債権放棄通知書の書き方とテンプレート|ひな形・印紙・押印の注意点

債権放棄通知書は、回収を断念した事実を社内で記録するだけの書面ではありません。民法上の免除の意思表示として債務者に到達すると、記載した範囲の債権が消滅し、債権者が後から一方的に撤回することは原則としてできなくなります。

そのため、テンプレートを使う場合も、どの契約から生じた、いつ現在の、いくらの債権について、元本・利息・遅延損害金等のどこまでを、いつ免除するのかを特定することが重要です。条件付きの免除、残額の分割払い、相互の請求放棄、担保・保証の処理まで必要な場合は、単純な通知書ではなく合意書を作るべきこともあります。

この記事では、企業が使用する債権放棄通知書の書き方、全額免除・一部免除のひな形、内容証明郵便、印紙、押印、送付前後のチェックポイントを実務に沿って解説します。債権放棄を実行すべきか、社内決裁や税務上の貸倒損失まで含めて検討したい場合は、債権放棄の手続・税務・社内決裁の解説も併せて確認してください。

  • 対象債権は契約日・請求書番号・支払期日・金額で特定する
  • 元本だけでなく利息・遅延損害金・費用の扱いも明記する
  • 全額免除か一部免除か、免除後残額まで数字で示す
  • 到達日を残すため内容証明と配達証明を検討する
  • 条件や相互義務がある場合は通知書ではなく合意書を使う

坂尾陽弁護士

債権放棄通知書は、送付後に取り消しにくい重要書面です。金額だけでなく、債権の根拠、担保・保証、社内決裁、税務資料まで確認してから発送しましょう。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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債権放棄通知書とは|債務免除通知書との違い

債権放棄通知書とは、債権者が債務者に対し、特定の債権の全部又は一部を免除する意思を伝える書面です。債権者側から見れば「債権放棄」、債務者側から見れば「債務免除」であるため、「債務免除通知書」「債務免除証書」という表題でも、書面の内容が同じであれば法的な役割は基本的に変わりません。

民法519条は、債権者が債務者に債務を免除する意思を表示したときは、その債権が消滅すると定めています。また、意思表示は原則として相手方に到達した時から効力を生じるため、通知書を作成した日や投函した日だけでなく、債務者に到達した日を確認できるようにしておくことが大切です。

債務者の承諾がなくても免除できる

単純な債務免除は、原則として債権者から債務者への一方的な意思表示で行うことができます。債務者の署名・押印や承諾書がなければ無効になるわけではありません。口頭の意思表示でも成立し得ますが、債権の特定、免除範囲、到達時期を後から立証するため、企業実務では書面にするのが通常です。

通知書と合意書の使い分け

書面 適する場面 主な注意点
債権放棄通知書 債権者が無条件で債権の全部又は一部を免除する 債権・範囲・効力時期を一義的に特定する
債務免除合意書 一部支払いを条件に残額を免除する、支払期限も変更する 条件成就、残額、期限の利益、担保等を定める
和解契約書 債務の有無や金額に争いがあり、相互に譲歩して解決する 清算条項、訴訟・費用・秘密保持等を整理する
注意

「○円を支払えば残額を免除する」「相手も損害賠償請求を放棄する」など、債務者にも義務を負わせる場合は、通知書だけでは合意内容を確実に固定できません。双方が署名又は記名押印する合意書を作成してください。


債権放棄通知書に記載する事項

法律上決まった様式はありませんが、少なくとも次の事項を記載します。特に、対象債権と免除範囲が曖昧だと、別の請求まで放棄したのか、利息や遅延損害金が残るのかをめぐって紛争になりかねません。

  • 作成日:社内決裁日や発送日と混同しないよう、文書作成日を記載します。
  • 債務者の表示:法人名、本店所在地、代表者名を登記・契約書等で確認します。
  • 債権者の表示:法人名、本店所在地、代表者名又は権限を有する差出人を記載します。
  • 債権の発生原因:契約日、契約名、案件名、請求書番号、商品・役務等を記載します。
  • 基準日と免除前残高:いつ現在の残高かを明記し、入金との行き違いを防ぎます。
  • 免除対象額と内訳:元本、利息、遅延損害金、費用を分け、全部又は一部を示します。
  • 効力発生時期:到達時、特定日又は条件成就時のいずれかを明確にします。
  • 免除後残額:一部免除では残る債務と従前の支払条件を明記します。

債権は契約名だけでなく数字でも特定する

「当社が貴社に有する売掛金を放棄する」とだけ書くと、複数の契約・請求書がある場合に対象が不明確です。契約日、注文番号、請求書番号、支払期日、当初金額、既払額、基準日現在残高を組み合わせて特定します。対象が多数ある場合は、別紙の債権明細一覧を作成し、通知書本文から別紙を明確に引用します。

元本・利息・遅延損害金・費用を分ける

「残債権の全額」とだけ記載すると、既に発生した遅延損害金、契約上の利息、回収費用まで含むかが争われることがあります。全てを免除する場合はそれぞれを列挙し、一部だけを残す場合は残す項目と金額を明記してください。

放棄理由は簡潔に記録する

放棄理由は民法上の成立要件ではありませんが、会社財産を減少させる判断の合理性や、税務上の貸倒損失の検討資料として重要です。ただし、債務者の信用を不必要に害する表現や、未確認の事実を断定する表現は避けます。詳しい回収調査や経営判断は、通知書ではなく取締役会資料、稟議書、調査報告書等に残す方法が適切です。


債権放棄通知書のテンプレート|全額免除のひな形

次のひな形は、法人間の売掛金又は貸付金を無条件で全額免除する基本形です。実際には、契約内容、入金履歴、担保・保証、税務処理、社内決裁に合わせて修正してください。

債権放棄通知書のひな形(全額免除)

債権放棄通知書

令和○年○月○日

〒○○○-○○○○

○○県○○市○○町○丁目○番○号

株式会社○○

代表取締役○○○○ 様

当社は、貴社に対して有する下記債権について、本書面が貴社に到達した時をもって、下記の免除対象額を免除します。

1.債権の発生原因:令和○年○月○日付○○契約

2.請求書番号・支払期日:第○○号・令和○年○月○日

3.基準日現在の債権残高:金○○○円

4.免除対象額:金○○○円

5.免除対象の内訳:元本金○○○円、利息金○○円、遅延損害金○○円、その他○○円

6.免除後残額:0円

以上

〒○○○-○○○○

○○県○○市○○町○丁目○番○号

株式会社△△

代表取締役△△△△ 印

「本書面が到達した時をもって」と記載する場合は、到達日を確認できる送付方法を選びます。特定の日から効力を生じさせたい場合は、「令和○年○月○日をもって」と書き換えますが、その日より前に確実に到達するよう発送し、会計・税務上の計上時期も確認してください。

複数の請求書をまとめて放棄する場合

請求書が複数ある場合は、本文に全て詰め込むより、別紙に契約名、請求書番号、請求日、支払期日、当初金額、入金額、残額、免除額を一覧化する方が明確です。本文には「別紙債権明細一覧記載の各債権」と記載し、別紙にも当事者名と作成日を入れます。


一部だけ債権放棄する場合の文例

一部免除では、免除後の残額を明記することが不可欠です。残額の支払期限や分割条件を変更しない場合は、その旨を記載します。変更する場合は、債務者の合意が必要になるため、通知書ではなく債務免除合意書又は和解契約書を作成します。

一部免除用の差し替え文例

当社は、貴社に対して有する令和○年○月○日付○○契約に基づく債権について、令和○年○月○日現在の残高金1,000,000円のうち金400,000円を、本書面が貴社に到達した時をもって免除します。

免除後の残額は金600,000円です。残額の支払期限その他の条件は、従前の契約及び合意のとおりとします。

免除の対象は元本金400,000円に限り、既に発生した利息及び遅延損害金については免除しません。

上記は一例です。利息等も免除する場合はその金額を明記し、逆に一部を残す場合は、残額の計算根拠が分かる明細を添付してください。


テンプレートをそのまま使わない方がよい場面

債権放棄通知書は、無条件の単純な免除には使いやすい一方、複数の権利義務を整理する書面には向きません。次の場面では、個別の合意書又は和解契約書を作成するのが安全です。

  • 債務の有無・金額に争いがある:一方的な通知では紛争が解決せず、和解条件と清算条項が必要です。
  • 一部支払いを免除の条件にする:支払期日、条件不成就時の扱い、遅延時の効果を合意します。
  • 分割払い・支払期限も変更する:残債務の承認、分割金、期限の利益喪失等を定めます。
  • 担保・保証・複数債務者が関係する:主債務の免除が担保権や保証債務等に及ぼす影響を確認します。
  • 相互に請求を放棄する:双方の対象請求、清算条項、秘密保持、費用負担等を定めます。
  • 訴訟・倒産手続中である:訴訟上の和解、破産管財人等との手続、他の債権者への影響を確認します。
テンプレートの利用限界

債務者が債権額を争っているのに「債権放棄通知書」を送ると、債権者側が残額や別請求まで放棄したと主張されることがあります。争いのある案件では、対象と清算範囲を交渉したうえで和解契約書にしてください。


債権放棄通知書の送付方法|内容証明・配達証明

債権放棄は書面でなければ成立しないわけではありません。しかし、企業が債権を消滅させる以上、何をいつ通知し、いつ到達したかを証明できる方法が適しています。

内容証明と配達証明の役割

方法 証明できる主な事項 証明しない事項
内容証明 いつ、どの内容の文書を、誰から誰宛てに差し出したか 記載内容が真実か、実際に誰が受け取ったか
配達証明 一般書留郵便物を配達した事実 実際の受取人が誰であるか
受領書 債務者が書面を受領した事実 署名者の権限が不明な場合は争いが残る
メール 送信内容・時刻等の記録 確実な受信・権限者への到達が争われることがある

国税庁の質疑応答事例でも、債務免除の事実は書面で明らかにすれば足りる一方、交付の事実を明らかにするため、受領書又は内容証明郵便等によることが望ましいとされています。

重要な債権放棄では、内容証明郵便に配達証明を付ける方法が基本です。窓口で差し出す場合の文書・謄本や文字数等の条件は、日本郵便の内容証明の案内で確認してください。Wordファイルを使ってオンラインで発送するe内容証明も利用できます。一般的な作成方法や受取拒否への対応は、企業間トラブルで内容証明を送る場面と注意点で詳しく解説しています。

宛先は法人の本店・代表者を確認する

契約書や請求書に記載された古い住所をそのまま使わず、商業登記、相手方の公式情報、最新の連絡先を確認します。相手方に代理人弁護士が就いている場合や、破産・民事再生等の手続が始まっている場合は、誰に送るべきかを個別に確認してください。

返送されたときは到達したと決めつけない

宛所不明、転居、長期不在、受取拒否などで返送された場合、常に免除の意思表示が到達したことになるとは限りません。返送封筒と追跡記録を保管し、住所を再確認したうえで再送、メール併用、代理人への送付等を検討します。


債権放棄通知書に押印は必要か

債権放棄の意思表示は、法律上、押印がなければ成立しないものではありません。ただし、法人名だけの書面では、誰が会社を代表して債権放棄を決定したのか、真正な通知かが争われることがあります。

  • 会社名、本店所在地、代表者又は権限を有する担当者名を記載する
  • 社内規程や決裁内容に応じて代表者印又は会社印を使用する
  • 押印しない場合も、決裁書、送信記録、作成者情報を保管する
  • 担当者名義で出す場合は、債権放棄権限があることを確認する
  • 内容証明の訂正等に備え、窓口差出しでは印鑑を持参する

押印の種類だけで有効性が決まるわけではありません。重要なのは、会社として有効な意思決定がされ、権限のある者が確定した内容を通知したと説明できることです。


債権放棄通知書に収入印紙は必要か

債権者が一方的な免除の意思を通知するだけの債権放棄通知書は、通常、印紙税法上の課税文書に該当せず、収入印紙は不要と考えられます。ただし、書面の表題ではなく、記載内容と実質によって判断されます。

書面の内容 印紙の考え方
無条件の債権放棄を一方的に通知するだけ 通常は課税文書に該当しない
残債務を確認し、分割払い・期限等を新たに定める 原契約や記載内容により課税文書となる可能性がある
債権譲渡、債務引受け、保証等も同じ書面で合意する 印紙税法上の各号文書に該当するか確認が必要
相互の請求を精算する和解契約書 対象取引・合意内容により個別判断が必要

契約書に近い内容を盛り込む場合は、国税庁の課税文書に該当するかどうかの判断や印紙税額一覧を確認し、判断が難しいときは税理士又は税務署へ照会してください。


送付前後に会社が残す資料

通知書だけを保存しても、なぜ債権を放棄したのか、金額が正しいか、貸倒損失として処理できるかまでは説明できません。法務・経理・税務で同じ基準日と金額を共有し、次の資料を一式で保管します。

送付前に確認する資料

  • 契約書、発注書、請求書、納品・検収資料
  • 入金履歴、債権元帳、利息・遅延損害金の計算書
  • 催告、交渉、弁済提案、資産調査等の回収記録
  • 担保、保証、連帯債務、債権譲渡、差押えの有無
  • 債務者の決算書、資金繰り、債務超過・支払能力の資料
  • 稟議書、取締役会資料・議事録、専門家意見

送付後に保存する資料

  • 確定した通知書と別紙の控え
  • 内容証明の謄本、差出票、追跡記録、配達証明書
  • 債務者の受領書、回答書、メール等
  • 到達日と会計処理日を記録した社内メモ
  • 貸倒損失・寄附金・債務免除益に関する税務検討資料
  • 債権元帳の消込み、担保解除等の後続処理記録

国税庁の法人税基本通達では、一定の場合に「書面により明らかにされた債務免除額」が貸倒れの対象となりますが、通知書を送っただけで無条件に損金算入できるわけではありません。回収不能性や合理性の資料と一体で検討してください。


債権放棄通知書に関するよくある質問

債務者の署名や承諾は必要ですか

無条件の債務免除は、原則として債権者の意思表示だけで行えます。ただし、残額の支払い、分割払い、相互の請求放棄等を定める場合は、債務者との合意書が必要です。

内容証明郵便でなければ無効ですか

内容証明でなければ無効になるわけではありません。ただし、通知内容と差出日を残し、配達証明で到達の事実を補強できるため、重要な債権放棄では利用する実益があります。

公正証書にする必要はありますか

単純な債権放棄通知書を公正証書にすることは通常必要ありません。残額の分割払いを合意し、不履行時の強制執行まで見据える場合は、執行認諾文言付き公正証書を検討することがあります。

メールで通知しても有効ですか

メールでも免除の意思表示が相手方に到達すれば効力が認められる可能性はあります。しかし、送信者の権限、添付ファイルの内容、受信・閲覧の有無が争われることがあります。重要案件では書面送付と併用してください。

送付後に債権放棄を撤回できますか

免除の意思表示が債務者に到達して債権が消滅した後は、債権者が都合を変えて一方的に元へ戻すことは原則としてできません。送付前に金額、対象、決裁、税務処理を再確認してください。

通知書に収入印紙を貼れば安全ですか

印紙を貼るかどうかは書面の実質で決まります。不要な文書に印紙を貼っても法的効力が強くなるわけではなく、課税文書に必要な印紙を貼らなければ別の問題が生じます。契約条項を含む場合は個別に判定してください。

テンプレートを使えば貸倒損失にできますか

できません。税務上の貸倒損失には、債務超過の継続、回収可能性、担保・保証、利益供与ではないこと等の検討が必要です。テンプレートは免除内容を明確にする書式にすぎません。


まとめ|債権放棄通知書は債権・範囲・到達を明確にする

  • 債権放棄通知書は到達により債権を消滅させる重要書面である
  • 契約・請求書・基準日・残高を組み合わせて対象債権を特定する
  • 元本、利息、遅延損害金、免除後残額まで明記する
  • 無条件の免除を超える場合は合意書又は和解契約書を使う
  • 通知書、送付証拠、社内決裁、回収調査、税務資料を一体で残す

債権放棄は、通知書の書き方だけでなく、会社として債権を失わせる判断の合理性、担保・保証への影響、税務処理まで関係します。金額が大きい、関係会社への放棄である、債務者と争いがある、条件付きで免除する場合は、発送前に法務・税務の両面から確認してください。

坂尾陽弁護士

テンプレートの空欄を埋める前に、「何を免除し、何を残すのか」を一文で説明できる状態にしてください。説明できない部分があるときは、単純な通知書ではなく個別の合意設計が必要です。

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