会社法52条は、株式会社の成立時に、現物出資財産や財産引受けの対象財産の価額が、定款に記載・記録された価額に著しく不足していた場合の責任を定める条文です。
会社設立では、資本金を金銭で払い込むだけでなく、不動産、車両、機械設備、在庫、知的財産権、事業用資産などを現物出資したり、会社成立後に会社が財産を譲り受けることを約束したりすることがあります。これらは資本充実に直接関わるため、評価が過大だった場合には、発起人や設立時取締役等の不足額支払義務が問題になります。
本記事では、会社法52条について、価額不足責任が生じる要件、責任を負う人、免責される場合、証明者の責任、実務上の確認ポイントを、会社設立の実務に沿って整理します。
- 会社法52条は、現物出資財産等の価額が定款記載価額に著しく不足するときの不足額支払義務を定める条文です。
- 責任主体は、発起人及び設立時取締役が中心で、会社に対して連帯して不足額を支払う義務を負います。
- 検査役調査を経た場合や、注意を怠らなかったことを証明した場合には、一定の者は責任を免れることがあります。
- ただし、現物出資財産を給付した発起人や財産引受けの譲渡人である発起人は、条文上、無過失を理由とする免責の対象から外れます。
- 専門家が価額相当性を証明した場合でも、証明について注意を怠ると、不足額について連帯責任を負う可能性があります。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法52条とは
会社法52条は、「出資された財産等の価額が不足する場合の責任」を定めています。対象になるのは、会社法28条1号の現物出資財産と、同条2号の財産引受けに関する財産です。
現物出資とは、発起人が金銭以外の財産を出資することです。財産引受けとは、会社成立後に会社が特定の財産を譲り受けることを、設立段階で約束することです。これらは、定款の記載又は記録が必要な変態設立事項に当たります。制度の全体像は、現物出資・財産引受け(変態設立事項)で詳しく整理しています。
会社法52条のポイントは、会社成立時の実際の価額が、定款に記載・記録された価額に著しく不足していた場合に、発起人及び設立時取締役が、会社に対して不足額を支払う責任を負う点です。条文を確認する場合は、e-Gov法令検索「会社法」も参照してください。
現物出資や財産引受けで過大評価があると、会社の資本や財産的基礎が実態より厚く見えてしまいます。会社法52条は、その不足分を会社に回復させる方向で、設立関係者の責任を定めています。
会社法52条の条文の要点
会社法52条は、3つの段落で構成されています。条文全体を読むと複雑に見えますが、実務上は次のように整理できます。
| 項 | 内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 1項 | 現物出資財産等の価額が定款記載価額に著しく不足するときの不足額支払義務 | 発起人及び設立時取締役が、会社に対して連帯して不足額を支払う |
| 2項 | 発起人・設立時取締役の免責事由 | 検査役調査を経た場合、又は注意を怠らなかったことを証明した場合は、一定の者が責任を免れる |
| 3項 | 価額相当性を証明した証明者の責任 | 証明者も不足額について連帯責任を負うが、証明について注意を怠らなかったことを証明すれば責任を免れる |
会社法52条の条文上、責任が問題になるのは「株式会社の成立の時」です。契約締結時や定款作成時ではなく、会社が成立した時点における価額が基準になる点に注意が必要です。
また、価額の不足があれば常に責任が生じるわけではありません。条文は「著しく不足するとき」としているため、評価に通常あり得る幅や軽微な価格変動ではなく、資本充実を害する程度の不足があるかが問題になります。
会社法52条が問題になる場面
会社法52条は、金銭出資だけで会社を設立する通常のケースでは、問題になりにくい条文です。主に、現物出資や財産引受けを使う場合に確認が必要です。
現物出資で問題になる例
現物出資では、発起人が金銭ではなく財産を出資します。たとえば、次のような財産を会社に出資する場合に、価額不足が問題になり得ます。
- 不動産、建物、土地利用権などの資産
- 車両、機械設備、工具、什器備品などの事業用資産
- 在庫、商品、原材料などの動産
- 特許権、商標権、著作権、ソフトウェアなどの知的財産・無形資産
- 売掛金、貸付金などの債権
これらの財産は、評価方法、権利関係、瑕疵、換価可能性、担保権の有無によって価額が大きく変わります。定款に高い価額を記載したものの、実際には著しく価値が低かった場合には、会社法52条の不足額支払義務が問題になります。
財産引受けで問題になる例
財産引受けでは、会社成立後に会社が特定の財産を譲り受けることを、設立段階で約束します。たとえば、創業者個人の事業用設備、店舗資産、営業用システム、在庫、営業財産を会社が譲り受けるような場面です。
財産引受けは、定款記載がないまま進めると、契約の効力自体が問題になります。最高裁昭和28年12月3日判決は、定款に記載のない財産引受けについて、会社成立後に株主総会の特別決議で承認しても有効にならない旨を示しています。会社法52条の価額不足責任を検討する前提として、まず財産引受けの定款記載と手続が適切かを確認する必要があります。
責任を負う人
会社法52条で責任を負う可能性がある人は、主に発起人、設立時取締役、価額相当性を証明した証明者です。会社に対する責任であり、責任者が複数いる場合は連帯責任になります。
| 責任主体 | 責任の内容 | 免責の可否 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 発起人 | 会社に対し、不足額を支払う義務 | 一定の場合に免責あり。ただし現物出資者・財産引受けの譲渡人である発起人は2項免責の対象外 | 自分が給付・譲渡する財産については特に重い責任が問題になる |
| 設立時取締役 | 会社に対し、不足額を支払う義務 | 検査役調査又は無過失立証により免責される場合あり | 設立時取締役等による調査の実施・記録が重要 |
| 証明者 | 不足額について連帯して支払う義務 | 証明について注意を怠らなかったことを証明すれば免責 | 弁護士、公認会計士、税理士等による価額証明が問題になる |
発起人の責任
発起人は、会社設立の中心となる者です。現物出資や財産引受けを定款に記載し、設立時発行株式の引受けや設立手続を進める立場にあるため、会社法52条の責任主体になります。発起人の役割全体は、発起人とは|役割・人数・要件・責任で整理しています。
特に、現物出資財産を給付した発起人や、財産引受けの譲渡人である発起人は、会社法52条2項の免責対象から外れます。これは、自ら財産を給付又は譲渡する立場にあり、価額不足について会社に不足分を填補すべき立場にあるためです。
設立時取締役の責任
設立時取締役は、設立手続における調査義務を負う立場にあります。現物出資財産等の価額、出資の履行、設立手続の適法性などを確認することが求められます。設立時取締役等による調査については、設立時取締役等による調査(検査役含む)を参照してください。
設立時取締役が形式的に調査報告書を作成しただけで、実際には評価資料、権利関係、財産の存在、担保権・瑕疵の有無を確認していなかった場合には、注意を怠らなかったといえるかが問題になります。
価額証明をした専門家の責任
会社法33条10項3号の証明をした者は、会社法52条3項により、不足額について連帯責任を負う可能性があります。もっとも、証明者が証明をするについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、責任を負いません。
専門家証明を使う場合でも、単に形式的な証明書を取得すればよいわけではありません。評価の前提資料、算定方法、権利関係、第三者評価の有無、証明者の確認範囲を明確にしておく必要があります。
免責される場合
会社法52条2項は、発起人及び設立時取締役について、一定の場合に不足額支払義務を負わないと定めています。実務上重要なのは、検査役調査を経た場合と、注意を怠らなかったことを証明した場合です。
検査役調査を経た場合
会社法28条1号又は2号の事項について、会社法33条2項の検査役調査を経た場合には、発起人及び設立時取締役は、原則として会社法52条1項の義務を負いません。検査役調査は、裁判所が選任した検査役が、現物出資や財産引受けの価額などを調査する手続です。
もっとも、検査役調査を経た場合でも、現物出資財産を給付した発起人や財産引受けの譲渡人である発起人は、会社法52条2項の免責対象から外れます。誰がどの財産を給付・譲渡したのかを、発起人ごとに整理することが必要です。
注意を怠らなかったことを証明した場合
検査役調査を経ていない場合でも、一定の発起人及び設立時取締役は、職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明できれば、責任を免れることがあります。
ここで重要なのは、責任追及を受けた側が「注意を怠らなかったこと」を証明する必要がある点です。設立当時の評価資料、調査報告書、鑑定書、見積書、契約書、議事録、発起人決定書、メール等の証拠がなければ、後から無過失を説明することは難しくなります。
検査役調査や専門家証明の省略要件を使う場合でも、価額の相当性を確認しなくてよいわけではありません。省略できる手続と、設立関係者が尽くすべき注意は別に整理する必要があります。
不足額の考え方と責任の範囲
会社法52条1項の「不足額」は、定款に記載又は記録された価額と、株式会社成立時の現物出資財産等の価額との差額です。
たとえば、定款に1,000万円と記載された機械設備が、会社成立時には実際には400万円程度の価値しかなかった場合には、600万円の不足額が問題になります。ただし、実際の価額評価には、財産の種類、評価時点、瑕疵、担保権、使用可能性、換価可能性などが関係します。
責任は会社に対する支払義務
会社法52条の責任は、会社に対して不足額を支払う義務です。株主や債権者が直接当然に不足額を受け取るわけではありません。もっとも、会社の財産が回復されることにより、株主・債権者保護につながります。
連帯責任であること
発起人及び設立時取締役は、会社に対して連帯して不足額を支払う義務を負います。連帯責任であるため、会社は責任者の一人に対して不足額全額を請求できる場合があります。責任者内部の負担割合は別途問題になりますが、外部的には全額請求リスクがある点に注意が必要です。
責任免除との関係
会社法52条1項の義務は、会社法55条により、総株主の同意がなければ免除できません。発起人同士の合意、取締役会決議、代表取締役の承認だけでは足りない点が重要です。責任免除の全体像は、会社法53条〜55条の逐条解説で整理します。
会社法52条と募集設立の関係
会社法52条は、発起設立だけでなく募集設立でも問題になります。ただし、募集設立では会社法103条1項により、会社法52条2項の適用が読み替えられます。
具体的には、募集設立で設立時発行株式を引き受ける者の募集をした場合、会社法52条2項の免責は、検査役調査を経た場合に限られる方向で読み替えられます。つまり、発起設立の場合に認められる「注意を怠らなかったことの証明」による免責が、募集設立では使えない場面があります。
募集設立では、発起人以外の引受人が関与するため、手続の公正や引受人保護の要請が強くなります。募集設立を利用する場合は、募集設立とはや会社法102条の2・103条の逐条解説も併せて確認してください。
裁判例から見る実務上の注意点
会社法52条そのものは、現物出資財産等の価額不足責任を定める条文ですが、その前提として、現物出資・財産引受けの手続や発起人の権限が問題になります。旧商法下の裁判例も、現在の設立実務の注意点を考えるうえで参考になります。
定款に記載のない財産引受けは後から承認しても有効にならない
最高裁昭和28年12月3日判決は、定款に記載のない財産引受けについて、会社成立後に株主総会が特別決議で承認しても有効にならない旨を示しました。また、財産引受けが無効である場合には、会社側だけでなく譲渡人も無効を主張できるとされています。
この裁判例からは、財産引受けを「設立後に承認すればよい」と扱うことが危険であることが分かります。会社法52条の価額不足責任を検討する前に、財産引受けとして有効に定款記載されているかを確認する必要があります。
営業財産の一括譲受けは財産引受けに当たることがある
最高裁昭和38年12月24日判決は、発起人が会社の成立を条件として、積極財産と消極財産を含む営業財産を一括して譲り受ける契約をした場合、財産引受けに当たると判断しました。また、発起人は会社設立自体に必要な行為のほかは、開業準備行為であっても原則として行うことができず、原始定款に記載され法定要件を満たした財産引受けだけが例外的に許される旨を示しています。
事業譲渡、店舗資産の引継ぎ、営業用システムや在庫の一括譲受けなどでは、単なる設立準備ではなく財産引受けに該当しないかを検討する必要があります。
実務で確認すべきチェックリスト
会社法52条の責任を避けるには、設立前の段階で、現物出資・財産引受けの対象財産と評価根拠を整理することが重要です。特に、次の点を確認しましょう。
- 現物出資又は財産引受けに該当する資産移転・契約がないかを洗い出す。
- 定款に、対象財産、価額、出資者又は譲渡人、対価関係が適切に記載・記録されているかを確認する。
- 評価額の根拠となる鑑定書、見積書、帳簿、契約書、権利証明資料を保存する。
- 担保権、権利制限、瑕疵、使用不能リスク、換価可能性を確認する。
- 検査役調査が必要か、省略要件を満たすか、専門家証明を使うかを判断する。
- 設立時取締役等の調査報告書に、確認した資料と判断過程を残す。
- 募集設立の場合は、会社法103条による読み替えにより免責が狭くなる点を確認する。
会社設立では、時間や費用を抑えるために検査役調査の省略要件を使うことがあります。しかし、省略要件を満たすことと、価額が相当であることは別問題です。評価が不十分なまま設立すると、後日、会社法52条の不足額支払義務や、会社法53条の任務懈怠責任につながる可能性があります。
現物出資・財産引受けの資料は、登記完了後に不要になるわけではありません。株主間紛争、資金調達、M&A、会計監査、債権者対応で確認されることがあります。設立時の判断根拠を後から説明できる形で残しておきましょう。
会社法52条に関するよくある質問
少しでも評価額が下がると会社法52条の責任が生じますか
少しの差額で当然に責任が生じるわけではありません。会社法52条は「著しく不足するとき」と定めています。もっとも、評価額の差が小さいか大きいかは、財産の種類、定款記載価額、会社成立時の価額、評価根拠、権利関係などを踏まえて判断されます。
検査役調査を省略した場合は必ず責任を負いますか
検査役調査を省略しただけで、直ちに会社法52条の責任を負うわけではありません。ただし、現物出資財産等の価額が著しく不足していた場合には、検査役調査を経ていないことにより免責を主張しにくくなることがあります。省略要件を使う場合でも、評価根拠と調査記録を残すことが重要です。
現物出資者である発起人も無過失を証明すれば免責されますか
会社法52条2項は、発起人のうち、会社法28条1号の財産を給付した者や同条2号の財産の譲渡人を免責対象から除外しています。そのため、自分が現物出資した財産や自分が譲渡した財産については、無過失を理由に責任を免れることはできない方向で整理する必要があります。
証明者は必ず責任を負いますか
証明者も不足額について連帯責任を負う可能性がありますが、証明をするについて注意を怠らなかったことを証明できれば責任を負いません。評価資料の確認範囲、前提条件、算定方法、権利関係の確認内容を明確にしておくことが重要です。
会社法52条の責任を免除するにはどうすればよいですか
会社法52条1項の義務は、会社法55条により、総株主の同意がなければ免除できません。発起人間の合意や取締役会決議だけでは足りません。免除を検討する場合は、責任の有無、責任主体、株主構成、第三者への影響を整理する必要があります。
まとめ
会社法52条は、現物出資や財産引受けの価額が定款記載価額に著しく不足していた場合に、会社の資本充実を回復するための責任を定める条文です。設立後に問題が発覚すると、発起人、設立時取締役、価額証明者などに大きな負担が生じる可能性があります。
- 会社法52条は、現物出資財産等の価額不足について、不足額支払義務を定めています。
- 責任主体は発起人及び設立時取締役で、会社に対して連帯責任を負います。
- 検査役調査を経た場合や、注意を怠らなかったことを証明した場合には、一定の者は免責されることがあります。
- 現物出資者・財産引受けの譲渡人である発起人は、条文上、2項免責の対象から外れます。
- 証明者も不足額について連帯責任を負う可能性があるため、評価資料と確認範囲の整理が重要です。
- 募集設立では、会社法103条により、会社法52条2項の免責が狭くなる点に注意が必要です。
坂尾陽弁護士
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