会社法14条・15条は、会社の従業員が会社名義で取引をするときに、どの範囲で会社に効果が帰属するかを考えるための規定です。代表取締役や支配人ではない従業員でも、一定の事項を任されていれば、その範囲で裁判外の行為をする権限が認められます。また、物品の販売等を目的とする店舗の使用人には、店舗にある物品の販売等をする権限があるものと扱われます。
この記事では、会社法14条の「ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」と、会社法15条の「物品の販売等を目的とする店舗の使用人」について、条文の要点、支配人・表見支配人との違い、契約締結権限の確認方法、社内決裁規程との関係を整理します。支配人一般は会社法10条・11条・12条の支配人で、肩書による外観責任は会社法13条の表見支配人で扱います。
坂尾陽弁護士
- 会社法14条は、特定事項を委任された使用人に、その事項に関する裁判外の行為の権限を認める規定です。
- 会社法15条は、店舗使用人について、店舗にある物品の販売等をする権限を認める規定です。
- 社内決裁規程で権限を制限していても、善意の第三者に対抗できない場面があります。
- 支配人・表見支配人・代理商とは、根拠条文と権限の広さを分けて考える必要があります。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法14条・15条の位置づけ
会社法14条・15条は、第1編「総則」第3章「会社の使用人等」第1節「会社の使用人」に置かれています。この節には、支配人の選任・代理権・競業禁止を定める10条から12条、表見支配人を定める13条、そして通常の使用人の代理権を定める14条・15条が並んでいます。
実務で問題になるのは、代表取締役以外の人が契約書に署名・押印した場合、その契約が会社に効くのかという場面です。営業部長、購買担当者、店舗スタッフ、店長、プロジェクト責任者などの肩書があっても、それだけで常に会社を代表できるわけではありません。他方で、会社がその従業員に一定の事項を任せていたり、店舗で通常の販売行為をさせていたりする場合には、取引の安全を保護する必要があります。
- 会社法14条:ある種類又は特定事項を委任された使用人の権限を扱います。
- 会社法15条:物品の販売等を目的とする店舗の使用人の権限を扱います。
- 会社法10条〜12条:支配人という特に広い権限を持つ使用人を扱います。
- 会社法13条:支配人らしい肩書を付けた場合の外観責任を扱います。
したがって、会社法14条・15条は「代表者以外が契約したから当然に無効」とも、「部長・店員だから当然に有効」ともいえない場面で、どこまで会社に効果を帰属させるかを判断するための基礎になります。
会社法14条・15条の条文を確認する
会社法14条・15条の原文は、必ず最新の条文で確認する必要があります。ここでは要点を確認し、全文や改正状況を確認する場合はe-Gov法令検索の会社法を参照してください。
会社法14条|ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
会社法14条は、事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人について、その事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有すると定めています。また、その代理権に加えた制限は、善意の第三者に対抗できません。
- 対象者:事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
- 権限:当該事項に関する一切の裁判外の行為
- 制限:代理権制限は、善意の第三者に対抗できない
ここで重要なのは、会社法14条が「使用人であれば誰でも会社を代表できる」と定めているわけではない点です。ある種類又は特定事項について会社から処理を任され、その取引が客観的にその事項の範囲内にあることが出発点になります。
会社法15条|物品の販売等を目的とする店舗の使用人
会社法15条は、物品の販売等を目的とする店舗の使用人について、その店舗にある物品の販売等をする権限を有するものとみなす規定です。ただし、相手方が悪意であったときは、この限りではありません。
- 対象者:物品の販売等を目的とする店舗の使用人
- 対象行為:その店舗にある物品の販売、賃貸その他これらに類する行為
- 例外:相手方が権限のないことを知っていた場合
この規定は、店舗で商品やサービスを扱う日常的な取引を円滑にするためのものです。店頭で通常行われる販売等について、顧客が毎回会社内部の権限分掌まで確認しなければならないとすると、取引が成り立ちにくくなるためです。
会社法14条のポイント
会社法14条を検討するときは、単に「役職があるか」ではなく、会社がその人にどの事項を任せていたか、その取引が委任された事項の範囲内にあるか、内部的な権限制限を取引先が知っていたかを順に確認します。
「ある種類又は特定の事項の委任」とは何か
会社法14条の「ある種類又は特定の事項の委任」は、会社の事業に関する一定の業務領域を使用人に任せることを意味します。たとえば、営業部門の取引、仕入先との発注、特定プロジェクトに関する交渉、店舗運営に関する契約など、職務上一定の処理権限を持つ場面が典型です。
ただし、名刺に「部長」「マネージャー」「担当者」と書かれているだけで、必ず会社法14条の委任があるとは限りません。会社内部の職務分掌、実際の取引運用、過去の契約締結状況、会社から相手方への説明、メールや注文書のやり取りなどを総合して、当該事項を任されていたといえるかを確認します。
会社法14条は、肩書から当然に権限を推定する規定ではありません。特定事項を任されていることと、取引がその事項の範囲内にあることを分けて確認します。
権限は「裁判外の行為」に限られる
会社法14条で認められるのは、当該事項に関する一切の裁判外の行為です。契約締結、見積り、注文、受領、解除通知、交渉などの取引上の行為が問題になります。他方で、訴訟の提起、訴訟上の和解、訴訟代理人の選任など、裁判上の行為まで当然に含むわけではありません。
この点は、支配人との重要な違いです。支配人は、会社法11条により、事業に関する裁判上・裁判外の行為をする広い代理権を持ちます。これに対し、会社法14条の使用人は、委任された事項に関する裁判外行為に限られます。支配人との違いは支配人とはでも整理しています。
内部的な権限制限は善意の第三者に対抗できない
会社は、社内決裁規程や職務権限規程で「〇万円以上は役員決裁」「契約書は代表取締役印が必要」「稟議承認がない限り発注不可」などの内部制限を置くことがあります。このような内部ルールは、会社内部の統制として重要です。
しかし、会社法14条2項は、14条1項の使用人の代理権に加えた制限を、善意の第三者に対抗できないと定めています。つまり、特定事項を任された使用人の権限範囲内の取引について、相手方が社内の権限制限を知らなかった場合、会社は内部制限を理由に契約の効果を否定できないことがあります。
- 社内規程は、会社内部の責任追及や承認フローとしては重要です。
- ただし、外部の取引先がその制限を知らない場合、対外的には制限を主張できないことがあります。
- 取引先が制限を知っていた場合には、善意の第三者とはいえない可能性があります。
- 会社側は、権限制限を内部文書だけでなく、外部表示や契約プロセスにも反映する必要があります。
この規律を誤解すると、会社側は「社内稟議が通っていないから無効」と考え、取引先側は「部長が署名したから無条件に有効」と考えるという形で、紛争になりやすくなります。実務では、委任された事項の範囲と、内部制限の認識可能性を分けて検討します。
会社法15条のポイント
会社法15条は、店舗での通常取引を保護する規定です。顧客が店頭で商品を買うときに、その店員が会社内部でどのような決裁権限を持つかを逐一確認することは現実的ではありません。そのため、店舗の使用人には、店舗にある物品の販売等をする権限があるものと扱われます。
「物品の販売等を目的とする店舗」とは
会社法15条は、物品の販売等を目的とする店舗を前提にしています。典型的には、小売店舗、レンタル店舗、ショールーム、営業所内の販売カウンターなど、顧客が店舗に来て物品の販売、賃貸又はこれに類する取引をする場面です。
反対に、単なる本社事務所、倉庫、バックオフィス、工場、展示だけを目的とする場所などでは、直ちに15条の店舗といえるか慎重に見る必要があります。また、EC取引、訪問販売、法人向け大型契約などは、店舗内の通常販売とは異なるため、別途権限確認が必要です。
「その店舗に在る物品の販売等」に限られる
会社法15条の権限は、その店舗にある物品の販売等に関するものです。店舗スタッフが、店舗の商品を通常の条件で販売する、レンタルする、これに付随する受付や引渡しを行うといった場面が中心です。
- 対象になりやすい行為:店頭商品の販売、通常の賃貸、引渡し、代金受領、返品受付などです。
- 対象外になりやすい行為:店舗外の商品に関する大型取引、会社全体の継続的契約、特殊な値引き、保証、債務免除などです。
- 確認が必要な行為:法人向け大量販売、掛売り、長期レンタル、代理店契約、独占販売契約などです。
店舗スタッフの行為であっても、取引内容が通常の店舗販売から大きく外れる場合は、15条だけで処理せず、会社法14条の委任、表見支配人、民法上の代理、契約上の承認なども含めて検討します。
相手方が悪意の場合は保護されない
会社法15条ただし書は、相手方が悪意であったときは権限があるものとはみなさないと定めています。ここでいう悪意とは、相手方が、その店舗使用人に当該販売等の権限がないことを知っていた場合を指します。
たとえば、清掃スタッフや警備員であることを知りながら高額商品を購入した形にする場合、会社から「この担当者には販売権限がない」と明確に知らされていた場合、通常の販売手続を明らかに逸脱していることを認識していた場合には、相手方保護が問題になります。
支配人・表見支配人・代理商との違い
使用人の代理権を検討するときは、周辺制度との違いを整理すると判断しやすくなります。特に、支配人、表見支配人、代理商は、いずれも会社の取引を補助する者ですが、会社との関係、権限の根拠、権限の範囲が異なります。
- 支配人:会社に選任された使用人で、事業に関する裁判上・裁判外の行為をする広い代理権を持ちます。
- 表見支配人:支配人ではない使用人に主任者を示す名称を付した場合に、取引相手を保護する制度です。
- 14条の使用人:ある種類又は特定事項を委任された範囲で、裁判外の行為をする権限を持ちます。
- 15条の店舗使用人:店舗にある物品の販売等について権限があるものとみなされます。
- 代理商:会社の使用人ではなく、会社のために平常の事業の部類に属する取引の代理又は媒介をする者です。
支配人や表見支配人との違いを詳しく確認したい場合は、会社法10条・11条・12条の支配人、会社法13条の表見支配人を確認してください。会社の使用人ではない代理商については、会社法16条〜20条の代理商で扱います。
契約締結権限を確認するときの実務ポイント
取引先の担当者が代表取締役ではない場合、契約締結権限の確認は形式だけでなく、取引の内容、担当者の職務、会社の表示、過去の運用を合わせて行う必要があります。特に、金額が大きい契約、継続取引、保証、独占契約、解約・解除、債務免除などは、通常の担当者権限を超えることが多いため注意が必要です。
取引先側が確認すべきこと
- 署名者の地位:代表取締役、支配人、部長、店長、担当者など、どの立場で署名するのかを確認します。
- 取引の範囲:その人が任されている業務範囲と、今回の契約内容が一致しているかを確認します。
- 会社の表示:名刺、メール署名、Web掲載、注文書、請求書、過去の取引で会社がどのように表示していたかを確認します。
- 社内承認の要否:高額契約や例外条件では、決裁書、委任状、取締役会議事録、代表者確認を求めることを検討します。
- 通常取引か例外取引か:通常の販売・仕入れを超える条件変更、保証、長期拘束、独占条項は慎重に確認します。
会社法14条・15条は取引安全を保護する規定ですが、取引先側が権限に問題があることを知っている場合や、通常の取引範囲から大きく外れる場合まで当然に保護するものではありません。疑問がある場合は、契約締結前に会社名義の確認書や代表者承認を取得する方が安全です。
会社側が管理すべきこと
会社側は、従業員の社外表示と社内決裁を一致させる必要があります。実際には権限がない従業員に、外部から見て権限がありそうな肩書を使わせると、後で「社内規程では無権限だった」と主張しても通らないことがあります。
- 職務権限規程と決裁基準を、契約類型・金額・例外条件ごとに整理します。
- 名刺、メール署名、Webサイト、見積書、注文書、請求書の肩書表示を統一します。
- 高額契約や例外取引では、代表者承認又は委任状を求める運用を明確にします。
- 店舗スタッフの値引き、返品、掛売り、保証、長期契約の権限範囲を教育します。
- 退職者や異動者のメールアカウント、印章、電子契約アカウントを速やかに停止します。
会社内部の権限管理は、対外的な責任を回避するためだけでなく、従業員の不正や越権行為を早期に発見するためにも重要です。取引先から見える表示と、内部で許される行為の範囲がずれているほど、紛争リスクは高くなります。
裁判例から見る会社法14条の考え方
会社法14条と同趣旨の旧商法の規定について、最高裁平成2年2月22日判決は、使用人が営業に関するある種類又は特定の事項の処理を委任された者であること、その行為が客観的に見て当該事項の範囲内に属することが重要であると整理しています。個別の代理権授与そのものではなく、委任された事項と行為の範囲が問題になるという考え方です。
この考え方は、現在の会社法14条を検討する場面でも参考になります。たとえば、営業部長が営業取引に関する契約を締結した場合でも、その契約が通常の営業活動の範囲内なのか、会社の基本方針を左右する例外的取引なのかで判断が変わり得ます。
- 使用人がどの事項を任されていたかを確認します。
- 問題の取引が、その事項の範囲内に客観的に入るかを確認します。
- 内部的な制限を相手方が知っていたかを確認します。
- 取引の性質、金額、頻度、過去の運用、会社の表示を総合して判断します。
つまり、会社法14条の判断では、契約書の署名欄だけを見るのでは足りません。担当者の職務、会社が外部に示していた態度、取引先の認識、取引の通常性を合わせて検討する必要があります。
よくある質問
部長や課長が契約書に署名すれば、会社に効きますか
部長や課長という肩書だけで当然に会社に効くわけではありません。その人が、事業に関するある種類又は特定の事項を委任されており、契約がその範囲内にある場合には、会社法14条により裁判外行為の権限が問題になります。高額契約、例外条件、保証、独占契約などでは、代表者承認や委任状を確認する方が安全です。
社内決裁規程で権限がない契約なら無効ですか
常に無効とはいえません。会社法14条の使用人に該当し、その取引が委任された事項の範囲内であり、相手方が内部的な権限制限を知らなかった場合、会社はその制限を善意の第三者に対抗できないことがあります。社内規程は重要ですが、対外的な効力とは分けて考える必要があります。
店舗スタッフはどこまで販売できますか
会社法15条により、物品の販売等を目的とする店舗の使用人は、その店舗にある物品の販売等をする権限を有するものとみなされます。ただし、店舗にある物品の通常の販売等を超える取引、特殊な値引き、長期の掛売り、法人向け大型契約などは、別途権限確認が必要になることがあります。
表見支配人と会社法14条の使用人は何が違いますか
表見支配人は、会社が使用人に本店又は支店の事業の主任者であることを示す名称を付した場合の外観責任です。これに対し、会社法14条は、ある種類又は特定事項の委任を受けた使用人について、その事項に関する裁判外行為の権限を扱います。外部表示を中心に見るのか、委任された事項を中心に見るのかが違います。
代理商と使用人は同じですか
同じではありません。会社法14条・15条の対象は会社の使用人です。代理商は、会社のために取引の代理又は媒介をする者ですが、会社の使用人ではありません。代理店契約、販売代理契約、媒介契約を検討する場合は、会社法16条以降の代理商の規律も確認する必要があります。
まとめ:使用人の代理権は、肩書ではなく委任範囲と取引内容で確認する
会社法14条・15条は、代表者以外の従業員が関与する取引について、会社の内部権限と取引安全を調整する規定です。取引の円滑さを守る一方で、すべての従業員に無制限の契約権限を認めるものではありません。
- 会社法14条は、特定事項を委任された使用人の裁判外行為を扱います。
- 会社法15条は、店舗使用人による店舗内物品の販売等を扱います。
- 社内決裁規程の制限は、善意の第三者に対抗できない場合があります。
- 取引先側は、通常取引か例外取引かを見極め、必要に応じて代表者承認や委任状を確認すべきです。
- 会社側は、肩書・メール・契約書・電子契約アカウントの表示管理を徹底する必要があります。
坂尾陽弁護士
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会社の使用人や代理権に関する論点は、支配人、表見支配人、代理商と合わせて確認すると整理しやすくなります。
