会社法937条・938条は、裁判所の判断を会社登記に反映させるために、裁判所書記官が登記所へ登記を嘱託する場面を定める条文です。通常の変更登記では会社側が登記申請を行いますが、会社訴訟の判決確定や特別清算開始など、裁判の結果を登記簿に反映すべき場面では、裁判所書記官の職権による登記嘱託が問題になります。
この条文は、日常的な会社運営で頻繁に使う条文ではありません。しかし、株主総会決議の不存在・無効・取消し、組織再編の無効、会社の解散命令、外国会社の取引継続禁止、特別清算の開始・終結など、会社の法的状態に大きな影響を与える場面で登場します。
この記事では、会社法937条・938条について、どのような裁判・判決・決定が登記嘱託の対象になるのか、会社側で何を確認すべきか、通常の登記申請や特別清算の登記とどのように区別すべきかを整理します。
- 会社法937条は、会社訴訟、裁判所による一時役員等の選任、会社の解散命令、外国会社に対する裁判、組織再編無効判決などを登記に反映させるための規定です。
- 会社法938条は、特別清算に関する裁判を登記に反映させるための特則です。
- 登記嘱託は、会社が自ら申請する通常の変更登記とは異なり、裁判所書記官が職権で登記所に嘱託する点が特徴です。
- もっとも、会社側では、判決・決定の確定時期、登記簿への反映、登録免許税等の費用、関連する社内手続を確認する必要があります。
- 裁判所が関与する登記でも、すべてが嘱託登記になるわけではないため、申請登記と嘱託登記を切り分けて管理することが重要です。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法937条・938条とは
会社法937条・938条は、会社法第7編第4章「登記」の第4節「登記の嘱託」に置かれている規定です。会社法907条以下が会社の登記全般を定める中で、937条・938条は、会社が登記申請人になる通常の登記とは異なり、裁判所書記官が登記所へ登記を嘱託する場合を扱います。
| 条文 | テーマ | 主な対象場面 |
|---|---|---|
| 会社法937条 | 裁判による登記の嘱託 | 会社訴訟の認容判決、一時役員等の選任、会社の解散命令、外国会社の取引継続禁止・営業所閉鎖、組織再編無効判決など |
| 会社法938条 | 特別清算に関する裁判による登記の嘱託 | 特別清算開始、開始取消し、特別清算終結、一時清算人等、保全処分、登録・登記のある権利に関する処分など |
会社の登記は、商号、本店、役員、資本、組織再編、清算など、会社の外部的な状態を公示する制度です。裁判によってその状態が変動した場合、登記簿の記録も裁判の結果に合わせて整える必要があります。
通常の登記制度の全体像は、会社の登記とは|登記の効力・対抗要件・登記漏れのリスクを整理、登記通則は【会社法907条〜910条】会社法上の登記の通則・効力・変更登記・期間|条文の要点と実務ポイントで整理しています。本記事では、裁判所書記官による嘱託登記に絞って説明します。
会社法の現行条文は、e-Gov法令検索「会社法」で確認できます。
登記嘱託は、会社側の登記申請とは別のルートで登記簿が変わる仕組みです。訴訟や特別清算の担当者は、判決・決定の内容だけでなく、登記簿への反映状況、反映後に必要な社内外への説明、関連する通常の登記申請の有無まで確認しましょう。
条文の要点
会社法937条・938条を読むときは、まず「どの裁判をきっかけに」「どこの登記所へ」「誰が」「どの登記を」行うのかを分解すると理解しやすくなります。
会社法937条の基本構造
会社法937条1項は、一定の訴えに係る請求を認容する判決が確定した場合、一定の裁判があった場合、又は一定の裁判が確定した場合に、裁判所書記官が職権で遅滞なく会社の本店所在地を管轄する登記所に登記を嘱託することを定めています。
同条2項は、外国会社について、日本における取引継続の禁止又は営業所閉鎖を命ずる裁判が確定した場合の登記嘱託を定めています。
同条3項は、組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付の無効判決が確定した場合に、関係会社ごとに必要な登記を嘱託することを定めています。
会社法937条は、1つの単純な登記だけを定める条文ではありません。会社訴訟、役員・清算人に関する裁判、外国会社、組織再編の無効判決など、複数の場面をまとめて扱う「裁判と登記をつなぐ条文」と理解すると整理しやすくなります。
会社法938条の基本構造
会社法938条1項は、特別清算開始の命令、特別清算開始命令の取消決定の確定、特別清算終結決定の確定について、裁判所書記官が清算株式会社の本店所在地を管轄する登記所へ登記を嘱託することを定めています。
同条2項は、特別清算開始後の一時清算人・代表清算人の職務を行うべき者、清算人・代表清算人に関する一定の裁判を登記に反映させる規定です。
同条3項以下は、登記又は登録のある権利に関する保全処分と、その変更・取消し・失効などを登記又は登録に反映させる規定です。
特別清算は、清算株式会社について裁判所の監督のもとで進む手続です。特別清算開始や終結は、会社の対外的な信用や取引関係に大きな影響を与えるため、裁判所の判断が登記簿にも反映される仕組みになっています。
「申請」と「嘱託」の違い
通常の変更登記では、会社、清算人、代表者などの申請人が、登記申請書と添付書面を用意して登記所へ申請します。これに対し、会社法937条・938条の登記嘱託では、裁判所書記官が職権で登記所に対して登記を依頼します。
| 区分 | 通常の登記申請 | 裁判による登記嘱託 |
|---|---|---|
| 手続主体 | 会社、代表者、清算人などの申請人 | 裁判所書記官 |
| きっかけ | 会社内部の決議、効力発生日、就任・退任など | 判決の確定、裁判、決定、特別清算手続など |
| 会社側の主な対応 | 申請書・添付書面・登録免許税を準備して申請する | 判決・決定の確定、嘱託対象、費用、登記反映状況を確認する |
| 注意点 | 登記期間の管理が重要 | 会社が申請しないからといって、登記後の実務確認が不要になるわけではない |
裁判所が関与しているからといって、関連する登記がすべて嘱託で完結するとは限りません。たとえば、通常の清算人登記、清算結了登記、役員変更登記など、会社側で別途申請すべき登記が残ることがあります。
会社法937条で登記嘱託の対象になる場面
会社法937条は、裁判によって会社の登記事項に影響が出る典型場面を広く拾っています。実務では、条文上の列挙を暗記するより、次の4つのグループで整理すると見通しがよくなります。
| グループ | 対象になる場面 | 実務上の見方 |
|---|---|---|
| 会社訴訟の判決確定 | 設立無効、新株発行無効、株主総会決議不存在・無効・取消し、会社解散の訴えなど | 登記済みの事項を判決に合わせて抹消・変更・反映する |
| 役員・清算人等に関する裁判 | 一時取締役、一時代表取締役、一時清算人、清算人解任など | 会社の代表・業務執行・清算体制を登記に反映する |
| 外国会社に関する裁判 | 日本での取引継続禁止、営業所閉鎖命令 | 外国会社登記に裁判結果を反映する |
| 組織再編等の無効判決 | 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付の無効 | 変更登記、解散登記、回復登記などを組み合わせて反映する |
会社訴訟の認容判決が確定した場合
937条1項1号は、会社の設立無効、新株発行無効、新株予約権発行無効、資本金減少無効、株式発行不存在確認、新株予約権発行不存在確認、株主総会等の決議不存在・無効・取消し、持分会社設立取消し、会社解散の訴え、役員解任の訴え、持分会社社員の除名の訴えなどを列挙しています。
これらの訴えで請求を認容する判決が確定すると、裁判の内容に応じて登記簿の記録を修正する必要が生じます。特に、株主総会決議に基づいて役員変更、商号変更、本店移転、目的変更などが登記されている場合、決議の不存在・無効・取消しの判決が確定すると、その登記をどのように扱うかが問題になります。
東京地方裁判所民事第8部も、会社法937条に掲げる事項について請求を認容する判決が確定し、当該事項が登記されている場合には、速やかに登記を抹消等するため職権で登記嘱託を行う旨を案内しています。実務上は、判決確定後に登記簿がどう変わるかを事前に想定しておくことが重要です。必要に応じて、東京地方裁判所民事第8部の登記嘱託に関する案内も確認してください。
一時役員・一時清算人等に関する裁判があった場合
937条1項2号は、一時取締役、一時会計参与、一時監査役、一時代表取締役、委員会設置会社の委員、一時執行役、一時代表執行役、一時清算人、一時代表清算人の職務を行うべき者などに関する裁判を扱います。
たとえば、代表取締役が欠けたまま会社が緊急に法律行為をする必要がある場合や、清算手続で清算人の体制に問題がある場合には、裁判所が一時的に職務を行う者を選任することがあります。こうした裁判は、会社の代表権や業務執行に影響するため、登記簿にも反映されます。
職務執行停止や職務代行者に関する登記との関係は、【会社法916条・917条】本店移転・職務執行停止仮処分等の登記|条文の要点と実務ポイントもあわせて確認すると整理しやすくなります。
会社の解散命令が確定した場合
937条1項3号は、清算人の解任裁判を取り消す裁判のほか、会社法824条1項による会社の解散を命ずる裁判が確定した場合を扱います。会社の解散命令が確定すると、登記簿上も会社が解散した状態を示す必要があるため、登記嘱託の対象になります。
解散後は、清算人の就任、清算事務、債権者保護、清算結了など、別の登記や手続が続くことがあります。解散・継続・清算人・清算結了の通常の登記は、【会社法926条〜929条】解散・継続・清算人・清算結了の登記|条文の要点と実務ポイントで整理しています。
外国会社に対する取引継続禁止・営業所閉鎖命令
937条2項は、外国会社について、日本における取引の継続を禁止する裁判又は営業所閉鎖を命ずる裁判が確定した場合を定めています。日本に営業所を設けていない外国会社では日本における代表者の住所地、日本に営業所を設けている外国会社では営業所所在地を管轄する登記所へ登記が嘱託されます。
外国会社の登記全体は、外国会社の登記とは|日本進出(継続取引)に必要な手続と注意点、条文上の登記は【会社法933条〜936条】外国会社の登記|条文の要点と実務ポイントで確認できます。
組織再編等の無効判決が確定した場合
937条3項は、組織変更、吸収合併、新設合併、吸収分割、新設分割、株式交換、株式移転、株式交付の無効の訴えで請求認容判決が確定した場合を扱います。
組織再編の無効判決が確定すると、効力発生後に作られた登記状態を、判決の効果に合わせて整理する必要があります。そのため、条文は、組織変更後会社の解散登記と組織変更前会社の回復登記、合併存続会社の変更登記と消滅会社の回復登記、新設会社の解散登記、株式交付親会社の変更登記など、再編類型ごとに登記の組み合わせを定めています。
組織再編の通常の登記は、【会社法920条】組織変更の登記|条文の要点と実務ポイント、【会社法921条・922条】合併の登記|吸収合併・新設合併の条文の要点と実務ポイント、【会社法923条】吸収分割の登記|条文の要点と実務ポイント、【会社法924条】新設分割の登記|条文の要点と実務ポイント、【会社法925条】株式移転の登記|条文の要点と実務ポイントで確認できます。
会社法938条で登記嘱託の対象になる特別清算の場面
会社法938条は、特別清算に関する裁判による登記嘱託を定めます。937条が会社訴訟や組織再編など広い場面を扱うのに対し、938条は清算株式会社の特別清算手続に焦点を当てた規定です。
特別清算開始・取消し・終結の登記
938条1項は、特別清算開始の命令があったとき、特別清算開始の命令を取り消す決定が確定したとき、特別清算終結の決定が確定したときに、それぞれ対応する登記を嘱託することを定めています。
| 場面 | 嘱託される登記 | 会社側で確認すること |
|---|---|---|
| 特別清算開始の命令 | 特別清算開始の登記 | 開始命令の内容、関係者への説明、取引停止・支払管理、債権者対応 |
| 特別清算開始命令の取消決定が確定 | 特別清算開始の取消しの登記 | 取消決定の確定日、登記簿への反映、通常清算へ戻るのか別手続へ進むのか |
| 特別清算終結決定が確定 | 特別清算終結の登記 | 終結決定の確定、登記簿反映、債権者・取引先・金融機関への説明 |
特別清算開始の登記が入ると、会社の登記簿を見た第三者にも、会社が通常の清算ではなく特別清算手続に入っていることが分かります。取引先、金融機関、債権者への説明では、裁判所の決定内容と登記簿の記載を整合させて説明する必要があります。
特別清算開始後の一時清算人等に関する登記
938条2項は、特別清算開始後における一時清算人又は代表清算人の職務を行うべき者の選任、その取消し、清算人又は代表清算人の選任・選定の裁判を取り消す裁判、清算人解任の裁判、その取消しなどを扱います。
特別清算では、誰が清算株式会社を代表し、誰が清算事務を行うのかが重要です。清算人・代表清算人の体制に関する裁判があると、対外的な代表権や清算事務の進め方に影響するため、登記簿にも反映されます。
938条2項は、通常清算の清算人登記をすべて嘱託にする規定ではありません。特別清算開始後の一定の裁判を登記に反映させる規定として読み、通常の清算人登記や代表清算人登記と分けて管理しましょう。
保全処分に関する登記・登録
938条3項以下は、清算株式会社の財産に属する登記された権利や、登記・登録のある権利について保全処分があった場合に、その保全処分を登記又は登録に反映させる規定です。保全処分の変更、取消し、効力喪失についても同様に扱われます。
この部分は、不動産、知的財産権その他の登記・登録制度と接続するため、会社登記だけを見ていても全体像を把握できないことがあります。特別清算の手続担当者は、会社登記簿だけでなく、対象財産ごとの登記・登録の有無を確認する必要があります。
外国会社財産の清算への準用
938条6項は、性質上許されないものを除き、会社法822条1項による日本にある外国会社の財産についての清算にも、938条の規定を準用すると定めています。外国会社の清算は、会社の本国法、日本における営業所や代表者、国内財産の所在が絡むため、登記嘱託の対象になる事項を個別に確認する必要があります。
外国会社の清算や登記は、【会社法821条・822条・823条】擬似外国会社・外国会社の清算等|条文の要点と実務ポイント、【会社法933条〜936条】外国会社の登記|条文の要点と実務ポイントもあわせて確認してください。
裁判による登記嘱託で会社側が確認すべき実務ポイント
裁判による登記嘱託は、会社が登記申請書を提出する通常の登記と比べると、会社側の作業が見えにくくなりがちです。しかし、登記簿の記録が変わる以上、会社側でも確認すべき事項は少なくありません。
判決・決定の確定時期を確認する
937条・938条には、「判決が確定したとき」「裁判があったとき」「裁判が確定したとき」など、登記嘱託のきっかけが異なる表現で定められています。判決や決定が出た日と、確定した日は同じとは限りません。
登記嘱託の時期、登記簿への反映時期、関係者への説明時期を管理するには、判決書・決定書の内容だけでなく、確定証明、抗告期間、即時抗告の有無なども確認する必要があります。
登記簿への反映を確認する
裁判所書記官が登記嘱託を行っても、会社側では登記事項証明書や登記情報で実際の反映状況を確認することが重要です。とくに、取引先、金融機関、行政機関、許認可窓口に説明する必要がある場合は、口頭説明だけでなく、最新の登記事項証明書を取得して確認します。
登記申請手続や登記事項証明書の確認は、商業登記の申請手続|申請人・添付書類・オンライン申請の基本も参考になります。
登録免許税等の費用を見落とさない
登記嘱託は裁判所書記官が職権で行う手続ですが、登記嘱託に必要な登録免許税等の費用が問題になることがあります。会社訴訟で勝訴判決が確定した側でも、嘱託に必要な費用、登記後の証明書取得費用、社内外の説明費用を見込んでおくと実務が進めやすくなります。
関連する通常の登記申請を洗い出す
裁判による登記嘱託で一部の登記が反映されても、関連するすべての登記が自動的に整理されるとは限りません。会社側で別途、変更登記、役員変更登記、清算人登記、支店・本店関係の登記、公告方法や登録情報の更新を行う必要がないかを確認します。
変更登記の基本は、【会社法915条】変更の登記|条文の要点と実務ポイント、登記期間の考え方は登記申請の期限(2週間・3週間)と起算点|登記の期間の考え方で整理しています。
社内資料・契約書・対外説明を更新する
登記簿が変わった後は、定款、株主名簿、役員名簿、社内規程、印鑑届、金融機関届出、契約書、請求書、会社概要資料、ウェブサイト表示などの更新が必要になることがあります。特に、役員・代表者・清算人・本店・組織再編の効力に関係する登記では、登記簿と社内資料の不一致が取引上の混乱を招くことがあります。
裁判によって登記が変更された場合、取引先から「なぜ登記が変わったのか」「過去の契約はどうなるのか」「誰が代表者なのか」と確認されることがあります。判決・決定、登記事項証明書、社内決裁資料を整理して、説明できる状態にしておきましょう。
会社訴訟・組織再編で特に注意するポイント
937条が問題になる会社訴訟や組織再編無効の場面では、登記嘱託だけでなく、裁判の効力が会社関係者にどのように及ぶかが重要です。本記事では登記に絞りますが、登記実務だけでも次の点は確認しておく必要があります。
株主総会決議に基づく登記は取消し・無効判決後の処理を想定する
株主総会決議に基づいて役員変更、本店移転、商号変更、目的変更、資本関係の変更などが登記されている場合、決議不存在・無効・取消しの判決が確定すると、その登記が抹消又は変更される可能性があります。
会社側では、争われている決議に基づいてどの登記がされたのか、同じ事項について後続の登記があるか、判決確定後に現在の登記をどう整えるべきかを時系列で整理する必要があります。
組織再編無効では複数会社の登記が連動する
合併、会社分割、株式交換、株式移転などの無効判決が確定すると、1社だけでなく複数の会社の登記が連動して変わることがあります。吸収合併では存続会社と消滅会社、新設合併では新設会社と消滅会社、会社分割では分割会社と承継会社又は設立会社の登記を確認する必要があります。
実務では、登記簿の修正だけでなく、財産移転、契約承継、許認可、税務、会計、従業員対応なども問題になります。登記嘱託はそのうち登記簿上の反映を担う制度であり、再編全体の後処理をすべて解決するものではありません。
判決確定前の説明と登記簿の表示を区別する
訴訟で争われている間も、登記簿には従前の登記が残っていることがあります。判決が出ても、確定前であれば登記嘱託の対象にならないものもあります。そのため、社内外の説明では「現在の登記簿上の表示」「裁判で争われている内容」「判決・決定の状態」「今後見込まれる登記変更」を分けて説明することが重要です。
登記嘱託後の再登記・追加登記を確認する
裁判による登記嘱託で登記簿が修正された後、会社が新たに決議や選任を行い、通常の変更登記を申請する必要が生じることがあります。たとえば、役員解任や一時役員に関する登記の後に、正式な役員選任登記を行う必要がある場合などです。
登記嘱託で完了した事項と、会社が追加で申請すべき事項を分けるため、裁判後の登記チェックリストを作ると漏れを減らしやすくなります。
特別清算で特に注意するポイント
938条は特別清算に特化した規定です。特別清算では、通常清算と異なり、裁判所の監督のもとで手続が進むため、裁判所の決定と登記簿の記録を並行して管理する必要があります。
特別清算開始の登記は対外的な影響が大きい
特別清算開始の登記がされると、会社が裁判所の関与する清算手続に入ったことが登記簿上明らかになります。債権者、取引先、金融機関、保証人、親会社・グループ会社に対しては、特別清算の目的、今後の弁済方針、債権届出や協定案の見通しなどを整理して説明する必要があります。
通常清算の登記と特別清算の登記を混同しない
会社の解散、清算人の登記、清算結了の登記は、通常清算でも問題になります。一方、特別清算開始、特別清算開始取消し、特別清算終結は、938条で裁判所書記官の嘱託登記として扱われます。
同じ清算手続の中でも、会社が申請する登記と、裁判所書記官が嘱託する登記が併存することがあります。清算人、弁護士、司法書士、経理担当者の間で、どの登記を誰が進めるかを明確にしておくことが重要です。
清算人・代表清算人の権限を確認する
特別清算開始後に清算人・代表清算人に関する裁判がある場合、その内容が登記に反映されることがあります。会社側では、現在誰が会社を代表できるのか、裁判所の決定により一時的に職務を行う者がいるのか、従前の清算人の権限に制限があるのかを確認します。
代表権の確認を誤ると、契約、弁済、財産処分、訴訟対応、金融機関手続で問題が生じることがあります。特別清算中は、登記簿だけでなく、裁判所の決定書、清算人会・株主総会関係資料、債権者との協議状況も合わせて確認します。
保全処分がある場合は財産ごとの登記・登録を確認する
938条3項以下の保全処分は、会社登記簿だけで完結しないことがあります。不動産、船舶、知的財産権、その他登録制度のある権利について保全処分が行われた場合、その権利ごとの登記・登録に反映される可能性があります。
特別清算では、会社の本店登記だけでなく、重要財産ごとの登記・登録情報を一覧化し、保全処分の有無、変更、取消し、効力喪失の反映を確認することが実務上重要です。
会社法937条・938条に関するよくある質問
会社法937条は何を定めていますか
会社法937条は、会社訴訟の認容判決、一定の裁判、一時役員等に関する裁判、外国会社に関する裁判、組織再編等の無効判決などを、裁判所書記官が登記所へ嘱託して登記に反映させる制度を定めています。
会社法938条は何を定めていますか
会社法938条は、特別清算に関する裁判による登記嘱託を定めています。特別清算開始、開始取消し、特別清算終結、特別清算開始後の一時清算人等、保全処分に関する登記・登録などが対象になります。
登記嘱託とは何ですか
登記嘱託とは、会社や代表者が登記申請をするのではなく、裁判所書記官などの嘱託権限を有する機関が登記所に登記を依頼する手続です。会社法937条・938条では、裁判所書記官が職権で遅滞なく登記を嘱託することが定められています。
会社は登記申請をしなくてよいのですか
937条・938条の対象となる登記自体は、裁判所書記官の嘱託で行われます。ただし、会社側で何もしなくてよいという意味ではありません。判決・決定の確定、登記反映、費用、関連する通常の登記申請、社内資料更新を確認する必要があります。
登記嘱託でも登録免許税はかかりますか
登記嘱託に必要な登録免許税等の費用が発生することがあります。具体的な費用負担や納付方法は、裁判所の案内、事件の内容、登記の種類により確認が必要です。
株主総会決議取消判決が確定すると必ず登記嘱託されますか
株主総会等の決議に関する訴えについては、決議した事項について登記があった場合が重要です。決議に基づく登記があると、判決確定後にその登記を抹消・修正する必要が生じるため、937条の登記嘱託が問題になります。
組織再編の無効判決ではどの登記がされますか
組織再編の類型により異なります。組織変更では解散登記と回復登記、合併では変更登記や回復登記、新設合併・新設分割・株式移転では新設会社の解散登記などが問題になります。937条3項は、再編類型ごとに必要な登記の組み合わせを定めています。
特別清算開始の登記は会社が申請しますか
特別清算開始の命令があったときは、938条1項により、裁判所書記官が職権で清算株式会社の本店所在地を管轄する登記所に特別清算開始の登記を嘱託します。ただし、清算人登記など別途会社側の申請が必要な登記が残る場合があります。
特別清算終結の決定が確定したら何を確認すべきですか
特別清算終結の登記が登記簿に反映されたか、債権者・取引先・金融機関への説明が完了しているか、通常の清算結了や税務・会計上の整理との関係に漏れがないかを確認します。
裁判所が関与する登記と通常の登記申請をどう管理すべきですか
まず、裁判所書記官の嘱託で行われる登記と、会社が申請すべき登記を一覧化します。そのうえで、判決・決定の時期、確定日、登記反映日、費用、取得すべき証明書、社内外への通知先を時系列で管理すると、漏れを減らしやすくなります。
登記嘱託後に登記事項証明書を取る必要はありますか
実務上は、登記嘱託が行われた後に最新の登記事項証明書又は登記情報で反映状況を確認するのが安全です。取引先や金融機関に説明する場合、口頭説明だけでなく登記事項証明書を用意した方が誤解を防ぎやすくなります。
まとめ
会社法937条・938条は、裁判の結果を会社登記に反映させるための登記嘱託の規定です。通常の登記申請と異なり、裁判所書記官が職権で登記所へ嘱託する点が特徴ですが、会社側でも判決・決定、確定時期、費用、登記簿への反映、関連する通常の登記申請を確認する必要があります。
- 937条は、会社訴訟、役員・清算人等に関する裁判、外国会社、組織再編等の無効判決を登記に反映させる規定です。
- 938条は、特別清算開始・取消し・終結、特別清算開始後の清算人等、保全処分などを登記・登録に反映させる特則です。
- 登記嘱託では裁判所書記官が職権で登記所へ嘱託しますが、会社側の実務確認が不要になるわけではありません。
- 判決・決定の日と確定日を区別し、登記簿への反映状況を登記事項証明書などで確認することが重要です。
- 登記嘱託で完了する事項と、会社が別途申請すべき登記を切り分けて管理しましょう。
会社法937条・938条は、通常時には目立たない条文ですが、会社訴訟、組織再編無効、外国会社の裁判、特別清算では、登記簿の状態を正しく整えるために重要な役割を持ちます。裁判対応と登記対応を分けて考えず、判決・決定後の登記実務まで見通して準備することが大切です。
坂尾陽弁護士
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