【会社法13条】表見支配人|条文の要点と実務ポイント

会社法13条は、会社の使用人に「支店長」「営業所長」など本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した場合に、その使用人が当該本店又は支店の事業について一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなす規定です。実際には支配人として選任・登記されていなくても、会社が外部に強い権限があるような肩書を示した以上、取引の相手方を保護するために会社が責任を負う場面があります。

この記事では、会社法13条の表見支配人について、要件、支店長・営業所長などの肩書の見方、営業所としての実質、裁判外行為の範囲、相手方が悪意である場合、会社側・取引先側の確認ポイントを整理します。支配人そのものの選任や代理権は会社法10条・11条・12条の支配人で、一般使用人の代理権は会社法14条・15条の使用人の代理権で扱います。

坂尾陽弁護士

肩書だけで契約権限を判断せず、拠点の実態・担当事業・社内表示をセットで確認しましょう。
  • 会社法13条は、支配人らしい肩書を付された使用人による裁判外行為について取引相手を保護する規定です。
  • ポイントは、主任者を示す名称、本店又は支店の事業、裁判外行為、相手方の悪意の有無です。
  • 支店長・営業所長という肩書でも、営業所としての実質や取引内容によって結論が変わります。
  • 会社側は、名刺・Web・請求書・契約書の肩書管理を怠ると、想定外の契約責任を負うことがあります。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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会社法13条の位置づけ

会社法13条は、第1編「総則」第3章「会社の使用人等」第1節「会社の使用人」に置かれています。同じ節には、支配人の選任、代理権、競業禁止を定める会社法10条から12条と、一般使用人の代理権を定める会社法14条・15条があります。

この中で会社法13条は、実際に支配人が選任された場合ではなく、支配人ではない使用人に、外部から見て本店又は支店の事業の主任者であるかのような名称を付した場合を扱います。つまり、会社法13条の中心は「本当の権限」そのものではなく、会社が作った外観を信頼した取引相手をどこまで保護するかという点にあります。

  • 会社法10条〜12条:支配人を実際に選任し、広い代理権を与える場面を扱います。
  • 会社法13条:支配人ではない使用人に、支配人のような外観を与えた場面を扱います。
  • 会社法14条・15条:特定事項を委任された使用人や店舗使用人の代理権を扱います。

実務では、「この人は支配人として登記されているか」だけでなく、「会社がどのような肩書を使わせていたか」「その拠点がどのような事業活動をしていたか」「取引相手が権限の欠缺を知っていたか」を合わせて確認します。

会社法13条の条文を確認する

会社法13条は、会社の本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した使用人について、当該本店又は支店の事業に関し、一切の裁判外の行為をする権限を有するものとみなすと定めています。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りではありません。最新の条文全体は、e-Gov法令検索の会社法で確認できます。

この条文を読むときは、次の要素に分けると理解しやすくなります。

  • 誰が対象か:会社の使用人であることが前提です。
  • どのような外観か:本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付されていることが必要です。
  • どの範囲の行為か:当該本店又は支店の事業に関する裁判外の行為に限られます。
  • 相手方の状態:相手方が悪意であれば、会社法13条による保護は受けられません。

条文上は短い規定ですが、実際の紛争では、肩書が主任者を示すといえるか、営業所としての実質があるか、取引がその拠点の事業に関するものといえるかが争点になりやすいです。

表見支配人が問題になる典型場面

表見支配人が問題になるのは、会社の担当者が契約書に署名した後で、会社が「その担当者には契約締結権限がなかった」と主張する場面です。取引相手としては、名刺、メール署名、Webサイト、店舗表示、契約交渉の経緯から、その担当者に契約権限があると信じて取引していることがあります。

会社側から見ると、社内決裁規程では本社承認や代表取締役決裁が必要であっても、外部に対して強い権限があるように見える肩書を与えていると、内部規程だけでは取引相手に対抗できない可能性があります。

  • 支店長名義で継続取引契約を締結した場合
  • 営業所長名義で発注書・注文請書を出した場合
  • 店舗責任者が取引条件を決めて契約書に押印した場合
  • Webサイト上で「支社長」「本店店長」などと表示していた場合
  • 社内では権限が限定されていたが、相手方にはその制限が示されていなかった場合

もっとも、肩書があれば常に会社法13条が適用されるわけではありません。条文の要件に沿って、名称、拠点、事業、行為、相手方の認識を順に確認する必要があります。

会社法13条の要件

会社法13条の適用を検討するときは、要件をまとめて見るのではなく、取引時点でどの外観があり、相手方が何を信頼したのかを分解して確認します。

会社の使用人であること

会社法13条は「使用人」を対象にしています。役員、外部委託先、業務委託の営業代理店、独立した別会社の担当者などは、当然に会社法13条の使用人に当たるわけではありません。もっとも、実態として会社の指揮監督下で勤務し、会社の担当者として外部表示されている場合には、形式だけで安全と考えることはできません。

会社側は、正社員か契約社員かという労務上の分類だけでなく、取引相手から見て「その会社の担当者」と受け止められる表示になっていないかを確認する必要があります。取引先側は、相手方担当者がどの法人に所属しているか、名刺・メールドメイン・契約主体・請求主体を照合することが重要です。

本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称があること

中心となる要件は、会社が使用人に「本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称」を付したことです。典型的には、支店長、支社長、営業所長、本店店長など、一定の拠点の事業責任者と受け取られやすい肩書が問題になります。

一方で、「代理」「次長」「課長」「マネージャー」などの肩書は、文言だけでは拠点全体の主任者を示すとはいえない場合があります。ただし、肩書の一般的な語感だけでなく、業界慣行、店舗表示、相手方との交渉経緯、会社がどのように権限を見せていたかも考慮されます。

本店又は支店に営業所としての実質があること

表見支配人の規定は、本店又は支店の事業の主任者という外観を前提にしています。そのため、形式的に「支社」「営業所」と呼ばれていても、そこに独自に事業活動を行う拠点としての実質がない場合には、会社法13条の適用が問題になります。

最高裁昭和37年1月19日判決は、東京出張所が一定範囲で本店から離れて独自に営業活動を決定し、対外的に取引できる組織を備えていた事案で、出張所長が表見支配人に当たる余地を認める方向の判断をしています。これに対し、最高裁昭和37年5月1日判決は、保険会社の支社が基本的な保険業務を独立して行う権限・組織を備えていない事案で、支社長を旧商法上の表見支配人とは認めませんでした。

営業所性の見方

「支店」「支社」「営業所」という名称だけで判断せず、その拠点が独自に契約交渉・受注・履行管理・代金回収などの営業活動を行っていたかを確認します。倉庫、工場、単なる連絡事務所などは、個別事情により結論が変わります。

当該本店又は支店の事業に関する行為であること

会社法13条でみなされる権限は、その使用人が主任者であるように見える本店又は支店の事業に関する行為に限られます。たとえば、営業所長が営業所の通常取引に関する契約を締結する場面と、営業所の事業と無関係な高額投資や不動産処分を行う場面では、評価が異なります。

取引相手としては、担当者の肩書だけでなく、その取引が相手方会社のどの事業に属するのか、通常の営業活動の範囲か、異例の条件や金額ではないかを確認する必要があります。会社側は、通常取引と例外取引の線引きを社内外に分かりやすく示すことが重要です。

一切の裁判外の行為に限られること

会社法13条がみなすのは、一切の裁判外の行為をする権限です。契約の締結、注文、請求、弁済の受領、条件変更、解除の意思表示など、裁判外の取引行為が中心になります。これに対し、訴訟を提起する、訴訟上の和解をする、訴訟代理権を行使するなどの裁判上の行為は、会社法13条の直接の対象ではありません。

この点は、本当の支配人との違いとして重要です。会社法11条の支配人は事業に関する裁判上又は裁判外の行為をする権限を持ち得ますが、会社法13条の表見支配人は裁判外行為に限られます。

相手方が悪意でないこと

会社法13条は、相手方が悪意であったときは適用しないと定めています。ここでいう悪意とは、相手方が、その使用人に権限がないことを知っていた場合をいいます。たとえば、会社から「その担当者には契約権限がない」と明示されていたのに、あえてその担当者と契約したような場合には、相手方保護は働きにくくなります。

もっとも、実務上は、相手方が実際に何を知っていたか、どの資料を受け取っていたか、取引の規模・異例性から確認義務を尽くしたといえるかが争われます。疑わしい場合には、契約前に代表者、取締役会決議、委任状、社内承認メールなどを確認しておくことが安全です。

支配人・一般使用人・表見支配人の違い

表見支配人を理解するには、支配人や一般使用人との違いを整理しておく必要があります。いずれも会社の使用人の権限に関係しますが、根拠、権限の範囲、外部表示、会社が負うリスクが異なります。

  • 支配人:会社が支配人として選任し、本店又は支店の事業を行わせる者です。事業に関する裁判上・裁判外の行為について広い権限が問題になります。
  • 表見支配人:実際には支配人でなくても、支店長など主任者を示す名称を付された使用人です。会社法13条により、裁判外行為について権限があるものとみなされ得ます。
  • 特定事項の委任を受けた使用人:会社法14条により、委任された事項に関する裁判外行為について代理権を持ちます。
  • 店舗使用人:会社法15条により、店舗で販売等の取引をする使用人について、通常の店舗取引上の権限が問題になります。

実務では、「支配人ではないから会社は責任を負わない」と単純にはいえません。支配人として選任されていない場合でも、会社が強い権限を示す肩書や表示を使わせていた場合には、会社法13条や会社法14条・15条の問題として検討されます。

肩書管理で会社側が注意すべきこと

会社側にとって、会社法13条のリスクは、社内権限規程と外部表示がズレているときに顕在化します。社内では「支店長は500万円までしか契約できない」と決めていても、外部には支店長として包括的な権限があるように見える場合、取引相手との関係では内部制限だけで防げないことがあります。

そのため、肩書管理は人事上の呼称の問題にとどまりません。名刺、メール署名、Webサイト、店舗掲示、パンフレット、契約書の署名欄、請求書、発注書、社内外の権限表を横断的に確認する必要があります。

  • 肩書の粒度を管理する:支店長、支社長、営業所長、本店店長など、拠点全体の主任者と見える肩書は慎重に使います。
  • 契約権限の表示を整える:契約書の署名欄や決裁権限表で、誰がどの範囲で契約できるかを明確にします。
  • 社内規程だけで終わらせない:取引先に示される外部表示と社内決裁ルールが矛盾しないようにします。
  • 異動・退職後の表示を削除する:Webサイト、名刺、メール署名、店舗掲示に古い肩書が残っていないか確認します。
  • 例外取引は承認ルートを明示する:通常取引を超える金額・期間・保証・解除条件は、本社承認や代表者確認を要することを外部にも分かる形にします。

特に、店舗・支店・営業所を複数持つ会社では、現場の迅速な営業判断を尊重しつつ、どの取引は現場限りで完結し、どの取引は本社承認が必要かを運用できる形に落とし込むことが重要です。

注意

「社内では権限がない」と説明できても、それだけで取引相手に対抗できるとは限りません。外部にどのような権限表示をしていたか、相手方がその表示をどう受け止めたかが問題になります。

取引先側が確認すべきこと

取引先側から見ると、会社法13条は、支店長や営業所長との取引が常に有効になるという保証ではありません。保護されるためには、相手方が悪意でないことが前提であり、取引の内容が拠点の事業に関係していることも必要です。特に、高額契約、継続的な供給契約、保証、債務免除、長期リース、通常と異なる支払条件では、担当者の肩書だけに依存しない確認が必要です。

実務上は、次の資料や事情を確認しておくと、後に権限が争われたときの説明材料になります。

  • 名刺・メール署名・Webサイト上の肩書
  • 契約主体となる法人名・本店所在地・支店名
  • 担当者が所属する拠点と取引内容の関係
  • 過去の取引で同じ担当者が契約・発注していた実績
  • 社内承認メール、委任状、決裁権限表、代表者確認

契約金額やリスクが大きい場合には、相手方の本社部門や代表者に確認メールを送り、契約権限の確認記録を残すことが有効です。確認を求めることは、相手方を疑うというよりも、後日の紛争を防ぐための通常の契約管理です。

裁判例から見る判断のポイント

表見支配人の判断では、肩書の文言だけではなく、拠点の実態と取引内容が重視されます。最高裁昭和37年1月19日判決は、東京出張所が独自に営業活動を決定し対外的取引を行える組織を有していた事案で、出張所長の外観を重視する方向の判断を示しました。

一方、最高裁昭和37年5月1日判決は、生命保険会社の支社が新規保険契約の募集や第1回保険料徴収の取次ぎを行うにとどまり、保険契約の締結や保険金支払などの基本的事業行為を独立して行う権限・組織を備えていなかった事案で、支社長を営業の主任者とは認めませんでした。

この対比から分かるのは、単に「支社」「支店」「出張所」と名乗っているかではなく、その拠点がどの範囲で独立した事業活動を行っていたかが重要だということです。

  • 拠点の独立性:契約締結、受注、価格交渉、履行管理、回収などを独自に行っていたか。
  • 取引内容との関係:問題となった契約が、その拠点の通常事業に属するか。
  • 肩書の外観:相手方から見て、拠点の主任者と理解するのが自然な表示か。
  • 相手方の認識:相手方が権限の不存在を知っていたか、又は会社から明確に権限制限を示されていたか。

裁判例は具体的事案に応じた判断であり、肩書の一覧だけで機械的に結論を出すことはできません。重要なのは、会社が作った外観と、相手方が信頼した内容を証拠で説明できるようにしておくことです。

よくある質問

支店長であれば必ず表見支配人になりますか

必ずしもそうではありません。支店長という肩書は、拠点の主任者を示す名称として問題になりやすいですが、その拠点が会社法13条の本店又は支店としての実質を備えているか、取引がその事業に関するものか、相手方が権限の不存在を知っていたかによって結論が変わります。

表見支配人は訴訟上の行為もできますか

会社法13条がみなすのは「裁判外の行為」をする権限です。訴訟提起、訴訟上の和解、訴訟代理などの裁判上の行為は、会社法13条の直接の対象ではありません。この点は、会社法11条の支配人の権限との大きな違いです。

社内決裁規程で権限を制限していれば大丈夫ですか

社内決裁規程は重要ですが、それだけで取引相手に当然に対抗できるわけではありません。相手方がその制限を知らず、会社が外部に強い権限を示す肩書や表示を使わせていた場合には、会社法13条や他の使用人代理権の規定が問題になります。

相手方の悪意はどのように判断されますか

悪意とは、相手方がその使用人に権限がないことを知っていたことをいいます。たとえば、会社から権限がない旨の通知を受けていた、契約書上で本社承認が必要と明記されていた、交渉中に担当者自身が権限の不存在を明かしていたといった事情があると、相手方保護が否定される方向に働きます。

会社法14条・15条とはどう違いますか

会社法13条は、支店長など拠点の主任者であることを示す名称を付された使用人について、外観に基づいて権限をみなす規定です。これに対し、会社法14条は特定事項の委任を受けた使用人の代理権、会社法15条は物品販売等を目的とする店舗使用人の権限を扱います。一般使用人の代理権については、会社の使用人の代理権も参照してください。

まとめ

会社法13条の表見支配人は、会社の内部権限と外部表示がズレたときに、取引の安全をどこまで保護するかを定める重要な規定です。最後に要点を整理します。

  • 会社法13条は、支店長等の主任者を示す名称を付された使用人について、裁判外行為の権限をみなす規定です。
  • 要件は、使用人性、主任者を示す名称、本店又は支店の事業、裁判外行為、相手方悪意の不存在に分けて確認します。
  • 支店・営業所という名称だけでなく、拠点が独立した事業活動を行う実質を備えているかが重要です。
  • 会社側は肩書・名刺・Web・契約書署名欄を管理し、取引先側は高額契約ほど権限確認の記録を残すべきです。

表見支配人の紛争は、契約締結後に権限の有無が争われてからでは証拠整理が難しくなりがちです。契約前の肩書確認、権限確認、承認記録の保存を、日常的な契約管理の一部として整えておくことが重要です。

坂尾陽弁護士

肩書・拠点・取引内容の3点を確認すれば、表見支配人リスクをかなり整理できます。

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表見支配人は、支配人制度や一般使用人の代理権と合わせて理解すると、契約権限の確認がしやすくなります。