会社買収とは|方法・流れ・費用・リスクと買い手側の実務

会社買収は、他社の株式や事業を取得し、経営権・事業基盤・人材・取引先・許認可・ブランドなどを自社の成長に取り込むためのM&A手法です。新規事業を一から立ち上げるより早く市場・顧客・人材を獲得できる一方で、簿外債務、重要契約の解除、許認可、労務問題、買収後の統合失敗など、買い手側に大きなリスクが移ることがあります。

この記事では、会社買収を検討する経営者・事業開発担当者・法務担当者に向けて、会社買収の意味、方法、流れ、費用、リスク、デューデリジェンス、契約、PMIまでを、買い手側の実務に沿って整理します。

  • 会社買収では、買収目的・対象会社・スキーム・資金調達・PMIを一体で設計する必要があります。
  • 株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換・株式交付など、方法によって承継する権利義務と必要手続が変わります。
  • 買い手側では、価格だけでなく、簿外債務、重要契約、許認可、労務、情報管理、キーパーソン、PMIを早期に確認することが重要です。
  • デューデリジェンスの結果は、買収価格、表明保証、補償条項、クロージング前提条件、解除条項、PMI計画に反映させる必要があります。

坂尾陽弁護士

会社買収は「良い会社を見つけること」だけでは足りません。買収後に本当に利益を出せるか、リスクを誰が負担するか、契約でどこまで守れるかを、早い段階で設計することが重要です。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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会社買収とは何か

会社買収とは、他社の経営権又は事業の全部・一部を取得することです。一般には、買い手が売り手から株式を取得して対象会社を子会社化する株式譲渡がイメージされやすいですが、実務上は、事業譲渡、会社分割、合併、株式交換、株式交付、第三者割当増資、TOBなども、広い意味で会社買収・企業買収の手法として検討されます。

買い手側から見ると、会社買収は、対象会社が持つ経営資源をまとめて取得する取引です。たとえば、顧客基盤、販売網、製造設備、技術、知的財産、人材、許認可、ブランド、ノウハウを短期間で取り込めるため、内製で時間をかけて成長するよりも、成長スピードを上げられる可能性があります。

一方で、会社買収では、良い資産だけでなく、負債・契約上の義務・労務問題・訴訟リスク・システム負債・取引先との関係悪化なども、形を変えて買い手側に影響します。そのため、買収を成功させるには、単に価格を交渉するだけでなく、買収目的、買収対象、資金計画、調査範囲、契約条件、買収後の統合を最初からつなげて設計する必要があります。

会社買収とM&Aの違い

M&Aは、合併と買収を含む広い概念です。会社買収は、そのうち買い手が他社の支配権や事業を取得する取引を指す場面で使われることが多い言葉です。したがって、会社買収はM&Aの一類型と考えると分かりやすいでしょう。

なお、会社買収といっても、必ずしも対象会社そのものを丸ごと取得するとは限りません。特定の事業だけを取得する事業譲渡や、会社分割で事業を承継する方法もあります。買収目的が「会社全体の支配」なのか、「特定事業・人材・技術の取得」なのかによって、選ぶべき手法は変わります。

買い手側が会社買収を行う主な目的

買い手側が会社買収を検討する目的は、案件ごとに異なります。代表的には、次のような目的があります。

  • 新規市場や新規地域へ短期間で参入する
  • 既存事業と相性の良い顧客基盤・販売網を取得する
  • 技術、知的財産、人材、製造能力を取得する
  • 競合先や補完企業を取り込み、シェアや収益力を高める
  • 後継者不在の中小企業を承継し、事業基盤を拡大する
  • グループ再編や事業ポートフォリオの見直しを行う

目的が曖昧なまま案件を探すと、対象会社の魅力に引っ張られ、買収後に「なぜ買ったのか」「どの部門と統合するのか」「誰が責任者になるのか」が不明確になりやすくなります。会社買収を始める前に、買収目的、投資上限、撤退基準、買収後の責任部署を明確にしておくことが重要です。


会社買収の主な方法・スキーム

会社買収の方法を選ぶときは、税務上の有利不利だけでなく、承継したい資産・契約・従業員・許認可、引き受けたくない負債、少数株主の有無、資金調達、クロージングまでの期間を総合的に検討する必要があります。

方法 概要 買い手側の主な注意点
株式譲渡 売り手株主から対象会社の株式を取得し、対象会社を子会社化する方法 会社はそのまま存続するため、契約・許認可・従業員関係が維持されやすい一方、簿外債務や過去の法令違反も対象会社に残る
事業譲渡 対象会社の特定事業に関する資産・契約・負債等を個別に承継する方法 承継範囲を選びやすい一方、契約相手・従業員・許認可等について個別対応が必要になりやすい
会社分割 特定事業を分割会社から承継会社へ包括的に承継する組織再編手法 包括承継の利点がある一方、会社法上の手続、債権者保護、労働契約承継、税務を慎重に確認する必要がある
合併 複数の会社を1つの法人に統合する方法 統合効果は大きいが、権利義務を広く承継するため、事前調査と統合計画が重要になる
第三者割当増資・資本参加 対象会社が新株を発行し、買い手が出資する方法 既存株主との関係、希薄化、支配権の割合、投資契約、拒否権やガバナンス設計が重要になる
TOB・株式交換・株式交付等 上場会社や完全子会社化、株式対価を使う場合などに検討される方法 金融商品取引法、会社法、開示、少数株主保護、スケジュール管理が重要になる

株式譲渡は中小企業の会社買収でよく使われる

中小企業の会社買収では、売り手株主が保有する株式を買い手に譲渡し、買い手が対象会社を子会社化する株式譲渡がよく使われます。株主が変わるだけで対象会社の法人格は維持されるため、契約、従業員、許認可、取引先との関係を比較的維持しやすい点が特徴です。

ただし、株式譲渡では、対象会社の過去の負債やリスクも会社内に残ります。未払残業代、税務リスク、訴訟、契約違反、環境問題、情報漏えい、簿外債務などが後から表面化すると、買い手グループの損失につながります。株式譲渡契約書の設計については、株式譲渡契約書(SPA)の主要条項も確認しておくとよいでしょう。

事業譲渡は承継範囲を選びやすいが、個別同意が問題になりやすい

事業譲渡は、対象会社の特定事業だけを取得したい場合に使われます。買い手側にとっては、承継したい資産・契約・従業員を選びやすく、不要な負債を切り離しやすいメリットがあります。

一方で、契約上の地位、賃貸借契約、取引基本契約、従業員の雇用関係、許認可などは、個別に承継手続や同意取得が必要になることがあります。承継対象を広くしすぎると実行負担が重くなり、逆に絞りすぎると買収後に事業が回らなくなるおそれがあります。事業譲渡を検討する場合は、事業譲渡契約書の承継対象・従業員・許認可の注意点を確認しておくことが重要です。

買収スキームは法務・税務・会計・事業の観点を分けて検討する

買収スキームは、法律だけで決まるものではありません。税務上有利でも、重要契約の同意が取れなければ実行できないことがあります。法務上シンプルでも、買収後の会計処理や金融機関との約束に合わないこともあります。

そのため、初期段階では、弁護士、税理士、公認会計士、金融機関、FA・仲介会社の役割を整理し、誰がどの論点を確認するかを決めておくべきです。M&Aの手法全体を比較したい場合は、M&Aの種類・手法(スキーム)の整理も参考になります。


会社買収の流れ

会社買収は、突然、契約書を作って完了するものではありません。一般には、買収戦略の整理、候補探索、秘密保持、初期評価、意向表明、基本合意、デューデリジェンス、最終契約、クロージング、PMIという流れで進みます。

各工程の順番と成果物を把握しておくことで、社内承認、資金調達、専門家の関与時期、撤退判断のタイミングを管理しやすくなります。工程別の詳細は、会社買収の流れと手順で詳しく整理しています。

工程 買い手側の主な作業 主な成果物
戦略策定 買収目的、投資基準、撤退基準、買収後責任部署を決める 買収方針、投資基準、社内承認方針
候補探索 ロングリスト・ショートリストを作り、候補会社を比較する 候補リスト、初期評価資料
NDA・情報開示 秘密保持契約を締結し、対象会社情報を受領する NDA、IM、Q&Aリスト
意向表明・基本合意 価格レンジ、スキーム、独占交渉、DD範囲を整理する LOI、基本合意書
デューデリジェンス 財務・法務・税務・労務・IT・ビジネス等を調査する DD報告書、レッドフラッグ一覧
最終契約 価格調整、表明保証、補償、前提条件、解除条項を交渉する SPA、事業譲渡契約、付随契約
クロージング 代金支払、株式譲渡、同意取得、必要書類の授受を行う クロージング書類、議事録、確認書
PMI 組織、人事、会計、法務、IT、営業を統合する 100日プラン、統合計画、権限規程

候補探索では「買える会社」より「買うべき会社」を絞る

会社買収の候補探索では、案件として出ている会社を幅広く見るだけでは不十分です。自社の事業戦略と合うか、買収後にどの部門が統合するか、買収価格に見合うシナジーがあるかを確認する必要があります。

候補探索では、譲渡案件を待つ方法と、買い手側から能動的に候補企業を探す方法があります。どのようにロングリスト・ショートリストを作るかは、買収先の探し方・選び方で詳しく解説しています。

基本合意は「契約前の仮合意」ではなく、後戻りできない条件を含みやすい

基本合意書は、最終契約の前段階で締結されることが多い書面です。価格レンジ、スキーム、独占交渉、デューデリジェンス、スケジュール、費用負担、秘密保持、法的拘束力の有無などが記載されます。

基本合意は、最終契約そのものではありません。しかし、独占交渉、秘密保持、費用負担、誠実協議義務など、一部の条項には法的拘束力を持たせることがあります。後から条件変更しにくい事項もあるため、M&Aの基本合意書(MOU)の法的拘束力と主要条件を確認したうえで締結することが重要です。

クロージング前に同意取得・許認可・資金調達を確認する

会社買収では、最終契約に署名しても、直ちに取引が完了するとは限りません。重要取引先の同意、金融機関の承諾、許認可、株主総会や取締役会決議、表明保証の維持、資金調達の完了など、クロージングまでに満たすべき条件があります。

東京地裁令和5年4月17日判決では、株式取得の仲介業者が、対象会社の重要な契約関係に関する承諾取得について誤った情報を伝えたことが問題となり、正確かつ適切な情報提供義務への重過失が認定されました。このような紛争を避けるには、「誰が、いつ、どの相手から、どの書面で同意を取得するか」をクロージング前提条件として具体化することが重要です。

クロージング条件の設計については、M&Aのクロージング前提条件も確認しておくとよいでしょう。


会社買収にかかる費用・相場

会社買収にかかる費用は、買収代金だけではありません。実務上は、買収価格、専門家費用、仲介・FA報酬、デューデリジェンス費用、契約書作成費用、税務費用、登記・許認可費用、資金調達費用、PMI費用まで含めて予算化する必要があります。

会社買収の相場は、業種、規模、利益水準、純資産、成長性、取引先、許認可、人材、買収後のシナジー、競争状況によって大きく変わります。「売上の何倍」「利益の何倍」といった簡便な目安だけで判断すると、高値づかみや買収後の減損につながるおそれがあります。

買収価格は企業価値評価と交渉で決まる

買収価格は、企業価値評価を出発点に、売り手・買い手の交渉によって決まります。代表的な評価方法には、純資産法、類似会社比較法、DCF法、年買法などがあります。中小企業では、正常収益力、役員報酬、オーナー依存、借入金、運転資本、退職金、在庫、設備、税務リスクなどを調整して考える必要があります。

評価額と実際の売買価格は同じではありません。買い手にとって戦略的価値が高ければ高い価格を提示することもありますし、リスクが大きければ価格調整、分割払い、アーンアウト、補償条項で調整することもあります。価格の考え方は、M&Aの価格相場・会社買収価格の決め方で詳しく整理しています。

専門家費用・仲介手数料も事前に確認する

会社買収では、FA・仲介会社、弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士、IT専門家、不動産鑑定士などが関与することがあります。特に中小企業M&Aでは、仲介契約の内容、手数料体系、最低報酬、専任条項、中途解約、利益相反、担当者の役割を確認することが重要です。

仲介・FAを利用する場合は、報酬額だけでなく、どこまで調査するのか、法務判断は誰が行うのか、買い手・売り手の双方代理的な立場になるのか、助言の範囲はどこまでかを明確にしましょう。中小M&Aガイドラインの遵守宣言や報酬体系の説明も、支援機関を選ぶ際の確認材料になります。

資金調達費用と返済負担を軽視しない

買収価格が妥当でも、資金調達の条件が重すぎると、買収後の資金繰りを圧迫します。自己資金、金融機関融資、メザニン、増資、共同投資、LBO、MBOローンなどの方法ごとに、返済負担、担保・保証、コベナンツ、資本政策、クロージングの確実性が変わります。

資金調達を売買契約の前提条件にするか、コミットメントレターをどこまで求めるか、資金調達ができなかった場合に解除できるかも、契約交渉で重要です。詳しくは、M&Aの資金調達方法を確認してください。


会社買収のリスク・デメリット

会社買収の買い手側リスクは、買収前に見えているものだけではありません。買収後に、対象会社の過去の問題、隠れた負債、従業員の離職、取引先の離反、システム統合の失敗、想定シナジーの未達が表面化することがあります。

リスクは「見つける」だけでなく、「価格に反映する」「契約で配分する」「クロージング条件にする」「買収後に対応する」ことが重要です。買い手側のリスクを詳しく確認したい場合は、企業買収のリスク・デメリットも参考にしてください。

リスク 具体例 主な予防策
財務リスク 簿外債務、偶発債務、在庫評価、債権回収不能、のれん減損 財務DD、価格調整、補償条項、運転資本調整
法務リスク 重要契約の解除、許認可、訴訟、法令違反、知財帰属 法務DD、同意取得、表明保証、クロージング条件
労務リスク 未払残業代、名ばかり管理職、キーパーソン流出、労使紛争 労務DD、人事PMI、雇用条件整理、説明計画
事業リスク 主要取引先依存、オーナー依存、シナジー未達、市場変化 ビジネスDD、トップ面談、引継ぎ契約、KPI設計
情報・ITリスク 個人情報漏えい、老朽システム、ライセンス違反、統合費用 IT・個人情報DD、移行計画、TSA、セキュリティ対策
PMIリスク 組織文化の衝突、権限不明確、会計・規程・人事制度の未統合 100日プラン、統合責任者、法務・人事・ITの優先順位付け

簿外債務・偶発債務は買収後に表面化しやすい

買収後に問題となりやすいのが、決算書だけでは把握しにくい簿外債務・偶発債務です。未払残業代、退職給付、保証債務、税務否認、訴訟、環境対応費用、顧客クレーム、契約違反による損害賠償などが典型です。

東京地裁平成18年1月17日判決は、消費者金融会社の買収において、売主側の表明保証違反が問題となった事案です。同判決は、買主がデューデリジェンスを実施していても、売主側が重要な会計処理を開示していなかった事情を踏まえ、表明保証責任を認めました。会社買収では、デューデリジェンスで調査するだけでなく、売主に何を表明保証させ、違反時にどの範囲で補償を受けるかが重要になります。

重要契約・許認可・同意取得を軽視すると買収目的が崩れる

対象会社の価値が、特定の販売店契約、フランチャイズ契約、代理店契約、賃貸借契約、ライセンス契約、金融機関取引、許認可に依存している場合、買収後もその関係が維持されるかを確認しなければなりません。

株式譲渡では法人格は変わらないため、契約や許認可が当然に維持されるように見えることがあります。しかし、契約上、支配権変更、代表者変更、株主変更、事業譲渡、合併等を理由に、通知、承諾、解除権、期限の利益喪失が定められていることがあります。契約DDでは、Change of Control条項、譲渡禁止条項、解除条項、事前承諾条項を必ず確認しましょう。

注意

「株式譲渡だから契約はそのまま」と単純化すると危険です。対象会社の価値を支える契約については、同意取得の要否、通知先、期限、未取得時の効果を一覧化し、最終契約の前提条件に反映させる必要があります。

失敗事例・悪質M&Aが疑われる場合は予防記事だけで完結しない

会社買収のリスクは、予防段階で把握すべきものと、実際にトラブルが発生した後に対応すべきものに分かれます。買収後に表明保証違反、情報隠し、粉飾、詐欺的な勧誘、仲介トラブル、価格調整紛争が起きた場合は、証拠保全、通知、補償請求、解除、損害賠償、仮処分、交渉・訴訟対応を別途検討する必要があります。

買収後の紛争対応は、M&Aトラブル紛争の全体像M&A失敗事例とDD・契約交渉の落とし穴M&A詐欺・悪質M&Aの手口と被害回復も確認してください。


デューデリジェンスと契約でリスクをコントロールする

会社買収では、デューデリジェンスを行えば全てのリスクがなくなるわけではありません。調査には時間・資料・相手方の協力という限界があります。重要なのは、デューデリジェンスで発見したリスクを、価格、契約条件、クロージング条件、PMIに反映させることです。

デューデリジェンスの全体像は、デューデリジェンス(DD)の目的・種類・流れ、調査項目はM&Aデューデリジェンスのチェックリストで確認できます。

法務DDでは契約・株式・許認可・労務・知財を確認する

法務DDでは、対象会社の法律上のリスクを洗い出します。株主構成、株式発行の履歴、議事録、定款、重要契約、許認可、訴訟、労務、知的財産、個人情報、反社会的勢力排除、コンプライアンスなどが主な対象です。

特に買い手側では、最終契約前に「買収後に事業が回るか」「解除される契約はないか」「過去の違反が買収後に損失化しないか」「売主に補償を求められるか」を確認する必要があります。重要契約の調査は、重要契約の法務DDと連動します。

DD結果は最終契約に落とし込む

デューデリジェンスでリスクが見つかった場合、単に報告書に記載するだけでは不十分です。買い手側としては、次のような形で最終契約へ反映させる必要があります。

  • 買収価格を減額する
  • クロージング前に問題を是正させる
  • 同意取得・許認可取得を前提条件にする
  • 特定事項について表明保証を追加する
  • 補償条項・責任上限・請求期間を調整する
  • エスクロー、分割払い、アーンアウトを検討する
  • 買収を中止する撤退基準を設ける

最終契約書では、表明保証、誓約事項、補償、解除、クロージング前提条件、競業避止、秘密保持、紛争解決などを具体的に定めます。契約全体の構造は、M&A契約書の種類と主要条項、最終契約の内容はM&Aの最終契約書(DA)も参照してください。

取締役会・社内意思決定の資料も残す

会社買収は、買い手企業にとって重要な経営判断です。取締役は一定の裁量をもって買収判断を行えますが、必要な情報収集や検討が明らかに不十分な場合には、社内責任が問題になる可能性があります。

東京高裁平成28年7月20日判決は、他社株式取得に関する取締役の善管注意義務が問題となった事案で、経営判断には裁量がある一方、投資対象企業の事業内容について知見に乏しい場合などには、情報収集と検討に慎重さが求められることを示しています。会社買収を進める際は、取締役会資料、DD報告、価格算定資料、リスク一覧、撤退判断の検討過程を残しておくことが重要です。

MEMO

会社買収の社内承認では、買収のメリットだけでなく、主要リスク、DDで確認した事項、未解消リスク、契約上のリスク配分、買収後の責任部署を明記しておくと、後日の説明責任を果たしやすくなります。


会社買収後のPMIまで見据える

会社買収は、クロージングがゴールではありません。買収後に対象会社をどのように統合し、どのようにシナジーを実現するかが重要です。PMIを後回しにすると、組織文化の衝突、人材流出、権限不明確、会計・規程・システムの未統合、顧客対応の混乱が起こりやすくなります。

PMIの全体像は、M&AのPMIとはで整理しています。会社買収を検討する段階から、買収後100日で何を統合するか、誰が責任者になるか、どの情報をDay1までに開示するかを考えておくべきです。

人事・組織の統合は早期に設計する

買収後に特に問題になりやすいのが、人事・組織の統合です。役員体制、決裁権限、キーパーソンの処遇、給与制度、評価制度、就業規則、退職金、インセンティブ、労働時間管理などを放置すると、買収後の離職や不満につながります。

株式譲渡では、対象会社の雇用関係は原則としてそのまま残りますが、買収後に人事制度を変更する場合には、労働法上の手続や従業員説明が問題になります。人事・組織統合は、人事PMIの進め方も確認しておきましょう。

法務PMIでは規程・契約・権限を整える

法務PMIでは、買収後のガバナンスを整えます。定款、取締役会運営、決裁権限、稟議規程、契約書ひな形、反社チェック、個人情報管理、内部通報、コンプライアンス、関連当事者取引、グループ間契約などを確認します。

買収後すぐに全てを統合する必要はありませんが、重要な権限やリスク管理が曖昧なままになると、グループ管理上の問題が生じます。買収前DDで見つかったリスクを、買収後の改善計画に引き継ぐことが大切です。


会社買収を進める前に準備すべきこと

会社買収を具体的に進める前に、買い手側では社内準備を整えておく必要があります。案件が出てから慌てて検討すると、情報開示、価格判断、社内承認、資金調達、専門家選定が後手に回ります。

買収方針と撤退基準を決める

まず、なぜ買収するのか、どの領域を買うのか、どの程度の規模まで投資するのかを決めます。売上、利益、地域、顧客層、技術、人材、許認可、シナジー、買収後の統合難易度などを投資基準に落とし込みます。

同時に、撤退基準も必要です。たとえば、重要取引先の同意が取れない、キーパーソンが退職する、簿外債務の上限が読めない、買収後の責任部署が決まらない、金融機関の融資条件が合わないといった場合には、条件変更又は撤退を検討すべきです。

社内チームと外部専門家の役割を決める

会社買収では、経営企画、事業部、法務、財務、経理、人事、IT、情報セキュリティ、広報など複数部署が関わります。初期段階から、誰が窓口になるか、誰がDD資料を確認するか、誰が取締役会資料を作成するかを決めておくと、案件が進んだときに混乱しにくくなります。

外部専門家についても、FA・仲介会社、弁護士、公認会計士、税理士、社労士、IT専門家の役割を分けておくべきです。仲介会社がいる場合でも、法的リスクの判断や契約交渉を全て任せられるとは限りません。法務・契約・紛争予防の観点は、弁護士が独立して確認することが重要です。

資料請求リストと初期質問を準備する

買収候補が現れたら、財務諸表、税務申告書、株主名簿、定款、議事録、重要契約、許認可、労務資料、知財資料、訴訟・クレーム資料、借入契約、保証関係、個人情報管理資料などを段階的に確認します。

最初から全資料を要求すると売り手の負担が重くなるため、初期検討、基本合意前、DD本格実施時、最終契約前で資料請求を分ける方法もあります。重要なのは、買収判断に必要な資料が何かを事前に整理しておくことです。


会社買収で弁護士に相談すべき場面

会社買収では、弁護士への相談は最終契約書を作る段階だけではありません。買収スキーム、NDA、意向表明書、基本合意、DD、契約交渉、クロージング、PMI、買収後トラブルまで、複数の場面で法務判断が必要になります。

特に、対象会社の重要契約、許認可、労務、株式、知財、情報管理、訴訟、反社会的勢力、金融機関対応、表明保証、補償条項が関係する場合は、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。

NDA・基本合意の段階で相談する

秘密保持契約や基本合意書は、短い書面でも、独占交渉、費用負担、情報利用、交渉中止、法的拘束力など重要な内容を含みます。最終契約の前だからといって軽く考えると、後で条件変更や撤退が難しくなることがあります。

DDの範囲を決める段階で相談する

弁護士は、法務DDの範囲を設定し、資料請求リストや質問事項を作成し、契約・許認可・労務・株式・訴訟などのリスクを整理します。限られた時間で全てを調べることは難しいため、買収目的と対象会社の特徴に応じて、重点的に調査すべき項目を決めることが重要です。

最終契約の交渉段階で相談する

最終契約では、売買価格、表明保証、補償、解除、クロージング条件、誓約事項、競業避止、秘密保持、紛争解決を具体的に設計します。ここでリスク配分を誤ると、買収後に問題が発覚しても、十分な補償を受けられないことがあります。

買収後にトラブルが発覚した段階で相談する

買収後に表明保証違反、情報隠し、簿外債務、従業員トラブル、取引先離反、詐欺的な説明が判明した場合は、証拠保全と通知のタイミングが重要です。契約上の請求期間、補償上限、通知方法を確認し、売り手、仲介会社、FA、役員等に対する請求可能性を検討します。


会社買収に関するよくある質問

会社買収にはいくら必要ですか

必要資金は、買収価格、専門家費用、仲介・FA報酬、税金、資金調達費用、PMI費用によって変わります。買収価格だけでなく、買収後の運転資金や統合費用まで含めて資金計画を作る必要があります。

会社買収はどれくらいの期間がかかりますか

案件規模やスキームによりますが、候補探索からクロージングまで数か月以上かかることが一般的です。DD、資金調達、同意取得、社内承認、許認可が必要な場合は、さらに時間がかかります。PMIは買収後も継続するため、契約締結だけで終わるものではありません。

買収先はどのように探せばよいですか

仲介会社・FA・金融機関・士業・マッチングプラットフォームを利用する方法のほか、買い手側が自社戦略に合う候補企業をロングリスト化して直接又は専門家経由で接触する方法があります。買収先の探し方は、買収目的と撤退基準を決めたうえで設計することが重要です。

会社買収で最も注意すべきリスクは何ですか

案件によって異なりますが、買い手側では、簿外債務、重要契約の解除、許認可、未払残業代、主要取引先依存、キーパーソン流出、のれん減損、PMI失敗が問題になりやすいです。DDで見つけるだけでなく、契約条件とPMI計画に反映させる必要があります。

仲介会社がいれば弁護士は不要ですか

不要とはいえません。仲介会社やFAは、候補探索、条件調整、プロセス管理で重要な役割を果たしますが、法的リスクの判断、契約書の交渉、表明保証・補償条項の設計、紛争時の請求は弁護士の関与が必要になる場面が多いです。仲介会社の説明を前提にしつつ、買い手側の利益を守る法務チェックを別途行うことが重要です。


まとめ

会社買収は、成長スピードを高める有効な手段ですが、買い手側には多くのリスクが移ります。買収を成功させるには、目的、買収先、スキーム、価格、資金調達、DD、契約、クロージング、PMIを切り離さずに検討することが重要です。

  • 会社買収は、株式譲渡だけでなく、事業譲渡、会社分割、合併、資本参加など複数の方法があります。
  • 買収価格は、企業価値評価だけでなく、リスク、シナジー、交渉、契約条件によって変わります。
  • 買い手側は、簿外債務、重要契約、許認可、労務、IT、PMIのリスクを早期に確認する必要があります。
  • DD結果は、価格調整、表明保証、補償、前提条件、解除条項、PMI計画へ反映させることが重要です。
  • 会社買収を検討する段階から、弁護士・会計税務専門家・FA等の役割を整理して進めましょう。

坂尾陽弁護士

会社買収は、契約締結前の準備で結果が大きく変わります。候補会社を見つけた段階、基本合意を結ぶ前、DD範囲を決める前に、買い手側の法務リスクを整理しておくことをおすすめします。

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