類似商号 禁止という言葉を聞くと、「会社名が少しでも似ていれば登記できない」「同じような会社名を使うと直ちに違法になる」と考えがちです。しかし、現在の会社法・商業登記実務では、登記の場面と、実際に商号・名称を使用する場面を分けて考える必要があります。
この記事では、他社と紛らわしい商号・名称をめぐる問題を、登記上の同一商号同一本店の規制、会社法7条・8条の禁止、差止請求、商標法・不正競争防止法との違い、警告を受けた場合・警告する場合の初動対応に分けて整理します。商号の基本ルールは商号とは、会社法6条から8条の逐条的な要点は会社法6条・7条・8条の解説も参照してください。
坂尾陽弁護士
- 類似商号は、現在では「似ているだけで登記できない」という制度ではありません。
- 同一商号同一本店は、商業登記法上、登記できない場面があります。
- 会社法8条では、不正の目的と誤認のおそれがある商号・名称の使用が問題になります。
- 差止請求だけでなく、商標法・不正競争防止法・民法上の損害賠償も併せて検討することがあります。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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類似商号の禁止で最初に分けるべきこと
類似商号の相談では、最初に問題の種類を分けることが重要です。同じ「似た会社名」でも、登記所で登記できるか、会社法上の使用禁止に当たるか、商標権侵害になるか、不正競争になるかで、要件も証拠も対応方針も変わります。
- 登記の問題:同じ本店所在地で同一商号の登記ができるかという問題です。
- 会社法7条の問題:会社でない者が、会社であると誤認されるおそれのある名称・商号を使っていないかという問題です。
- 会社法8条の問題:不正の目的で、他の会社であると誤認されるおそれのある名称・商号を使っていないかという問題です。
- 知的財産・不正競争の問題:商標権侵害、周知表示・著名表示の冒用、混同惹起などがないかという問題です。
したがって、「登記が通ったから絶対に安全」とも、「名前が似ているから直ちに差止めできる」ともいえません。どのルールで問題にするのかを先に決めることが、実務対応の出発点になります。
登記上の規制:同一商号同一本店と旧類似商号規制
会社法施行前は、同一市区町村内で同一営業を行う類似商号について、登記の段階で制限される場面がありました。現在は、旧来の意味での類似商号規制はなくなり、登記上は主に「同一商号同一本店」の禁止が問題になります。
商業登記法27条は、商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所の所在場所が同一であるときは、商号の登記をすることができないと定めています。会社の場合は営業所を本店と読み替えて考えます。条文はe-Gov法令検索の商業登記法で確認できます。
- 同じビル・同じ部屋など、同じ本店所在地で同一商号を登記することはできません。
- 本店所在地が違えば、登記だけを見ると同じ商号でも直ちに排除されるとは限りません。
- 「似ている」だけで登記不可になる制度ではありません。
- ただし、登記できることと、使用しても紛争にならないことは別問題です。
新会社の設立や商号変更をする場合は、登記上の可否だけでなく、同業他社の商号、商標、Web検索結果、取引先・顧客からの見え方まで確認しておくべきです。設立全体の流れは設立・定款の分野でも整理しています。
会社法7条:会社でない者の誤認名称
会社法7条は、会社でない者が、自己の名称又は商号の中に、会社であると誤認されるおそれのある文字を用いてはならないという趣旨の規定です。たとえば、会社ではない団体や個人事業主が、外部から株式会社・合同会社などの会社であるかのように見える名称を使う場合に問題になります。
会社法7条は、他社との類似というより、「そもそも会社ではないのに会社と誤認される表示をしていないか」を扱う規定です。会社法6条が会社の種類に応じた「株式会社」「合同会社」等の文字使用を定めるのに対し、会社法7条は非会社による誤認表示を防ぐ役割を持ちます。最新の条文全体はe-Gov法令検索の会社法で確認できます。
- 個人事業主が、実体以上に株式会社の支店・営業所であるかのような名称を使う場合。
- 任意団体やプロジェクト名が、法人格のある会社名のように見える場合。
- Webサイトや請求書・名刺で、会社であるかのような表示がされている場合。
実務上は、会社法7条だけを単独で問題にするよりも、消費者向け表示、取引先への説明、契約書の当事者表示、名板貸し、商標・不正競争の問題と一緒に検討することが多いです。
会社法8条:他の会社と誤認されるおそれのある商号・名称
類似商号トラブルの中心になりやすいのが会社法8条です。会社法8条1項は、不正の目的をもって、他の会社であると誤認されるおそれのある名称又は商号を使用してはならないと定めています。会社法8条2項は、この違反によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある会社に、侵害の停止又は予防を請求できることを定めています。
この条文では、単に商号が似ているかだけでなく、主に次の点を確認します。
- 名称又は商号の使用:会社名、屋号、サービス名、店舗表示、Web表示などが問題になります。
- 他の会社であると誤認されるおそれ:取引先・顧客から見て、相手会社と混同される危険があるかを見ます。
- 不正の目的:他社の信用への便乗、妨害、交渉材料化など、不正な活動を行う意思があるかを見ます。
- 営業上の利益の侵害又はそのおそれ:顧客流出、問い合わせ混同、信用毀損、取引機会の喪失などを見ます。
会社法8条は、登記の可否とは異なります。商号変更登記が通っていても、後から会社法8条、不正競争防止法、商標法などに基づき、使用差止めや損害賠償の問題が生じることがあります。
誤認のおそれはどう判断するか
「他の会社であると誤認されるおそれ」は、文字列が似ているかだけで決まりません。商号の主要部分、読み方、外観、ロゴ、事業内容、営業地域、顧客層、取引経路、Web検索での見え方、SNS・広告での表示などを総合して判断します。
たとえば、全く異なる業種・地域で、一般顧客が混同しにくい場合は、名称が似ていても会社法8条の問題は強くないことがあります。反対に、商号の主要部分が同じで、同じ業界・同じ地域・同じ顧客層に向けて営業している場合は、実際の問い合わせ混同が少なくても、誤認のおそれが問題になりやすくなります。
Web検索では地域の境界が薄くなります。登記上の本店所在地が違っても、広告・EC・SNSで同じ顧客層に届く場合は、誤認のおそれを軽く見ない方が安全です。
不正の目的はどう判断するか
会社法8条で特に重要なのが「不正の目的」です。単に結果として名称が似ているだけでは足りず、他社の信用に便乗する、他社の営業を妨害する、顧客を誤認させる、交渉上の圧力に使うなど、不正な目的があるかを検討します。
東京地裁平成23年7月21日判決では、会社法8条にいう不正の目的について、他の会社を害する目的、違法性のある目的、公序良俗に反する目的などが問題になると判断されています。この裁判例は、ライセンス交渉の経緯や商号変更後の使用継続などが争点となったもので、商号の似ている・似ていないだけではなく、採用経緯や使用目的が重要であることを示しています。
実務では、商号を選んだ経緯、相手会社を知っていたか、相手会社の信用を利用する表示をしているか、警告後も使い続けているか、顧客からの混同を利用しているか、交渉材料として商号を使っていないかなどを確認します。
営業上の利益の侵害又はそのおそれ
会社法8条2項の差止・予防請求をするには、違反する名称又は商号の使用によって、営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがあることが問題になります。典型的には、問い合わせの誤送信、顧客の混同、取引先からの信用低下、採用応募者や仕入先の誤認、検索結果上の混乱などです。
- 実際に誤って連絡してきた顧客・取引先がいる。
- 検索結果や広告で、どちらの会社か分かりにくい状態になっている。
- 相手方が自社の信用・ブランド・実績を利用しているように見える。
- 取引先や顧客から「同じ会社か」「関連会社か」と問い合わせを受けている。
差止めを検討する側は、これらの事情を証拠として保存しておくことが重要です。スクリーンショットは、URL、日時、検索語、表示内容が分かる形で保存し、電話・メールの誤連絡も記録しておきます。
会社法8条で請求できること
会社法8条2項で明示されているのは、侵害の停止又は予防の請求です。典型的には、紛らわしい商号・名称の使用中止、Webサイト・広告・看板・名刺・請求書等の表示変更、将来の使用禁止などが問題になります。
もっとも、会社法8条だけで常に損害賠償まで請求できるわけではありません。損害賠償は、民法上の不法行為、不正競争防止法、商標法など、別の根拠とあわせて検討することがあります。商号変更登記そのものについても、交渉や裁判上の解決内容として変更・抹消手続が問題になることがありますが、請求の立て方は事案によって変わります。
- 使用中止:紛らわしい商号・名称・表示の使用停止を求める。
- 予防請求:将来の使用や広告展開を止めるよう求める。
- 表示変更:Web、看板、名刺、請求書、SNS、広告などの修正を求める。
- 商号変更:任意交渉又は裁判上の解決として、商号変更を求めることがある。
- 損害賠償:会社法8条以外の根拠も含めて検討する。
差止めを求める前に、相手方の使用状況、採用経緯、混同の証拠、自社の営業上の利益を整理しないと、単なる「似ている会社名への不満」に見えてしまうことがあります。
商標法・不正競争防止法との使い分け
似た会社名やブランド名の問題では、会社法8条だけでなく、商標法・不正競争防止法を併せて検討します。どの法律を使うかは、守りたい対象と立証できる事情によって変わります。
- 会社法8条:他の会社であると誤認されるおそれのある名称・商号の使用と、不正の目的が中心です。
- 商標法:登録商標と同一・類似の標章を、指定商品・指定役務との関係で使っているかが中心です。
- 不正競争防止法:周知・著名な商品等表示の利用、混同惹起、信用毀損などが中心です。
- 民法上の不法行為:故意・過失、権利又は法律上保護される利益の侵害、損害、因果関係を検討します。
会社法8条は、商標登録がなくても問題にできる余地がありますが、「不正の目的」という要件が重くなりやすいです。商標権を取得している場合は、登録商標と使用態様の比較が重要になります。商標の有無を確認する場合は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で検索する方法もあります。
不正競争防止法は、表示の周知性・著名性、混同のおそれ、営業上の利益侵害などが問題になります。自社名・サービス名・ブランド名を長期的に守りたい場合は、商号登記だけでなく、商標登録や表示管理を含めた設計が必要です。
似た商号を見つけた側の初動対応
自社と紛らわしい会社名・サービス名・店舗名を見つけた場合、すぐに強い警告を出す前に、事実関係と証拠を整理します。感情的に「使うな」と伝えるだけでは、相手方が任意に変更しない場合に次の手段へ進みにくくなります。
- 相手方を特定する:登記事項、所在地、代表者、Webサイト、運営会社、連絡先を確認します。
- 使用態様を保存する:商号、ロゴ、広告、SNS、検索結果、店舗表示、請求書などを保存します。
- 混同の証拠を集める:誤連絡、問い合わせ、顧客の誤認、取引先の反応を記録します。
- 自社の権利関係を確認する:商号の使用開始時期、商標登録、ブランドの周知性、実績資料を整理します。
- 請求根拠を選ぶ:会社法8条、商標法、不正競争防止法、民法上の不法行為のどれを主軸にするか検討します。
- 警告の内容を設計する:使用中止、表示変更、商号変更、期限、回答方法を具体的にします。
差止めが必要な場合は、通常訴訟だけでなく、仮処分を検討することがあります。もっとも、仮処分は緊急性や疎明資料が重要になるため、使用状況・混同の証拠・自社の営業上の利益を早めに整理しておくことが大切です。
似た商号を指摘された側の初動対応
他社から「商号が紛らわしい」「会社法8条違反だ」「商標権侵害だ」と警告を受けた場合も、直ちに全部認める必要はありません。まず、相手方の主張の根拠と、自社の使用経緯を分けて確認します。
- 警告の根拠を確認する:会社法8条、商標法、不正競争防止法のどれを主張しているか確認します。
- 商号採用の経緯を整理する:いつ、どのような理由で商号・名称を採用したかを資料化します。
- 相手会社を知っていたか確認する:採用時に相手方を認識していたか、不正目的の有無に関係します。
- 使用態様を点検する:Web、広告、ロゴ、説明文が相手方との関連を示すように見えないか確認します。
- 混同の有無を確認する:実際の誤連絡、問い合わせ、顧客の混乱があるか確認します。
- 変更コストと紛争コストを比較する:争うか、表示を修正するか、段階的変更で解決するか検討します。
警告を受けた後も、相手方の信用に便乗するような広告や、相手方との関連を示すように見える表示を続けると、後の交渉や裁判で不利な事情になることがあります。商号自体を直ちに変更しない場合でも、まず誤認を生む表示を修正することが重要です。
商号を決める段階での予防策
類似商号トラブルを避けるには、設立や商号変更の前に、登記・商標・Web・業界内の使用状況を確認することが有効です。完全にリスクをゼロにすることは難しいものの、早い段階で確認しておくほど、後から商号変更を迫られるコストを減らせます。
- 商業登記を確認する:同一商号同一本店に当たらないか、近い商号の会社がないか確認します。
- 商標を確認する:主要な商号・サービス名・ロゴについて、登録商標の有無を確認します。
- Web検索を行う:検索結果、地図サービス、SNS、ECモール、求人媒体での表示を確認します。
- 業界内の呼ばれ方を確認する:同じ業界・同じ地域・同じ顧客層で混同されやすい名称がないか確認します。
- ドメイン・SNSアカウントを確認する:自社名と近い表示が既に使われていないか確認します。
- 将来の展開を考える:地域限定の名称でも、EC・全国展開・フランチャイズ展開で混同リスクが増えることがあります。
商号やブランド名は、登記できれば終わりではありません。将来の事業展開、広告、採用、M&A、フランチャイズ、商標登録の可能性まで考えると、設立時から一定の調査をしておく方が安全です。
会社法9条の名板貸しとの違い
会社法8条と混同しやすいのが、会社法9条の名板貸し責任です。会社法8条は、紛らわしい名称又は商号を不正の目的で使うことを問題にする規定です。これに対し、会社法9条は、会社が自己の商号を他人に使わせた結果、取引相手が当該会社自身の事業だと誤認して取引した場合の連帯責任を問題にします。
- 会社法8条:他社と紛らわしい商号・名称を使う側の差止めが中心です。
- 会社法9条:自社の商号を他人に使わせた会社の取引責任が中心です。
- 共通点:いずれも、外部から見た誤認・混同が重要です。
- 違い:8条は不正目的・差止め、9条は使用許諾・取引債務の連帯責任を中心に見ます。
名板貸し責任の詳しい要件は、会社法9条の解説と、実務上の使用許諾・表示管理を扱う商号の使用許諾と責任で整理しています。
よくある質問
会社名が似ているだけで違法になりますか
似ているだけで直ちに違法とはいえません。登記の場面では同一商号同一本店の規制が中心であり、会社法8条では不正の目的と他の会社であると誤認されるおそれが問題になります。商標法や不正競争防止法の要件も別に検討する必要があります。
登記できた会社名なら使い続けても大丈夫ですか
登記できたことは、登記上の要件を満たしたことを意味するにとどまります。登記後に、他社から会社法8条、商標法、不正競争防止法などに基づいて使用中止や損害賠償を求められる可能性はあります。登記の可否と使用の適法性は分けて考えます。
不正の目的がないことはどう示せばよいですか
商号を採用した経緯、相手会社を知らなかった事情、独自の由来、使用開始時期、広告表現、顧客への説明、相手方との混同を避ける表示などが重要です。警告を受けた後に誤認表示を修正したかどうかも、実務上は検討対象になります。
会社法8条で損害賠償も請求できますか
会社法8条2項は、侵害の停止又は予防の請求を定めています。損害賠償を請求する場合は、民法上の不法行為、不正競争防止法、商標法など別の根拠も含めて検討するのが通常です。どの根拠を使うかは、商標登録の有無、周知性、混同の証拠、損害の立証可能性によって変わります。
似た商号の会社に警告書を送る前に何を準備すべきですか
相手方の登記情報、Web表示、広告、SNS、店舗表示、検索結果、顧客の誤認・誤連絡の記録、自社の商号使用開始時期、商標登録、営業実績を整理します。警告書では、どの表示の中止を求めるのか、どの期限までに回答を求めるのかを具体的にすることが重要です。
まとめ
類似商号の問題は、登記規制、会社法7条・8条、商標法、不正競争防止法が重なりやすい領域です。最後に要点を整理します。
- 現在は、旧来の意味での類似商号規制ではなく、同一商号同一本店の禁止が登記上の中心です。
- 会社法7条は、会社でない者が会社と誤認される名称を使う場面で問題になります。
- 会社法8条では、不正の目的と、他の会社であると誤認されるおそれが重要です。
- 差止めを求める側は、混同・誤認・営業上の利益侵害の証拠を保存する必要があります。
- 商号を決める側は、登記だけでなく商標・Web・業界内の使用状況まで確認すべきです。
会社名やサービス名は、顧客・取引先・採用候補者が最初に見る重要な表示です。似た商号を見つけた場合も、警告を受けた場合も、まずは登記、使用態様、相手方の権利、混同の証拠、不正目的の有無を分けて整理しましょう。
坂尾陽弁護士
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商号・名称の紛争は、商号の基本、誤認表示、名板貸し、設立時の商号決定と一緒に確認すると整理しやすくなります。
