M&A契約では、表明保証や補償条項と並んで、
- 責任制限条項(キャップ・免責・バスケット)
- 請求期間に関する条項(サバイバル期間)
が、買収後トラブルの「ダメージコントロール」を左右します。
これらはまとめて、
- ① どんな違反があったときに
- ② どの範囲の損害を
- ③ いつまで・いくらまで
責任追及できるのか
という「責任追及の枠組み」を決める条項群です。
一方で、責任制限条項やM&A 免責 条項には、法的な限界・実務上の落とし穴も存在します。
本記事では、
- M&Aにおける損害賠償条項・責任制限条項・サバイバル条項の基本構造
- M&Aにおける損害賠償請求の上限(キャップ)・バスケット条項・免責条項の仕組みと相場感
- サバイバル条項/サバイバル期間の考え方と注意点
- こうした条項の「限界」と、買主・売主別のドラフト・交渉のポイント
を、紛争・トラブル目線で整理します。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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この記事の位置づけとM&A 責任 制限 条項の全体像
本記事は、
と並ぶ、「表明保証違反後の責任追及スキーム」を扱う記事です。
その中でも本記事は、**条項設計の「考え方」と「限界」**を整理します。
責任制限条項やサバイバル条項は、「とりあえずテンプレを入れておく」タイプの条文に見えますが、実際には**M&A後にどこまで請求できるかを決める“最後の締めくくり”**です。ここを雑に扱うと、トラブル時に戦える余地が大きく変わってきます。
M&A損害賠償条項の基本構造【何をどこまで約束しているか】
まず前提として、M&A契約のM&Aにおける損害賠償条項(補償条項)は、
- 表明保証条項・コベナンツ(誓約事項)違反
- その他の契約違反
があった場合に、売主(場合によっては買主)が負う損害賠償のルールを定める条項です。
実務上は、多くの契約で以下のような要素を組み合わせて規定します。
- 賠償の発動要件
→ M&A後の表明保証違反・誓約違反・特定のリスク顕在化など、どの場合に損害賠償条項が動くか。 - 対象となる損害の範囲
→ 「一切の損害」「損失および費用」「合理的な弁護士費用を含む」など、どこまでを対象とするか。 - 賠償の方法
→ 金銭賠償(補償)、価格調整など、どういう形で支払うか。 - 責任制限とのリンク
→ 後述のM&A 責任制限条項(キャップ・バスケット・免責)やサバイバル期間との関係をどう定めるか。
この「損害賠償条項・補償条項」の中で、
- 金額的な上限・下限
- 対象損害の種類の限定
- 請求期間の制限
をかけるのが、次で見る責任制限条項・免責条項・バスケット条項です。
責任制限条項・免責条項・バスケット条項の仕組み
M&Aにおける責任制限条項の代表的なパーツは、
- 上限(キャップ)
- バスケット 条項(+ディミニマス)
- 免責条項(一定の損害類型の除外)
の3つです。
- キャップ(M&A 損害 賠償 上限)
→ 売主が負う補償・損害賠償額の総額上限を、「買収価格の○%」のような形で定める仕組み。
→ 実務解説や国際調査では、中〜大規模案件で10〜30%程度とされる例が多いとされる一方、案件によって10〜100%まで幅があり得ます(とくに小規模M&A等はセオリー通りではないケースも少なくない。)。 - バスケット条項(M&A バスケット条項)
→ 軽微な損害が多数生じても補償の対象とせず、累計損害額が一定額を超えた場合にのみ補償を発動する「しきい値」条項。
→ デダクタブル型(超過部分のみ補償)とティッピング型(超過後は全額補償)があり、買収価格の5〜2%程度をしきい値とする例が多いようです。 - ディミニマス
→ 1件あたりの損害額が一定額に満たない場合は、バスケットにカウントしない仕組み。 - 免責条項(M&A 免責 条項)
→ 「間接損害・逸失利益・二次的損害」などを賠償対象から除外する条項。
→ ただし、免責条項の射程が広すぎると、実務上ほとんど何も請求できなくなる危険があるため、極端な規定ぶりは日本法の公序良俗や信義則との関係も意識して設計する必要があります。
責任制限条項は、買主にとっては「どこまでがカバーされるのか」、売主にとっては「どこまで責任を限定できるのか」という、利害のぶつかる条項です。
サバイバル条項・サバイバル期間の設計と注意点
M&Aにおける請求期間条項(サバイバル条項)は、「クロージング後も、どのタイミングまで損害賠償(補償)を請求できるか」を定める条項で、具体的にはM&A サバイバル 期間として、
- 一般的な表明保証・補償義務:クロージング後○ヶ月〜数年
- 税務・環境・反社・根幹的表明保証:より長い期間(例:5年など)
といった形で設定されることが多いとされています。
日本法上、
- 契約で請求期間や存続期間をある程度調整することは原則として可能
- もっとも、故意・重過失による損害まで一律に短期で切り捨てるような合意は、公序良俗・信義則に反し無効となる可能性がある
とも考えられており、時効との関係も含めて個別検討が必要です。
海外実務では、サバイバル条項が時効(statute of limitations)との関係で争いになった事案も報告されているようですので、適用法(準拠法)ごとのルールを踏まえたドラフトが必須との指摘もあるようです。
M&Aにおけるサバイバル条項の期間は、単に「条文が紙の上に残っている期間」ではなく、表明保証違反・補償請求を実務上“いつまで追及できるか”の目安になります。サバイバル期間が1年と短く設定されていると、簿外債務や不正が遅れて発覚した場合に、条項に基づく請求ができないリスクが高まります。
責任制限条項の「限界」【法的制約と実務上の落とし穴】
M&A 責任 制限 条項やM&A 免責 条項は、うまく設計すればリスク分担に大きく貢献しますが、「何でもあり」ではありません。
主な限界・注意点をコンパクトに整理すると、次のようになります。
- 故意・重過失に対する免責の限界
→ 日本法上、契約で責任を制限すること自体は原則有効とされるものの、故意・重過失で他人の法的利益を侵害した場合にまで、全ての責任を免れるような条項は無効となる可能性が高いとの指摘があります。 - キャップ・免責があっても、規制当局や第三者への責任は残る
→損害賠償上限・免責条項は、あくまで当事者間の契約責任を調整するものにすぎず、行政処分や第三者からの損害賠償請求まで消し去ることはできません。 - 条項だけではレピュテーションリスクはコントロールできない
→ 不正会計・コンプライアンス違反等では、損害賠償を受けられても、グループ全体の信用失墜・従業員の離反など金額換算しづらい損害が残ります。責任制限条項はあくまで「金銭的枠組み」の調整であり、根本的なビジネスリスクは別途マネジメントが必要です。 - DD・価格交渉の失敗はM&A契約の条項では取り返せない
→ DD不足や過大なシナジー前提で高値掴みしたケースでは、仮に表明保証違反があっても、キャップやバスケットの範囲でしか回収できません。そもそも取引条件の判断ミスは各種条項では取り戻せません。
責任制限条項は、「トラブルをゼロにする魔法の盾」ではなく、**「起きてしまったときに、どこまでお互い譲り合うかのルール」**くらいに捉えるとバランスが取りやすくなります。
ドラフト・交渉のチェックポイント【買主・売主別】
最後に、実務で責任制限条項をドラフト・交渉するときのチェックポイントを、買主・売主別に整理しておきます。
買主側のチェックポイント
- キャップ(M&A 損害 賠償 上限)は、取引規模とリスクの大きさに見合った水準か(少なくとも重大表明については別枠・例外とするか)。
- M&A バスケット 条項・ディミニマスの設定が「実務負担の軽減」にとどまっているか、それとも事実上ほとんど請求できない水準になっていないか。
- M&A サバイバル 条項/サバイバル 期間が、簿外債務・税務・不正会計など発覚に時間がかかるリスクに対して十分な期間になっているか。
- 免責条項(M&A 免責 条項)が、「逸失利益全て」「間接損害全て」など過度に広くないか、少なくとも悪質なケースや対外賠償については例外を設けられないか。
売主側のチェックポイント
- キャップ・バスケット・ディミニマス・サバイバル期間を組み合わせて、**「どこまでなら責任を負えるか(事業継続に支障がないか)」**を定量的に把握しているか。
- 表明保証のうち、**基礎的・重大な表明(所有権・反社・資本構成など)**と、その他の表明とで責任制限の水平(キャップ・サバイバル)を分ける検討をしているか。
- M&A 損害 賠償 条項・補償条項の文言が、実際の開示状況と整合しているか(ディスクロージャーレターでの例外記載を忘れていないか)。
- 免責条項・責任制限条項が、**故意・重過失まで完全にカバーするような書きぶりになっていないか(無効リスク)**をチェックしているか。
まとめ【責任制限条項を使いこなすための要点】
- M&A契約のM&A 損害 賠償 条項・M&A 責任 制限 条項・M&A サバイバル 条項は、「どんな違反について、どの損害を、いつまで・いくらまで請求できるか」を定める中核条項であり、表明保証・補償条項とセットでリスク分配を設計する必要があります。
- M&Aにおいてキャップ条項やバスケット条項は、買主と売主の利害が真っ向からぶつかるポイントであり、相場感(キャップ10〜30%程度、バスケット5〜2%程度など)を踏まえつつ、案件ごとに調整することが重要です。
- サバイバル条項は、表明保証・補償義務が「いつまで残るか」を決める条項であり、簿外債務・税務・不正など発覚に時間がかかるリスクとの関係で慎重な設計が必要です。
- 責任制限条項や免責条項には、故意・重過失に対する免責の限界や公序良俗上の制約があると解されており、条項だけで第三者・当局への責任やレピュテーションリスクを完全にコントロールすることはできません。
- 実際の案件では、DDの範囲・価格決定方法・開示状況・契約文言・準拠法などによって結論が大きく変わり得ます。具体的なM&Aプロジェクトやトラブルに直面している場合には、M&Aに詳しい弁護士・アドバイザーと連携し、責任制限条項を含む全体設計を早期に見直すことが不可欠です。
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