会社法821条・822条・823条は、外国会社のうち、擬似外国会社、外国会社の日本財産の清算、他の法律の適用関係を整理するための条文です。
外国会社が日本で継続的に事業を行う場合、通常は日本における代表者を定め、外国会社の登記を行うことが問題になります。しかし、外国会社の形式を使っていても、実質的には日本に本店を置いている、又は日本で事業を行うことを主たる目的としている場合には、会社法821条の擬似外国会社規制を確認する必要があります。
この記事では、会社法821条・822条・823条について、擬似外国会社の意味、継続取引禁止、違反時の連帯責任、外国会社の日本財産の清算、他法令の適用関係を実務目線で整理します。
- 会社法821条は、日本に本店を置く外国会社や、日本で事業を行うことを主たる目的とする外国会社について、日本で継続取引をすることを禁止する規定です。
- 821条に違反して取引をした者は、相手方に対し、外国会社と連帯して、その取引によって生じた債務を弁済する責任を負います。
- 会社法822条は、一定の場合に、裁判所が日本にある外国会社の財産全部について清算開始を命じることができるとする規定です。
- 822条の清算開始が命じられると、裁判所が清算人を選任し、日本にある財産について清算手続が進められます。
- 会社法823条は、外国会社を、他の法律の適用上、日本における同種又は最も類似する会社とみなすという接続規定です。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法821条・822条・823条とは
会社法821条・822条・823条は、いずれも外国会社に関する規定ですが、扱う場面は異なります。821条は外国会社形式の利用限界、822条は日本にある財産の清算、823条は他法令との接続を扱います。
| 条文 | 主な内容 | 実務で問題になる場面 |
|---|---|---|
| 会社法821条 | 擬似外国会社の継続取引禁止、違反時の連帯責任 | 外国法人スキームで日本事業を行う場合 |
| 会社法822条 | 日本にある外国会社の財産についての清算 | 外国会社が取引継続をやめる場合、又は裁判所命令を受けた場合 |
| 会社法823条 | 他の法律の適用関係 | 外国会社を他法令上どの会社類型として扱うかを判断する場合 |
外国会社の基本的な登記・代表者制度は、まず外国会社の登記とは|日本進出(継続取引)に必要な手続と注意点で全体像を確認すると理解しやすくなります。会社法817条の日本における代表者、818条〜820条の登記前取引・公告・代表者退任とあわせて読むことが重要です。
会社法の条文全体は、e-Gov法令検索「会社法」で確認できます。
外国会社の日本進出では、「外国会社として登記する」「日本法人を設立する」「外国会社形式のまま日本中心の事業を行う」という選択肢が混同されがちです。821条は、このうち外国会社形式を使って実質的に日本会社のように事業を行う場合の限界を示す規定です。
条文の確認:会社法821条・822条・823条
会社法821条〜823条の要点を、条文ごとに確認します。本記事では、条文全文を確認すること自体よりも、実務上どこで問題になるかに重点を置いて整理します。
会社法821条:擬似外国会社
第八百二十一条 日本に本店を置き、又は日本において事業を行うことを主たる目的とする外国会社は、日本において取引を継続してすることができない。
2 前項の規定に違反して取引をした者は、相手方に対し、外国会社と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。
821条は、外国会社という形式を使いながら、実質的には日本に本店を置いている、又は日本で事業を行うことを主たる目的としている会社を「擬似外国会社」として捉え、日本で継続して取引することを禁止する規定です。
違反した場合、取引をした者は、取引の相手方に対して、外国会社と連帯して債務を弁済する責任を負います。ここでいう「取引をした者」は、具体的な取引に関与した者の責任が問題となるため、役員、代表者、担当者、契約締結者の関与状況を確認することになります。
会社法822条:日本にある外国会社の財産についての清算
第八百二十二条 裁判所は、次に掲げる場合には、利害関係人の申立てにより又は職権で、日本にある外国会社の財産の全部について清算の開始を命ずることができる。
一 外国会社が第八百二十七条第一項の規定による命令を受けた場合
二 外国会社が日本において取引を継続してすることをやめた場合
2 前項の場合には、裁判所は、清算人を選任する。
3 第四百七十六条、第二編第九章第一節第二款、第四百九十二条、同節第四款及び第五百八条の規定並びに同章第二節(第五百十条、第五百十一条及び第五百十四条を除く。)の規定は、その性質上許されないものを除き、第一項の規定による日本にある外国会社の財産についての清算について準用する。
4 第八百二十条の規定は、外国会社が第一項の清算の開始を命じられた場合において、当該外国会社の日本における代表者(日本に住所を有するものに限る。)の全員が退任しようとするときは、適用しない。
822条は、外国会社そのものの本国法上の清算ではなく、日本にある外国会社の財産について清算を行う制度です。裁判所は、利害関係人の申立て又は職権により、日本にある財産全部について清算開始を命じることができます。
清算開始が命じられる典型場面は、外国会社が会社法827条1項の命令を受けた場合と、日本で継続して取引することをやめた場合です。清算開始後は、裁判所が清算人を選任し、会社法の清算に関する一定の規定が、その性質上許されないものを除いて準用されます。
会社法823条:他の法律の適用関係
第八百二十三条 外国会社は、他の法律の適用については、日本における同種の会社又は最も類似する会社とみなす。ただし、他の法律に別段の定めがあるときは、この限りでない。
823条は、外国会社を他の法律上どのように扱うかを整理するための接続規定です。外国会社について、他の法律の適用場面では、日本における同種の会社又は最も類似する会社とみなされます。
ただし、他の法律に別段の定めがある場合は、その別段の定めが優先します。そのため、823条だけで結論を出すのではなく、問題となる分野の個別法令を確認する必要があります。
会社法821条の擬似外国会社とは
擬似外国会社とは、外国の法令に基づいて設立された外国会社という形式をとりながら、実質的には日本に本店を置いている、又は日本で事業を行うことを主たる目的としている外国会社をいいます。
会社法821条は、次のいずれかに当たる外国会社について、日本で継続して取引することを禁止しています。
| 要件 | 意味 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|---|
| 日本に本店を置く外国会社 | 外国会社形式でありながら、実質的な本店機能が日本にある場合 | 経営意思決定、主たる管理部門、契約・会計・人事の中心が日本にあるか |
| 日本で事業を行うことを主たる目的とする外国会社 | 外国法上の会社だが、事業目的・事業実態が主に日本向けである場合 | 売上、顧客、従業員、営業活動、サービス提供の中心が日本か |
外国会社として登記すれば常に足りるわけではない
通常の外国会社であれば、日本で継続取引をする前に日本における代表者を定め、外国会社登記を行うことが中心になります。外国会社の登記前取引については、【会社法818条・819条・820条】外国会社の登記前取引禁止・公告・代表者退任|条文の要点と実務ポイントで整理しています。
これに対し、821条の問題は、「そもそも外国会社形式で日本中心の事業を継続してよいのか」というレベルの問題です。実質的に日本に本店がある、又は日本事業を主目的とするのであれば、外国会社登記だけで足りると考えるのは危険です。
ペーパーカンパニー的な外国会社利用に注意する
たとえば、海外に会社を設立したものの、意思決定、営業、契約締結、顧客対応、資金管理、従業員管理がほぼ日本で行われている場合、外国会社の形式をとっているだけで実質的には日本会社に近いと評価される可能性があります。
このような場合、会社法821条の擬似外国会社規制の検討に加えて、税務、許認可、労務、個人情報保護、消費者対応など、事業ごとの規制も確認する必要があります。
違反時の連帯責任
821条2項は、擬似外国会社規制に違反して取引をした者について、相手方に対し、外国会社と連帯して、取引によって生じた債務を弁済する責任を定めています。
この責任は、取引相手方保護の観点から重要です。相手方から見れば、外国会社形式の背後にある実態や資力を把握することは容易ではありません。そのため、違反取引に関与した者に連帯責任を負わせることで、相手方の回収可能性を確保する趣旨があります。
会社法821条は、外国会社形式で日本事業を行うこと自体を当然に自由とする規定ではありません。日本での実態が強い場合は、外国会社登記ではなく、日本法人設立や事業スキームの見直しを含めて検討する必要があります。
擬似外国会社・通常の外国会社登記・日本法人設立の違い
外国会社に関する相談では、擬似外国会社、通常の外国会社登記、日本法人設立が混同されることがあります。実務では、次のように整理すると判断しやすくなります。
| 区分 | 基本イメージ | 会社法上の主な論点 | 実務上の検討事項 |
|---|---|---|---|
| 通常の外国会社登記 | 外国会社が本国を本拠としつつ、日本でも継続取引をする | 817条の日本代表者、818条の登記前取引禁止、933条以下の登記 | 日本代表者、登記事項、営業所の有無、契約名義 |
| 擬似外国会社 | 外国会社形式だが、実質的に日本本店又は日本事業主目的 | 821条の継続取引禁止、違反時の連帯責任 | 実態確認、日本法人化、責任主体、税務・許認可 |
| 日本法人設立 | 日本法に基づく株式会社・合同会社等として事業を行う | 日本会社として設立登記、機関設計、株式・持分、公告等 | 資本政策、役員、税務、許認可、雇用、契約承継 |
通常の外国会社登記は、外国会社が日本で継続取引を行うための制度です。一方、擬似外国会社規制は、外国会社形式を使いながら実質的に日本会社として活動する場合の限界を示すものです。
日本での事業が本格化し、売上・従業員・顧客・意思決定が日本に集中する場合は、外国会社登記のまま進めるのではなく、日本法人設立の方が適切かを検討する必要があります。
外国会社の日本における代表者については、【会社法817条】外国会社の日本における代表者|条文の要点と実務ポイントも確認してください。
会社法822条の外国会社の清算とは
会社法822条は、外国会社が日本に有する財産について、裁判所が清算開始を命じることができる制度を定めています。ポイントは、外国会社全体の清算ではなく、日本にある財産についての清算であることです。
清算開始が問題になる場面
会社法822条1項は、次の2つの場合に、裁判所が清算開始を命じることができるとしています。
| 場面 | 内容 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 827条1項の命令を受けた場合 | 外国会社が、取引継続禁止又は営業所閉鎖に関する裁判所命令を受けた場合 | 命令後に日本財産の整理が必要になる可能性がある |
| 日本で継続取引をやめた場合 | 外国会社が日本における継続的な取引を終了した場合 | 債権者・取引先との清算、残存財産の整理が問題になる |
822条の清算は、外国会社が日本市場から撤退する場面や、日本での事業継続ができなくなった場面で問題になります。特に、日本国内に資産、売掛金、在庫、預金、契約上の債権債務が残っている場合は、撤退後の整理を軽視できません。
利害関係人の申立て又は裁判所の職権
清算開始は、利害関係人の申立てによって行われることがあります。また、裁判所は職権で清算開始を命じることもできます。
利害関係人としては、取引先、債権者、従業員、その他日本にある財産の処理に利害を有する者が問題になり得ます。もっとも、具体的な申立権者や手続の進め方は事案によって変わるため、個別の手続確認が必要です。
裁判所が清算人を選任する
会社法822条2項は、清算開始の場合に裁判所が清算人を選任すると定めています。清算人は、日本にある財産の把握、債権者対応、債務弁済、残余財産の処理などを行う立場になります。
外国会社の本国における清算人、管財人、代表者がいる場合でも、日本にある財産について会社法822条の清算手続が問題になることがあります。本国手続と日本国内の財産処理をどう接続するかは、国際的な倒産・清算実務の観点からも重要です。
820条の代表者退任手続との関係
会社法822条4項は、清算開始を命じられた外国会社について、日本に住所を有する日本における代表者の全員が退任しようとするときは、会社法820条の規定を適用しないとしています。
これは、清算開始後は裁判所が清算人を選任し、日本にある財産の清算手続に入るため、820条の代表者退任に関する債権者保護手続とは別の枠組みで処理されるためです。代表者退任一般については、会社法818条〜820条の記事で確認できます。
会社法823条の他の法律の適用関係
会社法823条は、外国会社について、他の法律の適用上、日本における同種の会社又は最も類似する会社とみなすと定めています。
この規定は、外国会社を日本の法律体系の中でどの会社類型として扱うかを決めるための入口になります。たとえば、外国のLimited Company、LLC、Corporationなどが、日本法上の株式会社、合同会社、その他の会社類型のどれに最も近いかを検討する場面があります。
同種又は最も類似する会社を確認する
823条では、「日本における同種の会社又は最も類似する会社」とされています。そのため、外国会社の名称だけで機械的に判断するのではなく、設立根拠法、法人格、社員・株主の責任、出資持分、機関、利益分配、持分譲渡、管理運営の仕組みを確認する必要があります。
特に、海外の会社類型は日本法上の会社類型と一対一で対応しないことがあります。名称が株式会社に似ていても、持分会社に近い性質を持つ場合や、その逆の場合もあり得ます。
個別法令に別段の定めがある場合
823条のただし書は、他の法律に別段の定めがあるときは、その別段の定めを優先するとしています。
したがって、税務、金融規制、許認可、労働法、個人情報保護、消費者保護などの分野では、823条だけで結論を出すのではなく、各法令の外国法人・外国会社に関する定めを個別に確認する必要があります。
823条は、外国会社を日本法上どの会社に近いものとして扱うかを考える入口です。ただし、個別法令が外国会社について独自の定めを置いている場合があります。実務では、会社法上の類似性判断と、税務・許認可・規制法令上の扱いを分けて確認しましょう。
実務で確認すべきチェックリスト
会社法821条〜823条は、条文だけ読むと抽象的ですが、実務では次の順番で確認すると整理しやすくなります。
外国会社形式を使う段階のチェック
- 外国会社の本国法上の設立根拠、法人格、会社類型を確認する
- 日本での売上、顧客、従業員、契約締結、意思決定の実態を確認する
- 日本に本店を置く外国会社と評価される余地がないか確認する
- 日本で事業を行うことを主たる目的とする外国会社に当たらないか確認する
- 通常の外国会社登記で足りるのか、日本法人設立を検討すべきか整理する
日本で継続取引を行う段階のチェック
- 日本における代表者を定めているか確認する
- 外国会社の登記前に継続取引を始めていないか確認する
- 契約書の名義、署名権限、代表者の権限範囲を確認する
- 取引先に対する説明資料、登記事項証明書、会社証明書の準備を確認する
- 会社法821条の擬似外国会社に該当するリスクを定期的に見直す
撤退・取引停止段階のチェック
- 日本での継続取引を終了する時期を整理する
- 日本国内の債権債務、在庫、預金、保証、契約残務を把握する
- 日本にある財産について会社法822条の清算が問題にならないか確認する
- 代表者退任、営業所閉鎖、登記抹消、債権者対応を整理する
- 本国側の清算・倒産手続と日本国内の財産処理の関係を確認する
外国会社の登記手続や登記事項については、【会社法933条〜936条】外国会社の登記|条文の要点と実務ポイントも関連します。
会社法821条・822条・823条に関するよくある質問
擬似外国会社とは何ですか
擬似外国会社とは、外国会社の形式をとっているものの、日本に本店を置き、又は日本で事業を行うことを主たる目的とする外国会社をいいます。会社法821条は、このような外国会社が日本で継続して取引することを禁止しています。
外国会社登記をすれば、擬似外国会社の問題はなくなりますか
必ずしもそうではありません。外国会社登記は、通常の外国会社が日本で継続取引をするための制度です。実質的に日本に本店がある、又は日本事業を主目的とする場合は、821条の擬似外国会社規制が別途問題になります。
会社法821条に違反した取引は当然に無効になりますか
会社法821条2項は、違反して取引をした者の連帯弁済責任を定めています。条文上、直ちに取引の無効だけを定めているわけではありません。ただし、具体的な契約の効力、責任主体、相手方保護、他法令上の制裁は、個別事情に応じて検討する必要があります。
会社法822条の清算は、外国会社本体の清算ですか
会社法822条の清算は、日本にある外国会社の財産についての清算です。外国会社全体が本国法上清算されるかどうかとは区別されます。もっとも、本国の清算・倒産手続と日本国内の財産処理が実務上関係することはあります。
会社法822条の清算開始は誰が求められますか
822条は、利害関係人の申立て又は裁判所の職権により清算開始を命じることができるとしています。利害関係人に当たるか、どの資料を準備するか、どの裁判所で手続を行うかは、具体的な財産・債権債務の状況により確認が必要です。
会社法823条があれば、外国会社はすべて株式会社と同じ扱いになりますか
そうではありません。823条は、日本における同種の会社又は最も類似する会社とみなす規定です。外国会社の性質によっては株式会社に近い場合もあれば、持分会社に近い場合もあります。また、個別法令に別段の定めがある場合は、その定めを確認する必要があります。
外国会社登記と日本法人設立のどちらを選ぶべきですか
本国会社を主体に日本で補助的・継続的に取引する場合は外国会社登記が候補になります。一方、日本での売上、従業員、顧客、意思決定が中心になる場合は、日本法人設立の方が適切なことがあります。擬似外国会社リスク、税務、許認可、契約、雇用、資金移動を総合的に検討する必要があります。
まとめ:821条〜823条は外国会社形式の限界と清算・他法令接続を整理する条文
会社法821条・822条・823条は、外国会社の日本での活動について、通常の登記手続だけでは見落としやすい論点を整理する条文です。
- 821条は、擬似外国会社について日本で継続取引をすることを禁止し、違反時の連帯責任を定めています。
- 擬似外国会社に当たるかは、外国会社の形式ではなく、日本に本店があるか、日本事業を主目的としているかという実態を見て判断します。
- 822条は、一定の場合に、日本にある外国会社の財産について裁判所が清算開始を命じる制度を定めています。
- 823条は、他法令の適用上、外国会社を日本における同種又は最も類似する会社とみなす接続規定です。
- 実務では、外国会社登記で足りるか、日本法人設立が必要か、撤退時に日本財産の清算が問題にならないかをセットで確認する必要があります。
外国会社の日本進出では、登記の要否だけでなく、事業実態が日本に集中していないか、取引停止後に日本国内の債権債務や財産が残らないか、他法令でどの会社類型として扱われるかを確認することが重要です。
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