坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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会社法116条の要点
会社法116条は、株式の内容を変更する定款変更などによって株主の投資回収や株主としての地位に大きな影響が出る場面で、反対株主に「株式買取請求」という退出機会を与える規定です。
反対株主の株式買取請求は、株主がいつでも会社に株式を買い取らせる制度ではありません。会社法116条1項各号に該当する会社行為があり、反対株主に当たり、所定の期間・方法で請求した場合に認められます。
| 確認項目 | 会社法116条の要点 | 実務上の確認ポイント |
|---|---|---|
| 対象行為 | 全部の株式への譲渡制限の設定、種類株式への譲渡制限・全部取得条項の設定、種類株主に損害を及ぼすおそれのある一定行為などです。 | 107条・108条・111条・322条2項との関係を確認します。 |
| 反対株主 | 株主総会等に先立つ反対通知と総会での反対が必要な株主、議決権を行使できない株主、決議不要の場合のすべての株主が問題になります。 | 基準日、株主名簿、議決権の有無、反対通知の証拠を確認します。 |
| 会社の通知 | 会社は効力発生日の20日前までに、対象株主へ当該行為をする旨を通知します。通知は公告で代えることができます。 | 招集通知に含める場合でも、時期・記載内容・公告方法を確認します。 |
| 請求期間 | 株式買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までに、請求対象株式の数を明らかにして行います。 | 期間外の請求は争いになりやすいため、期限管理を表にします。 |
| 請求後の効果 | 株券提出、撤回制限、行為中止時の失効、名義書換規定の不適用が定められています。 | 撤回・譲渡・価格協議・価格決定申立ての扱いを117条と併せて確認します。 |
価格協議や裁判所への価格決定申立ては、主に会社法117条の解説で扱います。本記事では、会社法116条の対象行為、反対株主の要件、請求手続を中心に整理します。
会社法116条の条文の位置づけ
会社法116条の原文・最新表示は、会社法(e-Gov法令検索)で確認してください。ここでは、実務上の判断に必要な範囲で要点を整理します。
1項|株式買取請求ができる場合
会社法116条1項は、反対株主が会社に対し、自己の株式を公正な価格で買い取るよう請求できる場面を定めています。中心になるのは、株式の譲渡可能性や取得のされ方を大きく変える定款変更です。
| 号 | 対象となる会社行為 | 買取請求の対象株式 |
|---|---|---|
| 1号 | 発行する全部の株式の内容として、譲渡による取得について会社の承認を要する旨を設ける定款変更 | 全部の株式 |
| 2号 | ある種類の株式について、譲渡制限又は全部取得条項を設ける定款変更 | 111条2項各号に規定する株式 |
| 3号 | 322条2項の定款の定めがある種類株式について、一定行為が種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合 | 当該種類の株式 |
3号の「一定行為」には、株式の併合又は分割、株式無償割当て、単元株式数についての定款変更、株主割当てを含む募集株式の発行等、募集新株予約権の発行等、新株予約権無償割当てが含まれます。種類株主総会決議を省略する定款の定めを置いている会社では、種類株主に損害を及ぼすおそれがあるかを慎重に検討します。
2項|反対株主とは誰か
会社法116条2項は、誰が「反対株主」に当たるかを定めています。株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合、議決権を行使できる株主は、総会に先立って反対する旨を会社に通知し、かつ総会で反対する必要があります。
他方で、その総会で議決権を行使できない株主は、反対株主に含まれます。また、株主総会又は種類株主総会の決議を要しない場合は、すべての株主が反対株主として扱われます。
3項から5項|会社の通知と請求期間
会社は、対象行為の効力発生日の20日前までに、対象株主に対して当該行為をする旨を通知する必要があります。通知は公告で代えることができます。
株主側の株式買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、株式買取請求に係る株式の数を明らかにして行います。会社側・株主側の双方にとって、効力発生日を起点に逆算した期限管理が重要です。
6項から9項|請求後の撤回・株券・名義書換
株券発行会社で株式買取請求をする場合、株主は原則として株券を会社に提出する必要があります。株式買取請求をした株主は、会社の承諾を得た場合に限り、請求を撤回できます。
会社が対象行為を中止したときは、株式買取請求は効力を失います。また、株式買取請求に係る株式については、株式取得者からの名義書換請求に関する会社法133条の規定は適用されません。請求後に株式の帰属や譲渡を動かせるかは、会社法116条・117条、株券の有無、振替株式かどうかを確認します。
会社法116条が問題になる主な場面
全部の株式に譲渡制限を設ける定款変更
会社法116条1項1号の典型例は、これまで譲渡制限のなかった株式について、定款変更により譲渡制限を設ける場面です。株主から見ると、株式を自由に売却して投下資本を回収する機会が制限されるため、反対株主に退出機会を与える必要があります。
この場面では、会社法107条1項1号の譲渡制限の定め、定款変更の特別決議、会社法116条の通知・買取請求、登記実務を一体で確認します。株式の内容についての基本は、会社法107条の解説も参照してください。
種類株式に譲渡制限又は全部取得条項を設ける定款変更
会社法116条1項2号は、種類株式発行会社で、ある種類の株式に譲渡制限又は全部取得条項を設ける定款変更をする場合を扱います。全部取得条項を付けると、会社がその種類株式全部を取得できる設計になるため、少数株主の退出・価格保護が重要になります。
この場面では、会社法108条1項4号・7号、111条2項、種類株主総会、反対株主の買取請求を整理します。種類株式の全体像は、種類株式とは|内容・設計・定款変更のポイントで解説しています。
種類株主総会決議を省略する定款の定めがある場合
種類株式発行会社では、会社法322条1項により、ある種類株主に損害を及ぼすおそれのある一定行為について種類株主総会決議が必要になることがあります。しかし、322条2項に基づき、定款でその種類株主総会決議を不要とすることがあります。
このような定款の定めがある種類株式について、株式の併合・分割、株式無償割当て、株主割当て型の募集株式発行などが種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合、会社法116条1項3号の買取請求が問題になります。種類株主総会を省略できるからといって、反対株主保護まで不要になるわけではありません。
反対株主になるための実務ポイント
会社法116条では、反対株主に当たるかどうかが最初の分岐です。特に、株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合、議決権を行使できる株主は「事前の反対通知」と「総会での反対」の両方を満たす必要があります。
事前の反対通知は証拠に残す
反対通知の方式について、会社法116条は詳細な形式を定めていません。しかし、実務では、通知日、対象議案、反対の意思、通知者、保有株式数が後から争われないように、書面、電子メール、内容証明郵便、会社指定フォームなど、記録に残る方法を選ぶべきです。
議決権行使書面や電子投票で反対の意思を示す場合でも、それだけで事前の反対通知として十分かが争われ得ます。重要な案件では、議決権行使とは別に、会社宛ての反対通知を明確に出しておくのが安全です。
総会で反対する
議決権を行使できる株主は、株主総会又は種類株主総会で対象議案に反対する必要があります。出席して反対票を投じる場合、議決権行使書面を提出する場合、電子投票をする場合、代理人に議決権行使を委任する場合のいずれでも、反対の意思が議事録・投票記録・委任状等に残るようにします。
会社側は、反対株主から後に買取請求がされることを見越して、反対通知の有無、総会での賛否、議決権行使の方法、保有株式数を整理しておく必要があります。
議決権を行使できない株主も対象になり得る
会社法116条2項1号ロは、株主総会又は種類株主総会で議決権を行使できない株主も反対株主に含めています。議決権制限株式の株主、基準日との関係で議決権を行使できない株主、自己株式ではないが特定の総会で議決権がない株主などが問題になります。
議決権を行使できない株主については、事前の反対通知と総会での反対という要件構造がそのまま当てはまりません。会社側は、対象株主を誤って除外しないよう、基準日、株主名簿、種類株式の内容を確認してください。
会社法116条の手続スケジュール
会社法116条の手続は、効力発生日から逆算して管理します。特に、会社の20日前通知と株主の請求期間を混同しないことが重要です。
| 時点 | 会社側の対応 | 株主側の対応 |
|---|---|---|
| 議案設計段階 | 116条の対象行為か、株主総会・種類株主総会決議が必要か、322条2項の定款の定めがあるかを確認します。 | 対象行為が保有株式に影響するかを確認します。 |
| 総会前 | 招集通知、議案内容、効力発生日、買取請求の案内を整理します。 | 議決権を行使できる株主は、総会に先立って反対通知を出します。 |
| 総会当日 | 反対株主の議決権行使状況を記録します。 | 対象議案に反対します。代理人行使の場合も証拠を残します。 |
| 効力発生日20日前まで | 対象株主に当該行為をする旨を通知し、又は公告します。 | 請求期間の開始日を確認します。 |
| 効力発生日20日前の日〜前日 | 買取請求の受付、株主性、株式数、株券提出、振替株式の通知を確認します。 | 株式数を明らかにして株式買取請求をします。 |
| 請求後 | 価格協議、仮払い・供託、価格決定申立ての要否を117条に従って検討します。 | 価格協議、申立期限、評価資料、個別株主通知を確認します。 |
株式買取請求後の価格協議、60日以内の支払、30日経過後の価格決定申立て、利息・仮払いは、会社法117条の問題です。116条の段階では、まず「適法に買取請求権を行使できているか」を外さないことが重要です。
振替株式・個別株主通知の注意点
上場会社など振替株式が問題になる場面では、会社法116条の手続だけでなく、社債、株式等の振替に関する法律上の個別株主通知も確認します。買取請求や価格決定申立ての段階で会社が株主性を争うと、個別株主通知の欠缺が大きな問題になります。
最高裁平成24年3月28日決定は、振替株式について会社法116条1項に基づく株式買取請求を受けた会社が、117条2項の価格決定申立ての審理で請求者が株主であることを争った場合、振替機関の取扱いが既に廃止されていたときであっても、審理終結までの間に個別株主通知がされることを要すると判断しました。
同決定は、株式買取請求をした株主が当該株式を失った場合には、価格決定申立ての適格を欠くことも示しています。上場廃止や全部取得条項付種類株式の取得、スクイーズアウトが絡む案件では、買取請求書を出すだけでなく、個別株主通知、保有継続、基準日、取得日を時系列で確認する必要があります。
また、最高裁平成22年12月7日決定は、全部取得条項付種類株式の価格決定申立てに関して、会社が株主性を争った場合の個別株主通知の要否を示した重要決定です。116条の買取請求でも、同様の発想で、株主性を会社に対抗できる状態を整えることが重要になります。
会社側のチェックリスト
会社側では、株式買取請求を想定せずに定款変更や種類株式設計を進めると、効力発生日直前に通知漏れ、反対株主の範囲の誤り、価格決定申立て対応の遅れが発生しやすくなります。
- 対象行為が会社法116条1項各号に該当するかを確認する。
- 107条・108条・111条・322条2項、種類株主総会の要否を整理する。
- 対象株主、議決権を行使できない株主、種類株主を株主名簿で確認する。
- 効力発生日の20日前までの通知又は公告を手配する。
- 反対通知、総会での反対、保有株式数を証拠化する。
- 株券発行会社では株券提出、振替株式では個別株主通知の扱いを確認する。
- 価格協議、117条2項の価格決定申立て、仮払い・供託の準備をする。
- 買取資金、分配可能額超過時の役員責任、財務影響を検討する。
特に非上場会社では、株式評価資料の準備が遅れがちです。会社法116条の対象行為を行う時点で、直近決算、事業計画、株主構成、種類株式の内容、過去の株式取引事例を整理しておくと、117条の価格協議に移ったときの対応がしやすくなります。
株主側のチェックリスト
株主側では、会社法116条の対象行為かどうかを確認したうえで、反対通知、総会での反対、請求期間、株式数、証拠化を順番に処理します。価格に不満がある場合でも、まず買取請求権を適法に行使できていなければ、価格決定の土俵に乗れません。
- 会社の行為が会社法116条の対象か、又は組織再編等の別規定の対象かを確認する。
- 議決権を行使できる株主か、議決権を行使できない株主かを確認する。
- 総会前に、対象議案への反対通知を記録に残る方法で出す。
- 総会で反対票を投じ、議決権行使書面・電子投票・委任状等の控えを保存する。
- 効力発生日の20日前の日から前日までに、株式数を明らかにして買取請求をする。
- 株券発行会社では株券提出、振替株式では個別株主通知を確認する。
- 価格協議に備えて、株式評価資料、会社資料、取引事例、相手方とのやり取りを保存する。
- 117条2項の価格決定申立ての期限を管理する。
少数株主が単に「株式を買い取ってほしい」と求める場面と、会社法116条の反対株主の株式買取請求は別です。会社法116条の対象行為がない場合は、譲渡承認請求、会社・大株主との任意交渉、自己株式取得、株主間契約上の権利など、別の手段を検討します。
会社法116条と関連制度の違い
会社法117条との違い
会社法116条は、反対株主が株式買取請求をできる場面・要件・請求期間を定める条文です。これに対し、会社法117条は、買取請求がされた後の価格協議、支払、裁判所への価格決定申立て、利息、仮払いなどを定めます。
実務では、116条で「権利行使が適法か」を確認し、117条で「価格をどう決めるか」を確認します。両方を混同すると、期限管理や申立てのタイミングを誤るおそれがあります。
会社法118条・119条との違い
会社法118条・119条は、新株予約権買取請求と価格決定を扱います。会社法116条は株主の株式買取請求であり、新株予約権者の買取請求とは、対象者、対象権利、社債部分の扱いが異なります。
ストックオプションや新株予約権付社債がある会社で譲渡制限・全部取得条項に関する定款変更をする場合は、株主だけでなく新株予約権者への影響も確認してください。
組織再編・M&Aの株式買取請求との違い
合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付、事業譲渡等でも反対株主の株式買取請求が問題になりますが、根拠条文は116条ではなく、469条、785条、797条、806条などの個別規定です。
ただし、反対通知、総会での反対、請求期間、価格決定申立て、個別株主通知などの実務論点は共通します。M&Aにおける対応は、M&Aにおける反対株主の株式買取請求も確認してください。
よくある質問
少数株主ならいつでも会社法116条で株式買取請求ができますか。
できません。会社法116条の株式買取請求は、116条1項各号に掲げる会社行為がある場合に限られます。単に少数株主である、経営方針に不満がある、株式を売却したいというだけでは、116条の買取請求権は発生しません。
反対通知だけで足りますか。
議決権を行使できる株主については、原則として、総会に先立つ反対通知に加え、総会で対象議案に反対する必要があります。反対通知を出しても、総会で賛成したり、反対したことを証明できなかったりすると、反対株主該当性が争われます。
会社の20日前通知と株主の請求期間は同じ意味ですか。
同じではありません。会社は効力発生日の20日前までに通知又は公告をします。一方、株主の株式買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に行います。通知期限と請求期間を分けて管理してください。
請求後に撤回できますか。
会社法116条7項は、株式買取請求をした株主は、会社の承諾を得た場合に限り撤回できると定めています。会社が対象行為を中止した場合は、116条8項により請求は効力を失います。価格決定申立てがされない場合など117条側の扱いも併せて確認します。
価格が合わない場合はどうなりますか。
価格について協議が調わない場合は、会社法117条に従い、株主又は会社が裁判所に価格決定の申立てを行うことがあります。価格決定では、上場株式か非上場株式か、対象行為の性質、手続の公正性、評価資料、裁判例が問題になります。
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まとめ
会社法116条は、株式に譲渡制限や全部取得条項を設ける定款変更など、株主の投資回収や株主としての地位に大きな影響がある場面で、反対株主に株式買取請求権を認める規定です。
実務では、116条1項の対象行為に当たるか、2項の反対株主に当たるか、20日前通知、請求期間、株券提出、個別株主通知、撤回制限を満たしているかを順に確認します。価格の協議や裁判所への価格決定申立ては117条で問題になるため、116条で権利行使の入口を正確に整えたうえで、価格資料と申立期限を管理してください。
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