会社法6条・7条・8条は、会社の商号に関する基本ルールを定める条文です。会社法6条は、会社の名称を商号とし、株式会社・合同会社などの会社種類を商号中に表示することを定めています。会社法7条は、会社でない者が会社であると誤認させる名称を使うことを禁じています。会社法8条は、不正の目的をもって、他の会社と誤認されるおそれのある名称や商号を使うことを禁じ、差止め・予防請求の入口を置いています。
この記事では、会社法6条・7条・8条の条文の意味を、商号の基本、会社種類の表示、誤認名称の禁止、不正目的使用と差止請求、商標・不正競争防止法・同一商号同一本店との違いに分けて整理します。会社名を決める場面だけでなく、既存会社と紛らわしい名称を見つけた場面でも、最初に確認しておきたい条文です。
坂尾陽弁護士
- 会社法6条は、会社の名称を商号とし、会社種類の文字を商号中に入れるルールです。
- 会社法7条は、会社でない者が会社と誤認される名称を使うことを禁じます。
- 会社法8条は、不正目的で他社と誤認される名称・商号を使うことを禁じます。
- 商号トラブルでは、会社法だけでなく、商標法・不正競争防止法・商業登記も併せて確認します。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法6条・7条・8条の位置づけ
会社法6条・7条・8条は、第1編「総則」第2章「会社の商号」に置かれています。会社法1条から5条までが、会社法の趣旨、用語、法人格、住所、商行為を定めた後、会社の外部表示として重要な商号のルールを定めるのが6条から9条です。最新の条文全体は、e-Gov法令検索の会社法で確認できます。
商号は、取引先、顧客、金融機関、許認可官庁、登記所、裁判所などに対して、会社を特定するための基本情報です。そのため、単に好きな名称を付けるだけでなく、会社種類を正しく表示し、会社でない者や他社と誤認される表示を避ける必要があります。
会社の種類そのものは、会社の種類とはで整理しています。商号は、株式会社・合名会社・合資会社・合同会社という会社類型と結び付いているため、商号だけでなく会社の種類も合わせて確認すると理解しやすくなります。
会社法6条・7条・8条の条文を確認する
まず、会社法6条・7条・8条の条文の骨格を確認します。条文本文を押さえると、商号の基本ルール、不正表示の禁止、差止請求の場面を分けて理解できます。
会社法6条|商号
会社法6条1項は、会社はその名称を商号とすると定めています。2項は、会社の種類に従い、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を商号中に用いなければならないと定めています。3項は、商号中に他の種類の会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならないと定めています。
会社法7条|会社と誤認させる名称等の使用の禁止
会社法7条は、会社でない者は、その名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならないと定めています。会社ではない団体や個人事業主が、株式会社・合同会社などの表示を使って会社であるかのように見せることを防ぐ規定です。
会社法8条|不正の目的による名称又は商号の使用禁止
会社法8条1項は、何人も、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならないと定めています。2項は、この違反により営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある会社が、侵害の停止又は予防を請求できることを定めています。
6条は会社自身の商号ルール、7条は会社でない者の誤認名称、8条は他社と誤認される不正目的の名称・商号使用を扱います。
会社法6条|商号の基本ルール
会社法6条の中心は、会社の名称が商号であることと、会社種類を示す文字を商号中に入れることです。会社名を決める場面では、まず6条を出発点にします。
商号は会社の法律上の名称である
商号は、会社の法律上の名称です。契約書、登記事項証明書、請求書、口座名義、許認可、訴訟書類などでは、会社を特定するために商号が使われます。日常的には会社名、社名、法人名などと呼ばれることがありますが、会社法上は商号という用語で整理されます。
会社法2条の定義と同じく、商号は会社法全体を読むための基本用語です。会社法上の用語を整理したい場合は、会社法2条の定義も確認しておくと、公開会社、大会社、子会社などの他の用語との関係もつかみやすくなります。
株式会社・合同会社などの種類文字は省略できない
会社法6条2項により、会社は、その種類に従い、株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社という文字を商号中に用いなければなりません。たとえば、株式会社であれば「株式会社〇〇」又は「〇〇株式会社」、合同会社であれば「合同会社〇〇」又は「〇〇合同会社」のように表示します。
「株式会社」を英語略称の「K.K.」「Co., Ltd.」「Inc.」などに置き換えて、登記上の商号にすることはできません。法務省も、会社の種類に従い株式会社・合名会社等の文字を用いなければならず、これらを「K.K.」等に代えることはできない旨を案内しています。商号にローマ字・数字・一定の符号を使う場合の実務は、法務省の商号にローマ字等を用いることについても確認しておくとよいでしょう。
他の種類の会社と誤認される文字は使えない
会社法6条3項は、会社が商号中に他の種類の会社であると誤認されるおそれのある文字を用いることを禁じています。たとえば、株式会社であるのに合同会社と誤認させる表示をしたり、合同会社であるのに株式会社と誤認させる表示をしたりすることは問題になります。
これは、取引相手が会社類型を誤認しないようにするためのルールです。株式会社と持分会社では、機関設計、社員・株主の位置づけ、出資者の責任、定款自治、資金調達の方法などが異なります。商号上の会社種類は、単なる飾りではなく、取引相手が会社の基本構造を理解するための情報でもあります。
会社種類の文字は、広告上のキャッチコピーやロゴ表記では省略されがちです。契約書・請求書・登記・許認可書類では、登記された商号と整合する表示を使うのが安全です。
会社法7条|会社でない者が会社と誤認される名称を使うことの禁止
会社法7条は、会社でない者が、名称又は商号中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いることを禁止しています。ここで問題になるのは、会社ではないのに、外部から見ると会社であるように見える表示です。
たとえば、任意団体、個人事業主、組合、プロジェクト名、店舗名などが、実際には会社ではないのに「株式会社」「合同会社」などの文字を名称中に使うと、取引相手は法人格や責任主体を誤解するおそれがあります。会社法7条は、そのような誤認を防ぐための規定です。
会社であるかどうかは、名称の見た目だけでなく、登記の有無、契約当事者、口座名義、請求書、Webサイト、名刺、メール署名などから判断されます。名称だけを会社風にしていても、実際の契約主体が個人や任意団体であれば、責任追及や債権回収の場面で混乱が生じます。
会社法7条違反や会社種類の誤認表示には、過料の問題が生じることがあります。商号等に関する罰則・過料は、会社法973条〜979条の電子公告調査・過料・商号等に関する罰則でまとめて確認できます。
会社法8条|他の会社と誤認される名称・商号の不正目的使用
会社法8条は、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号の使用を、不正の目的がある場合に禁止します。6条・7条が商号表示の基本ルールを定めるのに対し、8条は他社の営業上の利益を害するような不正な名称使用への対応を定める規定です。
要件は「不正の目的」と「誤認されるおそれ」
会社法8条1項では、単に似ている商号を使っているだけでは足りず、不正の目的が問題になります。また、名称又は商号が、他の会社であると誤認されるおそれを生じさせることも必要です。
実務上は、名称の類似性だけでなく、事業内容、取引先、地域、Web表示、ロゴ、ドメイン名、広告、営業資料、過去の交渉経緯、警告後の対応などを総合して検討します。裁判例でも、不正の目的は特定の目的に限定されるものではない一方、不正な活動を行う積極的な意思が問題になると示されています。
会社法8条2項は差止め・予防請求の入口になる
会社法8条2項は、違反する名称又は商号の使用によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある会社に、侵害の停止又は予防を請求する権利を認めています。
停止請求は、すでに行われている名称・商号の使用を止める請求です。予防請求は、今後そのような侵害が起きるおそれがある場合に、未然に防ぐための請求です。ただし、具体的にどの表示を止められるか、商号変更登記まで求められるか、損害賠償まで請求できるかは、会社法8条だけでなく、民法、不正競争防止法、商標法、商業登記実務を含めて検討します。
商標・不正競争防止法・同一商号同一本店との違い
商号トラブルでは、会社法8条と、商標法、不正競争防止法、商業登記法上の同一商号同一本店の禁止が混同されやすいです。これらは保護する対象や要件が異なるため、分けて確認する必要があります。
- 会社法8条:不正の目的と、他の会社であると誤認されるおそれが中心です。営業上の利益を侵害される会社が差止め・予防請求を検討します。
- 商標法:登録商標と指定商品・指定役務の範囲が中心です。商号として登記できても、商品名・サービス名・広告表示として使えるとは限りません。
- 不正競争防止法:周知表示・著名表示、混同のおそれ、営業上の利益侵害などが問題になります。商号以外のロゴ・店舗名・ドメイン名も検討対象になります。
- 同一商号同一本店:既に登記されている他の会社と同一の商号で、かつ本店所在地も同一である場合に登記できないという商業登記上の問題です。
法務省は、会社の登記について、既に登記されている他の会社と同一の商号であり、かつ本店所在場所も同一である場合には登記できないと案内しています。同一商号同一本店の調査は、法務省のオンライン登記情報検索サービスを利用した商号調査についても参考になります。商標の有無を調べる場合は、J-PlatPatで商標情報を確認することも実務上重要です。
商号を決める・変更するときの実務チェックポイント
会社設立や商号変更の場面では、会社法6条だけでなく、登記、商標、Web表示、既存会社との混同リスクをまとめて確認する必要があります。次の順に確認すると、後日のトラブルを減らしやすくなります。
- 会社種類の表示:株式会社、合同会社などの文字が、登記予定の会社種類と一致しているかを確認します。
- 商号に使える文字:ローマ字、数字、符号、スペースの扱いなど、登記できる表記かを確認します。
- 同一商号同一本店:同じ本店所在地に同じ商号の会社がないかを確認します。
- 商標調査:商品名・サービス名・ロゴ・ブランド名として使う予定がある場合は、登録商標の有無を確認します。
- 不正競争リスク:同業他社、近隣会社、取引先、グループ会社と誤認されるおそれがないかを確認します。
- Web・ドメイン・SNS:検索結果、ドメイン名、SNSアカウント、広告表示で他社と混同されないかを確認します。
- 許認可・業法規制:銀行、保険、信託、学校、医療など、特定業種の名称規制に触れないかを確認します。
設立時に商号を決める場合は、定款記載事項や設立登記とも連動します。設立全体の流れは設立・定款(会社設立の基本)で、定款の記載事項は会社法27条の定款の記載又は記録事項で確認できます。株式会社の設立登記における商号の位置づけは、会社法911条の株式会社の設立の登記も参考になります。
商号の基本ルールをさらに実務寄りに整理したい場合は、商号とは|会社法6条のルールで、商号の決め方、屋号・商標との違い、変更時の注意点を確認できます。
紛らわしい名称を見つけたときの初動
自社と紛らわしい会社名・店舗名・サービス名・ドメイン名を見つけた場合、すぐに会社法8条だけで差止めができると決めつけるのは危険です。まず、事実関係を整理し、どの法的手段が適しているかを検討します。
- 表示の保存:Webサイト、広告、SNS、名刺、看板、請求書、メール署名などの表示を保存します。
- 混同の実例:誤った問い合わせ、誤送信、誤請求、取引先の混同、顧客の誤認などの事例を集めます。
- 相手方の属性:相手方が会社か、個人か、任意団体か、グループ会社かを登記や公開情報で確認します。
- 事業の重なり:同一又は近接する事業か、地域・顧客層・取引先が重なるかを確認します。
- 不正目的の事情:交渉経緯、警告後の継続使用、便乗広告、ドメイン取得経緯などを確認します。
- 別制度の検討:商標権、不正競争防止法、ドメイン紛争処理、民法上の不法行為も検討します。
会社法8条は、他社と誤認される名称・商号の不正目的使用に対する重要な手段ですが、商標権侵害や不正競争防止法違反の方が適切な場面もあります。逆に、商標登録がない場合でも、会社法8条や不正競争防止法で対応余地を検討できることがあります。
類似商号・不正目的使用・差止請求の深掘りは、他社と紛らわしい商号・名称の禁止で整理しています。また、自社商号を他人に使わせた場合の責任は別問題であり、会社法9条の自己の商号の使用を他人に許諾した会社の責任や商号の使用許諾と責任で確認できます。
会社法6条・7条・8条でよくある誤解
商号に関する相談では、「登記できるか」と「使い続けてよいか」が混ざりやすいです。次の誤解は、特に注意が必要です。
同じ会社名が存在したら必ず使えないのですか
必ず使えないわけではありません。商業登記上は、同一商号かつ同一本店所在地の場合に登記できないという問題があります。本店所在地が異なれば登記できる場合があります。ただし、登記できることと、会社法8条、商標法、不正競争防止法上問題なく使えることは別です。
商号として登記できれば商標としても使えますか
いいえ。商号登記と商標権は別制度です。会社名として登記できても、その名称を商品名・サービス名・ロゴ・広告表示として使うと、他人の商標権や不正競争防止法上の権利と衝突することがあります。ブランド展開を予定している場合は、商号調査だけでなく商標調査も行うべきです。
略称やロゴなら会社種類の表示を省略してよいですか
広告やロゴでは略称を使うことがありますが、契約書、登記、請求書、許認可書類、重要な対外表示では、登記された商号と整合する表示を使うのが基本です。略称だけを使い続けると、契約主体や責任主体が分かりにくくなることがあります。
会社法8条の差止めには不正の目的が常に必要ですか
会社法8条1項は、不正の目的を要件としています。そのため、単に名称が似ているだけで当然に会社法8条に基づく差止めが認められるわけではありません。もっとも、商標法や不正競争防止法では別の要件で差止めが問題になるため、どの制度で対応するかを分けて検討します。
会社でない個人事業主が「株式会社風」の屋号を使うと問題になりますか
会社でない者が、会社であると誤認されるおそれのある文字を名称又は商号中に用いると、会社法7条の問題になります。個人事業主や任意団体が屋号・店舗名・Web表示を作る場合も、会社であるかのような表示になっていないか確認が必要です。
まとめ
会社法6条・7条・8条は、商号を正しく使い、取引相手の誤認を防ぐための基本条文です。会社設立時の名称決定だけでなく、商号変更、グループ会社管理、Web表示、商標・ブランド管理、類似商号トラブルでも確認する必要があります。
- 会社法6条は、会社の名称を商号とし、会社種類の表示を義務付けています。
- 会社法7条は、会社でない者が会社と誤認される名称を使うことを禁じています。
- 会社法8条は、不正目的で他社と誤認される名称・商号を使うことを禁じます。
- 商号トラブルでは、商号登記、商標、不正競争防止法、Web表示を横断的に確認します。
- 登記できる商号でも、他社の権利や混同リスクがあれば使用を見直すべき場合があります。
坂尾陽弁護士
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会社法6条・7条・8条の周辺論点は、商号の基本、類似商号、商号使用許諾、設立登記とつなげて確認すると整理しやすくなります。
