【会社法907条〜910条】会社法上の登記の通則・効力・変更登記・期間|条文の要点と実務ポイント

会社法907条〜910条は、会社法上の登記について、通則、登記の効力、変更・消滅登記、登記期間の起算点を定める総則的な規定です。個別の設立登記、変更登記、組織再編登記、外国会社登記などを読む前に、まずこの4条の考え方を押さえておく必要があります。

特に実務で重要なのは、会社法908条です。登記すべき事項を登記していない場合、会社は原則としてその事項を善意の第三者に対抗できません。また、故意又は過失により不実の登記をした場合には、その不実を善意の第三者に主張できないことがあります。

この記事では、会社法907条〜910条の条文構造、登記の効力、登記漏れ・不実登記の違い、変更登記や期間管理の実務ポイントを整理します。

  • 会社法907条は、会社法上の登記事項を、商業登記法に従って商業登記簿に登記するという通則です。
  • 会社法908条は、登記前の第三者対抗、登記後に登記を知らなかった第三者、不実登記の効果を定める中心規定です。
  • 会社法909条は、登記した事項に変更又は消滅が生じた場合、遅滞なく変更登記又は消滅登記をする義務を定めます。
  • 会社法910条は、官庁の許可を要する登記について、登記期間を許可書到達日から起算するルールを定めます。
  • 実務では、登記すべき事項、変更発生日、期限、第三者への影響をセットで確認することが重要です。

坂尾陽弁護士

登記は、会社の基本情報を公示するだけでなく、取引先との関係で会社の主張が通るかどうかに影響します。役員変更、本店移転、商号変更、組織再編などがあったときは、社内決議だけで終わらせず、登記完了まで管理しましょう。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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会社法907条〜910条の位置づけ

会社法907条〜910条は、会社法第7編第4章「登記」の第1節「総則」に置かれています。911条以下には、株式会社の設立登記、持分会社の設立登記、変更登記、本店移転、組織再編、解散・清算、外国会社登記など、個別の登記規定が続きます。

そのため、907条〜910条は、個別登記の前提になる「共通ルール」として読む条文です。各条文の役割は、次のように整理できます。

条文 テーマ 実務上の意味
会社法907条 通則 会社法上の登記事項を、商業登記法に従って商業登記簿に登記することを定めます。
会社法908条 登記の効力 登記前の第三者対抗、不実登記、善意の第三者との関係を定めます。
会社法909条 変更登記・消滅登記 登記済み事項に変更又は消滅があったときの登記義務を定めます。
会社法910条 登記の期間 官庁の許可を要する事項について、登記期間の起算点を定めます。

会社の登記制度の全体像や登記漏れのリスクは、会社の登記とは|登記の効力・対抗要件・登記漏れのリスクを整理でも整理しています。本記事では、907条〜910条の条文自体に焦点を当てます。

実務ポイント

907条〜910条だけで、具体的にどの登記をいつまでに申請すべきかがすべて分かるわけではありません。実際の期限や添付書類は、911条以下の個別条文、会社法915条、商業登記法、商業登記規則、法務局の運用を併せて確認する必要があります。


条文の要点

会社法907条〜910条は短い条文ですが、会社登記の実務では頻繁に参照されます。条文全体は、e-Gov法令検索「会社法」で確認できます。

会社法907条:通則

第九百七条 この法律の規定により登記すべき事項(第九百三十八条第三項の保全処分の登記に係る事項を除く。)は、当事者の申請又は裁判所書記官の嘱託により、商業登記法の定めるところに従い、商業登記簿にこれを登記する。

907条は、会社法上の登記事項について、商業登記法の手続に従って商業登記簿に登記するという基本ルールです。通常は会社などの当事者が申請しますが、会社関係訴訟や特別清算などでは、裁判所書記官の嘱託による登記が問題になることもあります。

会社法908条:登記の効力

第九百八条 この法律の規定により登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができない。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様とする。

2 故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができない。

908条は、登記の効力を定める中心条文です。第1項は、登記すべき事項を登記していない間は、原則として善意の第三者に対抗できないことを定めます。第2項は、故意又は過失による不実登記がある場合に、登記をした者がその不実を善意の第三者に対抗できないことを定めます。

会社法909条:変更の登記及び消滅の登記

第九百九条 この法律の規定により登記した事項に変更が生じ、又はその事項が消滅したときは、当事者は、遅滞なく、変更の登記又は消滅の登記をしなければならない。

909条は、登記済み事項に変更又は消滅があった場合の基本的な登記義務を定めます。たとえば、商号、本店、目的、役員、代表者、公告方法などの登記事項に変更が生じたときは、変更登記の要否を確認する必要があります。

会社法910条:登記の期間

第九百十条 この法律の規定により登記すべき事項のうち官庁の許可を要するものの登記の期間については、その許可書の到達した日から起算する。

910条は、官庁の許可を要する事項について、登記期間の起算点を定める規定です。単に社内決議の日だけを基準にするのではなく、許可書が到達した日から期間を数える場面がある点に注意が必要です。


会社法908条の登記の効力をどう読むか

907条〜910条の中でも、最も実務上の紛争につながりやすいのは908条です。会社法908条は、大きく分けて、登記前の対抗、登記後でも登記を知らなかった第三者、不実登記の3つを扱っています。

登記前は善意の第三者に対抗できない

会社法908条1項前段は、会社法上登記すべき事項について、登記の後でなければ善意の第三者に対抗できないと定めています。

たとえば、代表取締役が交代したにもかかわらず変更登記をしていない場合、会社内部では代表者が変わっていても、登記を信頼した取引先との関係で、会社が「すでに代表者ではなかった」と主張できるかが問題になります。

このルールは、登記制度を信頼して取引する第三者を保護するためのものです。会社側から見ると、登記すべき事項を登記しないまま放置すると、内部の事情を取引先に主張しにくくなるリスクがあります。

登記後でも、正当な事由で知らなかった第三者には対抗できないことがある

会社法908条1項後段は、登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様に対抗できないと定めています。

もっとも、単に登記事項証明書を確認しなかったというだけで、常に「正当な事由」が認められるわけではありません。正当な事由の有無は、取引の内容、時期、登記確認の可能性、当事者間の連絡状況などを踏まえて判断されます。

企業実務では、重要契約、融資、M&A、組織再編、役員変更直後の取引などでは、最新の登記事項証明書を取得し、代表者・本店・目的・公告方法などを確認する運用が重要です。

不実登記では善意の第三者保護が問題になる

会社法908条2項は、故意又は過失によって不実の事項を登記した者について、その事項が不実であることを善意の第三者に対抗できないと定めています。

不実登記とは、登記された内容と実際の法律関係が食い違っている状態をいいます。典型例としては、代表者ではない者を代表者として登記してしまった場合、退任した役員がなお登記上残っている場合、存在しない変更を登記してしまった場合などが考えられます。

ただし、商業登記に絶対的な公信力があるわけではありません。不実登記に関する責任が問題になるかは、誰が登記申請に関与したのか、会社に故意又は過失があるのか、第三者が善意か、特段の事情があるかなどを具体的に検討する必要があります。

注意点

登記簿に記載されているからといって、必ずその内容どおりの法律関係が存在するとは限りません。取引先側は登記事項証明書を確認するだけでなく、重要契約では代表権・社内決裁・委任状・議事録などの確認も検討すべきです。


登記漏れと不実登記の違い

会社法908条を理解するには、登記漏れと不実登記を分けて考えることが重要です。どちらも登記簿と実際の状態にずれがある点では共通しますが、問題になる条文構造や実務対応が異なります。

区分 典型例 問題になる効果 実務対応
登記漏れ 代表取締役が交代したのに変更登記をしていない。本店移転後も旧本店のままになっている。 登記すべき事項を善意の第三者に対抗できるかが問題になります。 変更発生日、申請期限、取引先への説明、関係書類の修正を確認します。
不実登記 実際には選任されていない者を役員として登記した。誤った内容で登記申請をした。 故意又は過失により不実登記をした者が、その不実を善意の第三者に対抗できるかが問題になります。 不実の原因、申請関与者、会社の帰責性、第三者の善意性を確認します。
単なる記載不備・誤記 住所表記、漢字、日付などに誤りがある。 誤りの内容により、更正登記・変更登記・補正の要否が問題になります。 法務局、司法書士、社内資料を確認し、訂正方法を判断します。

登記漏れの場合、会社内部では正しい法律関係が成立していても、外部の第三者との関係では対抗できないことがあります。不実登記の場合は、会社が不実な外観を作ったといえるか、第三者がその外観を信頼したかが問題になります。

登記漏れは期限管理の問題としても扱う

登記漏れは、会社法908条の対抗問題だけでなく、会社法915条などの変更登記義務、会社法976条以下の過料リスクにもつながります。特に役員変更、本店移転、商号変更、目的変更、募集株式発行、組織再編などでは、期限管理が重要です。

登記申請の期限や起算点については、登記申請の期限(2週間・3週間)と起算点|登記の期間の考え方で詳しく整理しています。

不実登記は帰責性と第三者保護を確認する

不実登記では、単に登記簿の記載が誤っているだけでなく、その不実登記について誰に故意又は過失があるかを確認します。会社が自ら不実登記を申請した場合、会社関係者が不実登記の実現に関与した場合、不実登記を知りながら是正しなかった場合などでは、第三者保護が問題になりやすくなります。

一方で、会社の申請に基づかない不実登記が無断でされた場合まで、常に会社が責任を負うとは限りません。この点は、後述の裁判例でも重要な判断ポイントになっています。


会社法909条・910条と変更登記の実務

会社法909条は、登記した事項に変更又は消滅が生じたときは、遅滞なく変更登記又は消滅登記をしなければならないと定めています。910条は、そのうち官庁の許可を要するものについて、登記期間を許可書の到達日から起算すると定めています。

「遅滞なく」と個別の登記期限を分けて確認する

909条は「遅滞なく」と定めていますが、実務では、会社法915条のように、変更が生じたときから2週間以内などの個別期限が問題になることが多いです。

したがって、登記事項に変更が生じた場合は、909条だけでなく、個別条文で定められた期限を確認します。たとえば、株式会社の設立登記は会社法911条、持分会社の設立登記は会社法912条〜914条、変更登記は会社法915条などを確認します。

官庁の許可が必要な場合は起算点に注意する

会社法910条は、官庁の許可を要する登記について、登記期間を許可書の到達日から起算すると定めています。社内決議の日、契約締結日、効力発生日だけで期限を数えると、起算点を誤るおそれがあります。

許認可や行政庁の関与が絡む会社実務では、許可申請、許可書到達、登記申請、関係先への通知を一連のスケジュールとして管理することが重要です。

登記申請手続は商業登記法・添付書類まで確認する

907条が商業登記法を前提にしているように、実際の登記申請では、会社法だけでなく、商業登記法、商業登記規則、登録免許税、添付書類、電子申請の方法などを確認する必要があります。

申請人、添付書類、オンライン申請などの基本は、商業登記の申請手続|申請人・添付書類・オンライン申請の基本も参照してください。


実務で確認すべきポイント

会社法907条〜910条は抽象的な総則ですが、実務では、登記漏れや不実登記が契約・金融機関手続・許認可・M&A・組織再編で問題になります。次の順で確認すると、見落としを減らしやすくなります。

登記すべき事項かを確認する

まず、その事項が会社法上又は商業登記法上、登記すべき事項に当たるかを確認します。会社の商号、本店、目的、役員、代表者、資本金、株式、公告方法、支配人、組織再編、解散・清算など、会社の種類や手続に応じて登記事項は異なります。

登記事項かどうかが曖昧な場合は、定款、議事録、契約書、申請予定書類、法務局の案内を確認し、必要に応じて司法書士や弁護士に確認します。

変更発生日と効力発生日を分けて把握する

変更登記では、いつ変更が生じたのかが重要です。役員の就任・退任、本店移転、商号変更、目的変更、募集株式発行、組織再編などでは、社内決議の日、承諾日、効力発生日、払込期日、許可書到達日など、複数の日付が関係することがあります。

期限計算を誤らないためには、単に議事録の日付だけを見るのではなく、手続全体の中でどの日が登記原因日・起算点になるかを確認することが必要です。

第三者との取引に影響するかを確認する

登記漏れや不実登記がある場合、取引先、金融機関、株主、債権者、許認可庁、買主候補、投資家などの第三者との関係に影響します。特に、代表者変更、本店移転、商号変更、解散・清算、組織再編では、外部の相手方が登記事項証明書を確認することが多くなります。

第三者への説明が必要な場合は、登記事項証明書だけでなく、議事録、就任承諾書、辞任届、契約書、公告、通知書、許認可書類など、事実関係を説明できる資料を準備しておきます。

登記完了後の関係資料も更新する

登記が完了しても、社内外の資料が旧情報のまま残っていると、再び混乱が生じます。登記完了後は、契約書ひな形、請求書、会社案内、ウェブサイト、銀行届出、許認可書類、取引先マスタ、電子契約サービスの登録情報なども更新しましょう。

チェックリスト

登記対応では、①登記すべき事項か、②変更日・効力発生日はいつか、③申請期限はいつか、④添付書類はそろっているか、⑤第三者に説明が必要か、⑥登記後に更新すべき社内外資料があるかを確認します。


不実登記に関する裁判例

不実登記については、登記簿上の外観を信頼した第三者をどこまで保護するかが問題になります。参考になる裁判例として、最高裁昭和55年9月11日判決があります。

この事案では、代表権のない者が代表取締役として不実の登記をし、会社所有不動産の売買が問題になりました。最高裁は、登記申請権者の申請に基づかない不実の商業登記については、登記申請権者が不実登記の実現に加功した、又は不実登記の存在を知りながら是正措置をとらず放置したなど、申請に基づく登記と同視できる特段の事情がない限り、不実登記に関する責任を認めることはできないという趣旨を示しました。

この裁判例から分かる実務上のポイントは、登記内容が不実であるというだけで直ちに会社責任が決まるわけではないという点です。会社が不実登記にどのように関与したか、是正の機会があったか、第三者がどのような事情で取引したかを具体的に確認する必要があります。

他方で、会社側に不実登記の作出・放置について故意又は過失が認められる場合には、善意の第三者に対して不実を主張しにくくなります。役員変更や代表者変更の登記は、登記申請の正確性と、誤り発見後の速やかな是正が重要です。


よくある質問

会社法908条の「善意の第三者」とは誰ですか

一般に、登記すべき事項や登記の不実について知らない第三者を指します。取引先、債権者、契約相手などが問題になり得ます。ただし、善意かどうか、重過失の有無をどう見るかは、条文、事案、裁判例の文脈により検討が必要です。

登記をしていないと、会社内部の変更は無効になりますか

登記をしていないことと、会社内部の決議や法律関係の効力は別問題です。内部的には有効に変更が生じていても、登記をしていないために善意の第三者に対抗できないことがあります。登記は、特に外部との関係で重要になります。

不実登記があれば、常に登記どおりの責任を負いますか

常にそうとは限りません。会社法908条2項の適用では、故意又は過失、不実登記をした者、第三者の善意などを確認します。会社の申請に基づかない不実登記では、会社側の加功や放置などの特段の事情が問題になることがあります。

会社法909条の「遅滞なく」と、2週間以内の期限はどう違いますか

909条は、登記した事項に変更又は消滅が生じた場合の一般的な義務を定める規定です。実際の期限については、会社法915条などの個別条文で2週間以内などと定められている場合があります。実務では、909条だけでなく個別条文を必ず確認します。

登記申請を忘れていた場合、まず何を確認すべきですか

まず、変更が生じた日、登記すべき事項、申請期限、現時点の登記内容、第三者との取引への影響を確認します。そのうえで、必要書類を整え、速やかに登記申請を行います。既に取引先に影響している場合は、説明資料や再発防止策も準備します。

会社法907条〜910条だけ読めば登記申請できますか

通常は足りません。907条〜910条は登記総則ですが、実際の申請には、個別の会社法条文、商業登記法、商業登記規則、添付書類、登録免許税、法務局の運用を確認する必要があります。


まとめ

会社法907条〜910条は、会社法上の登記制度を理解するための基本条文です。特に908条は、登記漏れや不実登記が取引先との関係でどのような効果を持つかを考えるうえで重要です。

  • 907条は、会社法上の登記事項を商業登記法に従って商業登記簿に登記する通則です。
  • 908条は、登記前の第三者対抗、不実登記、善意の第三者との関係を定める中心規定です。
  • 909条は、登記した事項に変更又は消滅があった場合の変更登記・消滅登記義務を定めます。
  • 910条は、官庁の許可を要する登記について、許可書到達日を起算点とする規定です。
  • 登記漏れや不実登記を見つけた場合は、期限、第三者への影響、是正方法を早期に整理することが重要です。

登記は、社内手続の最後に形式的に行う作業ではありません。会社の重要事項を外部に示し、取引の安全を支える制度です。役員変更、本店移転、商号変更、組織再編などが生じた場合は、会社法上の効力だけでなく、登記申請と外部説明まで含めて対応しましょう。

坂尾陽弁護士

登記の遅れや誤りは、契約締結、金融機関手続、許認可、M&A、組織再編で後から問題化しやすい論点です。変更が生じた時点で、会社法上の登記事項と期限を確認し、必要に応じて専門家に相談してください。

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