本店所在地は、会社の住所をどこに置くかを示す重要な設立事項です。株式会社の定款では「本店の所在地」を記載又は記録する必要があり、設立登記ではさらに具体的な本店の所在場所が登記されます。
実務では、「定款にはどこまで住所を書くべきか」「登記では番地まで必要か」「自宅、レンタルオフィス、バーチャルオフィスを使ってよいか」「移転時に定款変更が必要になるか」が問題になります。設立時に安易に決めると、後の本店移転、許認可、銀行口座、郵便物管理、Web表示、契約実務で手戻りが生じることがあります。
- 定款の本店所在地は、通常、最小行政区画までの記載で足ります。
- 設立登記では、定款より具体的に、住居表示又は地番まで本店の所在場所を決めます。
- レンタルオフィスやバーチャルオフィスも選択肢になりますが、契約上の登記利用、許認可、銀行審査、郵便物対応を事前に確認します。
- 同じ市区町村内の移転でも、定款変更が不要なだけで、変更登記が不要になるわけではありません。
- 本店所在地は、設立時だけでなく移転コストまで見据えて決めることが重要です。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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この記事では、非上場・中小規模の株式会社を設立する場面を中心に、本店所在地の定款記載、登記、レンタルオフィス・バーチャルオフィス利用、本店移転時の実務ポイントを整理します。個別の許認可、賃貸契約、金融機関審査は事業内容や利用先によって異なるため、実際の申請・契約前には個別確認が必要です。
本店所在地とは何か
本店所在地とは、会社の住所に関する基本事項です。会社法4条は、会社の住所はその本店の所在地にあると定めています。条文を確認する場合は、e-Gov法令検索「会社法」で最新の条文を確認できます。
株式会社を設立する場合、会社法27条により、定款には本店の所在地を記載又は記録します。また、会社法911条では、株式会社の設立登記において本店及び支店の所在場所が登記事項とされています。定款の記載事項全体は、定款とは|絶対的・相対的・任意的記載事項と作成の実務ポイント、会社法27条の条文解説は会社法27条の逐条解説で確認できます。
ここで注意したいのは、定款で定める「本店の所在地」と、登記で具体的に示す「本店の所在場所」を同じものとして扱わないことです。実務上は、定款では市区町村等まで、登記では番地・住居表示まで、という整理がよく使われます。
| 項目 | 主な意味 | 実務上の記載イメージ |
|---|---|---|
| 本店の所在地 | 定款で定める会社の所在地 | 東京都港区、神奈川県横浜市など、最小行政区画までにすることが多い |
| 本店の所在場所 | 登記で公示される具体的な本店住所 | 東京都港区〇〇一丁目〇番〇号など、住居表示又は地番まで記載する |
| 実際の事業拠点 | 営業・管理・郵便物受領などの運用拠点 | 自宅、賃貸オフィス、店舗、レンタルオフィス、バーチャルオフィスなど |
本店所在地を決めるときは、法的な記載要件だけでなく、登記簿に公開されること、郵便物が届くこと、許認可や口座開設で説明できること、将来移転する可能性があることまで見ておく必要があります。
定款には本店所在地をどこまで書くべきか
定款の本店所在地は、通常、最小行政区画までの記載で足ります。法務局の株式会社設立登記申請書の記載例でも、定款に定める本店の所在地は最小行政区画まででも構わないとされ、その場合には、発起人の過半数により住居表示又は地番までの本店の所在場所を決定する扱いが示されています。記載例を確認する場合は、法務局の株式会社設立登記申請書記載例が参考になります。
最小行政区画まで書くのが実務上は扱いやすい
多くの会社では、定款に「当会社は、本店を東京都港区に置く。」のように記載し、具体的な番地までは定款に書かない方法を採ります。この方法にすると、同じ定款上の所在地内で本店を移転する場合に、定款変更をしなくて済む可能性があります。
たとえば、定款で「東京都港区」と定めている会社が、港区内で本店を移転する場合、定款上の本店所在地は変わらないため、通常は定款変更までは不要です。ただし、本店の所在場所は登記事項なので、本店移転の変更登記は別途必要です。
番地まで書くと同一区域内の移転でも定款変更が必要になりやすい
定款に「東京都港区〇〇一丁目〇番〇号」と具体的な住所まで書くことも可能です。しかし、この場合、その住所から別住所に移転すると、同じ区内の移転であっても定款の記載と実際の本店が合わなくなります。そのため、定款変更の手続が必要になりやすく、移転コストが増えます。
| 定款の書き方 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 最小行政区画まで | 同一区域内の移転時に定款変更を避けやすい | 設立登記のため、発起人等が具体的な本店所在場所を別途決める必要がある |
| 番地・部屋番号まで | 定款上も具体住所が明確になる | 同一区域内の移転でも定款変更が必要になりやすい |
| 建物名・部屋番号まで細かく記載 | 郵便物や入居区画との対応が分かりやすい | 部屋移動、ビル名変更、住居表示変更時に手続負担が生じやすい |
設立時から店舗営業で場所が固定される場合など、具体住所まで定款に書くことが不自然でないケースもあります。ただし、一般的なスタートアップ、中小企業、士業・コンサル業、オンライン事業などでは、将来の移転可能性を考え、定款は最小行政区画までにとどめる設計が使いやすいことが多いです。
設立登記では具体的な本店所在場所を決める
定款で最小行政区画までしか定めていない場合でも、設立登記では具体的な本店所在場所を決める必要があります。登記簿には会社の本店が公示されるため、第三者が会社の住所を確認できる粒度で記載されます。
法務局の記載例では、定款に最小行政区画までを記載した場合、発起人の過半数により、住居表示又は地番までの本店の所在場所を決定する扱いが示されています。設立手続全体の流れは、株式会社設立の流れ、設立登記の登記事項は会社法911条の設立登記もあわせて確認してください。
本店所在場所を決めるときの確認事項
本店の所在場所は、登記簿に載る対外的な住所です。設立登記に使えるかだけでなく、実際に会社の住所として使い続けられるかを確認します。
- その住所を法人の本店として利用できる権限があるか
- 賃貸借契約、利用規約、管理規約で法人登記が禁止されていないか
- 郵便物、法務局・税務署・年金事務所・自治体からの通知を受け取れるか
- Webサイト、請求書、契約書、特定商取引法表示などに記載しても問題ないか
- 同じ本店所在場所に同一商号の会社がないか
- 許認可や金融機関の審査で説明できる実体・利用実態があるか
商業登記法上、同一の所在場所における同一商号の登記など、登記実務上確認すべき事項もあります。条文を確認する場合は、e-Gov法令検索「商業登記法」も参照できます。
本店所在地の候補別メリット・注意点
本店所在地は、自宅、賃貸オフィス、店舗、レンタルオフィス、バーチャルオフィスなどから選ぶことができます。会社法上、本店は必ずしも実際に広い事務所を構える場所でなければならないわけではありませんが、契約・許認可・信用・運用の面では差が出ます。
| 候補 | メリット | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 自宅 | 費用を抑えやすく、創業初期に使いやすい | 住所公開、賃貸借契約・管理規約、家族同居、郵便物、引越し時の本店移転に注意 |
| 賃貸オフィス・店舗 | 信用面、許認可、来客対応、郵便物管理で説明しやすい | 固定費、契約開始時期、法人設立前契約、退去時の本店移転登記に注意 |
| レンタルオフィス | 初期費用を抑えつつ、登記利用や会議室利用ができる場合がある | 登記利用の可否、追加費用、郵便物転送、利用終了時の移転、個室・席の実体に注意 |
| バーチャルオフィス | 低コストで住所利用・郵便物受領ができ、オンライン事業と相性がよい | 許認可、銀行口座、補助金、信用調査、同一住所多数利用、郵便物受領体制に注意 |
| 実家・親族宅 | コストを抑えつつ自宅住所の公開を避けられる場合がある | 所有者・賃貸人の承諾、郵便物管理、家族間トラブル、将来移転に注意 |
レンタルオフィス・バーチャルオフィスは契約内容を先に確認する
レンタルオフィスやバーチャルオフィスを本店として使う場合、まず確認すべきなのは、法的に抽象的に可能かどうかではなく、利用契約上、法人登記に住所を使えるかです。契約によっては、登記利用を禁止していたり、追加料金や専用プランを求めていたり、解約時に速やかな本店移転を求めていたりします。
また、登記できたとしても、許認可、補助金、融資、銀行口座、クレジットカード審査、取引先審査では、本店所在地の実体や郵便物受領体制を確認されることがあります。特に、古物商、宅建業、職業紹介、派遣、建設業、飲食店営業など、事務所・営業所・保管場所等の要件が問題になる業種では、管轄行政庁の要件確認が必要です。
自宅を本店にする場合は住所公開と契約違反に注意する
自宅を本店にすると、登記簿や登記情報提供サービスで住所が確認され得ます。個人情報や家族の生活との関係で問題がないかを検討しましょう。賃貸住宅やマンションの場合、居住用契約や管理規約で事業利用・法人登記が制限されていることもあります。
自宅を使う場合でも、郵便物を確実に受け取れること、税務署や社会保険関係の通知を見落とさないこと、事業用表示やWebサイト表示との整合性を取ることが大切です。
本店移転時の定款変更・登記の考え方
本店所在地を決めるときは、将来移転する場合の手続も見ておく必要があります。本店を移転した場合、定款変更が必要かどうかと、登記が必要かどうかは別の問題です。
会社法915条では、登記事項に変更が生じた場合の変更登記が問題になります。本店移転の登記申請書様式は、法務局の商業・法人登記の申請書様式で、管轄登記所内移転と管轄登記所外移転に分けて案内されています。変更登記の条文解説は、会社法915条の逐条解説も参考になります。
| 移転のパターン | 定款変更 | 登記 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|---|
| 定款で東京都港区と定め、港区内で移転 | 通常は不要 | 必要 | 定款変更不要でも、本店所在場所が変わるため変更登記が必要 |
| 定款で東京都港区と定め、渋谷区へ移転 | 必要 | 必要 | 定款上の所在地が変わるため、株主総会の特別決議などを検討 |
| 定款に番地まで記載し、同じ区内の別住所へ移転 | 必要になりやすい | 必要 | 定款の住所と実際の本店がずれるため、詳細記載のデメリットが出やすい |
| 管轄登記所外へ移転 | 移転先により必要 | 必要 | 旧本店所在地側・新本店所在地側の手続、印鑑届出等を確認 |
定款変更が必要な場合
定款上の本店所在地を変更する場合は、定款変更の手続が必要です。株式会社では、定款変更には株主総会の特別決議が必要になるのが通常です。定款変更の全体像は、定款変更の手続も参考になります。
たとえば、定款で「東京都港区」と定めている会社が、東京都渋谷区に本店を移す場合、定款の本店所在地を変更する必要があります。そのうえで、具体的な本店所在場所を決め、変更登記を申請します。
定款変更が不要でも登記は必要
同一区域内の移転で定款変更が不要な場合でも、登記上の本店所在場所は変わります。したがって、変更登記は必要です。「定款変更が不要」と「登記申請が不要」を混同しないようにしましょう。
移転登記を忘れると、登記簿上の住所と実際の会社住所がずれ、郵便物、契約書、税務・社会保険、許認可、取引先審査で支障が出ることがあります。
本店所在地を決めるときのチェックリスト
本店所在地を決める際は、次の項目を設立前に確認しておくと、後の手戻りを避けやすくなります。
- 定款には最小行政区画まで書くか、具体住所まで書くかを決めたか
- 設立登記に使う本店所在場所を、住居表示又は地番まで決めたか
- 発起人決定書など、本店所在場所の決定書類を準備できるか
- 賃貸借契約、利用規約、管理規約で法人登記が許されているか
- 郵便物や行政通知を確実に受け取れる体制があるか
- 許認可、補助金、銀行口座、取引先審査で説明できる所在地か
- 同一住所・同一商号の問題がないか
- 将来移転する可能性がある場合、定款変更・登記コストを見込んでいるか
特に、許認可事業では、定款目的と本店所在地を別々に考えないことが重要です。定款目的の書き方は、会社設立の「目的」の決め方で詳しく整理しています。
本店所在地でよくある失敗
定款に細かく書きすぎる
設立時の住所をそのまま番地・建物名・部屋番号まで定款に書くと、同じ地域内の移転でも定款変更が必要になりやすくなります。将来移転の可能性がある会社では、定款は最小行政区画までにとどめ、登記で具体住所を示す設計を検討しましょう。
登記できる住所かだけで判断する
レンタルオフィスやバーチャルオフィスは、登記利用が可能な場合でも、許認可、銀行口座、補助金、取引先審査で追加確認が必要になることがあります。「登記できるか」だけでなく、「その住所で事業運営できるか」を確認することが重要です。
郵便物と行政通知の受領体制を軽く見る
本店所在地には、法務局、税務署、年金事務所、自治体、取引先、金融機関から重要書類が届くことがあります。郵便転送、受領通知、保管期間、本人確認、受領漏れ時の対応を確認しておきましょう。
住所表記の誤りを放置する
登記された本店の所在地に誤りがある場合、本店の更正登記などが必要になることがあります。法務省も、会社の本店所在地の表記に誤り等がある場合の登記申請について案内しています。住所表記に不安がある場合は、法務省の案内も確認してください。
本店所在地に関するよくある質問
定款には本店所在地をどこまで書けばよいですか
通常は、最小行政区画までの記載で足ります。たとえば、「東京都港区」「神奈川県横浜市」のような記載です。ただし、設立登記では、住居表示又は地番までの具体的な本店所在場所を決める必要があります。
レンタルオフィスやバーチャルオフィスを本店にできますか
レンタルオフィスやバーチャルオフィスを本店として使える場合はあります。ただし、利用契約上の登記可否、郵便物受領、許認可、銀行審査、補助金、解約時の移転義務を確認する必要があります。特に許認可事業では、事務所要件を満たすかを管轄行政庁に確認してください。
自宅を本店所在地にしてもよいですか
自宅を本店にすること自体が直ちに禁止されるわけではありません。ただし、登記簿上住所が公示されること、賃貸借契約やマンション管理規約で事業利用・法人登記が制限されていないか、郵便物を確実に受け取れるかを確認する必要があります。
同じ市区町村内で移転する場合も登記は必要ですか
必要です。定款に最小行政区画までしか書いていない場合、同じ市区町村内の移転では定款変更が不要になることがあります。しかし、登記されている本店所在場所は変わるため、本店移転の変更登記は必要です。
本店所在地を決める前に、定款認証を進めてもよいですか
本店所在地は定款の絶対的記載事項であり、設立登記でも必要になるため、定款認証前に固めておく必要があります。定款認証の流れや費用は、定款認証とはで確認できます。
まとめ
本店所在地は、定款の記載事項であると同時に、登記簿に公示される会社の住所です。設立時には、定款にどこまで書くか、登記でどの住所を出すか、実際にその住所を使い続けられるかを分けて確認しましょう。
- 定款の本店所在地は、通常、最小行政区画までにすると移転時の負担を抑えやすいです。
- 設立登記では、住居表示又は地番までの具体的な本店所在場所が必要です。
- レンタルオフィス・バーチャルオフィスでは、契約上の登記利用、郵便物、許認可、銀行審査を確認します。
- 本店を移転した場合、定款変更が不要でも変更登記が必要になることがあります。
- 本店所在地は、設立時の費用だけでなく、信用、運用、移転コストまで見据えて決めることが重要です。
会社設立では、目的、本店所在地、出資、株式、役員、定款認証、設立登記が相互に関係します。本店だけを単独で決めるのではなく、事業計画、許認可、資金調達、契約予定、移転可能性とあわせて設計することが大切です。
坂尾陽弁護士
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