【会社法817条】外国会社の日本における代表者|条文の要点と実務ポイント

会社法817条は、外国会社が日本で継続して取引をする場合に、日本における代表者を定める義務、代表者の住所要件、代表者の権限、権限制限の対抗関係、外国会社の損害賠償責任を定める条文です。

外国会社が日本で事業展開を始めるときは、「日本支店を置くか」「日本法人を設立するか」に目が向きがちです。しかし、会社法上は、日本に営業所を置かない場合でも、日本で継続して取引をするのであれば、日本における代表者の選任と外国会社の登記を検討する必要があります。

この記事では、会社法817条について、条文の要点と、外国会社の日本進出・継続取引・登記実務で確認すべきポイントを整理します。

  • 会社法817条は、外国会社が日本で継続取引をする場合に、日本における代表者を定める義務を置く規定です。
  • 日本における代表者のうち1人以上は、日本に住所を有する者でなければなりません。
  • 日本における代表者は、外国会社の日本における業務について、一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します。
  • 代表者の権限に内部制限を加えても、善意の第三者には対抗できません。
  • 代表者が職務を行うについて第三者に損害を加えた場合、外国会社が損害賠償責任を負います。

坂尾陽弁護士

会社法817条は、外国会社制度の入口になる条文です。日本で継続取引を始める前に、代表者候補、住所要件、権限範囲、登記期限、契約名義をセットで確認しましょう。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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会社法817条とは

会社法817条は、外国会社が日本で継続して取引をしようとするときに、日本における代表者を定めることを求める規定です。外国会社の日本における代表者は、日本国内で外国会社を代表して取引・通知・訴訟対応などを行う重要な立場にあります。

第八百十七条 外国会社は、日本において取引を継続してしようとするときは、日本における代表者を定めなければならない。この場合において、その日本における代表者のうち一人以上は、日本に住所を有する者でなければならない。

2 外国会社の日本における代表者は、当該外国会社の日本における業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。

3 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。

4 外国会社は、その日本における代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

会社法の条文全体は、e-Gov法令検索「会社法」で確認できます。

会社法817条の内容は、大きく次の4つに分けると理解しやすくなります。

内容 実務上の意味
1項 日本における代表者の選任義務と住所要件 日本で継続取引をする外国会社は、日本代表者を置く必要がある
2項 日本における代表者の権限 日本での業務について、裁判上・裁判外の広い権限を持つ
3項 権限制限の対抗不可 内部的な承認制限を、善意の取引先に主張できないことがある
4項 外国会社の損害賠償責任 代表者の職務上の行為で第三者に損害が出た場合、外国会社が責任を負う
実務ポイント

会社法817条は、代表者を「置くかどうか」だけでなく、代表者にどのような対外的権限があるか、内部制限を取引先に主張できるか、代表者の行為で外国会社が責任を負うかまで定めています。


外国会社が日本における代表者を定める必要がある場面

会社法817条1項は、「外国会社は、日本において取引を継続してしようとするとき」に、日本における代表者を定めなければならないとしています。

ここで確認すべきポイントは、次の2つです。

確認事項 見るポイント
外国会社に当たるか 外国の法令に準拠して設立された法人・団体で、会社と同種又は類似のものか
日本で継続取引をするか 日本国内で営業活動、契約締結、顧客対応、販売活動などを継続的に行う実態があるか

外国会社に当たるか

会社法上の外国会社とは、外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するものをいいます。典型的には、外国法に基づいて設立された株式会社類似の法人、LLC、Limited Companyなどが問題になります。

名称に「company」「corporation」「limited」などが付いているかだけでなく、その設立準拠法、法人格、出資者の責任、機関構成、日本で予定する活動内容を確認します。外国の非営利法人、ファンド、パートナーシップなどでは、会社法上の外国会社に当たるかを個別に検討する必要があります。

日本で継続して取引をするか

会社法817条は、一回限りの取引や、外国会社が海外から日本の顧客と単発的に取引するすべてのケースを機械的に対象にするものではありません。問題になるのは、日本において継続して取引をしようとする実態があるかです。

たとえば、次のような事情がある場合は、会社法817条・818条・933条の確認が重要になります。

  • 日本国内で継続的に営業活動を行う
  • 日本の顧客に対して反復継続してサービスを提供する
  • 日本に営業担当者、代表者、連絡拠点を置く
  • 日本で契約交渉、契約締結、請求、サポートを行う
  • 日本支店を設けるか、営業所なしで代表者だけを置くかを検討している
注意点

日本の顧客がいることだけで、直ちに外国会社登記が必要と断定できるわけではありません。契約締結地、営業活動の場所、担当者の所在、反復継続性、顧客対応の実態を踏まえて判断します。


日本における代表者の住所要件

会社法817条1項後段は、日本における代表者のうち1人以上は、日本に住所を有する者でなければならないと定めています。

この住所要件は、日本国内の取引先や債権者が、外国会社との取引でトラブルになった場合に、日本国内で責任者にアクセスし、通知・訴訟・手続対応を行えるようにするための重要な規律です。

代表者の人数 住所要件の考え方 実務上の注意点
1人だけ定める場合 その代表者が日本に住所を有する必要がある 候補者の住所、就任承諾、本人確認、登記書類を確認する
複数人を定める場合 少なくとも1人以上が日本に住所を有すればよい 海外在住者を含める場合でも、日本住所者を欠かないよう管理する
住所変更・退任がある場合 日本住所者がいなくならないようにする 変更登記、後任選任、契約先への通知を早めに行う

現在の会社法では、外国会社に日本の営業所を設けること自体は当然の義務ではありません。営業所を設けず、日本における代表者だけを定めて外国会社登記をする設計もあり得ます。

もっとも、日本における代表者の住所、営業所の有無、代表者を個人にするか法人にするか、弁護士等の事務所所在地を住所として登記できるかなどは、商業登記の実務で個別確認が必要になることがあります。817条の理解だけで終わらせず、登記申請前に管轄法務局や専門家と実務処理を確認することが重要です。


日本における代表者の権限

会社法817条2項は、外国会社の日本における代表者について、「当該外国会社の日本における業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限」を有すると定めています。

これは、日本における代表者が、単なる連絡担当者ではなく、外国会社の日本での業務について広い対外的権限を持つことを意味します。

権限の種類 具体例 実務上の意味
裁判外の行為 契約締結、契約変更、解除通知、請求、支払、債権回収、取引先対応 日本での取引実務を代表して行う権限が問題になる
裁判上の行為 訴訟提起、応訴、訴訟上の手続対応、和解判断の前提整理 外国会社が日本で訴訟当事者になる場面で重要になる
登記・行政対応 外国会社登記、変更登記、関係機関への対応 代表者の就任・退任・住所変更を登記実務と連動させる必要がある

もっとも、会社法817条2項は、代表者に何でも自由に任せるべきという意味ではありません。外国会社の内部では、契約金額、重要取引、訴訟対応、和解、資金移動などについて、本国本社の承認や取締役会決議を求める設計があり得ます。

実務では、対外的な代表権と内部的な承認ルールを分けて整理することが重要です。取引先との関係では代表者の権限が広く認められる一方、外国会社内部では、承認を得ずに行動した代表者に対する責任追及や職務分掌の問題が残ります。


権限制限は善意の第三者に対抗できない

会社法817条3項は、日本における代表者の権限に制限を加えても、その制限を善意の第三者に対抗できないと定めています。

たとえば、外国会社の内部で次のような制限を置いていたとしても、取引先がその制限を知らない場合には、外国会社がその内部制限を当然に主張できるとは限りません。

  • 日本における代表者は100万円以下の契約しか締結できない
  • 本国本社の承認がない契約は無効とする
  • 特定の顧客との契約は本社役員だけが承認できる
  • 訴訟上の和解には本国取締役会の承認が必要である

このルールは、日本の取引先の保護と取引の安全を図るものです。取引先が毎回、外国会社内部の承認規程や権限分掌を調査しなければならないとすると、日本での取引が不安定になります。そのため、会社法817条は、日本における代表者の権限を広く認め、内部制限を善意の第三者に対抗できないとしています。

契約実務のポイント

外国会社側は、代表者の権限を内部規程で制限するだけでは足りません。重要取引では、契約書上の承認条件、署名権限、決裁プロセス、取引先への通知方法を整理し、代表者がどこまで対外的に行動できるかを明確にしておく必要があります。

取引先側も、外国会社の日本における代表者と契約する場合には、登記事項証明書、代表者の氏名・住所、契約書の署名者、本国本社の承認書類の要否を確認しておくと安全です。特に、高額契約、長期契約、独占契約、紛争解決条項を含む契約では、代表権と内部承認の両方を確認することが重要です。


代表者の職務上の行為による損害と外国会社の責任

会社法817条4項は、外国会社が、その日本における代表者が職務を行うについて第三者に加えた損害を賠償する責任を負うと定めています。

日本における代表者は、外国会社の日本での業務を担う立場にあります。その代表者が職務遂行に関連して第三者に損害を与えた場合、被害者から見れば、代表者個人だけでなく、外国会社に対して責任追及できることが重要です。

具体的には、次のような場面で問題になり得ます。

場面 問題になり得る損害 確認すべき資料
取引説明 虚偽説明、不適切な勧誘、重要事項の不告知による損害 提案書、メール、議事録、契約書、説明資料
契約履行 納品遅延、支払遅延、解除対応の不備、顧客情報の取扱い 契約条項、発注書、請求書、履行記録
紛争対応 不適切な通知、交渉対応、保全・訴訟対応の遅れ 通知書、代理権資料、社内承認ログ、弁護士との連絡記録

外国会社側では、日本における代表者を形式的に置くだけでなく、職務範囲、報告義務、社内承認、記録化、コンプライアンス、顧客対応ルールを整備することが重要です。代表者の行為が外国会社の責任につながるため、選任後の管理体制も実務上の重要論点になります。


会社法817条と登記・登記前取引の関係

会社法817条は、日本における代表者の選任と権限を定める入口条文です。ただし、外国会社が日本で継続取引をする場合は、817条だけで完結しません。会社法818条、933条以下の登記規定とセットで確認する必要があります。

規定 主な内容 817条との関係
会社法817条 日本における代表者の選任義務・住所要件・権限・責任 外国会社制度の入口。誰を日本代表者にするかを決める
会社法818条 登記前の継続取引禁止、登記前取引をした者の責任 代表者を定めただけでなく、登記前に取引を始めないよう注意する
会社法933条〜936条 外国会社の登記事項、登記申請、変更登記など 代表者を定めた後、どこで、いつまでに、何を登記するかを確認する

実務では、まず会社法817条で日本における代表者を置く必要性を確認し、次に会社法818条で登記前取引のリスクを確認し、最後に会社法933条以下で具体的な登記申請を進める流れになります。

日本における代表者を定めた場合、登記申請期限の管理も重要です。日本で代表者を定めた場合の起算点、外国で代表者を定めた場合の通知到達日、営業所の有無、登記所の管轄などは、登記手続でミスが起きやすい部分です。

登記前取引に注意

外国会社は、外国会社の登記をするまでは、日本で継続して取引をすることができません。代表者を定めたことと、登記が完了して継続取引を開始できることは別です。取引開始日、契約締結日、営業開始日を逆算して準備しましょう。


実務で確認すべきチェックリスト

外国会社が日本で活動を始める場合は、会社法817条の要件を、登記・契約・税務・運営体制と合わせて確認します。会社法上の観点では、少なくとも次の項目を整理しておくとよいでしょう。

  • 外国会社に当たる法人・団体か
  • 日本において継続して取引をする予定があるか
  • 日本における代表者を誰にするか
  • 代表者のうち1人以上が日本に住所を有しているか
  • 営業所を置くか、営業所なしで代表者だけを置くか
  • 日本における代表者の権限を内部規程・委任状・契約書でどう整理するか
  • 取引先に対して、代表者の権限や本社承認の要否をどう説明するか
  • 外国会社登記の期限、管轄、必要書類、翻訳、認証を確認したか
  • 代表者の住所変更、退任、後任選任があった場合の変更登記を管理できるか
  • 登記前に契約締結・営業開始・請求を行わないようスケジュール管理できているか

外国会社の日本進出では、事業部門が先に顧客との商談を進め、法務・登記手続が後追いになることがあります。しかし、会社法817条・818条の規律は、取引開始前の設計段階で確認すべきものです。契約締結予定日から逆算し、代表者選任、登記申請、契約書の名義、請求・入金体制を整えておきましょう。


会社法817条に関するよくある質問

日本支店を置かない場合でも、日本における代表者は必要ですか

日本に営業所を設けない場合でも、日本において継続して取引をしようとする外国会社であれば、日本における代表者を定める必要があります。現行法では、営業所設置義務そのものは当然にはありませんが、日本における代表者と外国会社登記の要否は別途確認が必要です。

日本における代表者は外国人でもよいですか

会社法817条は、代表者の国籍ではなく住所要件を定めています。したがって、外国人であること自体が直ちに問題になるわけではありません。ただし、日本における代表者のうち1人以上は日本に住所を有する必要があります。

本社の承認がない契約は無効と主張できますか

日本における代表者の権限に内部制限を加えても、その制限を善意の第三者に対抗することはできません。取引先が本社承認の必要性を知らずに代表者と契約した場合、外国会社が内部承認の欠缺だけを理由に契約の効力を否定することは難しくなる可能性があります。

会社法817条だけ確認すれば外国会社登記は足りますか

足りません。817条は日本における代表者の選任・権限・責任を定める条文です。登記前取引の禁止は会社法818条、外国会社の登記事項や登記申請は会社法933条以下で整理されます。817条を入口として、818条、933条以下、商業登記法・商業登記規則の実務まで確認する必要があります。

日本における代表者が退任した場合はどうなりますか

日本における代表者が退任する場合は、後任代表者の選任、日本住所者を欠かないか、変更登記、取引先への通知を確認する必要があります。代表者がいなくなった状態や、日本住所者がいない状態を放置すると、登記・取引・訴訟対応に支障が出るおそれがあります。


まとめ:会社法817条は外国会社の日本取引の入口になる

会社法817条は、外国会社が日本で継続して取引をする場合に、日本における代表者を定める義務と、その代表者の権限・責任を定める重要な条文です。

  • 外国会社が日本で継続取引をする場合、日本における代表者を定める必要があります。
  • 日本における代表者のうち1人以上は、日本に住所を有する者でなければなりません。
  • 代表者は、日本における業務について広い裁判上・裁判外の権限を持ちます。
  • 内部的な権限制限は、善意の第三者に対抗できない点に注意が必要です。
  • 代表者の職務上の行為で第三者に損害が出た場合、外国会社が責任を負います。

外国会社の日本進出では、会社法817条だけでなく、登記前取引の制限、外国会社登記、代表者の退任、擬似外国会社の規制も合わせて確認する必要があります。日本での営業開始や契約締結を急ぐ場合ほど、代表者選任と登記スケジュールを先に整理しましょう。

坂尾陽弁護士

外国会社の登記・代表者選任は、契約開始後に慌てて対応すると、取引先への説明や登記期限の管理が難しくなります。日本での営業開始前に、代表者・営業所・登記・契約名義を一体で設計しましょう。

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