会社の従業員が契約書に署名した、営業担当者が発注を受けた、店舗スタッフが商品を販売した。このような場面で問題になるのが、会社の使用人の代理権です。
会社法14条・15条は、会社の使用人について、一定の範囲で対外的な代理権を認める規定です。社内では「部長決裁まで」「代表者印が必要」と決めていても、その内部制限を取引先に当然に主張できるとは限りません。
この記事では、会社法14条の「特定事項の委任を受けた使用人」と、会社法15条の「物品の販売等を目的とする店舗の使用人」を、契約締結・発注・販売の実務でどう確認すべきかという観点から整理します。
- 会社法14条は、事業に関する一定の事項を任された使用人に、その事項に関する裁判外の行為をする代理権を認める規定です。
- 会社法15条は、販売・賃貸等を目的とする店舗の使用人について、その店舗にある物品の販売等をする権限を有するとみなす規定です。
- 社内の権限制限は重要ですが、善意の取引先に対して常に主張できるわけではありません。
- 高額契約、継続契約、通常業務から外れる取引では、肩書・委任状・社内決裁・過去の取引経緯を確認することが重要です。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社の使用人の代理権とは
会社の使用人の代理権とは、会社の従業員・担当者などが、会社のために契約締結、発注、受領、販売などの法律行為を行う権限をいいます。
会社は法人なので、現実には代表取締役、役員、支配人、部長、課長、営業担当者、店舗スタッフなどの自然人を通じて取引をします。問題は、その人がした行為が会社に効くのか、つまり会社が契約上の責任を負うのかという点です。
会社法上、使用人の代理権として特に重要なのは、次の2つです。
| 規定 | 対象 | 実務で問題になる場面 |
|---|---|---|
| 会社法14条 | 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人 | 営業部長、購買担当者、店舗責任者、管理部門担当者などが、任された業務範囲で契約・発注・通知をする場面 |
| 会社法15条 | 物品の販売等を目的とする店舗の使用人 | 小売店、ショールーム、レンタル店舗などで、店舗スタッフが店内の商品を販売・賃貸する場面 |
会社法14条・15条は、取引の安全を守るための規定です。取引先が毎回、会社内部の決裁規程や権限分掌を細かく調査しなければならないとすると、取引が円滑に進まないため、一定の範囲で使用人に対外的な権限を認めています。
会社法14条|特定事項の委任を受けた使用人の代理権
会社法14条は、事業に関する一定の事項を任された使用人について、その事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を認めています。
第十四条 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有する。
2 前項に規定する使用人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
会社法の条文全体は、e-Gov法令検索「会社法」で確認できます。
「ある種類又は特定の事項の委任」とは
会社法14条の対象になるのは、会社の事業に関して、ある種類の事項又は特定の事項を任された使用人です。たとえば、営業部門で一定の商品の販売交渉を任された担当者、購買部門で通常の仕入れを任された担当者、店舗運営を任された責任者などが典型です。
ポイントは、代表取締役のように会社の業務全般を代表する権限ではなく、任された事項の範囲内で包括的な代理権が問題になるという点です。
「裁判外の行為」には契約締結や通知が含まれる
会社法14条の代理権は、「当該事項に関する一切の裁判外の行為」に及びます。裁判外の行為とは、訴訟行為そのものではない法律行為を指し、実務上は契約の締結、申込み、承諾、発注、受領、代金請求、解除通知などが問題になります。
もっとも、どの行為までが「当該事項に関する」行為といえるかは、使用人に任された業務の内容、肩書、取引の種類、金額、過去の取引経緯、社内外の表示などを総合して判断されます。
社内の権限制限は、善意の第三者に対抗できない
会社法14条2項は、使用人の代理権に加えた制限を、善意の第三者に対抗できないと定めています。たとえば、社内では「100万円を超える契約は役員決裁が必要」と決めていたとしても、取引先がその制限を知らず、通常の取引として担当者に権限があると見てよい事情がある場合、会社が内部制限を理由に契約の効力を否定できないことがあります。
ただし、会社法14条は、そもそも使用人が一定の事項を任されていることを前提にします。まったく委任されていない事項についてまで、常に代理権が認められるわけではありません。
「社内で権限がない」と「取引先に対して契約が無効といえる」は別問題です。社内規程違反があっても、取引先が善意であれば、会社が契約責任を負う可能性があります。
会社法15条|店舗使用人の販売等の権限
会社法15条は、物品の販売等を目的とする店舗の使用人について、その店舗にある物品の販売等をする権限を有するとみなす規定です。
第十五条 物品の販売等(販売、賃貸その他これらに類する行為をいう。以下この条において同じ。)を目的とする店舗の使用人は、その店舗に在る物品の販売等をする権限を有するものとみなす。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りでない。
店舗スタッフには、店内商品の販売等の権限があると扱われる
小売店やレンタル店舗では、店員が販売・賃貸の対応をするのが通常です。取引相手が、店員一人ひとりについて代表者から個別の代理権を授与されているかを確認することは現実的ではありません。
そこで会社法15条は、物品の販売等を目的とする店舗の使用人について、その店舗にある物品を販売・賃貸等する権限を有するとみなしています。
「その店舗に在る物品」の販売等に限られる
会社法15条の対象は、店舗にある物品の販売等です。したがって、店舗内で通常販売されている商品の販売や賃貸であれば問題になりやすい一方、店舗の通常業務から外れる大型取引、特別条件の継続契約、在庫外商品の個別調達、設備売却、業務提携契約などは、15条だけで処理できるとは限りません。
また、店舗にいる人であれば誰でもよいわけではありません。清掃・警備・配送など、外部から見ても販売対応をする立場ではないと分かる人については、店舗使用人として販売権限があると見ることは難しくなります。
相手方が悪意の場合は保護されない
会社法15条ただし書きは、相手方が悪意であったときは権限があるものとみなされないとしています。つまり、相手方が「この人には販売等の権限がない」と知っている場合には、15条による保護を受けられません。
実務では、高額な商品、例外的な値引き、通常の販売条件から外れる合意、店舗外での契約などでは、悪意とまではいえない場合でも、後日の紛争を避けるために、責任者確認や書面確認をしておくべきです。
使用人の代理権と支配人・表見支配人との違い
会社の担当者の権限を確認するときは、使用人の代理権だけでなく、支配人や表見支配人との違いも押さえておく必要があります。
| 区分 | 権限の範囲 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 代表取締役 | 会社を代表して業務に関する裁判上・裁判外の行為を行う権限 | 登記事項証明書、代表者表示、押印権限 |
| 支配人 | 本店又は支店の事業に関する広い代理権 | 支配人登記、営業所・支店との関係 |
| 表見支配人 | 支店長・営業所長など、支配人らしい名称を付された使用人について取引先保護が問題になる | 肩書、名称、営業所の実態、取引先の認識 |
| 会社法14条の使用人 | 任された種類・特定事項に関する裁判外の行為 | 担当業務、権限分掌、過去取引、契約類型 |
| 会社法15条の店舗使用人 | 店舗にある物品の販売等 | 店舗、商品、通常販売、相手方の悪意 |
支配人や表見支配人の制度は、使用人の代理権より広い又は別の観点から問題になります。支配人の権限は、【会社法10条・11条・12条】支配人・代理権・競業禁止で、表見支配人は【会社法13条】表見支配人で詳しく整理しています。
「支店長」「営業所長」「部長」「課長」「担当者」「店員」という肩書だけで結論は決まりません。どの店舗・部署で、どの取引について、どの範囲の権限が外部から見える形で与えられていたかを確認します。
従業員が締結した契約は会社に効くのか
従業員が締結した契約が会社に効くかは、単純に「従業員だから無効」「代表者ではないから無効」とはいえません。次の順で確認します。
- その従業員が会社からどの業務を任されていたか
- 問題の契約が、その任された業務の範囲内か
- 社内の権限制限があったか
- 取引先がその権限制限を知っていたか、又は重大な過失があったといえるか
- 取引の金額・内容・過去の取引経緯から見て、通常の取引といえるか
通常業務の範囲内なら会社に効く可能性が高い
営業担当者が通常の商品販売契約を締結する、購買担当者が通常の原材料を発注する、店舗責任者が店内商品の販売条件を決めるといった場面では、会社法14条又は15条により、会社に契約の効力が及ぶ可能性があります。
通常業務から外れる契約は慎重に確認する
一方で、長期の独占契約、金額の大きい基本契約、保証契約、債務免除、事業譲渡、重要な知的財産の処分、通常価格から大きく外れる取引などは、担当者の通常権限を超える可能性があります。
このような取引では、相手方の担当者に権限があるかどうかを、代表者印、委任状、取締役会又は社内決裁、過去の取引実績、メール承認履歴などで確認することが重要です。
最高裁平成2年2月22日判決の考え方
旧商法下の裁判例ですが、最高裁平成2年2月22日判決は、特定事項の委任を受けた使用人の代理権について、取引の円滑・安全を重視し、使用人が営業に関するある種類又は特定の事項を処理するため選任された者であること、当該行為が客観的にその事項の範囲内に属することが重要であるとしました。
また、同判決は、代理権に加えられた制限を知らなかった第三者について、単なる過失があるだけでは直ちに保護を失わない一方、重大な過失がある第三者は保護されないという考え方を示しています。
裁判例は旧商法の規定に関するものですが、会社法14条の趣旨を理解するうえでも参考になります。もっとも、実際の契約の有効性は、肩書、担当業務、取引内容、金額、過去の取引、確認方法などの具体事情で変わります。
取引先担当者の権限確認で見るべきポイント
取引先の担当者と契約する側は、契約の規模や性質に応じて、権限確認の深さを変える必要があります。少額・定型の通常取引と、高額・非定型の重要取引では、確認すべき事項が異なります。
| 確認事項 | 確認の目的 | 実務上の確認方法 |
|---|---|---|
| 肩書・所属 | 担当業務の範囲を把握する | 名刺、メール署名、会社サイト、組織図 |
| 取引内容との対応 | 任された事項の範囲内かを見る | 部署の業務内容、過去の担当案件、上長同席の有無 |
| 金額・条件 | 通常取引か、例外取引かを見分ける | 見積書、発注書、稟議番号、価格変更理由 |
| 社内決裁 | 内部承認の有無を確認する | 承認メール、決裁書、委任状、代表者確認 |
| 署名・押印 | 会社としての意思表示かを確認する | 代表者印、電子署名権限、契約管理システムの承認ログ |
| 過去の取引経緯 | 担当者に任されていた外観を確認する | 過去契約、請求・入金履歴、同一担当者の継続対応 |
特に重要契約では、担当者が「社内で承認済みです」と述べるだけでは足りないことがあります。契約書の署名者、押印者、承認者、電子契約の権限者が一致しているかを確認しましょう。
確認を強めるべき典型場面
- 契約金額が通常より大きい
- 長期契約・独占契約・自動更新条項がある
- 通常の販売条件と異なる大幅値引きや特別保証がある
- 担当者の部署と契約内容が合っていない
- 相手会社が後日「その担当者に権限はなかった」と主張する可能性がある
- 契約締結後に、社内承認が問題になりやすい取引である
自社の従業員に権限を与えるときの注意点
会社側から見ると、使用人の代理権は、取引先保護の問題であると同時に、社内統制の問題でもあります。社内規程だけを整えても、外部にどのような権限表示をしているかが曖昧だと、想定外の契約責任を負うリスクがあります。
権限分掌を明確にする
まず、職務権限規程、稟議規程、契約管理規程などで、誰がどの契約を締結できるかを明確にします。金額、契約類型、期間、相手方、リスク区分ごとに決裁権限を分けると、社内運用が安定します。
外部表示と社内権限をそろえる
名刺、メール署名、肩書、社外向け資料、契約書の担当者欄、Webサイトの担当者表示などが、社内権限とずれていると、取引先から権限があると見られるリスクがあります。
たとえば、実際には決裁権がない担当者に「営業責任者」「支店長」「契約担当責任者」などの肩書を使わせる場合には、どこまでの権限を与えるのか、社外にどう表示するのかを慎重に設計する必要があります。
契約締結フローを固定する
重要契約では、担当者の口頭合意だけで契約が成立したように見えないよう、契約締結フローを固定します。たとえば、契約書レビュー、稟議承認、電子契約の承認者設定、代表者又は権限者の署名押印、契約管理台帳への登録を一連の流れとして整備します。
社内規程は、会社内部の責任追及や再発防止には重要です。ただし、取引先との関係では、外部から見える権限表示や取引経緯も問題になります。社内規程と対外表示をセットで整備しましょう。
使用人の代理権が問題になったときの初動対応
従業員がした契約や発注について、「権限がなかったのではないか」と問題になった場合は、感覚的に有効・無効を判断せず、次の資料を整理します。
- 契約書、発注書、見積書、請求書、納品書
- 担当者の肩書、所属、職務内容が分かる資料
- 社内の職務権限規程、稟議規程、契約管理規程
- 当該取引に関するメール、チャット、電子契約ログ
- 過去の同種取引の有無と担当者の関与
- 取引先が権限制限を知っていた、又は知るべき事情があったことを示す資料
会社が契約の効力を争う側でも、取引先として契約の有効性を主張する側でも、資料の整理が重要です。特に、担当者の業務範囲と取引内容の対応関係、取引先がどのような事情を認識していたかは、結論を左右しやすいポイントです。
契約を否定したい会社側の視点
会社側が「担当者に権限がなかった」と主張する場合は、単に社内規程違反を示すだけでなく、そもそも当該事項を任せていなかったこと、取引先が権限の制限を知っていたこと、又は重大な過失があったことを具体的に示す必要があります。
契約の有効性を主張したい取引先側の視点
取引先側は、担当者の肩書、担当業務、会社からのメールドメイン、会社印の使用、過去の取引で同じ担当者が対応していた事情、上長同席、請求・入金の履歴などを整理します。これらは、担当者に一定の権限があると信じた事情として重要になります。
よくある質問
部長や課長には契約締結権限がありますか
肩書だけで当然に契約締結権限があるとはいえません。ただし、その部長・課長が事業に関する一定の事項を任されており、契約がその範囲内にある場合には、会社法14条により代理権が問題になります。金額や契約内容が通常業務を超える場合は、上長承認や代表者確認を取るべきです。
社内規程で「代表者印が必要」とされている契約を担当者が締結した場合、無効になりますか
常に無効になるわけではありません。社内規程は重要ですが、取引先がその制限を知らず、担当者に権限があると見る事情がある場合、会社が内部制限を対抗できない可能性があります。契約の種類、金額、担当者の職務、過去の取引、取引先の認識を確認する必要があります。
店舗スタッフが販売した商品について、会社は責任を負いますか
物品の販売等を目的とする店舗の使用人が、その店舗にある物品を販売した場合、会社法15条により、販売等の権限を有するとみなされます。ただし、相手方がそのスタッフに権限がないことを知っていた場合は別です。
電子契約で担当者が承認した場合も同じですか
電子契約でも、誰が会社を代表又は代理して承認したのかが問題になります。電子署名の名義、承認フロー、アカウント権限、社内決裁ログを確認し、担当者に当該契約を締結する権限があったかを整理します。
支配人や表見支配人の記事との違いは何ですか
支配人は、営業所や支店の事業に関して広い代理権を持つ制度です。表見支配人は、支店長・営業所長などの名称を付された使用人について、取引先保護が問題になる制度です。この記事は、支配人よりも限定された使用人の代理権、特に会社法14条・15条を中心に扱っています。
まとめ
会社の使用人の代理権は、日常的な契約・発注・販売の中で見落とされやすい論点です。社内では権限を制限していても、取引先との関係では、担当者の職務や外部表示、取引経緯によって会社に契約責任が及ぶことがあります。
- 会社法14条は、特定事項を任された使用人に、その事項に関する裁判外の行為をする代理権を認めます。
- 会社法15条は、店舗使用人について、店舗にある物品の販売等の権限を有するとみなします。
- 社内の権限制限は、善意の取引先に当然に対抗できるとは限りません。
- 重要契約では、肩書・職務範囲・金額・決裁・過去取引・電子契約ログを確認することが重要です。
使用人の代理権が問題になる契約では、契約書だけでなく、社内規程、メール、承認ログ、過去の取引経緯まで含めて判断する必要があります。早い段階で資料を整理し、会社側・取引先側のどちらの立場で何を主張できるかを確認しましょう。
坂尾陽弁護士
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