会社法10条・11条・12条は、会社の使用人である支配人について、選任、代理権、競業禁止を定める規定です。支配人は、単なる社内の管理職ではなく、本店又は支店の事業について会社を代理する広い権限を持ち得るため、契約、訴訟対応、社内権限規程、登記、肩書管理のすべてに関係します。
この記事では、会社法10条・11条・12条の条文の要点を、支配人の選任、代理権の範囲、権限制限の対抗不可、他の使用人の選任・解任、競業禁止、違反時の損害額推定、表見支配人や一般使用人との違いに分けて整理します。支配人制度の全体像は支配人とはで、表見支配人は会社法13条の表見支配人で詳しく扱います。
坂尾陽弁護士
- 会社法10条は、会社が支配人を選任し、本店又は支店で事業を行わせることを定めています。
- 会社法11条は、支配人に事業に関する裁判上・裁判外の広い代理権を認めています。
- 支配人の代理権を内部的に制限しても、善意の第三者には対抗できません。
- 会社法12条は、支配人の競業禁止と、一定の違反時の損害額推定を定めています。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法10条・11条・12条の位置づけ
会社法10条から12条は、第1編「総則」第3章「会社の使用人等」第1節「会社の使用人」に置かれています。会社の使用人のうち、特に広い権限を持つ者として支配人を取り出し、その選任と権限、競業禁止を定めている規定です。
会社法上の支配人は、会社の役員ではありません。もっとも、会社の事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を持つため、取引先から見ると、通常の従業員よりもはるかに大きな権限を持つ者として扱われます。
- 会社法10条:会社が支配人を選任し、本店又は支店で事業を行わせることを定めます。
- 会社法11条:支配人の代理権、他の使用人の選任・解任、権限制限の対抗不可を定めます。
- 会社法12条:支配人の競業禁止と、違反時の損害額推定を定めます。
- 会社法13条:実際の支配人でなくても、支配人のように見える肩書を付した場合の表見支配人を定めます。
このように、10条から12条は「本当に支配人を置く場面」の規律であり、13条は「支配人ではないのに支配人のように見える場面」の規律です。両者は近い制度ですが、実務では分けて検討する必要があります。
会社法10条・11条・12条の条文を確認する
まず、会社法10条・11条・12条の骨格を確認します。最新の条文全体は、e-Gov法令検索の会社法で確認できます。
会社法10条|支配人の選任
会社法10条は、会社が支配人を選任し、その本店又は支店において、その事業を行わせることができると定めています。ポイントは、支配人が「本店又は支店」に置かれ、その事業を行わせるために選任されることです。
支配人は、単に「支店長」「営業所長」「マネージャー」といった肩書を付ければ当然に成立するものではありません。会社として支配人を選任する意思決定を行い、支配人としての権限を与え、その外部表示や登記を整える必要があります。
会社法11条|支配人の代理権
会社法11条1項は、支配人が会社に代わって、その事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有すると定めています。2項は、支配人が他の使用人を選任し、又は解任することができると定めます。3項は、支配人の代理権に加えた制限を、善意の第三者に対抗できないと定めます。
会社法11条の中心は、支配人の代理権が非常に広いことです。社内では「この金額以上の契約は本社承認が必要」といった制限を設けることができますが、その制限を知らない取引相手に対して、会社が当然に「支配人に権限がなかった」と主張できるわけではありません。
会社法12条|支配人の競業の禁止
会社法12条1項は、支配人が会社の許可を受けなければ、自ら営業を行うこと、自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をすること、他の会社又は商人の使用人となること、他の会社の取締役・執行役・業務を執行する社員となることを禁止しています。
同条2項は、支配人が会社法12条1項2号に違反して、自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をした場合、その行為によって支配人又は第三者が得た利益の額を、会社に生じた損害の額と推定すると定めています。
会社法10条から12条は、支配人を「選任できる」という入口だけでなく、選任後に会社がどの範囲の対外リスクを負うか、支配人自身にどのような忠実義務的な制約がかかるかまで一体で読む必要があります。
会社法10条|支配人を選任する意味
会社法10条にいう支配人は、会社の本店又は支店で、会社の事業を行わせるために選任される使用人です。支配人を置く実務上の意味は、現場の責任者に、会社の事業に関する包括的な代理権を与え、取引・管理・回収・訴訟対応などを迅速に処理させる点にあります。
もっとも、支配人の権限は広いため、社内の便宜だけで軽く選任することは危険です。支配人として選任するなら、どの拠点のどの事業を担当させるのか、どのような社内決裁ルールを置くのか、登記や取引先への表示をどう管理するのかを事前に整理する必要があります。
支配人は役員ではなく使用人である
支配人は、代表取締役や取締役と異なり、会社の役員ではありません。会社の使用人として、会社から権限を与えられて事業上の行為を行う立場です。そのため、役員登記や役員責任の問題とは別に、使用人としての地位、雇用関係、職務権限、辞令・決裁規程が問題になります。
支配人に当たるかどうかを判断する際には、形式的な肩書だけではなく、実質的に営業上又は事業上の包括的な権限を与えられているかが重要です。現行記事でも扱われているように、最高裁昭和59年3月29日判決では、使用人性や雇用関係の有無が問題になった事案があります。
支配人の選任手続を確認する
株式会社で支配人を選任する場合、取締役会設置会社では、重要な使用人の選任・解任として取締役会決議が問題になります。取締役会非設置会社では、会社法上の業務執行決定ルールに従い、取締役の過半数による決定が問題になります。持分会社では、業務執行に関する社員の決定ルールとの関係を確認します。
- 選任権限:取締役会設置会社か、取締役会非設置会社か、持分会社かで決定機関を確認します。
- 担当拠点:本店又はどの支店の事業を担当させるのかを明確にします。
- 権限範囲:社内規程上、契約締結、債権回収、人事、訴訟対応などの範囲を整理します。
- 外部表示:登記、名刺、Webサイト、契約書署名欄、取引先通知を整合させます。
選任手続に瑕疵があると、支配人としての権限や訴訟行為の有効性が争われるおそれがあります。したがって、単なる辞令や社内メールだけで済ませず、会社の機関設計に応じた決定資料を残すことが重要です。
支配人の登記も確認する
会社が支配人を選任し、又はその代理権が消滅したときは、本店所在地で登記をする必要があります。登記事項としては、支配人の氏名・住所、支配人を置いた営業所などが問題になります。
実務では、選任時だけでなく、異動、退職、解任、担当拠点の変更、支店の移転・廃止があった場合にも、支配人の登記との関係を確認します。登記と実態がずれると、取引先から見た権限確認や訴訟対応で問題が生じやすくなります。
会社法11条|支配人の代理権の範囲
会社法11条1項は、支配人に「その事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為」をする権限を認めています。ここで重要なのは、権限の範囲が、個別の契約ごとに細かく列挙されているのではなく、事業に関する行為として包括的に定められている点です。
裁判外の行為には、契約締結、取引先との交渉、債権回収、支払、通知、承諾、解約、和解などが含まれ得ます。裁判上の行為には、会社の事業に関する訴訟対応などが含まれ得ます。
「事業に関する行為」は広く判断され得る
支配人の代理権は、会社の事業目的そのものに限られません。事業を遂行するために必要な行為や、事業に付随する行為も含まれ得ます。最高裁昭和54年5月1日判決は、事業に関する行為かどうかを、行為の性質・種類等を踏まえて客観的・抽象的に判断する趣旨を示しています。
たとえば、販売会社であれば売買契約、仕入契約、物流契約、債権回収、広告契約などが問題になります。IT企業であれば、開発委託契約、保守契約、ライセンス契約、再委託契約などが問題になります。事業内容との関係が薄い個人的取引まで当然に含まれるわけではありませんが、取引先から見て事業に関連する行為であれば、会社が権限を否定しにくくなることがあります。
支配人は他の使用人を選任・解任できる
会社法11条2項は、支配人が他の使用人を選任し、又は解任することができると定めています。これは、支配人が本店又は支店の事業運営を任される以上、その事業を行うために必要な人員管理権限も持つという考え方に基づきます。
ただし、会社内部では、人事制度、就業規則、権限規程、労働法上の手続との整合性が必要です。支配人に人事権限があるからといって、解雇や懲戒を自由にできるわけではありません。対外的な代理権と、社内労務管理上の適法性は分けて確認します。
内部的な権限制限は善意の第三者に対抗できない
会社法11条3項は、支配人の代理権に加えた制限を、善意の第三者に対抗できないと定めています。たとえば、社内規程で「支配人は1000万円を超える契約を締結できない」と定めていたとしても、取引相手がその制限を知らなければ、会社はその内部制限を理由に契約の効力を否定できない可能性があります。
支配人の権限を社内規程で制限すること自体はできます。ただし、その制限を知らない取引先との関係では、会社が対抗できないことがあります。重要契約では、社内承認欄だけでなく、署名権限者・契約書面・取引先への権限表示をそろえることが重要です。
会社側のリスク管理としては、支配人に何を任せるかを明確にするだけでなく、取引先が見る資料にどのような権限表示が出ているかを確認する必要があります。名刺、メール署名、Webサイト、契約書署名欄、発注書、請求書、店舗表示がばらばらだと、後の紛争で会社側に不利な外観として扱われることがあります。
訴訟対応だけを目的にした形式的な支配人選任は危険
会社法11条1項は支配人の代理権に裁判上の行為も含めていますが、訴訟対応だけをさせる目的で形式的に支配人として選任・登記した場合、実質的に支配人といえるかが争われることがあります。
名古屋高裁金沢支部平成21年6月15日判決は、貸金業者が過払金返還請求訴訟に対応させるために支配人として登記していた従業員について、実質的に取引に関する営業上の包括的権限が与えられていないとして、訴訟行為の効力を否定した事案として知られています。
この点からも、支配人は「訴訟だけを任せる人」ではなく、本店又は支店の事業を行わせる実質的な使用人である必要があります。登記をしているから常に安全という発想ではなく、職務実態と登記・肩書を一致させることが重要です。
会社法12条|支配人の競業禁止
会社法12条は、支配人が会社の許可を受けずに競業的な行為や利益相反的な地位に就くことを禁止しています。支配人は会社の事業に関する広い権限と情報を持つため、会社と競合する取引や他社での活動を自由に許すと、会社の利益が害されやすいからです。
禁止される行為
会社法12条1項が禁止する行為は、次の4類型です。
- 自ら営業を行うこと:会社の許可なく、支配人自身が営業を行うことです。
- 会社の事業の部類に属する取引をすること:自己又は第三者のために、会社と競合し得る取引をすることです。
- 他の会社又は商人の使用人となること:会社の許可なく、他社・他商人の従業員等として活動することです。
- 他の会社の取締役等になること:他社の取締役、執行役又は業務執行社員になることです。
ここでいう競業禁止は、取締役の競業取引規制と似た面がありますが、対象者が「支配人」である点に特徴があります。支配人は役員ではないものの、会社の事業に関する包括的な権限を持つため、会社法は特別に競業禁止を置いています。
会社の許可は明確に残す
会社法12条は、会社の許可を受けた場合まで禁止しているわけではありません。もっとも、どの機関が、どの範囲で、どの条件のもと許可したのかが曖昧だと、後から紛争になりやすいです。
実務では、兼業、副業、グループ会社役職、関連会社への出向、取引先会社の役員兼任などで、会社法12条との関係が問題になります。許可する場合は、対象会社、取引内容、期間、利益相反の防止策、情報管理、報告義務を明確にしておくべきです。
2号違反では利益額が損害額と推定される
会社法12条2項は、支配人が同条1項2号に違反し、自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をした場合、その行為によって支配人又は第三者が得た利益の額を、会社に生じた損害の額と推定すると定めています。
損害額の立証は本来難しいことがあります。そこで、競業取引によって支配人側又は第三者側が得た利益を、会社の損害額と推定することで、会社の損害回復をしやすくする趣旨があります。競業取引が疑われる場合は、取引先、金額、利益率、契約書、請求書、入出金、メール・チャット記録などを早期に保全することが重要です。
代表取締役・一般使用人・表見支配人との違い
支配人の権限を理解するには、代表取締役、一般使用人、表見支配人との違いを押さえる必要があります。契約締結権限の確認では、肩書だけで判断せず、どの法制度で権限が認められる可能性があるかを順に確認します。
- 代表取締役:会社の業務に関する包括的代表権を持つ役員です。支配人は役員ではなく、使用人として会社を代理します。
- 支配人:本店又は支店の事業に関する広い代理権を持つ使用人です。会社法10条・11条が中心になります。
- 一般使用人:特定事項の委任や店舗での販売など、会社法14条・15条の範囲で代理権が問題になります。
- 表見支配人:実際には支配人でなくても、支店長等の名称により、会社法13条で裁判外行為の権限があるものとみなされる場合があります。
支配人制度の全体像を確認したい場合は支配人とはを、表見支配人の肩書リスクを確認したい場合は会社法13条の表見支配人を確認してください。支配人以外の使用人の代理権は、会社法14条・15条の使用人の代理権で整理します。
実務で確認すべきポイント
会社が支配人を置く場合、又は取引相手の担当者が支配人を名乗る場合は、条文の知識だけでなく、実際の確認フローに落とし込む必要があります。特に、支配人は対外的な権限が広いため、会社側・取引先側の双方で確認すべき事項があります。
会社側の確認ポイント
会社側では、支配人を選任する前に、少なくとも次の事項を確認します。
- 本当に支配人が必要か:通常の部長・支店長・特定事項の委任で足りないかを検討します。
- 選任決議を適切に行ったか:会社の機関設計に応じた決定機関で、選任を明確にします。
- 登記を行ったか:支配人の選任、代理権消滅、営業所変更があれば登記手続を確認します。
- 社外表示が一致しているか:名刺、Webサイト、契約書、発注書、メール署名の表示を確認します。
- 競業・兼職を管理しているか:副業、他社役員、関連会社取引、利益相反を確認します。
支配人に権限を与えること自体が悪いわけではありません。問題は、社内のつもりと社外から見える権限表示がずれることです。支配人を置くなら、権限を明確にし、社外に示す表示を管理し、変更があれば速やかに登記・通知・表示変更を行う体制が必要です。
取引先側の確認ポイント
取引先として、相手会社の支配人や支店長と契約する場合は、相手方の権限確認を省略しないことが重要です。特に、金額が大きい契約、継続取引、保証・担保、解約・和解、訴訟外の紛争解決では、署名者の権限確認が後の紛争予防につながります。
- 登記事項証明書を確認する:支配人として登記されているか、どの営業所の支配人かを確認します。
- 肩書だけで判断しない:「支店長」「営業所長」「店長」などは、支配人又は表見支配人の問題を分けて検討します。
- 契約書の当事者表示を確認する:会社名、住所、代表者又は代理人表示、押印者を確認します。
- 本社承認を求める:重要契約では、代表者又は権限ある部署の承認書・委任状を取得します。
相手方が支配人として登記されていない場合でも、表見支配人や一般使用人の代理権、民法上の表見代理が問題になることがあります。もっとも、どの制度が使えるかは要件が異なるため、契約前に確認できるものは確認しておくのが安全です。
よくある質問
支配人は登記されていないと契約できませんか
支配人を選任した場合には登記が必要ですが、登記の有無だけで、すべての契約の効力が機械的に決まるわけではありません。実際に支配人として選任され、事業に関する権限を与えられていたか、取引相手がどのように認識していたか、表見支配人や使用人の代理権の問題が生じるかを含めて検討します。もっとも、会社側の運用としては、支配人を置くなら登記と実態を一致させることが基本です。
支店長は当然に支配人ですか
当然に支配人になるわけではありません。支店長という肩書があっても、会社法上の支配人として選任・登記されていないことがあります。ただし、支店長など本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した場合には、会社法13条の表見支配人が問題になることがあります。
社内規程で支配人の権限を制限すれば安全ですか
社内規程で権限を制限することは重要ですが、それだけで十分ではありません。会社法11条3項により、支配人の代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗できません。したがって、社内規程に加えて、取引先への権限表示、契約締結フロー、稟議・承認、署名権限者の管理を整える必要があります。
支配人は会社の訴訟も担当できますか
会社法11条1項は、支配人の代理権に裁判上の行為も含めています。ただし、訴訟対応だけを目的に形式的に支配人として選任・登記した場合、実質的な支配人性が争われることがあります。支配人は、本来、本店又は支店の事業を行わせるために選任される使用人である点を忘れてはいけません。
支配人が競業した場合、会社は何を請求できますか
会社法12条1項に違反した場合、会社は、内部規程や雇用契約上の責任追及、損害賠償請求、懲戒・解任等を検討することになります。特に、自己又は第三者のために会社の事業の部類に属する取引をした場合には、会社法12条2項により、支配人又は第三者が得た利益の額が会社の損害額と推定されます。
まとめ
会社法10条・11条・12条は、支配人制度の中心になる条文です。最後に、実務上押さえるべきポイントを整理します。
- 支配人は、会社の本店又は支店で事業を行わせるために選任される使用人です。
- 支配人は、会社の事業に関する一切の裁判上・裁判外の行為をする広い代理権を持ちます。
- 支配人の代理権を内部的に制限しても、善意の第三者には対抗できません。
- 支配人には競業禁止があり、一定の違反では利益額が会社の損害額と推定されます。
- 支配人、表見支配人、一般使用人の代理権は、肩書・登記・実態を分けて確認する必要があります。
支配人を置くかどうかは、現場に権限を任せる必要性と、会社が負う対外的リスクのバランスで判断すべき事項です。選任手続、登記、権限規程、社外表示、競業管理がそろっていないと、会社側にも取引先側にも予期しない紛争が生じることがあります。
坂尾陽弁護士
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支配人と会社の使用人の代理権は、10条から15条までを続けて確認すると理解しやすくなります。関連する条文・論点は、次の記事で整理しています。
