会社法51条は、設立時発行株式の引受けについて、発起人が後から「意思表示が無効だった」「錯誤・詐欺・強迫で取り消す」と主張できる範囲を制限する条文です。設立時発行株式の引受けは、株式会社の成立、資本金、株主構成、登記後の取引関係に直結します。そのため、会社法は、民法上の意思表示ルールをそのまま適用すると会社成立後の法律関係が不安定になる場面について、特別の制限を置いています。
実務では、発起人の引受意思に疑義がある場合は、設立登記前に発見して手続を組み直すことが重要です。会社成立後は、会社法51条により、錯誤・詐欺・強迫を理由とする引受けの取消しはできません。救済が問題になる場合でも、株式引受けの取消しではなく、損害賠償、発起人間の精算、株式譲渡、発起人等の責任など、別の法律構成で整理する必要があります。
- 会社法51条1項は、民法93条1項ただし書・94条1項を設立時発行株式の引受け意思表示に適用しないと定める
- 会社法51条2項は、発起人が会社成立後に、錯誤・詐欺・強迫を理由として引受けを取り消すことを制限する
- 制度趣旨は、会社成立後の株主構成・資本金・取引関係を安定させることにある
- 引受け意思に問題がある場合は、設立登記前に発見し、発起人・定款・払込関係を整理し直す
- 払込仮装、価額不足、発起人等の責任、募集設立の引受人は、別条文と合わせて確認する
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法51条の位置づけ
会社法51条は、会社法49条・50条と同じ「株式会社の成立」の節に置かれています。会社法49条は株式会社が設立登記によって成立することを定め、会社法50条は発起人が会社成立時に株主となることを定めています。会社法51条は、その前提となる設立時発行株式の引受けについて、無効又は取消しの主張を制限します。
会社成立時期と発起人が株主となる時期は、会社法49条・50条の解説で整理しています。会社法51条は、成立後に発起人が「そもそも引き受けていない」「錯誤だった」「詐欺・強迫で取り消す」と主張することにより、成立後の会社関係が揺らぐことを防ぐ役割を持ちます。
| 条文 | テーマ | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 会社法49条 | 株式会社の成立 | 本店所在地で設立登記をすることにより株式会社が成立する |
| 会社法50条 | 株式の引受人の権利 | 発起人は会社成立時に、出資履行済みの設立時発行株式の株主となる |
| 会社法51条1項 | 無効主張の制限 | 心裡留保・虚偽表示に関する民法規定の一部を適用しない |
| 会社法51条2項 | 取消しの制限 | 会社成立後は、錯誤・詐欺・強迫を理由とする引受けの取消しができない |
| 会社法52条以下 | 発起人等の責任 | 価額不足、払込仮装、損害賠償、連帯責任などを処理する |
会社法51条は、発起人の引受け意思表示の安定に関する条文です。出資の履行そのもの、払込証明、現物出資の価額不足、仮装払込み、設立無効の訴え、発起人等の損害賠償責任を直接処理する条文ではありません。これらは、会社法34条〜37条、52条以下、828条以下などと分けて検討します。
条文の確認
会社法51条の最新条文は、e-Gov法令検索の会社法で確認してください。条文自体は短いものの、民法の意思表示規定と会社設立の安定をつなぐ重要な規定です。
第五十一条 民法(明治二十九年法律第八十九号)第九十三条第一項ただし書及び第九十四条第一項の規定は、設立時発行株式の引受けに係る意思表示については、適用しない。
2 発起人は、株式会社の成立後は、錯誤、詐欺又は強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない。
| 項 | 条文の要点 | 実務で見るポイント |
|---|---|---|
| 1項 | 民法93条1項ただし書と94条1項を適用しない | 心裡留保・虚偽表示を理由に、設立時発行株式の引受けを無効とする主張が制限される |
| 2項 | 会社成立後の錯誤・詐欺・強迫による取消しを制限する | 発起人は、会社成立後は、これらを理由に設立時発行株式の引受けを取り消せない |
会社法51条1項は「無効」の問題、2項は「取消し」の問題を扱います。いずれも、会社成立後に株主構成や資本金の前提が崩れることを防ぐための規定です。ただし、会社法51条だけで、払込仮装、価額不足、発起人間の不正、第三者に対する責任まで解決されるわけではありません。
会社法51条1項|心裡留保・虚偽表示による無効主張の制限
会社法51条1項は、設立時発行株式の引受けに係る意思表示について、民法93条1項ただし書と民法94条1項を適用しないと定めています。これは、発起人が内心では引き受ける意思がなかった、あるいは名義上だけ引き受ける形を作ったという事情を理由に、会社成立後の株式引受けの効力を簡単に崩さないための規定です。
民法93条1項ただし書が適用されない意味
民法93条は、いわゆる心裡留保に関する規定です。通常、表意者が真意でないことを知って意思表示をした場合でも、その意思表示は有効です。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、一定の場合に意思表示が無効となります。
会社法51条1項は、この民法93条1項ただし書を、設立時発行株式の引受けに係る意思表示には適用しないと定めています。したがって、発起人が後から「本当は引き受ける意思がなかった」「周囲もそれを知っていた」と主張して、設立時発行株式の引受けを無効にすることは制限されます。
民法94条1項が適用されない意味
民法94条1項は、相手方と通じてした虚偽の意思表示を無効とする規定です。通常の契約であれば、当事者間で仮装の表示をした場合、その意思表示は無効とされます。
しかし、会社法51条1項により、設立時発行株式の引受けに係る意思表示については、民法94条1項も適用されません。これは、会社成立後に「形式上の引受けにすぎなかった」「通謀して名義だけを作った」として引受けの効力を崩すと、成立した会社の株主構成、資本金、債権者保護、取引安全に重大な影響を与えるためです。
名義貸しや仮装払込みが安全になるわけではない
会社法51条1項は、心裡留保や虚偽表示による無効主張を制限する条文です。しかし、だからといって、名義貸しや仮装払込みが安全になるわけではありません。実際の出資者と名義人がずれている場合は、誰が実質上の引受人か、株主名簿をどう記載するか、税務・相続・許認可上どのように説明するかが問題になります。
また、払込みや現物出資の給付を仮装した場合は、会社法52条の2の責任や株主権行使制限が問題になります。会社法51条は、仮装した出資の履行を有効な払込みとして扱う条文ではありません。出資の履行と仮装払込みは、会社法34条〜37条の解説、会社法52条の2の解説で確認してください。
会社法51条1項は、発起人が無効を主張しにくくなる規定です。名義貸しや仮装払込みを正当化する規定ではありません。設立時から名義と実態がずれていると、成立後の株主権確認、株主名簿、税務、相続、許認可、金融機関説明で紛争化しやすくなります。
会社法51条2項|会社成立後の錯誤・詐欺・強迫による取消しの制限
会社法51条2項は、発起人は、株式会社の成立後は、錯誤、詐欺又は強迫を理由として、設立時発行株式の引受けを取り消すことができないと定めています。会社成立後に、発起人が引受けを取り消せるとすると、その発起人が株主でなかったことになり、株主構成、資本金、機関設計、登記後の法律関係が不安定になります。
錯誤による取消しが制限される
民法上、重要な錯誤がある場合には意思表示を取り消すことができる場面があります。しかし、会社法51条2項により、発起人は、会社成立後には、錯誤を理由として設立時発行株式の引受けを取り消すことができません。
例えば、発起人が事業計画、他の発起人の出資予定、役員構成、資金繰りの前提を誤解して設立時発行株式を引き受けた場合でも、会社成立後に、その錯誤を理由として引受けそのものを取り消すことはできません。救済を検討する場合は、詐欺的説明をした者への損害賠償、発起人間の合意違反、株主間契約、株式譲渡など、別の構成を検討します。
詐欺・強迫による取消しも制限される
民法上、詐欺又は強迫による意思表示は取り消すことができるのが原則です。しかし、会社法51条2項は、会社成立後の設立時発行株式の引受けについて、詐欺又は強迫を理由とする取消しも制限しています。
これは、発起人を保護しない趣旨ではありません。会社成立後に引受けの取消しを認めると、会社の成立とその後の法律関係を遡って不安定にするため、引受けの効力自体は維持しつつ、詐欺・強迫に関与した者に対する損害賠償、発起人等の責任、刑事・行政上の問題、株式の処分などで調整することが想定されます。
制限されるのは会社成立後である
会社法51条2項が明示しているのは「株式会社の成立後」です。したがって、設立登記前に引受意思表示の問題が発覚した場合には、そのまま登記まで進めるのではなく、設立手続を止め、発起人、引受株式数、定款、払込関係、役員選任などを整理し直すべきです。
もっとも、成立前であれば常に自由に取消し処理をしてよい、という単純な問題ではありません。すでに定款認証、払込み、役員選任、検査役調査、登記準備が進んでいる場合は、どの手続をやり直す必要があるかを確認する必要があります。会社成立前の段階で問題を放置すると、成立後は会社法51条2項により取消しができなくなり、紛争解決が難しくなります。
会社法51条の制度趣旨|会社成立後の法律関係を安定させる
設立時発行株式の引受けは、単なる二者間契約とは異なります。引受けは、定款、資本金、株主構成、設立時役員、設立登記、会社成立後の取引関係と結びついています。発起人の一人が後から引受けの無効・取消しを主張すると、その影響は当事者間にとどまりません。
資本金と株主構成への影響を防ぐ
発起人が会社成立後に引受けを無効又は取消しにできると、会社成立時の株主数、議決権割合、資本金、資本準備金、設立時役員の選任関係が崩れる可能性があります。これは、会社内部の意思決定だけでなく、銀行、取引先、許認可行政、債権者にも影響します。
会社法51条は、このような事後的な不安定化を避けるために、民法上の意思表示の無効・取消しルールを、会社設立場面では一定範囲で修正しています。
発起人を保護する手段は別に検討する
会社法51条により引受けの取消しができない場合でも、発起人に救済が一切ないわけではありません。たとえば、他の発起人や第三者が虚偽説明をした場合には、不法行為、契約上の責任、発起人間の合意違反、発起人等の損害賠償責任などが問題になり得ます。
ただし、これらの救済は「設立時発行株式の引受けを取り消して、最初から株主でなかったことにする」ものではありません。会社成立後は、株式の保有関係を前提に、損害賠償や株式譲渡などの手段で調整するのが基本です。発起人等の責任全体は、発起人等の責任(会社法52条〜56条・103条)で整理しています。
引受けに問題が見つかった場合の実務対応
会社法51条は、設立後に問題を処理するための条文ではなく、設立前に問題を発見して手続を整えることの重要性を示す条文でもあります。発起人の意思、出資、株主構成に疑義がある場合は、設立登記前後で対応が大きく変わります。
設立登記前に見つかった場合
設立登記前であれば、まず登記申請を止め、どの段階まで設立手続が進んでいるかを確認します。定款作成前、定款認証後、払込み後、設立時取締役等の調査後では、必要なやり直しの範囲が異なります。
| 発見時期 | 主な確認事項 | 実務対応の方向性 |
|---|---|---|
| 定款作成前 | 発起人、引受株式数、出資額、役員構成 | 発起人間で設計を再確認し、定款案を作り直す |
| 定款認証後 | 定款記載事項、発起人の引受関係、設立時発行株式 | 定款変更や再認証の要否を確認する |
| 払込み後 | 払込名義、払込金額、払込口座、払込証明 | 返金・再払込・設立手続のやり直しの要否を確認する |
| 登記申請直前 | 設立時役員調査、登記添付書面、株主構成 | 登記申請前に不整合を修正し、必要書面を差し替える |
発起人の変更、設立時発行株式の割当て、出資の履行、役員選任に影響する場合は、単に合意書を作れば足りるわけではありません。定款、払込証明、就任承諾書、発起人決定書、設立時取締役等の調査書など、登記添付書類との整合性を確認する必要があります。
会社成立後に見つかった場合
会社成立後に発起人の錯誤、詐欺、強迫が発覚した場合でも、会社法51条2項により、発起人は設立時発行株式の引受けを取り消すことができません。したがって、まず会社成立後の株主構成を前提に、どの法的手段で調整するかを検討します。
| 問題 | 会社法51条でできること | 別途検討する対応 |
|---|---|---|
| 錯誤により引き受けた | 成立後の取消しはできない | 発起人間の精算、株式譲渡、合意解除的な調整、損害賠償 |
| 詐欺・強迫により引き受けた | 成立後の取消しはできない | 加害者への損害賠償、刑事・行政上の対応、株式の処分 |
| 払込みを仮装した | 51条では処理しない | 会社法52条の2、103条、株主権行使制限、責任追及 |
| 現物出資の価額が不足した | 51条では処理しない | 会社法52条、検査役調査、証明者責任、発起人等の責任 |
| 名義貸しで株主が争われる | 51条だけでは解決しない | 実質引受人、株主名簿、株主権確認、税務・相続の整理 |
成立後の調整では、会社、発起人、株主、取引先、債権者、税務上の影響を分けて考える必要があります。単に「取り消す」「なかったことにする」と処理すると、かえって紛争を広げることがあります。
会社成立後に発起人の引受け意思に問題が見つかったら、まず株主名簿、定款、払込証明、登記事項、発起人決定書、設立時役員関係書類を確認します。そのうえで、会社法51条で取消しが制限される問題なのか、発起人等の責任や株式譲渡で処理すべき問題なのかを切り分けます。
会社法51条と混同しやすい論点
会社法51条は、設立時発行株式の引受け意思表示の無効・取消し制限を扱います。実務では、出資の不履行、仮装払込み、現物出資の価額不足、募集設立の引受人、募集株式の引受けの無効・取消し制限と混同しやすいため、条文ごとに整理しておく必要があります。
出資の不履行・仮装払込みとの違い
会社法51条は、引受け意思表示の効力を安定させる条文です。発起人が出資を履行したか、払込みが本当に会社資金として確保されたかは、別の問題です。払込みをしていない、払込みを仮装した、現物出資の給付を仮装したという場合には、会社法34条、36条、52条の2などを確認します。
会社法52条の2は、発起人が払込み又は給付を仮装した場合に、会社に対して全額支払義務又は全部給付義務を負うこと、関与者の責任、株主権行使制限を定めています。詳しくは、会社法52条の2|出資の履行を仮装した場合の責任等を確認してください。
現物出資・財産引受けの価額不足との違い
現物出資財産等の価額が定款記載額に著しく不足する場合は、会社法52条の責任が問題になります。これは、発起人が引受けを取り消せるかではなく、会社に対して不足額を支払う責任を誰が負うかという問題です。
現物出資や財産引受けは、会社法28条、33条、52条とつながります。変態設立事項の基本は会社法28条の解説、価額不足責任は会社法52条の解説を確認してください。
設立無効の訴えとの違い
会社法51条は、発起人による引受けの無効・取消し主張を制限する条文です。会社の設立自体に重大な瑕疵がある場合には、設立無効の訴えが問題になることがあります。ただし、設立無効は、設立手続の安定を大きく害するため、訴えの期間、原告適格、判決効などが厳格に定められています。
個別の発起人が「錯誤だった」「詐欺だった」と主張することと、会社の設立自体の効力を争うことは同じではありません。会社成立後の紛争では、何を争うのか、誰に対してどの効果を求めるのかを明確にする必要があります。
名義借り・実質引受人との違い
会社法51条は、心裡留保・虚偽表示や錯誤・詐欺・強迫による無効・取消しの制限を定める条文です。一方、名義借りの場面では、そもそも誰が設立時発行株式を引き受けたのか、誰を株主として扱うべきかが問題になります。
名義借り・実質引受人の問題は、会社法50条、株主名簿、株主権確認、実質的な出資者、名義貸与者の認識、成立後の権利行使などを総合して検討します。会社法51条だけで「名義人が必ず株主になる」「実質出資者が必ず株主になる」と判断できるわけではありません。
募集設立・募集株式との比較
会社法51条は、発起設立における発起人の設立時発行株式の引受けを対象とします。募集設立や、会社成立後の募集株式の発行等では、別の条文に似た規定があります。比較すると、会社法51条の射程が分かりやすくなります。
| 場面 | 主な条文 | 無効・取消し制限の特徴 |
|---|---|---|
| 発起設立の発起人 | 会社法51条 | 民法93条1項ただし書・94条1項を適用せず、会社成立後の錯誤・詐欺・強迫による取消しを制限する |
| 募集設立の設立時募集株式引受人 | 会社法102条5項・6項 | 申込み・割当て等について同様の無効制限があり、会社成立後又は創立総会等で議決権行使後の取消しが制限される |
| 成立後の募集株式の引受人 | 会社法211条 | 募集株式の申込み・割当て等について同様の無効制限があり、株主となった日から1年経過後又は権利行使後の取消しが制限される |
募集設立では会社法102条を見る
募集設立では、発起人以外の設立時募集株式の引受人が登場します。この場合、会社法102条5項が、設立時募集株式の引受けの申込み・割当て等について、民法93条1項ただし書・94条1項を適用しないと定めています。また、会社法102条6項は、会社成立後又は創立総会・種類創立総会で議決権を行使した後の錯誤・詐欺・強迫による取消しを制限しています。
募集設立では、発起設立と異なり、設立時募集株式の申込み、割当て、払込み、創立総会が関係します。詳しくは、募集設立とは|設立時募集株式・創立総会・払込までの実務フロー、条文上の特則は会社法95条〜102条の解説を確認してください。
成立後の募集株式では会社法211条を見る
会社成立後に新たに募集株式を発行する場合には、会社法211条が、引受けの無効又は取消しの制限を定めています。会社法211条は、募集株式の引受けの申込み・割当て等について、民法93条1項ただし書・94条1項を適用しないこと、募集株式の引受人が株主となった日から1年を経過した後又は株式について権利を行使した後は、錯誤・詐欺・強迫を理由として募集株式の引受けを取り消せないことを定めています。
発起設立の会社法51条、募集設立の会社法102条、成立後の募集株式の会社法211条は、いずれも株式引受けの安定を図る規定です。成立後の募集株式の引受け制限は、会社法211条|引受けの無効又は取消しの制限で確認してください。
会社法51条に関するよくある質問
会社成立後に「錯誤だった」として引受けを取り消せますか?
できません。会社法51条2項により、発起人は、株式会社の成立後は、錯誤を理由として設立時発行株式の引受けを取り消すことができません。会社成立後は、株式を保有していることを前提に、損害賠償、株式譲渡、発起人間の精算などを検討します。
詐欺や強迫があった場合も取り消せませんか?
会社成立後は、詐欺又は強迫を理由として設立時発行株式の引受けを取り消すことはできません。ただし、詐欺・強迫をした者への損害賠償請求、不法行為責任、発起人等の責任、刑事・行政上の対応などは別途検討します。取消しができないことと、加害者の責任追及ができないことは同じではありません。
会社成立前なら取消しできますか?
会社法51条2項が明示的に制限しているのは会社成立後です。ただし、成立前であっても、定款認証、払込み、役員選任、登記準備が進んでいる場合は、取消しだけで手続が整うとは限りません。登記申請前に、発起人、引受株式数、出資履行、定款、設立時役員等の手続を組み直す必要があるかを確認してください。
心裡留保や虚偽表示を理由に引受けを無効にできますか?
会社法51条1項により、設立時発行株式の引受けに係る意思表示については、民法93条1項ただし書及び94条1項は適用されません。そのため、心裡留保や通謀虚偽表示を理由として、設立時発行株式の引受けを無効とする主張は制限されます。
払込みを仮装した場合も会社法51条で有効になりますか?
なりません。会社法51条は引受け意思表示の無効・取消し制限を扱う条文であり、仮装払込みを有効な出資履行にする条文ではありません。払込み又は給付を仮装した場合は、会社法52条の2や103条の責任、株主権行使制限を確認する必要があります。
未成年者など制限行為能力者が発起人だった場合も同じですか?
会社法51条は、心裡留保・虚偽表示、錯誤・詐欺・強迫を対象とする条文です。制限行為能力を理由とする取消しは別問題として個別に検討が必要です。実務上は、発起人や設立時株主に制限行為能力者が関与する設計は、法定代理人の同意、利益相反、払込資金、登記書類、成立後の株主権行使まで問題になりやすいため、事前に慎重に確認すべきです。
債権者が詐害行為取消権や否認権を行使することも制限されますか?
会社法51条が直接制限しているのは、設立時発行株式の引受けに係る意思表示についての無効又は取消しの主張です。債権者による詐害行為取消権や倒産手続上の否認権が問題になるかは、出資行為、現物出資、財産移転、対価関係、資本維持、会社設立の安定との関係を個別に検討します。
設立場面の財産移転については、東京地裁平成15年10月10日判決が、株式会社に対する現物出資について、資本を毀損しない範囲では設立行為を直接取り消すことにはならず、詐害行為として取り消すことができると判断した事例があります。もっとも、これは会社法51条そのものの事案ではないため、株式引受けの取消し制限とは区別して理解する必要があります。
まとめ
会社法51条は、設立時発行株式の引受けについて、発起人による無効・取消しの主張を制限する条文です。会社法51条1項は、民法93条1項ただし書・94条1項を適用しないと定め、会社法51条2項は、会社成立後の錯誤・詐欺・強迫による取消しを制限します。
- 会社法51条は、設立時発行株式の引受け意思表示を安定させる条文である
- 心裡留保・虚偽表示を理由とする無効主張は、会社法51条1項により制限される
- 会社成立後は、錯誤・詐欺・強迫を理由として設立時発行株式の引受けを取り消せない
- 引受け意思の問題は、設立登記前に発見して手続を整理し直すことが重要である
- 払込仮装、価額不足、発起人責任、募集設立、募集株式の規律は別条文と合わせて確認する
会社法51条を正しく理解するには、設立時発行株式の引受け、出資の履行、会社成立、発起人等の責任を分けて考える必要があります。設立後に「取り消せばよい」と考えるのではなく、設立前に発起人の意思、出資、名義、払込関係を確認し、疑義がある場合は登記申請前に修正してください。
坂尾陽弁護士
関連記事
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- 設立・定款(会社設立の基本)
- 株式会社設立の流れ(発起設立・募集設立)
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- 発起人等の責任(会社法52条〜56条・103条)
- 会社法95条〜102条|募集設立における設立手続等の特則
- 会社法102条の2・103条|払込仮装責任・発起人の責任等
- 会社法211条|引受けの無効又は取消しの制限
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