書を準備します。法務局の株式会社設立登記の記載例では、設立時取締役、設立時代表取締役及び設立時監査役の就任承諾書、印鑑証明書、本人確認証明書が添付書類として整理されています。
具体的な書式や必要書類は、取締役会設置会社かどうか、代表取締役をどのように選定するか、就任承諾を決議書の記載で援用できるかによって変わります。法務局の記載例も確認しながら、設立時役員ごとに必要書類を整理します。参考資料として、法務局の株式会社設立登記申請書の記載例があります。
| 書類 | 確認する人 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 就任承諾書 | 設立時取締役、設立時代表取締役、設立時監査役など | 別紙で作る方法のほか、決議書の中で就任承諾を明記し、登記申請で援用できる場合があります。 |
| 印鑑証明書 | 代表取締役又は取締役など、会社設計により異なる | 取締役会設置会社かどうかで扱いが変わります。就任承諾書に押した印鑑との一致を確認します。 |
| 本人確認証明書 | 印鑑証明書を添付しない設立時取締役・監査役など | 住民票記載事項証明書、運転免許証コピーなどが使われます。コピーの場合は原本相違ない旨の記載等を確認します。 |
| 設立時代表取締役の選定書面 | 代表取締役を選定する場合 | 取締役会設置会社では特に重要です。詳しくは設立時代表取締役の記事で整理します。 |
| 調査報告書 | 設立時取締役・監査役 | 変態設立事項がある場合などに問題になります。調査の範囲は設立時取締役等による調査の記事で確認します。 |
設立時取締役等が選任の場で就任を承諾し、その旨、住所、氏名等が決議書に記載されている場合には、別途の就任承諾書を省略できることがあります。ただし、役員の属性、押印、印鑑証明、本人確認証明との関係で要件が変わるため、書式だけを流用せず、登記申請の記載例と照合することが重要です。
印鑑証明書を添付する役員と、本人確認証明書を添付する役員は、会社設計や申請類型によって分かれます。「全員に同じ書類を付ければよい」と考えるのではなく、誰の就任承諾書にどの印鑑を押し、どの証明書で確認するかを表にして管理します。
欠格事由・兼任制限・任期の確認
設立時取締役・監査役に選ぶ人については、欠格事由、兼任制限、任期を確認します。会社法39条は、一定の規定により成立後の取締役、会計参与、監査役、会計監査人となることができない者は、設立時役員等となることができないとしています。
取締役の欠格事由
取締役については、会社法331条が資格等を定めています。典型的には、法人は取締役になることができません。また、一定の法令違反により刑に処せられ、一定期間を経過していない者なども問題になります。
成年被後見人・被保佐人については、現在の会社法では、単純に「当然に役員になれない」とだけ処理するのではなく、就任承諾の方法や同意の要否を確認する必要があります。欠格事由や就任承諾に不安がある場合は、候補者選定の段階で確認します。詳しくは会社法331条の解説を参照してください。
監査役の兼任制限
監査役については、取締役の資格に関する規定が準用されるほか、会社又は子会社の取締役、支配人その他の使用人等との兼任が制限されます。監査役は取締役の業務執行を監査する立場にあるため、同じ会社の取締役を兼ねることはできません。
家族経営や小規模会社では、「取締役の配偶者を監査役にする」「従業員を監査役にする」といった案が出ることがあります。しかし、監査役の独立性や兼任制限、実際に監査できる体制を考えると、名義だけの監査役設置は避けるべきです。監査役の資格・任期は、会社法335条・336条の解説で整理しています。
設立後の任期
設立時取締役・監査役は、会社成立後、それぞれ取締役・監査役としての任期に服します。非公開会社では、定款により取締役や監査役の任期を伸長できる場合がありますが、長期任期にすると、役員変更の機会が減る一方で、途中交代時の管理や株主間トラブルへの対応が難しくなることもあります。
設立時の役員選任だけでなく、成立後の重任登記、任期満了、辞任、解任まで見据えておくと安全です。成立後の取締役選任・任期・就任手続は、取締役の選任・任期・就任手続で詳しく解説しています。
設立時取締役等が行う主な役割
設立時取締役・監査役は、単に登記簿に載る予定者ではありません。設立時取締役等には、会社設立手続が法令・定款に従って進んでいるかを確認する役割があります。
発起設立では、設立時取締役及び設立時監査役は、その選任後遅滞なく、現物出資財産等の価額の相当性、出資の履行、設立手続の適法性などを調査します。募集設立でも、設立時取締役等による調査や創立総会への報告が問題になります。
- 現物出資・財産引受けがある場合は、価額や手続の相当性を確認します。
- 金銭出資がある場合は、払込みが完了しているかを確認します。
- 定款、発起人決定、選任書面、就任承諾書、登記事項に矛盾がないかを確認します。
- 取締役会設置会社では、設立時代表取締役の選定にも関与します。
- 不備を発見した場合は、登記申請前に是正できるかを検討します。
調査義務の詳細は、設立時取締役等による調査及び会社法46条の解説で整理しています。
設立時代表取締役の選定との違い
設立時取締役の選任と、設立時代表取締役の選定は別の手続です。まず設立時取締役を選び、その中から代表取締役を選定する、という順序で考えると整理しやすくなります。
取締役会を置かない会社では、各取締役が会社を代表するのが原則ですが、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、発起人の決定などにより代表取締役を定める場合があります。取締役会設置会社では、設立時取締役の中から設立時代表取締役を選定する必要があります。
代表取締役の選定方法、選定決議書、代表取締役の就任承諾、印鑑届出との関係は、設立時代表取締役の選定で詳しく解説しています。
取締役1名の会社ではシンプルですが、取締役が複数いる会社では、誰が会社を代表するのかを定款・決定書・登記書類で明確にする必要があります。設立時取締役の選任書類と設立時代表取締役の選定書類を別々に確認します。
設立時取締役・監査役の選任でよくある失敗
取締役会設置会社なのに取締役が3名未満
取締役会設置会社では、設立時取締役が3人以上必要です。取締役1名又は2名で足りる会社と、取締役会設置会社を混同すると、定款や登記書類を作り直すことになります。
監査役を置く必要があるのに選任していない
取締役会設置会社や会計監査人設置会社では、監査役等の設置義務が問題になります。監査役を置く設計であれば、設立時監査役の選任、就任承諾、本人確認証明書も忘れずに準備します。
就任承諾書の日付・住所・氏名が決議書とずれる
就任承諾書、設立時取締役選任決議書、定款、登記事項で、役員の住所・氏名・日付が一致していないと、補正の原因になります。旧字体、住所表記、マンション名、番地の表記ゆれにも注意します。
欠格事由や兼任制限を候補者本人に確認していない
候補者の氏名だけを聞いて書類を作ると、欠格事由、兼任制限、就任承諾の有効性を見落とすことがあります。特に監査役は、取締役や従業員との兼任関係を確認します。
設立時取締役の調査を形式的に済ませている
現物出資、財産引受け、払込証明、定款記載事項に不備がある場合、設立時取締役等の調査で確認すべき事項が増えます。単に「調査報告書を作る」だけでなく、実際に何を確認したのかを残すことが重要です。
選任手続のチェックリスト
設立時取締役・監査役を選任するときは、次の順に確認すると、書類漏れや補正を減らせます。
- 取締役会を置くか、監査役を置くかなど機関設計を決める。
- 設立時取締役・監査役の候補者を決め、欠格事由・兼任制限を確認する。
- 定款で定めるか、出資履行後に発起人決定で選任するかを決める。
- 発起人ごとの議決権を確認し、選任決議書又は決定書を作成する。
- 就任承諾書を別紙で作るか、決議書で援用するかを決める。
- 印鑑証明書・本人確認証明書が誰の分必要かを確認する。
- 設立時代表取締役の選定書面が必要かを確認する。
- 払込証明、資本金計上証明、調査報告書など他の設立書類と日付・内容をそろえる。
設立全体の流れと必要書類をまとめて確認したい場合は、株式会社設立の流れを参照してください。
設立時取締役・監査役に関するよくある質問
設立時取締役は発起人でなければなりませんか?
発起人でない人を設立時取締役に選任することも可能です。ただし、その人の就任承諾書、本人確認証明書、印鑑証明書の要否などを確認する必要があります。
取締役1名だけで株式会社を設立できますか?
取締役会を置かない非公開会社であれば、取締役1名の株式会社として設立することができます。もっとも、複数株主がいる場合や共同創業の場合は、代表権、意思決定、株主間契約、将来の役員追加まで見据えて設計します。
監査役は必ず置かなければなりませんか?
すべての株式会社で監査役が必須というわけではありません。ただし、取締役会設置会社や会計監査人設置会社など、会社の機関設計によって監査役等が必要になる場合があります。設立時に取締役会を置くかどうかとセットで判断します。
就任承諾書は必ず別紙で作る必要がありますか?
常に別紙が必要とは限りません。選任決議書や選定決議書に、被選任者が席上で就任を承諾した旨、住所、氏名等が適切に記載され、登記実務上援用できる場合には、別紙の就任承諾書を省略できることがあります。ただし、要件を満たさない場合は別紙で作成します。
欠格事由は誰が確認すべきですか?
実務上は、発起人、設立事務を進める担当者、専門家が、候補者本人から必要事項を確認します。候補者本人の申告に依存する部分もあるため、就任承諾の前に、法人ではないこと、一定の法令上の欠格事由に該当しないこと、監査役の兼任制限に触れないことを確認します。
設立時取締役の任期はいつから数えますか?
設立時取締役は、会社成立と同時に取締役となります。成立後の取締役としての任期は、会社法上の取締役任期と定款の定めに従って管理します。設立時に任期を長く設定する場合は、重任登記の時期や役員交代のしやすさも考慮します。
募集設立でも発起人が設立時取締役を選びますか?
募集設立では、設立時取締役等の選任は原則として創立総会の決議によって行います。発起設立と同じ感覚で発起人だけが決定すると、手続がずれるため注意が必要です。
まとめ
設立時取締役・監査役の選任は、会社設立手続の中でも、定款、払込み、代表取締役の選定、設立登記書類と密接に関係する重要な工程です。
- まず取締役会や監査役を置くかという機関設計を決める。
- 発起設立では、定款指定又は出資履行後の発起人決定で設立時役員を選任する。
- 募集設立では、原則として創立総会で設立時取締役等を選任する。
- 就任承諾書、印鑑証明書、本人確認証明書は会社設計ごとに要否を確認する。
- 欠格事由、兼任制限、任期、設立時取締役等による調査まで含めて整理する。
設立時役員の選任で不備があると、設立登記の補正だけでなく、代表権や設立手続の有効性にも影響することがあります。役員候補者が決まった段階で、定款・発起人決定書・就任承諾書・印鑑証明・本人確認証明をまとめて確認することが重要です。
坂尾陽弁護士
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