会社法16条から20条は、会社の「代理商」について、通知義務、競業禁止、通知を受ける権限、契約解除、留置権を定めています。代理商は、会社のために取引の代理又は媒介をする者ですが、その会社の使用人ではありません。代表取締役や支配人のように会社内部の機関・使用人として動くのではなく、独立した外部の取引補助者として会社の営業活動に関与する点に特徴があります。
この記事では、会社法16条・17条・18条・19条・20条について、条文ごとの要点、代理店・販売店・仲立人との違い、代理商契約を作るときの実務上の確認ポイントを整理します。会社の使用人の権限は会社法14条・15条の使用人の代理権で、支配人の権限は会社法10条・11条・12条の支配人で扱います。
坂尾陽弁護士
- 会社法16条は、代理商が取引の代理又は媒介をしたときの通知義務を定めています。
- 会社法17条は、会社の許可がない競業取引や同業会社役員等への就任を制限します。
- 会社法18条は、物品販売等の代理商が売買に関する通知を受ける権限を扱います。
- 会社法19条は、期間の定めがない代理商契約の解除予告と、やむを得ない事由による解除を定めます。
- 会社法20条は、一定の場合に代理商が会社の物や有価証券を留置できることを定めます。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法16条〜20条の代理商とは
会社法上の代理商とは、会社のために、その平常の事業の部類に属する取引の代理又は媒介をする者で、その会社の使用人でないものをいいます。ポイントは、会社の取引を外部から継続的に補助する者でありながら、会社内部の従業員ではないという点です。
- 代理をする場合:代理商が会社の代理人として、相手方との契約締結などを行う場面です。
- 媒介をする場合:代理商が会社と相手方との契約成立を取り持つ場面です。契約当事者になるわけではありません。
- 使用人ではないこと:会社の従業員ではなく、独立した事業者・外部協力者として関与する点が、支配人や通常の使用人と異なります。
- 平常の事業の部類に属する取引であること:会社の通常の事業に関係する取引を扱う点が前提になります。
実務では、「代理店」「販売代理店」「取扱店」「紹介店」などの名称が使われることがあります。しかし、契約書の名称だけで会社法上の代理商に当たるかが決まるわけではありません。どの会社のために、どの範囲の取引を、代理又は媒介として行うのか、会社の使用人といえる関係にあるのかを、契約内容と実態から確認します。
代理商は、会社の使用人ではありません。従業員の契約権限を検討する場合は、会社法14条・15条の使用人の代理権や、会社法13条の表見支配人の問題として整理します。
会社法16条〜20条の条文を確認する
会社法16条〜20条の全文や改正状況は、e-Gov法令検索の会社法で確認できます。ここでは、条文ごとの役割と実務で押さえるべき点を整理します。
会社法16条|代理商の通知義務
会社法16条は、代理商が取引の代理又は媒介をしたときは、遅滞なく会社に対してその旨の通知を発しなければならないと定めています。代理商が外部で取引を進めた場合、会社が取引の発生を把握できなければ、履行準備、請求、在庫管理、リスク管理が遅れます。そのため、代理商に速やかな通知義務を負わせています。
会社法17条|代理商の競業の禁止
会社法17条は、代理商が会社の許可を受けずに、会社の事業の部類に属する取引を自己又は第三者のために行うことや、会社の事業と同種の事業を行う他の会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となることを禁止しています。違反して競業取引をした場合、その行為によって代理商又は第三者が得た利益額は、会社に生じた損害額と推定されます。
会社法18条|通知を受ける権限
会社法18条は、物品の販売又はその媒介の委託を受けた代理商について、商法526条2項の通知その他の売買に関する通知を受ける権限を定めています。買主からの検査・通知に関する場面では、代理商に通知したことが、会社に対する通知として扱われる余地があります。会社側は、代理商が受けた通知を社内に速やかに共有させる体制を作る必要があります。
会社法19条|代理商契約の解除
会社法19条は、会社と代理商が契約期間を定めていない場合、2か月前までに予告すれば契約を解除できると定めています。また、やむを得ない事由があるときは、会社及び代理商はいつでも契約を解除できます。代理商契約を継続的取引として運用する場合、期間、更新、解除、終了後の顧客対応や在庫・資料返還を契約書で明確にしておくことが重要です。
会社法20条|代理商の留置権
会社法20条は、代理商が、取引の代理又は媒介をしたことによって生じた債権について弁済期が到来しているときに、その弁済を受けるまで、会社のために代理商が占有する物又は有価証券を留置できると定めています。ただし、当事者が別段の意思表示をしたときはこの限りではありません。報酬、手数料、立替金などの未払いがある場合に、代理商が会社の物を返還しないで支払いを求める場面が想定されます。
代理商と代理店・販売店・仲立人の違い
会社法16条〜20条を読むときに注意したいのは、日常的な「代理店」という言葉と、会社法上の代理商が完全には一致しないことです。実務上は、契約書のタイトルが「代理店契約」であっても、会社法上の代理商に当たる場合もあれば、販売店、紹介者、業務委託先にとどまる場合もあります。
- 代理商:会社のために、通常の事業に属する取引の代理又は媒介をする外部者です。会社法16条〜20条の規律が問題になります。
- 販売店:商品をいったん仕入れて自己の責任で販売する形態では、原則として販売店自身が売主になります。単に「代理店」と呼ばれていても、実態は販売店であることがあります。
- 紹介者・送客先:見込み客の紹介だけを行い、契約成立に向けた媒介まで担わない場合には、代理商性が問題になりにくいことがあります。
- 仲立人:不特定の取引を媒介する商法上の仲立人とは、特定の会社のために継続的に取引の代理・媒介をする代理商と役割が異なります。
したがって、代理店契約を作成・確認するときは、名称ではなく、誰が契約当事者になるのか、誰の名で顧客に説明するのか、手数料の発生条件は何か、顧客からの通知や苦情を誰が受けるのかを具体的に確認する必要があります。一般的な代理商の実務整理は、会社の代理商とはでも整理します。
会社法16条の通知義務で問題になる場面
代理商は、会社の外部で顧客や取引先と接触します。会社が取引成立の事実を知らないままだと、契約書の管理、受発注、納品、検収、請求、クレーム対応が遅れます。会社法16条の通知義務は、この情報のズレを防ぐための基本ルールです。
- 通知の対象:代理商が取引の代理又は媒介をした事実です。契約成立の有無、相手方、取引内容、条件、数量、納期など、会社が履行・管理に必要な情報が問題になります。
- 通知の時期:「遅滞なく」とされているため、合理的な理由なく報告を遅らせることは避けるべきです。実務では、契約成立時、申込受付時、媒介完了時など、通知タイミングを契約書で明確化します。
- 通知の方法:メール、専用システム、報告書、CRM入力など、後で記録に残る方法が望ましいです。口頭連絡だけでは、通知の有無や内容をめぐって紛争になりやすくなります。
- 通知漏れの影響:会社が顧客対応や履行準備を誤る原因になります。代理商契約では、報告遅延時の損害負担や手数料減額・解除事由を定めることがあります。
会社側は、代理商に丸投げするのではなく、代理商から入る情報をどの部署が確認し、どのシステムに登録し、どのタイミングで顧客対応に移るのかを決めておく必要があります。代理商側も、通知義務の範囲を曖昧にしたまま業務を始めると、後で報酬の発生条件や責任範囲をめぐってトラブルになりやすくなります。
会社法17条の競業禁止と複数代理店の注意点
代理商は、会社の営業情報、顧客情報、価格条件、販売方針などに接することがあります。そのため、会社の許可なく同じ事業分野で自己又は第三者のために取引をしたり、同種事業を行う他社の経営に関与したりすると、会社の利益と衝突します。会社法17条は、この利益相反を防ぐために代理商の競業を制限しています。
- 自己又は第三者のための競業取引:代理商が、会社の事業の部類に属する取引を、会社ではなく自分や別の事業者のために行う場面です。
- 同業会社の役員等への就任:会社の事業と同種の事業を行う他の会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員になる場面です。
- 会社の許可:会社が許可している場合は、禁止の対象から外れます。複数社の商品を取り扱うビジネスでは、許可の範囲を契約書で具体化することが重要です。
- 損害額の推定:競業取引に違反した場合、代理商又は第三者が得た利益額が会社の損害額と推定されます。
実務では、複数メーカーの商品を扱う代理店、複数サービスを比較紹介する代理店、保険・金融・ITサービスなどの販売代理店で、どこまで他社商品を扱ってよいのかが問題になります。会社が一定の範囲で複数取扱いを認めるなら、対象商品、地域、顧客層、情報遮断、優先販売義務、競合案件の報告義務を契約書に落とし込む必要があります。
競業禁止は、代理商の営業活動を過度に縛ると実務上機能しにくくなります。禁止範囲、例外、事前承認手続を具体化しておくことが重要です。
会社法18条の通知受領権限と売買トラブル
会社法18条は、物品の販売又はその媒介の委託を受けた代理商が、商法526条2項の通知その他の売買に関する通知を受ける権限を有すると定めています。物品売買では、買主が目的物を検査し、契約内容不適合や数量不足などを発見した場合に通知をする場面があります。その通知を代理商が受けたとき、会社側が「代理商に言われただけで会社は知らない」と主張できるかが問題になります。
この規定により、物品販売やその媒介を委託された代理商には、一定の売買に関する通知を受ける権限があります。会社側から見ると、代理商が顧客からクレームや通知を受けた時点で、社内対応を始めるべき場面があるということです。
- 顧客側の視点:買主は、会社の窓口として機能している代理商に通知する場面があります。通知先を誤ると権利行使に影響する可能性があるため、契約書や請求書上の通知先も確認すべきです。
- 会社側の視点:代理商が受けた不具合連絡、数量不足、返品希望、解除・減額に関する連絡を放置すると、会社側の対応遅れにつながります。
- 代理商側の視点:受けた通知を会社へ転送・報告するルールを明確にしないと、顧客と会社の間で板挟みになります。
代理商契約では、顧客からの通知・苦情・返品連絡を受けた場合の報告期限、一次対応の範囲、交換・返金・契約解除の判断権限、記録保存の方法を定めておくと、売買トラブルを早期に整理しやすくなります。
会社法19条の契約解除と終了時対応
代理商契約は、継続的な営業協力関係として運用されることが多く、契約終了時に紛争が起きやすい領域です。会社法19条は、契約期間を定めていない代理商契約について、2か月前までに予告して解除できることを定めています。また、やむを得ない事由がある場合には、いつでも解除できます。
- 期間の定めがない場合:会社又は代理商は、2か月前までに予告して契約を解除できます。
- やむを得ない事由がある場合:重大な契約違反、信用失墜、秘密情報の不正利用、顧客情報の持ち出しなど、関係を継続しがたい事情があれば、即時解除が問題になります。
- 期間の定めがある場合:契約書上の期間、更新、解除条項が中心になります。会社法19条だけで処理できるとは限りません。
- 終了後の処理:顧客引継ぎ、未成約案件、手数料精算、資料返還、秘密保持、競業・勧誘禁止の範囲を確認します。
代理商側にとっては、突然の終了により将来の手数料収入が失われるリスクがあります。会社側にとっては、代理商が顧客情報や営業資料を持ったまま離脱するリスクがあります。そのため、代理商契約では、終了予告、即時解除事由、終了後の顧客対応、未払い報酬、未成約案件の扱いを具体的に定めることが重要です。
会社法20条の留置権と未払い報酬の管理
会社法20条の代理商の留置権は、代理商が会社に対して報酬や手数料などの債権を持っている場合に問題になります。代理商が会社のために占有している物や有価証券を、弁済を受けるまで留置できるという規定です。ただし、どのような債権でもよいわけではなく、取引の代理又は媒介をしたことによって生じた債権であり、弁済期が到来している必要があります。
- 債権の発生原因:取引の代理又は媒介によって生じた報酬、手数料、立替金などが問題になります。
- 弁済期の到来:まだ支払期日が来ていない債権を理由に留置できるわけではありません。
- 占有対象:会社のために代理商が占有する物又は有価証券が対象です。単なるデータや顧客情報の持ち出しを正当化するものではありません。
- 別段の意思表示:当事者が別段の意思表示をした場合は、留置権の扱いが変わります。契約書で返還義務や留置権排除を定めることがあります。
会社側は、代理商に商品のサンプル、在庫、証券類、販促物などを預ける場合、所有権、保管義務、返還時期、未払い報酬との関係を契約書で整理しておくべきです。代理商側も、未払いがあるからといって、顧客情報、システムアカウント、営業秘密、個人情報を返さない対応は別問題を生じさせるため、留置できる対象を慎重に確認する必要があります。
代理商契約で確認すべき実務ポイント
会社法16条〜20条は、代理商に関する最低限の規律です。実際の代理商契約では、会社法の規定だけでなく、具体的な業務範囲、手数料、競業、顧客対応、契約終了時の処理を契約書で明確にする必要があります。
- 代理商に当たるか:代理、媒介、販売店、紹介者、業務委託先のどれに近いのかを整理します。
- 権限範囲:契約締結権限の有無、価格変更権限、値引き権限、返品・解除対応権限を定めます。
- 通知・報告:契約成立、申込受付、顧客通知、苦情、事故、競合案件の報告期限と方法を決めます。
- 競業・専属性:競合商品を扱えるか、会社の許可が必要か、地域・顧客・商品ごとの例外を定めます。
- 報酬・手数料:発生条件、支払時期、返品・キャンセル時の扱い、未成約案件の扱いを定めます。
- 解除・終了後処理:解除予告、即時解除事由、顧客引継ぎ、資料返還、秘密保持、勧誘禁止を定めます。
- 物品・有価証券の管理:預けた物の保管、返還、廃棄、留置権の扱いを定めます。
特に、代理商が顧客と直接接触するビジネスでは、顧客から見ると代理商が会社そのものの窓口に見えることがあります。名刺、メール署名、Webサイト、提案書、契約書、請求書の表示を整え、代理商がどこまで会社を代表できるのかを明確にしておくことが重要です。肩書や表示による外観責任が問題になる場面は、会社法13条の表見支配人とも比較して確認すると整理しやすくなります。
よくある質問
代理店契約を結べば、必ず会社法上の代理商になりますか
必ず代理商になるわけではありません。契約書の名称が「代理店契約」でも、実態として商品を仕入れて自己の責任で再販売する販売店であれば、会社法上の代理商とは評価されにくいことがあります。会社のために、平常の事業に属する取引の代理又は媒介をしているか、その会社の使用人ではないかを確認します。
代理商は競合他社の商品を扱えませんか
会社法17条は、会社の許可がない競業行為を禁止しています。したがって、競合他社の商品やサービスを扱う余地がある場合は、契約書で許可の範囲、対象商品、地域、顧客層、報告義務を明確にする必要があります。複数社商品を扱うビジネスでは、包括的な承認なのか、個別承認が必要なのかを分けて定めます。
顧客が代理商にクレームを伝えた場合、会社への通知になりますか
物品の販売又はその媒介を委託された代理商については、会社法18条により、商法526条2項の通知その他の売買に関する通知を受ける権限があります。ただし、すべての通知が無制限に代理商へ有効となるわけではないため、通知内容、代理商の権限、契約書上の通知先を確認する必要があります。
代理商契約を終了するには必ず2か月前予告が必要ですか
契約期間を定めていない場合は、会社法19条により、2か月前までに予告して解除できます。また、やむを得ない事由があるときはいつでも解除できます。もっとも、契約期間を定めている場合や契約書に解除条項がある場合は、その内容を確認する必要があります。
代理商は未払い手数料があれば何でも留置できますか
何でも留置できるわけではありません。会社法20条の留置権は、取引の代理又は媒介をしたことによって生じた債権の弁済期が到来している場合に、会社のために代理商が占有する物又は有価証券を留置できるという規定です。顧客情報や営業秘密の持ち出し、システム利用の妨害などは別の問題を生じさせるため注意が必要です。
まとめ:代理商は、名称ではなく取引実態と契約条項で整理する
会社法16条〜20条は、会社の外部で取引の代理・媒介を担う代理商について、会社と代理商、顧客との関係を調整する規定です。代理店契約の名称だけで判断せず、代理商に当たるか、どの権限を持つか、通知・競業・解除・留置権をどう扱うかを具体的に整理する必要があります。
- 代理商は、会社のために平常の事業に属する取引の代理又は媒介をする、会社の使用人でない者です。
- 会社法16条は通知義務、17条は競業禁止、18条は売買通知を受ける権限を定めています。
- 会社法19条は期間の定めがない代理商契約の解除、20条は代理商の留置権を定めています。
- 代理店・販売店・紹介者・仲立人は、名称ではなく契約内容と実態で区別します。
- 代理商契約では、権限範囲、報告義務、競業、手数料、解除、終了後処理を明確にすることが重要です。
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