会社法923条は、会社が吸収分割をした場合に、吸収分割会社と吸収分割承継会社の双方について変更の登記をすることを定める条文です。吸収分割は、ある会社の事業に関する権利義務の全部又は一部を、既存の別会社に承継させる会社分割の一種です。
合併と異なり、吸収分割では分割会社が当然に消滅するわけではありません。また、新設分割と異なり、新しい会社を設立するわけでもありません。そのため、会社法923条では、解散登記や設立登記ではなく、当事会社双方の「変更の登記」が問題になります。
この記事では、会社法923条について、吸収分割の登記期限、分割会社・承継会社それぞれの登記、同時申請・経由申請、添付書面、吸収分割登記と個別資産の対抗要件の関係を、実務目線で整理します。
- 会社法923条は、吸収分割をした場合の登記を定める条文です。
- 吸収分割では、吸収分割会社と吸収分割承継会社の双方について変更登記をします。
- 登記期限は、吸収分割の効力が生じた日から2週間以内です。
- 吸収分割会社側と承継会社側の登記は、実務上、同時申請・経由申請を意識して準備します。
- 吸収分割登記は会社分割の公示であり、不動産・許認可・契約・労働契約などの個別対応まで当然に済ませるものではありません。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法923条とは
会社法923条は、吸収分割をしたときに、本店所在地でどの登記をすべきかを定めています。ポイントは、吸収分割会社と吸収分割承継会社の双方について変更登記をするという点です。
| 項目 | 会社法923条のポイント |
|---|---|
| 対象となる組織再編 | 吸収分割 |
| 対象会社 | 吸収分割をする会社と、権利義務を承継する会社 |
| 登記の種類 | 双方の変更の登記 |
| 期限 | 効力が生じた日から2週間以内 |
| 主な実務論点 | 同時申請、管轄、添付書面、資本金の変動、個別資産・許認可・契約の承継確認 |
第九百二十三条 会社が吸収分割をしたときは、その効力が生じた日から二週間以内に、その本店の所在地において、吸収分割をする会社及び当該会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を当該会社から承継する会社についての変更の登記をしなければならない。
会社法の条文全体は、e-Gov法令検索「会社法」で確認できます。
吸収分割会社と吸収分割承継会社の双方が対象になる
吸収分割では、事業に関する権利義務を移す会社を吸収分割会社、これを受ける既存会社を吸収分割承継会社と呼びます。会社法923条は、この双方について登記を求めています。
分割会社だけが登記すればよいわけでも、承継会社だけが登記すればよいわけでもありません。分割会社側では吸収分割をした事実が登記に反映され、承継会社側では吸収分割により権利義務を承継した事実や、資本金・目的などの変更がある場合にはその変更が反映されます。
どちらも「変更の登記」をする
会社法923条で求められるのは、いずれも変更の登記です。吸収合併では消滅会社の解散登記が問題になりますが、吸収分割では、分割会社が当然に消滅するわけではありません。そのため、会社法923条は「解散の登記」ではなく「変更の登記」と定めています。
また、新設分割のように新しい会社を設立するわけでもないため、「設立の登記」でもありません。既存会社間で事業に関する権利義務を移すことに伴う登記事項の変更として整理します。
会社分割手続全体ではなく登記段階の条文
会社法923条は、吸収分割契約の内容、株主総会又は社員の同意、債権者保護手続、労働契約の承継、許認可、個別契約の取扱いを網羅的に定める条文ではありません。
これらの手続が適切に行われていることを前提に、吸収分割が効力を生じた後、登記簿にどのように反映するかを定める条文です。したがって、実務では、吸収分割契約と登記申請書・添付書面・登記すべき事項が整合しているかを確認する必要があります。
吸収分割の登記で確認する会社と登記内容
吸収分割の登記では、分割会社側と承継会社側を分けて考えると整理しやすくなります。どちらも変更登記ですが、登記の意味と確認すべき事項は異なります。
| 区分 | 登記の基本 | 確認すべき事項 |
|---|---|---|
| 吸収分割会社 | 吸収分割をしたことに伴う変更登記 | 吸収分割をした旨、承継会社の商号・本店、効力発生日、目的・事業範囲の変更の有無など |
| 吸収分割承継会社 | 吸収分割により権利義務を承継したことに伴う変更登記 | 吸収分割をした旨、分割会社の商号・本店、資本金の額、目的、発行済株式数、役員等の変更の有無など |
吸収分割会社側では分割をした事実を登記に反映する
吸収分割会社は、事業に関する権利義務の全部又は一部を承継会社へ移す側の会社です。吸収分割によって会社の目的、事業内容、資産構成、重要な契約関係が変わる場合があります。
分割会社側の登記では、吸収分割をした事実を登記簿に反映します。分割により商号、目的、本店、役員など他の登記事項も同時に変わる場合には、その変更登記との関係も整理する必要があります。
吸収分割承継会社側では承継した事実と変更事項を確認する
吸収分割承継会社は、分割会社から事業に関する権利義務を承継する既存会社です。承継会社側では、吸収分割によって承継した事実に加え、資本金の額、発行済株式総数、目的、事業内容などが変わるかを確認します。
特に、対価として株式を交付する場合、資本金又は準備金の額に影響する場合、承継事業に合わせて目的変更が必要になる場合は、登記すべき事項が増えます。吸収分割契約書だけでなく、定款、株主総会議事録、取締役会議事録、資本金計上証明書などとの整合性が重要です。
当事会社が複数ある場合は組み合わせを整理する
吸収分割では、1社から1社へ承継する単純な形だけでなく、複数の事業や複数の承継会社が関係する場合もあります。この場合、どの分割会社からどの承継会社へ、どの事業・権利義務が移るのかを一覧化しておかないと、登記申請書、添付書面、事後対応がずれやすくなります。
登記実務では、会社単位だけでなく、分割対象事業単位、承継先単位、効力発生日単位で整理することが有効です。
登記期限は効力発生日から2週間以内
会社法923条の登記期限は、吸収分割の効力が生じた日から2週間以内です。契約締結日、取締役会決議日、株主総会決議日、公告日から数えるわけではありません。
起算点は「効力が生じた日」
吸収分割契約では、通常、効力発生日が定められます。必要な承認、債権者保護手続、労働契約承継に関する手続、許認可・届出などが予定どおり完了し、吸収分割が効力を生じた日が、会社法923条の2週間期限の起算点になります。
効力発生日を変更する場合や、手続未了により効力発生日を延期する場合は、登記期限も連動して変わります。登記申請だけでなく、社内承認、公告、個別通知、取引先対応、金融機関対応も含めてスケジュールを組む必要があります。
契約締結日や承認決議日から2週間ではない
吸収分割契約を締結した日や、株主総会で承認した日から2週間以内と誤解しないように注意が必要です。承認決議は重要な手続ですが、それだけで吸収分割の効力が直ちに生じるとは限りません。
登記期限の管理表では、契約締結日、承認決議日、債権者異議申述期限、労働契約承継に関する通知日、効力発生日、登記申請予定日を分けて記載すると、起算点の混同を防ぎやすくなります。
効力発生前の登記申請はできない
登記は、登記の事由が発生した後に申請するのが原則です。吸収分割の効力がまだ生じていない段階で、将来の日付を前提に吸収分割登記を申請することはできません。
法務局の商業・法人登記の案内でも、登記の事由が発生する前に登記申請をすることはできず、将来の日付を原因とする申請はできない旨が示されています。一般的な登記申請の注意点は、法務局「商業・法人登記の申請書様式」でも確認できます。
吸収分割の効力発生日を迎えてから添付書面を確認し始めると、2週間期限に間に合わないことがあります。効力発生日の前に、申請書案、登記すべき事項、添付書面、管轄、登録免許税、押印・電子署名の要否を事前に確認しておくことが重要です。
期限を過ぎても申請できるがリスクが残る
登記期間を過ぎた場合でも、そのことだけで直ちに登記申請が常に却下されるわけではありません。しかし、登記義務違反となり、会社代表者に過料が科される可能性があります。また、登記簿上の表示と実体がずれるため、取引先、金融機関、許認可、税務・労務手続で説明が必要になることがあります。
吸収分割は、事業・資産・負債・契約・従業員に影響することが多いため、登記の遅れは単なる形式ミスにとどまりません。登記完了予定日も確認し、登記事項証明書が必要になる取引や届出の時期と重ならないようにしましょう。
同時申請・管轄・経由申請の考え方
吸収分割登記では、会社法923条だけでなく、商業登記法上の申請手続も確認する必要があります。実務上特に重要なのは、吸収分割会社側と吸収分割承継会社側の登記を連動させることです。
分割会社側と承継会社側の登記は一体で準備する
吸収分割では、分割会社側と承継会社側の登記が対応関係にあります。片方だけ登記して、もう片方を後で処理するという感覚で進めると、登記実務上の支障が生じます。
効力発生日、当事会社、分割対象事業、添付書面、登記すべき事項が双方で一致しているかを確認し、登記申請のタイミングをそろえることが重要です。
管轄が同じか異なるかを確認する
分割会社と承継会社の本店所在地を管轄する登記所が同じかどうかによって、申請の流れが変わります。同じ管轄であれば比較的整理しやすい一方、管轄が異なる場合は、経由申請や添付書面の扱いを確認する必要があります。
管轄が異なる場合は、分割会社側の申請を承継会社側の管轄登記所を経由して行う場面が問題になります。どの登記所に、どの順番で、どの書面を提出するかを事前に確認しておきましょう。
申請人・代理人・押印の準備も早めに確認する
会社の登記申請は、会社の代表者又は代理人によって行います。吸収分割では複数会社が関係するため、各会社の代表者、委任状、押印、印鑑証明書、電子署名の要否を早めに整理する必要があります。
特に、管轄が異なる場合、分割会社側の印鑑証明書や委任状の取扱いが問題になることがあります。司法書士に依頼する場合でも、会社側で準備すべき書面の取得に時間がかかることがあります。
登録免許税・登記完了予定日もスケジュールに入れる
吸収分割により承継会社の資本金の額が増加する場合、登録免許税や資本金計上証明書の確認が必要になります。法務局の申請書様式ページでは、資本金の額の計上に関する証明書の例として、吸収分割の場合の資料も案内されています。
また、申請後すぐに登記事項証明書が取得できるとは限りません。登記完了までの期間も見込み、金融機関、取引先、許認可庁、税務署、年金事務所などへの届出スケジュールと調整しておく必要があります。
吸収分割登記の添付書面で確認すること
吸収分割登記の添付書面は、会社類型、対価、資本金の変動、承認手続、債権者保護手続、株式・新株予約権の有無、管轄、代理人申請の有無などによって変わります。ここでは、実務で確認する代表的な項目を整理します。
以下は典型的な確認項目であり、すべての吸収分割で同じ書面を添付するという意味ではありません。実際の登記申請では、会社類型、契約内容、承認手続、管轄、資本金の変動、株主・債権者・新株予約権者への対応に応じて、最新の法令・法務局実務・専門家確認を行ってください。
| 確認項目 | 主な内容 | 実務上の注意 |
|---|---|---|
| 吸収分割契約書 | 分割対象事業、承継する権利義務、対価、効力発生日など | 登記申請書・議事録・承継リストと整合させる |
| 承認手続の書面 | 株主総会議事録、取締役会議事録、社員の同意書など | 簡易分割・略式分割の適用有無も確認する |
| 債権者保護手続書面 | 公告・個別催告、異議の有無、弁済・担保提供等 | 公告方法、期間、異議対応を時系列で確認する |
| 株主リスト等 | 株主総会決議を添付する場合の株主リストなど | 議決権数・議決権割合・住所氏名の記載漏れに注意する |
| 資本金計上関係 | 資本金の額の計上に関する証明書など | 承継会社の資本金が増える場合に特に確認する |
| 委任状・印鑑証明書 | 代理人申請、管轄違い、押印関係の確認 | 管轄が異なる場合は取得に時間がかかることがある |
吸収分割契約書は登記の土台になる
吸収分割契約書は、登記申請の土台になる書面です。どの事業に関するどの権利義務を承継するのか、効力発生日はいつか、対価は何か、資本金や準備金に影響するかを確認します。
登記申請書では、契約書に記載された当事会社、効力発生日、資本金の額、承継関係と矛盾がないようにする必要があります。契約書に添付された承継対象の一覧や別紙も、登記以外の実務対応で重要になります。
承認手続・債権者保護手続の完了を確認する
吸収分割では、株主総会決議、社員の同意、取締役会決議、簡易分割・略式分割の適用、債権者保護手続などが問題になります。これらの手続が未了のまま効力発生日を迎えると、登記申請以前に組織再編手続自体の有効性が問題になり得ます。
特に債権者保護手続では、公告と個別催告、異議申述期間、異議を述べた債権者への対応を確認します。公告日や異議申述期限が登記期限管理表に反映されているかも重要です。
承継会社の資本金が変わる場合は計算書面を確認する
吸収分割により承継会社の資本金の額が増加する場合、資本金の額の計上に関する証明書が問題になります。法務局の商業・法人登記申請書様式ページでも、資本金の額の計上に関する証明書の例として、吸収分割の場合が案内されています。
資本金の額、資本準備金、その他資本剰余金の処理は、会計・税務にも関係します。登記担当者だけで判断せず、会計担当者、税理士、司法書士、弁護士の間で数字を確認することが安全です。
添付書面の原本還付・補正対応も見込む
議事録、契約書、許認可関係書面など、会社が原本を保管すべき書面は原本還付を検討します。申請後に補正が入る可能性もあるため、日中連絡が取れる担当者、補正対応の権限、追加書面の取得手順を決めておくと、登記完了までの遅れを抑えやすくなります。
吸収分割登記と権利義務承継・対抗要件の関係
会社法923条の記事で特に誤解しやすいのが、吸収分割登記と個別資産・契約・許認可の取扱いです。吸収分割登記をしたからといって、実務上必要な個別対応がすべて不要になるわけではありません。
吸収分割登記は会社分割の公示である
吸収分割登記は、会社が吸収分割をしたことを商業登記簿に反映する手続です。取引先や第三者に対し、会社分割があったことを公示する意味を持ちます。
しかし、商業登記簿を見ただけで、どの不動産、どの債権、どの契約、どの許認可、どの従業員が承継されたかまで詳細に分かるわけではありません。承継範囲は、吸収分割契約書、別紙、事前開示書面、社内資料、個別契約、許認可関係資料を確認して判断します。
個別資産の名義変更・登録が別途必要になることがある
不動産、知的財産権、車両、許認可、金融機関口座、取引先契約、保険契約などは、吸収分割登記とは別に、名義変更、登録、届出、承諾、通知、システム変更が必要になることがあります。
たとえば、不動産を承継対象に含める場合、商業登記上の吸収分割登記だけで不動産登記簿の名義が当然に書き換わるわけではありません。権利の種類ごとに、どの対抗要件・名義変更・届出が必要かを確認する必要があります。
契約上の承継制限・チェンジオブコントロール条項も確認する
吸収分割による権利義務の承継は、契約実務上の通知義務、事前承諾条項、解除条項、チェンジオブコントロール条項、再委託制限、秘密保持、個人情報の取扱いに影響することがあります。
会社法上の承継と、契約上・実務上の取引先対応は分けて考える必要があります。重要取引先、金融機関、リース会社、ライセンサー、行政庁、主要顧客については、吸収分割契約の段階で対応リストを作成しておくことが望ましいです。
労働契約・従業員対応は別途スケジュール化する
吸収分割で従業員や労働契約が関係する場合、会社分割に伴う労働契約承継に関する手続が問題になります。通知、協議、異議申出などの対応は、会社法923条の登記だけでは完結しません。
人事・労務、社会保険、給与、就業規則、退職金制度、労働組合対応などは、登記担当とは別のチームが動くことも多いため、効力発生日と登記申請日だけでなく、従業員対応の期限も一体で管理しましょう。
会社法923条を読むときは、「吸収分割の効力発生後、商業登記簿にどう反映するか」を確認する条文として位置づけると整理しやすくなります。吸収分割契約、承継対象、労働契約、許認可、個別資産の対抗要件は、923条だけで完結させず、別途確認する必要があります。
吸収分割登記と他の組織再編登記の違い
会社法923条は、会社法916条から929条までに置かれている登記各論の一部です。前後の条文と比較すると、吸収分割登記の特徴が分かりやすくなります。
| 条文 | 対象 | 登記の基本形 | 主な違い |
|---|---|---|---|
| 会社法921条 | 吸収合併 | 消滅会社は解散登記、存続会社は変更登記 | 合併により消滅会社が消滅する |
| 会社法922条 | 新設合併 | 消滅会社は解散登記、新設会社は設立登記 | 新しい会社を設立する |
| 会社法923条 | 吸収分割 | 分割会社・承継会社とも変更登記 | 分割会社は当然には消滅せず、承継会社は既存会社 |
| 会社法924条 | 新設分割 | 分割会社は変更登記、新設会社は設立登記 | 承継先として新会社を設立する |
| 会社法925条 | 株式移転 | 完全子会社は変更登記、完全親会社は設立登記 | 株式を移転して完全親会社を設立する |
吸収合併の登記とは異なる
吸収合併では、消滅会社が合併により消滅し、存続会社が権利義務を承継します。そのため、消滅会社の解散登記と存続会社の変更登記が問題になります。
これに対し、吸収分割では、分割会社が当然に消滅するわけではありません。分割会社が事業の一部を切り出して、承継会社へ承継させる場合もあります。そのため、会社法923条では、双方の変更登記という構造になります。
新設分割の登記とも異なる
新設分割では、承継先として新しい会社を設立します。そのため、会社法924条では、新設分割をする会社の変更登記と、新設分割により設立する会社の設立登記が問題になります。
吸収分割では、承継先は既存会社です。設立登記ではなく、既存の承継会社の変更登記として処理します。
登記名だけでなく効力・承継範囲も確認する
組織再編登記では、「変更登記」「解散登記」「設立登記」という名称だけを見ても、実務上の意味を取り違えることがあります。吸収分割の変更登記は、通常の商号変更や目的変更と同じ感覚で処理できる単純な変更登記ではありません。
事業承継、資産負債の移転、従業員、取引先、許認可、会計税務に影響するため、登記の種類と組織再編手続全体の位置づけを合わせて確認することが重要です。
吸収分割登記でミスが起きやすいポイント
吸収分割登記では、期限や添付書面だけでなく、会社分割の効果と個別対応を取り違えるミスが起きやすいです。代表的な注意点を整理します。
効力発生日と登記申請日を混同する
吸収分割契約で定めた効力発生日、実際に効力が生じた日、登記申請日、登記完了日を混同しないようにします。会社法923条の2週間期限は、効力が生じた日から数えます。
登記完了日は申請日とは異なります。登記完了後に登記事項証明書を取得して取引先や行政庁に提出する予定がある場合は、登記完了予定日も含めて逆算しましょう。
分割会社側の変更登記を見落とす
承継会社側の資本金や目的変更に意識が向き、分割会社側の変更登記を見落とすことがあります。会社法923条は、吸収分割会社と吸収分割承継会社の双方について変更登記を求めています。
分割会社側の登記は、承継会社側の登記と対応関係にあります。申請漏れを避けるため、当事会社ごとの登記事項チェック表を作成することが有効です。
同時申請・経由申請の段取りを後回しにする
管轄が異なる場合、どの登記所を経由するか、どの書面をどちらに提出するか、どの会社の印鑑証明書が必要になるかを後回しにすると、期限直前に慌てることになります。
吸収分割の登記は、効力発生日後にしか申請できない一方で、期限は2週間と短いです。管轄と経由申請の確認は、効力発生日を迎える前に済ませておくべき事項です。
登記だけで個別資産の名義変更が済むと誤解する
吸収分割登記は商業登記です。不動産、知的財産、車両、許認可、金融機関口座、主要契約などについて、別途名義変更・登録・届出・承諾が必要になることがあります。
吸収分割登記をした後に個別対応を始めるのではなく、承継対象資産・契約・許認可の一覧を効力発生前に作成し、必要な手続を部署別に割り振ることが重要です。
労働契約・従業員対応を登記担当だけで処理しようとする
会社分割では、労働契約の承継や従業員説明が重要になることがあります。これは登記申請書だけで処理できる問題ではありません。
人事・労務、法務、事業部、経理、外部専門家が連携し、通知・協議・異議申出・社会保険・給与・就業規則への影響を確認する必要があります。
会社法923条の実務チェックリスト
吸収分割登記を進めるときは、会社法923条の登記期限だけでなく、会社分割手続全体と登記後の個別対応をまとめて確認します。
- 効力発生日の確認
吸収分割契約、承認手続、債権者保護手続、労働契約承継、許認可対応を確認する。 - 当事会社の確認
吸収分割会社、吸収分割承継会社、複数会社が関係する場合の組み合わせを整理する。 - 登記すべき事項の確認
双方の変更登記、資本金、目的、発行済株式数、役員、その他変更事項を確認する。 - 添付書面の確認
契約書、議事録、株主リスト、債権者保護手続書面、資本金計上証明書、委任状、印鑑証明書を確認する。 - 管轄・同時申請の確認
同じ管轄か、異なる管轄か、経由申請が必要か、申請日をそろえられるかを確認する。 - 登記後対応の確認
登記事項証明書の取得、個別資産の名義変更、許認可届出、取引先通知、金融機関対応を確認する。
効力発生前に確認すること
効力発生前には、吸収分割契約の内容、承認手続、債権者保護手続、労働契約承継、許認可、取引先対応、金融機関対応を確認します。登記申請に必要な書面の大半は、効力発生日の前から準備できるものです。
特に、効力発生日の直前に契約内容や承継範囲が変更される場合、登記申請書案や添付書面も修正が必要になります。最終版の契約書と登記申請書案の整合性を確認しましょう。
登記申請時に確認すること
登記申請時には、効力発生日、2週間期限、同時申請、管轄、添付書面、登録免許税、押印・電子署名、原本還付、補正連絡先を確認します。複数会社が関係する場合は、どの会社の代表者がどの書面に押印するかも整理します。
申請書や添付書面に誤りがあると補正対応が必要になり、登記完了が遅れます。吸収分割では登記後の届出や契約変更が控えていることが多いため、補正を前提に余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。
登記後に確認すること
登記完了後は、登記事項証明書を取得し、登記内容が吸収分割契約や社内決裁と一致しているかを確認します。そのうえで、必要に応じて不動産登記、知的財産権の登録変更、許認可届出、取引先通知、金融機関届出、税務・社会保険手続を進めます。
登記完了をもって会社分割関連の実務がすべて終わるわけではありません。承継対象事業が実際に運営できる状態になっているか、事業部門・管理部門・外部専門家で確認しましょう。
会社法923条に関するよくある質問
吸収分割の登記はいつまでに申請する必要がありますか
吸収分割の効力が生じた日から2週間以内です。吸収分割契約の締結日や株主総会決議日から2週間ではありません。効力発生日を起算点として、分割会社側と承継会社側の変更登記を準備します。
吸収分割では分割会社の解散登記が必要ですか
通常は必要ありません。吸収分割では、分割会社が当然に消滅するわけではないため、会社法923条は分割会社と承継会社の双方について変更登記を求めています。解散登記が問題になる吸収合併とは異なります。
承継会社だけが登記すれば足りますか
足りません。会社法923条は、吸収分割をする会社と、権利義務を承継する会社の双方について変更の登記をしなければならないと定めています。分割会社側の変更登記も忘れないようにする必要があります。
吸収分割契約を締結した段階で登記申請できますか
できません。登記は、登記の事由が発生した後に申請するのが原則です。吸収分割の場合は、吸収分割の効力が生じた後に会社法923条の登記申請を行います。
吸収分割登記だけで不動産の名義変更も完了しますか
完了しません。吸収分割登記は商業登記であり、不動産登記簿の名義を当然に書き換えるものではありません。不動産が承継対象に含まれる場合は、不動産登記の移転手続や対抗要件を別途確認する必要があります。
会社法923条の登記と労働契約承継の手続は同じですか
同じではありません。会社法923条は吸収分割の登記を定める条文です。従業員や労働契約の承継が問題になる場合は、労働契約承継に関する通知、協議、異議申出などを別途確認する必要があります。
管轄が異なる場合はどうなりますか
分割会社と承継会社の本店所在地を管轄する登記所が異なる場合、経由申請や印鑑証明書の要否などを確認する必要があります。効力発生日後に慌てないよう、事前に管轄と申請方法を確認しておくことが重要です。
吸収分割登記を遅れて申請した場合、吸収分割は無効になりますか
登記期限を過ぎたことだけで、直ちに吸収分割が常に無効になるわけではありません。ただし、登記義務違反となり、過料や登記簿上の表示と実体のずれが問題になります。期限徒過に気付いた場合は、速やかに申請準備を進めるべきです。
新設分割の登記とは何が違いますか
吸収分割では、承継先が既存会社であるため、分割会社と承継会社の双方について変更登記をします。新設分割では、承継先として新しい会社を設立するため、新設分割会社の変更登記と、新設分割により設立する会社の設立登記が問題になります。
まとめ
会社法923条は、吸収分割をした場合の登記を定める条文です。吸収分割会社と吸収分割承継会社の双方について、効力発生日から2週間以内に変更登記をする必要があります。
- 会社法923条は、吸収分割の登記を定めています。
- 吸収分割では、分割会社と承継会社の双方について変更登記をします。
- 登記期限は、吸収分割の効力が生じた日から2週間以内です。
- 分割会社側と承継会社側の登記は、同時申請・経由申請を意識して準備します。
- 吸収分割登記だけで、個別資産の名義変更、許認可、契約、労働契約承継の対応がすべて完了するわけではありません。
吸収分割は、会社分割の中でも事業承継・資産負債・契約・従業員に影響しやすい手続です。会社法923条の登記期限を守るだけでなく、吸収分割契約、承認手続、債権者保護、労働契約承継、個別資産の名義変更、許認可・取引先対応を一体で管理しましょう。
坂尾陽弁護士
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