商号とは、会社の名称のことです。会社法6条1項は、会社はその名称を商号とすると定めています。日常的には「会社名」「社名」と呼ばれることが多いですが、会社法上は、株式会社、合同会社、合名会社、合資会社などの会社を特定する正式な名称として扱われます。
この記事では、商号を会社法6条の基本ルールから整理し、会社種類の表示、屋号・商標との違い、同一商号同一本店、使える文字・記号、商号変更の流れまでを実務目線で解説します。会社設立時に名称を決める場面だけでなく、社名変更、グループ会社名の整理、ブランド名との使い分けを検討する場面でも確認しておきたい内容です。
坂尾陽弁護士
- 商号は会社法上の会社の正式な名称です。
- 株式会社・合同会社などの会社種類の文字は商号中に入れる必要があります。
- 同じ本店所在地で同じ商号の登記はできません。
- 登記できる商号でも、商標・不正競争・類似商号リスクは別に確認します。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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商号とは会社法上の会社名のこと
商号とは、会社法上の会社の名称です。会社法6条1項は「会社は、その名称を商号とする」と定めており、会社が取引先や行政、登記所、裁判所などに対して自社を特定するための基本情報になります。最新の条文全体は、e-Gov法令検索の会社法で確認できます。
たとえば、「株式会社〇〇」「〇〇合同会社」のように、会社種類を示す文字を含む名称が、会社法上の商号です。契約書、請求書、登記簿、銀行口座、許認可、税務届出などでは、この商号を正確に使う必要があります。
もっとも、実務では、商号、会社名、社名、ブランド名、屋号、商標、ドメイン名が混同されやすいです。商号は会社の正式名称であり、ブランド名やサービス名は、その会社が商品・サービスを表示するために使う名称です。屋号は個人事業主の営業上の名称として使われることが多く、会社の商号とは法的な位置づけが異なります。
会社の種類そのものを確認したい場合は、会社の種類とはも参照してください。商号は、株式会社・合同会社・合名会社・合資会社という会社類型と結び付いているため、会社形態をどう選ぶかによって商号の表示も変わります。
会社法6条で押さえる商号の基本ルール
会社法6条は、商号について大きく3つのルールを置いています。商号を決めるときは、まずこの条文を出発点にします。
- 会社の名称は商号であること:会社法上、会社の正式な名称が商号です。登記や契約では、この正式名称を正確に表示します。
- 会社種類の文字を入れること:株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社の種類に従い、それぞれの文字を商号中に用いなければなりません。
- 他の種類の会社と誤認される文字を使わないこと:たとえば、合同会社なのに株式会社と誤認されるような表示を商号中に用いることはできません。
会社種類の文字は、一般に「前株」「後株」と呼ばれるように、商号の前に置くことも後ろに置くこともあります。会社法6条は、会社種類の文字を商号中に用いることを求めており、位置そのものを細かく限定しているわけではありません。ただし、実務上は、登記、契約書、請求書、Webサイト、名刺などで表記を統一することが重要です。
会社法6条から8条の条文ごとの要件は、会社法6条・7条・8条の逐条解説で整理しています。この記事では、会社名を決める実務に必要な範囲で、商号の基本ルールをまとめます。
「株式会社〇〇」と「〇〇株式会社」は、見た目だけでなく登記上の商号としても異なる表記になります。候補を決める段階で、どちらの表記で統一するかを確定しておきましょう。
会社でない者・他社と誤認される名称には注意する
商号に関するルールは、会社法6条だけで完結しません。会社法7条は、会社でない者が、会社であると誤認されるおそれのある名称や商号を使うことを禁止しています。会社でない団体や個人事業主が、株式会社や合同会社であるかのような表示を使うと、取引相手に誤解を与えるおそれがあるためです。
また、会社法8条は、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用することを禁止し、営業上の利益を侵害されるおそれがある会社に差止め・予防請求の入口を認めています。
ここで重要なのは、「似ている会社名なら常に違法」という単純な話ではないことです。同一商号同一本店の登記制限、会社法8条の不正目的使用、商標法、不正競争防止法は、それぞれ要件が異なります。登記だけを見て問題がないように見えても、他社の表示と混同されるおそれがある場合や、既存ブランドに近い名称を使う場合は、別の法的リスクを検討する必要があります。
他社と紛らわしい商号や名称をめぐるリスクは、他社と紛らわしい商号・名称の禁止で詳しく整理する予定です。商号の基本ルールと、紛争時の差止請求の要件は、分けて確認するのが安全です。
同一商号同一本店のルール
会社名を決める場面でよく問題になるのが、「同じ会社名を使えるのか」という点です。現在の登記実務では、同じ本店所在地で、他人が既に登記した商号と同一の商号を登記することはできません。これは商業登記法27条の問題であり、最新の条文はe-Gov法令検索の商業登記法で確認できます。
逆にいうと、同じ市区町村内に似た名称の会社があるというだけで、当然に登記できないわけではありません。かつての類似商号規制のイメージで、「近くに似た会社名があると必ず使えない」と誤解されることがありますが、現在の登記制限の中心は、同一商号かつ同一本店所在地です。
ただし、登記できることと、使用して安全であることは別です。近隣に同一又は類似の商号を使う会社がある場合、取引先や顧客が混同する可能性、商標権・不正競争防止法上の問題、検索結果やSNSでの識別性などを別途確認する必要があります。
登記が通ることは、商標・不正競争・既存会社との混同リスクがないことを意味しません。商号候補は、登記面と権利面を分けて確認します。
商号に使える文字・記号
商号は自由に決められるように見えて、登記できる文字や記号には一定の制限があります。現在は、日本文字のほか、ローマ字、アラビヤ数字、一定の符号を使うことができます。具体的な取扱いは、法務省の商号にローマ字等を用いることについてでも案内されています。
実務上よく使われるものとしては、漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、アラビヤ数字のほか、アンパサンド、アポストロフィー、コンマ、ハイフン、ピリオド、中点などがあります。ただし、符号は字句を区切るために使うなどの制限があり、先頭や末尾で自由に使えるわけではありません。ピリオドは省略を表すものとして末尾に使える場合があります。
また、ローマ字を用いて複数の単語を表記する場合には、単語の間にスペースを使えることがあります。もっとも、登記できるかどうかは、候補商号の具体的な表記によって確認が必要です。ロゴ上の表記、Web上の表記、登記上の商号がずれると、契約書や請求書で混乱が生じるため、表記ルールは早めに統一しておきましょう。
商号を決めるときの実務チェック
商号は、会社の顔になるだけでなく、契約書、請求書、銀行口座、許認可、採用資料、Webサイト、SNS、ドメインなど、会社のあらゆる表示に広がります。候補名を決めるときは、法律上の最低限だけでなく、運用面も含めて確認する必要があります。
- 会社種類の表示:株式会社、合同会社などの文字が正しく入っているかを確認します。
- 登記できる文字・記号:使用したいローマ字、数字、記号、スペースが登記可能かを確認します。
- 同一商号同一本店:同じ本店所在地に同一商号の会社がないかを確認します。
- 既存会社との混同:同業・近隣・同一商圏で似た名称を使う会社がないかを確認します。
- 商標・ブランド:商品名・サービス名として使う場合、商標登録や既存ブランドとの関係を確認します。
- Web・SNS・ドメイン:検索結果、ドメイン名、SNSアカウント、メールアドレスで識別しやすいかを確認します。
法務省は、オンライン登記情報検索サービスを利用した商号調査についても案内しています。商号候補を本格的に決める段階では、法務省の商号調査に関する案内も確認するとよいでしょう。
商号変更の基本的な流れ
会社設立後に商号を変更する場合、単にWebサイトや名刺の表示を変えるだけでは足りません。商号は定款・登記事項に関係するため、会社内部の決議、定款変更、変更登記、関係先への届出を順に処理する必要があります。
株式会社では、商号は定款に記載される事項です。商号を変更するには、原則として株主総会の特別決議により定款を変更し、その後、変更登記を申請します。定款の基本は、会社法27条の定款の記載又は記録事項でも確認できます。
変更登記については、会社法915条が、会社に一定の登記事項の変更が生じたときは、2週間以内に本店所在地で変更の登記をしなければならないと定めています。変更登記の条文は、会社法915条の変更の登記で整理する予定です。
- 候補商号の確認:会社種類の文字、使用文字、同一商号同一本店、商標・ドメインなどを確認します。
- 社内決議・定款変更:株式会社では株主総会の特別決議による定款変更が必要になります。
- 変更登記:商号変更の効力発生後、期限内に本店所在地で変更登記を申請します。
- 届出・表示更新:税務署、金融機関、許認可、取引先、契約書ひな形、Webサイト、請求書、印影などを更新します。
商号変更は、法務局への登記だけでなく、社内外の表示を一斉に更新する作業です。とくに、契約書ひな形、利用規約、プライバシーポリシー、請求書、銀行口座、許認可、補助金・入札登録、採用媒体などは、変更漏れが起きやすいので、リスト化して進めるのが安全です。
屋号・商標・ドメイン名との違い
商号は会社の正式名称ですが、事業上の表示は商号だけではありません。会社は、商号とは別に、店舗名、サービス名、ブランド名、ドメイン名、アプリ名などを使うことがあります。これらは取引上重要ですが、商号と同じ法的扱いになるとは限りません。
屋号は、個人事業主や店舗の営業上の名称として使われることが多い言葉です。会社が店舗名として別名を使うこともありますが、会社の正式な商号と一致するとは限りません。契約当事者を表示するときは、店舗名だけでなく、会社の商号と本店所在地を確認する必要があります。
商標は、商品やサービスの出所を識別するための標識です。会社名を商号として登記できても、その名称を商品・サービス名として使う場面では、商標権との関係が問題になることがあります。逆に、商標登録をしていても、会社の商号として登記できるかどうかは別に確認が必要です。
ドメイン名やSNSアカウントは、Web上での識別に大きく影響します。商号とドメイン名が大きくずれていると、取引先が正しい会社かどうか確認しにくくなります。フィッシングやなりすまし対策の観点からも、商号、ブランド名、ドメイン、メールアドレスの整合性は重要です。
商号を他人に使わせる場合の注意点
商号は、自社が名乗る場面だけでなく、他人に使わせる場面でも問題になります。たとえば、フランチャイズ、業務委託、グループ会社間のブランド利用、M&A後の旧商号・旧ブランド利用などでは、外部から見て誰が営業主体なのか分かりにくくなることがあります。
会社法9条は、自己の商号の使用を他人に許諾した会社が、一定の場合に、取引によって生じた債務について連帯責任を負うことを定めています。いわゆる名板貸し責任の問題です。詳しくは、会社法9条の自己の商号の使用を他人に許諾した会社の責任や、商号の使用許諾と責任で確認すると整理しやすくなります。
商号やブランド名を使わせる場合は、契約書で使用範囲を定めるだけでなく、看板、Webサイト、メール署名、請求書、領収書、SNS、店舗表示などで、営業主体を誤認させない運用が必要です。契約書上は別会社と分かるつもりでも、顧客や取引先から見て同一会社の事業に見えると、責任問題に発展することがあります。
商号を決めるときの失敗パターン
商号をめぐる失敗は、法律上のルールを知らない場合だけでなく、実務運用まで見ていない場合にも起こります。典型的には、次のようなパターンがあります。
- 登記だけで判断する:同一商号同一本店に当たらないことだけを確認し、商標や既存ブランドとの混同を見落とすケースです。
- 表記揺れを放置する:登記、契約書、請求書、Webサイト、ロゴで商号の表記が少しずつ異なり、契約当事者の特定が曖昧になるケースです。
- 会社種類の表示を軽く見る:株式会社・合同会社などの文字を省略した表示を常用し、正式名称との違いが取引先に伝わらないケースです。
- ブランド名と商号を混同する:サービス名を前面に出しすぎて、契約主体である会社名が分かりにくくなるケースです。
- 旧商号の表示を残す:商号変更後も旧社名のWebページ、契約書、名刺、請求書が残り、取引先に誤解を与えるケースです。
これらは、設立時・商号変更時にチェックリストを作り、法務、経理、営業、広報、システム担当で分担して更新すれば、多くを防げます。商号は単なる名称ではなく、会社の取引主体を示す情報として管理することが重要です。
まとめ
商号は、会社の正式名称であり、登記・契約・取引表示の基礎です。最後に、この記事の要点を整理します。
- 商号とは、会社法6条が定める会社の名称です。
- 商号には、株式会社・合同会社など会社種類の文字を入れる必要があります。
- 同一商号同一本店の登記はできませんが、登記できることと使用上安全であることは別です。
- 商号を決めるときは、文字・記号、既存会社、商標、ドメイン、Web表示まで確認します。
- 商号変更では、社内決議、定款変更、変更登記、届出・表示更新を漏れなく進めます。
商号は会社の信用や識別性に直結します。候補名を決める段階では、会社法6条の最低限のルールだけでなく、登記、商標、既存会社との混同、Web上の表示、将来の事業展開まで含めて確認しておくと、設立後・変更後のトラブルを減らせます。
坂尾陽弁護士
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