会社法925条は、一又は二以上の株式会社が株式移転をする場合に、株式移転により設立する株式会社について、その本店所在地で設立の登記をすることを定める条文です。株式移転は、新しく完全親会社を設立し、その完全親会社が完全子会社となる株式会社の発行済株式の全部を取得する組織再編です。
株式移転では、株式交換のように既存会社を完全親会社にするのではなく、新たに設立される株式会社が完全親会社になります。そのため、会社法925条の実務では、単なる変更登記ではなく、株式移転設立完全親会社の設立登記、2週間期限の起算点、添付書面、完全子会社側の変更登記が必要になる例外を整理することが重要です。
この記事では、会社法925条について、株式移転の登記の基本、登記期限の起算点、設立登記と効力発生の関係、商業登記法上の添付書面、同時申請・経由申請、株式交換・新設分割登記との違いを実務目線で整理します。
- 会社法925条は、株式移転により設立する株式会社の設立登記を定める条文です。
- 登記期限は、会社法925条各号で定める日のうち、必要なもののいずれか遅い日から2週間以内です。
- 起算点は、株主総会決議日、種類株主総会決議日、株式買取請求・新株予約権買取請求に関する通知公告から20日経過日、債権者保護手続終了日、会社が定めた日などを確認して決めます。
- 株式移転設立完全親会社は、その成立の日に、株式移転完全子会社の発行済株式の全部を取得します。
- 完全子会社側は原則として登記不要ですが、新株予約権に関する定めがある場合などは変更登記・同時申請を確認します。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法925条とは
会社法925条は、株式移転の登記を定める条文です。条文の中心は、株式移転により設立する株式会社について、本店所在地で設立登記をすることと、その期限を定めることにあります。
| 項目 | 会社法925条のポイント |
|---|---|
| 対象となる組織再編 | 株式移転 |
| 株式移転をする会社 | 一又は二以上の株式会社 |
| 登記対象 | 株式移転により設立する株式会社 |
| 登記の種類 | 設立の登記 |
| 登記場所 | 株式移転により設立する株式会社の本店所在地 |
| 期限 | 会社法925条各号で定める日のうち、いずれか遅い日から2週間以内 |
| 主な実務論点 | 起算点、設立登記、添付書面、完全子会社側の新株予約権変更登記、同時申請、効力発生との関係 |
会社法925条は、要するに、株式移転によって新しく設立される株式会社について、会社法925条各号で定める日のいずれか遅い日から2週間以内に、設立登記をすることを求める条文です。
会社法の最新条文は、e-Gov法令検索「会社法」で確認できます。
株式移転は新しい完全親会社を設立する手続
株式移転は、完全親子会社関係を作る組織再編の一つです。完全子会社となる株式会社の株主が保有する株式を、新たに設立される完全親会社に取得させることで、完全親会社が完全子会社の発行済株式の全部を取得します。
既存会社を完全親会社にする株式交換とは異なり、株式移転では完全親会社が新しく設立されます。そのため、会社法925条では、株式移転設立完全親会社の設立登記が中心になります。
株式移転完全子会社と株式移転設立完全親会社を分けて考える
株式移転では、既存会社である株式移転完全子会社と、新しく設立される株式移転設立完全親会社を区別します。会社法925条が直接定めるのは、株式移転設立完全親会社についての設立登記です。
もっとも、完全子会社側でも、新株予約権の消滅などにより登記事項の変更が生じる場合があります。その場合は、完全親会社の設立登記だけでなく、完全子会社側の変更登記も同時に確認する必要があります。
925条は株式移転手続全体ではなく登記段階の条文
会社法925条は、株式移転計画の内容、株主総会の承認、事前開示、反対株主の株式買取請求、債権者保護手続など、株式移転手続全体をまとめて定める条文ではありません。
925条は、これらの手続を踏まえたうえで、いつまでに、どの会社について、どの登記をすべきかを定める登記段階の条文です。株式移転の全体スケジュールでは、925条を登記期限管理の基準として位置づけます。
株式移転の登記で確認する会社と登記内容
株式移転の登記では、まず「誰の登記をするのか」を確認します。中心になるのは株式移転により設立する株式会社の設立登記ですが、完全子会社側の登記が全く問題にならないとは限りません。
| 区分 | 登記の基本 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 株式移転設立完全親会社 | 設立登記 | 商号、目的、本店、資本金、役員、公告方法、発行可能株式総数、新株予約権を発行する場合の事項などを確認する |
| 株式移転完全子会社 | 原則として変更登記不要 | 株主が完全親会社に変わるだけなら登記事項は通常変わらない |
| 完全子会社の新株予約権が関係する場合 | 変更登記が必要となる場合がある | 株式移転により完全子会社の新株予約権が消滅し、完全親会社の新株予約権を交付する場合などを確認する |
| 共同株式移転 | 各完全子会社の手続を横断管理 | 複数の株式会社が共同で株式移転をする場合、各社の承認・公告・買取請求・債権者保護手続の完了日を比較する |
完全親会社について設立登記をする
会社法925条の中心は、株式移転設立完全親会社の設立登記です。設立登記では、通常の株式会社設立と同様に、商号、目的、本店、資本金、役員、公告方法、発行可能株式総数などの登記事項を確認します。
ただし、株式移転による設立では、通常の発起設立・募集設立とは異なり、株式移転計画、完全子会社側の承認手続、買取請求、債権者保護手続、新株予約権の処理など、組織再編固有の書面と整合させる必要があります。株式会社の設立登記の基本は、【会社法911条】株式会社の設立の登記|条文の要点と実務ポイントも参考になります。
完全子会社側は原則として登記不要
株式移転では、完全子会社となる株式会社の株主が完全親会社に変わります。しかし、株主構成の変化自体は、通常、会社の登記事項ではありません。
そのため、完全子会社側では、株主が変わったことだけを理由に変更登記をする必要は通常ありません。株式移転登記の中心が、完全親会社の設立登記であるといわれるのはこのためです。
新株予約権がある場合は完全子会社側の変更登記を確認する
例外的に、株式移転完全子会社が新株予約権を発行しており、株式移転計画でその新株予約権者に完全親会社の新株予約権を交付する定めがある場合などには、完全子会社側で新株予約権の消滅に関する変更登記が問題になります。
この場合、完全親会社の設立登記だけでなく、完全子会社側の変更登記、同時申請、経由申請、添付書面を確認します。商業登記法の最新条文は、e-Gov法令検索「商業登記法」で確認できます。
登記期限は「いずれか遅い日」から2週間以内
会社法925条の実務で最も重要なのは、2週間期限の起算点です。条文は、複数の候補日のうち、いずれか遅い日から2週間以内に設立登記をしなければならないという構造をとっています。
| 号 | 起算点候補 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|---|
| 1号 | 会社法804条1項の株主総会の決議の日 | 株式移転計画を承認した株主総会の開催日を確認する |
| 2号 | 株式移転をするために種類株主総会の決議を要するときは、その決議の日 | 種類株式を発行している会社では、種類株主総会の要否を確認する |
| 3号 | 会社法806条3項の通知又は同条4項の公告をした日から20日を経過した日 | 反対株主の株式買取請求に関する通知・公告と20日経過日を確認する |
| 4号 | 会社法808条3項の通知又は同条4項の公告をした日から20日を経過した日 | 新株予約権買取請求の対象となる新株予約権者がいるかを確認する |
| 5号 | 会社法810条の手続をしなければならないときは、その手続が終了した日 | 債権者保護手続の要否、公告・催告、異議申述期間、異議対応を確認する |
| 6号 | 株式移転をする株式会社が定めた日 | 共同株式移転では、複数会社が合意で定めた日を確認する |
株主総会決議日だけで期限を決めない
株式移転では、完全子会社となる株式会社で株式移転計画の承認決議を行います。これが会社法925条1号の起算点候補です。
もっとも、株主総会決議日が最も遅い日になるとは限りません。反対株主対応、新株予約権者対応、債権者保護手続、会社が定めた日が後に来る場合は、その後の日から2週間を数えます。
種類株主総会が必要かを確認する
種類株式発行会社では、株式移転によってある種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合など、種類株主総会の決議が必要となることがあります。会社法925条2号は、この種類株主総会決議日を起算点候補にしています。
種類株式がある会社では、普通株主総会だけを見て登記期限を計算すると危険です。種類株主総会の要否、開催日、議事録、決議要件、定款の別段の定めを確認しましょう。
反対株主と新株予約権者への通知公告から20日経過日を確認する
株式移転では、反対株主による株式買取請求が問題になることがあります。この場合、会社法806条の通知又は公告から20日を経過した日が、会社法925条3号の起算点候補になります。
また、新株予約権者がいる場合には、新株予約権買取請求に関する通知又は公告から20日を経過した日も起算点候補になります。株式移転計画で新株予約権の処理をどう定めているかを確認する必要があります。
債権者保護手続が必要な場合は終了日を確認する
株式移転では、常に債権者保護手続が必要になるわけではありません。もっとも、新株予約権付社債などが関係し、会社法810条の手続が必要となる場合には、その手続が終了した日が起算点候補になります。
債権者保護手続では、公告・個別催告、異議申述期間、異議を述べた債権者への弁済・担保提供・信託、債権者を害するおそれがないことの確認などが問題になります。期間満了日だけでなく、実際に手続が終了した日を確認します。
会社が定めた日は共同株式移転で特に注意する
会社法925条6号は、株式移転をする株式会社が定めた日を起算点候補としています。二以上の株式会社が共同して株式移転をする場合は、その複数会社が合意により定めた日を確認します。
共同株式移転では、各社の株主総会、反対株主対応、新株予約権者対応、債権者保護手続の完了時期がずれやすくなります。会社が定めた日だけを見ず、すべての候補日の中で最後に到来する日を特定しましょう。
会社法925条の登記期限は、株式移転計画承認の株主総会決議日だけで決まるとは限りません。1号から6号までの起算点候補を表にし、最後に到来する日から2週間以内に設立登記を申請できるようにします。
株式移転の効力発生と設立登記の関係
株式移転では、設立登記と効力発生の関係が特に重要です。株式移転設立完全親会社は、その成立の日に、株式移転完全子会社の発行済株式の全部を取得します。
完全親会社の成立日が株式移転の実務上の基準になる
株式移転では、新しい完全親会社が成立することによって、完全親会社が完全子会社の発行済株式の全部を取得し、完全子会社の株主は完全親会社の株主となります。
会社の成立は設立登記と結び付くため、株式移転の実務では、設立登記をいつ申請し、いつ効力を発生させるかが重要です。登記申請の準備が遅れると、グループ再編の開始日、会計処理、株主管理、金融機関・取引先説明にも影響します。
計画書上の日と登記申請日を混同しない
株式移転計画には、効力発生を予定する日や会社が定めた日が記載されることがあります。しかし、計画書に日付を書いたからといって、登記申請の準備が不要になるわけではありません。
実務では、計画書上の日、925条6号の会社が定めた日、登記申請日、登記完了日、完全親会社の設立日、対外的な運用開始日を区別して管理します。特に、会計・税務・株主管理・許認可・金融機関説明では、どの日を基準にするかを事前に共有しておく必要があります。
登記が遅れると手続全体の信頼性に影響する
2週間期限を過ぎたことだけで、直ちに株式移転が常に無効になるわけではありません。しかし、登記義務違反、過料、登記簿と実体の不整合、関係者説明、金融機関・監査・税務対応への影響が生じ得ます。
株式移転は、グループ再編や持株会社化の中核手続として使われます。関係者が多く、対外説明も必要になりやすいため、登記期限を守ることは法令遵守だけでなく、取引先・金融機関・株主への説明の安定性にもつながります。
商業登記法上の添付書面で確認すること
株式移転による設立登記では、会社法925条だけでなく、商業登記法上の添付書面も確認する必要があります。商業登記法90条は、株式移転による設立登記の申請書に添付すべき書面を定めています。
| 書面・確認事項 | 確認ポイント |
|---|---|
| 株式移転計画書 | 完全親会社の基本事項、完全子会社、対価、新株予約権の処理、会社が定めた日などを確認する |
| 定款 | 株式移転により設立する完全親会社の定款を確認する |
| 完全親会社に関する設立書面 | 設立時役員の選任・就任承諾、印鑑証明書、本人確認証明書、会計参与・会計監査人関係書面などを確認する |
| 完全子会社の登記事項証明書 | 管轄区域内の場合や会社法人等番号の記載で省略できる場面を確認する |
| 完全子会社の承認手続書面 | 株主総会議事録、種類株主総会議事録、株主リストなどを確認する |
| 債権者保護手続書面 | 公告・催告、異議申述期間、異議を述べた債権者への対応を確認する |
| 株券・新株予約権証券関係書面 | 株券発行会社や新株予約権証券発行会社に該当する場合、提出公告等の要否を確認する |
| 委任状・印鑑関係 | 代理人申請、代表者印、印鑑届出、委任状、オンライン申請時の電子署名を確認する |
株式移転計画書と登記事項の整合を確認する
株式移転計画書は、登記申請の中心資料です。完全親会社の商号、目的、本店、発行可能株式総数、設立時役員、対価、新株予約権の処理、会社が定めた日などが、登記すべき事項や添付書面と整合しているかを確認します。
計画書と定款、株主総会議事録、役員就任承諾書、資本金計上書面、申請書の記載にずれがあると、補正やスケジュール遅延につながります。
完全親会社の設立書面は通常の設立登記と重なる
株式移転設立完全親会社の設立登記では、通常の株式会社設立登記と同様に、定款、設立時取締役・監査役等の就任承諾書、代表取締役の選定書、印鑑証明書、本人確認証明書などが問題になります。
一方で、通常の発起設立とは異なり、設立の原因が株式移転であるため、株式移転計画や完全子会社側の手続書面も必要になります。設立登記の基本と組織再編固有の書面を分けて管理すると、漏れを防ぎやすくなります。
完全子会社側の手続書面を軽く見ない
完全親会社の設立登記に意識が向きやすい一方、完全子会社側の株主総会議事録、種類株主総会議事録、株主リスト、債権者保護手続書面、株券・新株予約権証券の提出公告等関係書面が重要になることがあります。
株式移転は、完全子会社側の株主・新株予約権者・債権者の手続を前提として完全親会社を設立する仕組みです。完全親会社の書面だけがそろっていても、完全子会社側の手続証明が不足すれば登記申請は安定しません。
申請手続・添付書類・オンライン申請の基本も確認する
登記申請では、申請人、代理人、添付書面、原本還付、登録免許税、印鑑届出、電子署名、補正対応も問題になります。商業登記申請の基本は、商業登記の申請手続|申請人・添付書類・オンライン申請の基本で整理しています。
また、登記期間の基本的な考え方は、登記申請の期限(2週間・3週間)と起算点|登記の期間の考え方も確認してください。
同時申請・経由申請・管轄の考え方
株式移転では、完全親会社の設立登記が中心ですが、完全子会社側の変更登記が必要になる場合には、同時申請と経由申請を確認します。
完全親会社の本店所在地を管轄する登記所が中心になる
会社法925条は、株式移転により設立する株式会社について、その本店所在地で設立登記をすることを定めています。したがって、完全親会社の本店所在地をどこに置くかは、登記申請先やスケジュール管理に影響します。
完全親会社の本店所在地、設立時役員の所在、印鑑届出、申請人、登記代理人、補正対応の窓口を早めに整理しておくと、登記申請時の混乱を防げます。
完全子会社側の変更登記が必要な場合は同時申請を確認する
完全子会社側で新株予約権の消滅などに関する変更登記が必要になる場合、その変更登記と完全親会社の設立登記は同時に申請する必要があります。
同時申請は、単に同じ日に書類を出すという意味だけではありません。完全親会社側と完全子会社側の申請書、添付書面、押印、委任状、管轄、登録免許税、補正対応を一体で準備する必要があります。
管轄が異なる場合は経由申請を確認する
完全子会社側の変更登記が必要となる場合で、完全子会社の本店所在地を管轄する登記所の管轄区域内に完全親会社の本店がないときは、完全親会社の本店所在地を管轄する登記所を経由する取扱いを確認します。
管轄が異なる案件では、提出先、申請書の記載、補正対応、登記完了予定日が通常の単独登記と異なりやすくなります。株式移転計画の段階で、完全親会社の本店所在地と完全子会社の本店所在地を並べて確認しましょう。
株式移転では完全親会社の設立登記だけに目が向きがちです。しかし、完全子会社側の新株予約権変更登記が必要な場合は、同時申請・経由申請が問題になります。新株予約権の有無と株式移転計画の定めを早い段階で確認しましょう。
株式移転登記と他の組織再編登記の違い
株式移転登記は、他の組織再編登記と似ているようで、登記対象と効力発生の考え方が異なります。特に、株式交換、新設分割、新設合併との違いを押さえると整理しやすくなります。
| 条文 | 対象 | 登記の基本構造 |
|---|---|---|
| 会社法921条・922条 | 吸収合併・新設合併 | 消滅会社の解散登記と、存続会社の変更登記又は新設会社の設立登記 |
| 会社法923条 | 吸収分割 | 分割会社と承継会社の双方の変更登記 |
| 会社法924条 | 新設分割 | 分割会社の変更登記と、新設分割設立会社の設立登記 |
| 会社法925条 | 株式移転 | 株式移転により設立する株式会社の設立登記 |
| 会社法926条〜929条 | 解散・継続・清算人・清算結了 | 解散・清算段階の開始、継続、清算人、清算終了を公示する登記 |
株式交換との違い
株式交換は、既存会社が完全親会社となり、完全子会社となる株式会社の発行済株式の全部を取得する手続です。株式交換では、既存の完全親会社側で変更登記が問題になることがあります。
これに対し、株式移転では、完全親会社が新しく設立されます。そのため、会社法925条では、株式移転設立完全親会社の設立登記が中心になります。
新設分割との違い
新設分割では、事業に関する権利義務を新しく設立する会社へ承継させます。そのため、分割会社側の変更登記と、新設分割設立会社側の設立登記が問題になります。
株式移転では、事業そのものを承継させるのではなく、完全親会社が完全子会社の発行済株式の全部を取得します。完全子会社側の株主が変わるだけであれば、完全子会社側の変更登記は通常不要です。新設分割の登記は、【会社法924条】新設分割の登記|条文の要点と実務ポイントで整理しています。
新設合併との違い
新設合併では、合併により消滅する会社について解散登記をし、新設合併により設立する会社について設立登記をします。消滅会社が存在する点が特徴です。
株式移転では、完全子会社となる株式会社は通常そのまま存続します。株式移転により完全親会社が設立されても、完全子会社は消滅しないため、解散登記をするわけではありません。
株式移転登記でミスが起きやすいポイント
株式移転登記では、設立登記の準備だけでなく、起算点、新株予約権、債権者保護手続、共同株式移転、登記後の実務対応でミスが起きやすいです。
会社法925条の起算点を1つだけで判断する
株式移転登記の期限は、株主総会決議日だけで決まるとは限りません。種類株主総会、株式買取請求、新株予約権買取請求、債権者保護手続、会社が定めた日を含めて、いずれか遅い日を確認します。
新株予約権の有無を確認しない
完全子会社が新株予約権を発行している場合、株式移転計画で新株予約権者に完全親会社の新株予約権を交付するかどうかを確認する必要があります。
この確認を怠ると、完全子会社側の変更登記、完全親会社側の新株予約権に関する登記事項、同時申請、添付書面を見落とすおそれがあります。
債権者保護手続は常に不要だと思い込む
株式移転では、債権者保護手続が不要なケースも多いですが、常に不要と決めつけるのは危険です。新株予約権付社債などが関係する場合には、会社法810条の手続が問題になります。
債権者保護手続が必要な場合、その終了日が会社法925条5号の起算点候補になります。公告・催告・異議申述期間を登記スケジュールに反映しましょう。
共同株式移転で各社の手続完了日を横断管理しない
複数の株式会社が共同して株式移転をする場合、各社の株主総会、反対株主対応、新株予約権者対応、債権者保護手続の完了日が異なることがあります。
1社だけのスケジュールを見て登記予定日を決めると、他社側の手続が終わっていないため申請できない、又は925条の起算点を誤るおそれがあります。
登記後の株主管理・許認可・金融機関対応を後回しにする
株式移転は、持株会社化やグループ再編で使われることが多く、登記後も株主名簿、株券・新株予約権、金融機関、取引先、許認可、税務・会計、社内規程、役員体制などの切替対応が必要になります。
登記が完了しても、グループ運営の実務が自動的に整うわけではありません。登記前から、登記後のタスク一覧を作成しておくことが重要です。
株式移転では、設立登記が大きな節目になりますが、登記後の株主管理、会計税務、金融機関、許認可、契約、社内規程の切替対応は別途必要です。会社法925条の期限管理と、登記後の実務タスクを分けて管理しましょう。
会社法925条の実務チェックリスト
株式移転登記を進める際は、次の順に確認すると漏れを防ぎやすくなります。
株式移転計画作成時に確認すること
- 株式移転をする会社が一社か、複数会社の共同株式移転かを確認する。
- 株式移転設立完全親会社の商号、目的、本店、発行可能株式総数、資本金、役員、公告方法を整理する。
- 完全子会社の新株予約権・新株予約権付社債の有無を確認する。
- 会社法925条6号の会社が定めた日を置くか、共同株式移転ではどの会社が合意するかを確認する。
- 登記予定日、会計税務上の処理日、社内運用開始日、取引先説明日を分けて管理する。
承認・公告段階で確認すること
- 会社法804条1項の株主総会決議日を確認する。
- 種類株主総会の要否、決議日、議事録を確認する。
- 反対株主の株式買取請求に関する通知又は公告と20日経過日を確認する。
- 新株予約権者への通知又は公告と20日経過日を確認する。
- 債権者保護手続の要否、公告・催告、異議申述期間、異議対応、手続終了日を確認する。
登記申請時に確認すること
- 会社法925条各号の起算点候補のうち、いずれか遅い日を特定する。
- その日から2週間以内に完全親会社の設立登記を申請できるか確認する。
- 株式移転計画書、定款、設立時役員関係書面、完全子会社側の承認手続書面、債権者保護手続書面を確認する。
- 完全子会社側の新株予約権変更登記が必要か、必要な場合は同時申請・経由申請を確認する。
- 登記完了後の株主管理、金融機関、許認可、会計税務、社内規程、取引先説明を別途管理する。
会社法925条に関するよくある質問
会社法925条は何を定める条文ですか
会社法925条は、株式移転により設立する株式会社について、本店所在地で設立登記をすることと、その登記期限を定める条文です。
株式移転の登記はいつまでに申請する必要がありますか
会社法925条各号で定める日のうち、必要なもののいずれか遅い日から2週間以内です。株主総会決議日だけでなく、種類株主総会、株式買取請求、新株予約権買取請求、債権者保護手続、会社が定めた日を確認します。
株式移転完全子会社側でも登記が必要ですか
株主が完全親会社に変わるだけであれば、完全子会社側の変更登記は通常不要です。ただし、完全子会社の新株予約権が株式移転により消滅する場合など、登記事項に変更が生じるときは変更登記が必要になることがあります。
株式移転の効力はいつ生じますか
株式移転設立完全親会社は、その成立の日に、完全子会社の発行済株式の全部を取得します。実務上は、完全親会社の設立登記日と効力発生・運用開始の関係を慎重に管理します。
債権者保護手続は株式移転で常に必要ですか
常に必要とは限りません。もっとも、新株予約権付社債などが関係し、会社法810条の手続が必要となる場合があります。必要な場合は、債権者保護手続の終了日が会社法925条5号の起算点候補になります。
共同株式移転では登記期限をどう考えますか
複数の株式会社が共同して株式移転をする場合、各会社の手続完了日を横断的に整理し、会社法925条各号の候補日のうち最後に到来する日を基準に2週間期限を計算します。
株式交換の登記とは何が違いますか
株式交換では既存会社が完全親会社となるため、既存会社側の変更登記が中心になります。株式移転では新しい完全親会社を設立するため、会社法925条に基づく設立登記が中心になります。
新設分割の登記とは何が違いますか
新設分割では、事業に関する権利義務を新設会社へ承継させるため、分割会社の変更登記と新設会社の設立登記が問題になります。株式移転では、完全親会社が完全子会社の株式を取得する手続であり、完全子会社が通常そのまま存続する点が異なります。
登記期限を過ぎると株式移転は無効になりますか
期限徒過だけで、直ちに株式移転が常に無効になるわけではありません。ただし、登記義務違反、過料、登記簿と実体のずれ、金融機関・株主・取引先への説明への影響が生じ得ます。期限徒過に気付いた場合は、速やかに登記申請の準備を進めるべきです。
まとめ
会社法925条は、株式移転により設立する株式会社について、会社法925条各号で定める日のいずれか遅い日から2週間以内に、設立登記をすることを定める条文です。
- 会社法925条は、株式移転設立完全親会社の設立登記を定めています。
- 登記期限は、株主総会決議日だけでなく、種類株主総会、株式買取請求、新株予約権買取請求、債権者保護手続、会社が定めた日を含めて判断します。
- 完全親会社は、その成立の日に、完全子会社の発行済株式の全部を取得します。
- 完全子会社側は原則として登記不要ですが、新株予約権に関する変更登記が必要になる場合があります。
- 株式移転登記では、設立登記、添付書面、同時申請、経由申請、登記後のグループ運営切替を一体で管理することが重要です。
株式移転は、持株会社化やグループ再編で使われる重要な組織再編手法です。会社法925条の2週間期限だけでなく、株式移転計画、株主・新株予約権者・債権者対応、完全親会社の設立登記、完全子会社側の変更登記の要否、登記後の会計税務・許認可・金融機関対応まで含めてスケジュールを組みましょう。
坂尾陽弁護士
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