【会社法93条・94条】設立時取締役等による調査(募集設立)|条文の要点と実務ポイント

会社法93条・94条は、募集設立において、設立時取締役等が会社成立前の手続や出資の履行状況を調査し、その結果を創立総会へ報告する場面を定める条文です。募集設立では、発起人以外の引受人も設立時株主として関与するため、会社成立前に、現物出資・財産引受け、払込み、創立総会手続、定款との整合性を確認する仕組みが置かれています。

特に重要なのは、会社法93条が「設立時取締役等による調査」と「創立総会への報告・説明」を定め、会社法94条が、設立時取締役等の全部又は一部が発起人である場合に、創立総会の決議で別の調査者を選任できる特則を置いている点です。発起人が自ら設立時取締役となるケースでは、調査の客観性や設立時株主への説明責任を意識する必要があります。

会社法93条・94条は、条文だけを見ると短い規定ですが、実務では、変態設立事項、払込金保管証明、創立総会議事録、調査報告書、設立登記添付書類、設立無効リスクがつながります。設立時取締役等が形式的に「問題なし」と確認するだけでは足りず、どの資料を見て、どの範囲を確認し、どの不備をどの段階で是正するかを整理することが重要です。

本記事では、会社法93条・94条について、募集設立における設立時取締役等の調査事項、創立総会への報告、設立時株主への説明義務、発起人兼任の場合の特則、調査報告書・登記実務上の注意点を解説します。

  • 会社法93条は、募集設立で選任された設立時取締役等が、選任後遅滞なく設立手続を調査する義務を定めています。
  • 調査事項は、現物出資財産等の価額、専門家証明の相当性、発起人の出資履行・設立時募集株式の払込み、法令・定款違反の有無です。
  • 調査結果は創立総会に報告し、設立時株主から説明を求められた場合には必要な説明をしなければなりません。
  • 設立時取締役等の全部又は一部が発起人である場合、創立総会は、会社法94条により別の調査者を選任できます。
  • 実務では、調査報告書、創立総会議事録、払込資料、変態設立事項の資料、設立登記添付書類を一体で確認することが重要です。

坂尾陽弁護士

会社法93条・94条は、募集設立の「最後の確認工程」に近い規定です。設立時取締役等は、会社成立後の役員になる予定の立場で、出資・払込み・変態設立事項・創立総会手続に不備がないかを確認し、創立総会で設立時株主へ説明できる状態にしておく必要があります。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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会社法93条・94条の位置づけ

会社法93条・94条は、会社法第2編第1章第9節「募集による設立」の第五款「設立時取締役等による調査」に置かれています。募集設立では、発起人が設立時募集株式を募集し、申込み・割当て・払込みを経た後、創立総会で設立時取締役等を選任します。その選任後に、会社法93条の調査が行われます。

募集設立の全体像は、募集設立とは|設立時募集株式・創立総会・払込までの実務フローで整理しています。会社法93条・94条は、その中でも、会社成立前に設立時取締役等が設立手続の適法性を確認し、創立総会へ報告するための規定です。

条文を確認する場合は、e-Gov法令検索「会社法」で会社法93条・94条を確認してください。

条文 主な内容 実務上の確認事項
会社法93条1項 設立時取締役等による調査事項 現物出資等の価額、証明、払込み、手続違反の有無を確認する
会社法93条2項 創立総会への調査結果報告 調査結果を創立総会議事録で確認できる形にする
会社法93条3項 設立時株主への説明義務 創立総会で質問を受けた場合に説明できる資料を準備する
会社法94条1項 発起人兼任時の調査者選任 設立時取締役等が発起人でもある場合、創立総会で別の調査者を選任できる
会社法94条2項 選任された調査者の調査・報告 選任された調査者は必要な調査を行い、創立総会に報告する
発起設立の調査とは条文番号が違います

発起設立では、設立時取締役等による調査は会社法46条に置かれています。これに対し、募集設立では会社法93条・94条が中心になります。発起設立の調査実務との違いは、設立時取締役等による調査(検査役含む)|不備がある場合の影響と対応もあわせて確認してください。


会社法93条の調査主体とタイミング

会社法93条の調査を行うのは、設立時取締役です。ただし、設立しようとする株式会社が監査役設置会社である場合には、設立時取締役だけでなく設立時監査役も調査主体に含まれます。条文上は「設立時取締役」と略称されていますが、監査役設置会社では設立時監査役も含む点に注意が必要です。

調査のタイミングは、設立時取締役等の選任後、遅滞なくです。募集設立では、設立時取締役等は原則として創立総会で選任されるため、会社法88条から92条の選任手続が先にあり、その後に会社法93条の調査が続きます。選任手続については、会社法88条〜92条|設立時取締役等の選任・解任で詳しく整理しています。

実務上は、創立総会で選任された直後に調査を行い、その結果を同じ創立総会又は続行・延期後の創立総会で報告する設計が問題になります。調査に必要な資料が不足している場合や、払込み・変態設立事項に不備がある場合には、報告だけで済ませず、是正方法を検討する必要があります。

確認項目 確認する主体 タイミング 主な資料
設立時取締役等の選任 創立総会 調査前 創立総会議事録、就任承諾書
会社法93条調査 設立時取締役等 選任後遅滞なく 定款、募集事項、払込資料、現物出資資料、証明書
調査結果の報告 設立時取締役等又は会社法94条の調査者 創立総会 調査報告書、創立総会議事録
設立登記 設立時代表取締役等 設立手続完了後 登記申請書、添付書類一式
調査を後回しにしない

会社法93条の調査は、登記書類をそろえるためだけの形式的作業ではありません。設立時株主への説明や、設立手続の瑕疵の発見・是正につながる工程です。特に、現物出資、財産引受け、払込みに不安がある場合は、創立総会前後のスケジュールに余裕を持たせる必要があります。


会社法93条1項の調査事項

会社法93条1項は、設立時取締役等が調査すべき事項を4つに分けて定めています。条文は抽象的ですが、実務では、定款・募集事項・払込証明・通帳又は払込金保管証明・現物出資資料・専門家証明・創立総会議事録などを突き合わせて確認します。

会社法93条1項の号 調査事項 実務で見る資料 不備が起きやすい点
1号 会社法33条10項1号・2号の場合の現物出資財産等の価額の相当性 定款、財産目録、評価資料、契約書、有価証券の市場価格資料 価額が過大、資料が古い、財産の特定が不十分
2号 会社法33条10項3号の証明の相当性 弁護士等の証明書、不動産鑑定評価書、関連資料 証明対象の財産と定款記載がずれている、評価前提が不明確
3号 発起人による出資履行と会社法63条1項の払込みの完了 払込金保管証明書、払込を証する書面、通帳写し、取引明細 払込名義、払込時期、払込額、仮装払込みの疑い
4号 設立手続が法令又は定款に違反していないこと 定款、募集事項、申込書、割当決定書、創立総会議事録、種類創立総会議事録 招集手続、議決権、決議要件、種類株式、定款変更との不整合

現物出資財産等の価額の相当性

会社法93条1項1号は、会社法33条10項1号又は2号に掲げる場合における現物出資財産等について、定款に記載又は記録された価額が相当であることを調査対象にしています。ここで問題になるのは、検査役調査が不要とされる一定の場合であっても、価額の相当性確認が不要になるわけではないという点です。

たとえば、現物出資財産等の総額が一定額以下で検査役調査が不要となる場合や、市場価格のある有価証券について一定の要件を満たす場合でも、設立時取締役等は、定款記載価額が過大でないかを確認します。現物出資や財産引受けの実務は、現物出資・財産引受け(変態設立事項)|検査役・評価・リスクを実務解説で詳しく整理しています。

財産引受けについては、定款に記載のない財産引受けを、会社成立後の株主総会決議だけで当然に有効化できるわけではないとされた最高裁昭和28年12月3日判決があります。設立時取締役等の調査では、価額だけでなく、そもそも定款記載事項として適切に記載されているかも確認する必要があります。

専門家証明の相当性

会社法93条1項2号は、会社法33条10項3号に規定する証明の相当性を調査対象にしています。弁護士、公認会計士、税理士等による証明や、不動産の場合の不動産鑑定評価との関係が問題になります。

証明書がある場合でも、設立時取締役等は、証明書の存在だけでなく、対象財産、評価日、評価方法、定款記載との対応関係を確認する必要があります。証明の対象と定款記載の財産がずれている場合、証明書の記載が抽象的すぎる場合、評価前提が設立時点の実態とずれている場合には、創立総会で説明を求められた際に問題になります。

発起人の出資履行と設立時募集株式の払込み

会社法93条1項3号は、発起人による出資の履行と、会社法63条1項による設立時募集株式の払込みが完了していることを調査対象にしています。募集設立では、発起人の出資だけでなく、設立時募集株式の引受人による払込みも確認しなければなりません。

会社法63条・64条については、会社法63条・64条|設立時募集株式の払込み・払込金の保管証明で整理しています。実務では、払込金保管証明書、払込取扱機関の資料、申込・割当資料、引受人ごとの払込額を突き合わせます。

仮装払込みや見せ金が疑われる場合には、単に一時的な入金記録があるだけでは足りません。最高裁昭和38年12月6日判決は、当初から真実の株式払込として会社資金を確保する意図がなく、一時的借入金で払込の外形を整え、会社成立後直ちに払戻して借入先に返済した場合には、有効な株式払込があったとはいえないと判断しています。払込みに関する実務リスクは、出資の履行(払込み)と払込証明|払込口座・保管証明・仮装のリスクもあわせて確認してください。

設立手続全体の法令・定款違反の有無

会社法93条1項4号は、前3号のほか、株式会社の設立手続が法令又は定款に違反していないことを調査対象にしています。これは包括的な確認事項であり、募集設立の各工程が定款・募集事項・会社法の規定と整合しているかを確認するものです。

具体的には、設立時募集株式の募集事項、申込み、割当て、引受け、払込み、創立総会の招集・決議、種類創立総会の要否、設立時取締役等の選任、定款変更の有無を確認します。関連する条文記事として、会社法57条〜62条|設立時募集株式の募集・申込み・割当て・引受け会社法65条〜83条|創立総会の招集・議決権・決議・議事録・省略会社法84条〜87条|種類創立総会・設立に関する事項の報告も参照してください。

会社法93条の調査は資料の突合せが中心です

設立時取締役等の調査では、個別書類を単独で見るだけでなく、定款、募集事項、申込み、割当て、払込み、創立総会議事録、種類創立総会議事録、就任承諾書、登記添付書類の整合性を確認します。書類が存在しても、日付、金額、株数、当事者、決議機関がずれていると手続不備になります。


調査結果の創立総会報告と説明義務

会社法93条2項は、設立時取締役が、調査結果を創立総会に報告しなければならないと定めています。募集設立では、設立時株主が創立総会に参加するため、調査結果は会社成立前の設立時株主に共有されるべき情報になります。

また、会社法93条3項は、設立時取締役が創立総会において、設立時株主から調査に関する事項について説明を求められた場合には、必要な説明をしなければならないと定めています。これは、調査結果を形式的に報告するだけでなく、設立時株主からの質問に答えられる状態にしておくことを求める規定です。

場面 設立時取締役等の対応 実務上のポイント
調査結果に問題がない場合 調査結果を創立総会に報告する 調査対象・資料・結論が分かる報告書を準備する
調査中に不備を発見した場合 不備の内容、是正方法、創立総会への報告方法を検討する 払込み不足、定款不備、決議不備は登記前に是正する
設立時株主から質問があった場合 必要な説明を行う 回答できるよう資料と判断過程を整理する
説明に必要な資料が不足する場合 追加確認又は議事の続行・延期を検討する 不十分なまま設立登記へ進まない

創立総会の招集、決議、議事録、省略手続については、創立総会の手続|招集・議決権・議事録・省略まで実務解説で整理しています。会社法93条の報告は、創立総会議事録や調査報告書と結びつけて管理するのが実務上安全です。

説明義務を軽視しない

設立時株主から調査に関する説明を求められた場合、設立時取締役等は必要な説明をしなければなりません。特に、現物出資の評価、払込みの完了、定款変更、創立総会の手続不備について質問が出た場合、資料が不足していると設立手続全体への不信につながります。


会社法94条の特則|設立時取締役等が発起人である場合

会社法94条は、設立時取締役等の全部又は一部が発起人である場合の特則を定めています。この場合、創立総会は、その決議によって、会社法93条1項各号に掲げる事項を調査する者を選任できます。

発起人が設立時取締役等を兼ねること自体は珍しくありません。特に中小企業の設立では、発起人がそのまま設立時取締役となるケースが多くあります。ただし、募集設立では発起人以外の設立時株主も関与するため、発起人兼設立時取締役が自らの行った設立手続を調査する構造になることがあります。

会社法94条は、このような場合に、創立総会が別の調査者を選任できる仕組みを置いています。条文上は「選任することができる」という規定であり、常に別の調査者を選任しなければならないわけではありません。しかし、現物出資、財産引受け、払込み、募集手続に疑義がある場合や、設立時株主から客観的な調査を求められる可能性がある場合には、選任の要否を検討する実益があります。

状況 会社法94条の検討ポイント 実務対応
発起人が設立時取締役を兼ねる 自ら関与した設立手続を自ら調査する構造になる 調査資料と判断過程を明確化する
発起人兼設立時取締役が現物出資をしている 価額相当性の確認に客観性が必要になりやすい 専門家資料、評価資料、別調査者の選任を検討する
発起人側と募集株式引受人側に利害対立がある 調査結果への不信が生じやすい 創立総会で会社法94条の調査者選任を検討する
設立時株主から質問が予想される 説明義務への対応が必要 質問想定、資料整理、議事録記載を準備する

会社法94条により選任された者は、必要な調査を行い、その結果を創立総会に報告しなければなりません。したがって、別の調査者を選任する場合でも、調査範囲、資料、報告方法を明確にしておく必要があります。

会社法94条は利益相反的な構造への安全弁です

会社法94条は、発起人が設立時取締役等を兼ねる場合に、創立総会が別の調査者を選べるようにする規定です。必ず使う規定ではありませんが、募集設立で外部の設立時株主が関与する場合には、調査の客観性を確保する選択肢として理解しておくと実務上有用です。


調査報告書・議事録・設立登記添付書類の実務

会社法93条・94条の調査結果は、創立総会で報告するだけでなく、設立登記の添付書類や社内保存資料との関係でも重要です。法務局の株式会社設立登記申請書の記載例では、設立時取締役及び設立時監査役の調査報告書及びその附属書類が、変態設立事項がある場合に必要となる書類として示されています。

募集設立では、払込金の保管証明、創立総会議事録、設立時取締役等の選任書面、就任承諾書、印鑑証明書、資本金の額の計上に関する証明書など、多くの書類が関係します。会社法93条の調査は、これらの書類が相互に矛盾していないかを確認する実務上のチェックポイントになります。

書類 会社法93条との関係 確認ポイント
定款 現物出資、財産引受け、設立時発行株式、機関設計の基礎 記載事項、発起人、株式数、定款変更の有無
募集事項・申込書・割当資料 設立時募集株式の引受けと払込みの前提 募集株式数、払込金額、払込期日、割当数
払込金保管証明書・払込資料 会社法93条1項3号の確認資料 払込額、払込時期、払込者、払込取扱機関
現物出資・財産引受け資料 会社法93条1項1号・2号の確認資料 財産の特定、評価資料、証明書、定款記載価額
創立総会議事録 調査結果報告・説明・設立時取締役等の選任の証拠 報告内容、質問対応、決議要件、議事録作成
調査報告書 調査結果の整理資料 調査者、調査対象、資料、結論、附属書類

調査報告書は、単に「相当である」「違反はない」と結論だけを書くのではなく、何を調査したのかが分かる形にすることが重要です。特に、現物出資や財産引受けがある場合は、財産の特定、評価根拠、検査役調査の要否、会社法33条10項のどの例外を前提にしているかを整理しておく必要があります。

登記書類だけを先に作らない

設立登記の添付書類は、会社法上の手続を裏付けるための書類です。会社法93条の調査を十分に行わないまま、登記書類だけを形式的に作成すると、後から払込み、現物出資、創立総会決議の不整合が判明することがあります。


不備がある場合の影響と対応

会社法93条の調査で不備が見つかった場合、設立時取締役等は、単に創立総会に報告すればよいというものではありません。不備の内容に応じて、払込みの補正、定款変更、創立総会の再決議、種類創立総会の開催、募集手続の見直し、設立登記の延期を検討する必要があります。

不備が重大な場合には、会社成立後に設立無効の訴えや関係者の責任問題につながる可能性があります。設立無効の訴えについては、会社法828条|会社の組織に関する行為の無効の訴えで整理しています。また、発起人等の責任は、発起人等の責任|不足額・損害賠償・連帯責任・免除を整理会社法102条の2・103条|払込仮装責任・発起人の責任等もあわせて確認してください。

不備の種類 起こりやすい場面 初動対応
払込み不足 引受人の一部が払込期日までに払込みをしていない 引受けの効力、失権、募集株式数、創立総会資料を確認する
仮装払込み 一時的借入金で外形だけを整えた疑いがある 資金の出所、払込後の出金、返済予定、会社資金としての実質を確認する
現物出資価額の過大評価 評価資料が不十分、財産の時価が定款記載額を下回る 再評価、専門家証明、検査役要否、責任リスクを確認する
創立総会手続の不備 招集通知、議決権、決議要件、議事録に不備がある 再招集、決議省略の可否、議事録修正では足りない不備か確認する
種類創立総会漏れ 種類株式を発行しているのに種類創立総会を確認していない 会社法84条〜86条、90条、92条の適用を確認する

設立手続の不備は、会社成立前であれば是正できる場合があります。逆に、会社成立後に問題が顕在化すると、取引先、金融機関、株主、役員の利害が絡み、対応が複雑になります。会社法93条の調査は、会社成立前にリスクを発見するための重要な工程です。

不備の重大性を分けて考える

軽微な記載ミスと、払込み不存在、変態設立事項の定款記載漏れ、創立総会決議の不存在のような重大な不備は、対応が異なります。調査で不備を見つけた場合は、単に書類修正で済むのか、決議や手続をやり直す必要があるのかを区別して検討しましょう。


発起設立の調査との違い

設立時取締役等による調査は、発起設立にも募集設立にもあります。ただし、条文構造と報告先が異なります。発起設立では会社法46条が中心で、調査結果に法令・定款違反又は不当な事項があるときは、発起人に通知する構造です。これに対し、募集設立では会社法93条により、調査結果を創立総会に報告し、設立時株主から説明を求められた場合に説明する構造になっています。

比較項目 発起設立 募集設立
主な条文 会社法46条 会社法93条・94条
設立時取締役等の選任 発起人による選任が基本 創立総会による選任が基本
調査結果の扱い 問題がある場合の発起人への通知が中心 創立総会への報告と設立時株主への説明が中心
発起人兼任時の特則 会社法46条には会社法94条のような創立総会選任型の特則はない 会社法94条により創立総会が別調査者を選任できる
実務上の特徴 発起人内部で手続が完結しやすい 発起人以外の設立時株主への説明・牽制が問題になりやすい

募集設立は、発起人以外の出資者を入れる設立方法です。そのため、設立時取締役等による調査も、設立時株主への説明や創立総会議事録との関係を意識して設計する必要があります。発起設立と同じ感覚で、発起人側だけで完結する手続として扱わないことが重要です。


実務チェックリスト

会社法93条・94条の調査では、設立時取締役等が調査義務を果たしたといえるよう、最低限、次の事項を確認しておくことが重要です。

  • 定款に、現物出資、財産引受け、設立時発行株式、発行可能株式総数、機関設計が正しく記載されているか。
  • 募集事項、申込み、割当て、引受け、払込みの資料がそろっているか。
  • 発起人の出資履行と設立時募集株式の払込みが、金額・期日・名義の面で確認できるか。
  • 現物出資財産等の価額が相当であることを裏付ける資料があるか。
  • 弁護士等の証明や不動産鑑定評価が、対象財産・評価日・定款記載と整合しているか。
  • 創立総会の招集通知、議決権、決議要件、議事録が会社法と定款に合っているか。
  • 種類株式がある場合、種類創立総会や種類株主の権利が問題にならないか。
  • 設立時取締役等が発起人を兼ねる場合、会社法94条の調査者選任を検討すべき事情がないか。
  • 調査結果を創立総会に報告し、質問があった場合に説明できる資料が整理されているか。
  • 調査報告書、創立総会議事録、設立登記添付書類の記載が相互に矛盾していないか。

坂尾陽弁護士

チェックリストで重要なのは、単に書類の有無を確認することではありません。募集設立では、発起人、設立時株主、設立時取締役等、払込取扱機関が関係するため、日付・金額・株数・当事者・決議機関のずれを早めに発見することが実務上の目的になります。

会社法93条・94条に関するよくある質問

会社法93条の調査は誰が行いますか?

設立時取締役が行います。ただし、設立しようとする株式会社が監査役設置会社である場合には、設立時取締役及び設立時監査役が調査主体になります。

募集設立では会社法93条の調査はいつ行いますか?

設立時取締役等の選任後、遅滞なく行います。募集設立では、設立時取締役等は原則として創立総会で選任されるため、その選任後に調査し、調査結果を創立総会に報告する流れになります。

会社法93条の調査事項は何ですか?

主に、現物出資財産等の価額の相当性、専門家証明の相当性、発起人の出資履行及び設立時募集株式の払込みの完了、設立手続が法令又は定款に違反していないことです。

会社法94条の調査者選任は必須ですか?

必ず選任しなければならないわけではありません。会社法94条は、設立時取締役等の全部又は一部が発起人である場合に、創立総会の決議で別の調査者を選任できると定めています。発起人兼任による客観性への懸念がある場合には、選任を検討する実益があります。

設立時取締役等が調査結果を報告しないとどうなりますか?

会社法93条2項に反する手続不備になります。直ちにすべての設立が当然無効になると単純化はできませんが、創立総会手続や設立手続の適法性、役員の責任、設立無効リスクに影響する可能性があります。登記前に報告・議事録・調査報告書の整合性を確認すべきです。

調査報告書は必ず登記に添付しますか?

会社法28条各号に規定する変態設立事項がある場合など、添付が必要になる場面があります。添付要否は、設立方法、機関設計、現物出資・財産引受けの有無、登記申請書の記載例に照らして確認します。

設立時株主から質問があった場合、どこまで説明する必要がありますか?

会社法93条3項は、調査に関する事項について説明を求められた場合に、必要な説明をしなければならないと定めています。個別事情によりますが、調査対象、確認資料、判断理由、不備がないと判断した根拠を説明できるようにしておく必要があります。

現物出資や財産引受けがない場合でも会社法93条の調査は必要ですか?

必要です。現物出資や財産引受けがない場合でも、発起人の出資履行、設立時募集株式の払込み、創立総会その他設立手続が法令又は定款に違反していないことを確認する必要があります。

会社法93条と検査役調査は同じですか?

同じではありません。検査役調査は、現物出資や財産引受けなど変態設立事項について裁判所が選任する検査役による調査です。会社法93条は、募集設立で選任された設立時取締役等による設立手続の調査です。検査役調査が不要な場合でも、会社法93条の調査が不要になるわけではありません。


まとめ

会社法93条・94条は、募集設立における設立時取締役等の調査、創立総会への報告、設立時株主への説明、発起人兼任時の調査者選任を定める条文です。募集設立では、発起人以外の設立時株主が関与するため、会社成立前に設立手続の適法性と出資の実質を確認する仕組みが重要になります。

  • 会社法93条は、設立時取締役等が選任後遅滞なく設立手続を調査する義務を定めています。
  • 調査事項は、現物出資財産等の価額、専門家証明、出資履行・払込み、法令・定款違反の有無です。
  • 調査結果は創立総会に報告し、設立時株主から説明を求められた場合には必要な説明を行います。
  • 設立時取締役等が発起人を兼ねる場合、会社法94条により創立総会で別の調査者を選任できます。
  • 調査報告書、創立総会議事録、払込資料、現物出資資料、登記添付書類の整合性を確認することが実務上重要です。

会社法93条・94条の調査は、募集設立の手続を形式的に締めるための作業ではなく、会社成立前に設立手続の不備を発見し、設立時株主に説明できる状態を作るための工程です。現物出資、財産引受け、払込み、創立総会、種類株式が関係する場合は、早い段階で資料を整理し、必要に応じて専門家に確認することが安全です。

坂尾陽弁護士

募集設立では、設立時取締役等による調査の段階で不備を見逃すと、成立後の株主関係、登記、責任問題、設立無効リスクに波及します。創立総会の議案設計と並行して、会社法93条・94条の調査資料を整えておきましょう。

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