M&Aでトラブルが起きたとき、
- 「これは表明保証違反か?」
- 「補償条項(インデムニティ)でどこまで請求できるのか?」
という点は、実務で必ず問題になります。
特に、M&Aにおいて補償条項(インデムニティ)は、
- 表明保証違反
- 契約上の誓約違反
- 特定リスクの顕在化
があったときに、どこまで・どの範囲の損害を売主に負担させるかを定める条項であり、責任追及の枠組みの「中心部」に位置づけられます。
本記事では、
- M&A 補償条項・インデムニティの基本的な考え方
- 表明保証違反と補償条項の関係(責任追及の枠組み)
- M&A 補償責任の構成要素(範囲・因果関係・対象損害)
- 補償請求の要件・手続きと、他の救済との関係
- キャップ・バスケット・特別補償条項などドラフト・交渉のポイント
を、紛争・トラブル目線から整理します。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
Contents
企業法務の無料法律相談実施中!
- 0円!完全無料の法律相談
- 弁護士による無料の電話相談も対応
- お問合せは24時間365日受付
- 土日・夜間の法律相談も実施
- 全国どこでも対応いたします
M&A 補償条項(インデムニティ)の位置づけ【なぜ重要か】
近年、表明保証条項を伴うM&Aが一般化したことを背景に、表明保証違反を理由とする補償請求訴訟は増加傾向にあると指摘されています。
このとき、単に「表明保証に違反した」というだけでは、
- 日本法には表明保証違反そのものを直接規律する明文がない
- どの損害をどこまで賠償させられるかが明らかでない
という問題があります。
そこで、実務では、
- 表明保証条項 … どの事実を真実・正確と約束するか
- 補償条項(インデムニティ) … 表明保証違反等があった場合に、どの損害をどの範囲まで補償するか
- 責任制限条項(キャップ・バスケット・サバイバル) … 補償責任の上限・下限・期間をどう区切るか
をセットで設計し、「責任追及の枠組み」を契約上あらかじめ決めておくのが一般的です。
補償条項・インデムニティは、単に「おまけの賠償条項」ではなく、**表明保証違反などをお金の問題としてどう解決するかを定める“受け皿”**だと考えるとイメージしやすくなります。
補償条項・インデムニティとは何か【一般的な定義と日本法との関係】
一般的な定義として、M&Aにおける**補償条項(Indemnification/Indemnity)**とは、
表明保証違反・誓約事項違反その他の契約違反により相手方に生じた損害を、一定の範囲で填補・賠償することを定める条項と説明されます。
ポイントは、
- 表明保証そのものは「事実の表明」にすぎず、債務不履行を構成するとは限らない
- そこで、補償条項により「表明保証違反があったときには、契約に基づいて金銭補償請求ができる」と明記する
- さらに、補償額の上限や下限、期間などを条項内で調整し、売主・買主のリスク分担を具体化する
日本法上、表明保証条項や補償条項についての明文規定はありませんが、
- 債務不履行責任(民法415条)
- 不法行為責任(民法709条)
などの一般原則と組み合わせる形で、その法的性質が議論されています。
補償条項の特徴として、
- 売主に過失がなくても(無過失であっても)、表明保証違反等があれば補償義務を負うと解される場合が多い
つまり、**「原因はどうあれ、約束と違っていたら補償する」**という、契約上のリスク分配のルールとして機能すると説明されます。
坂尾陽弁護士
表明保証違反と補償条項の関係【責任追及の枠組み】
表明保証条項は、
- 財務諸表が適正に作成されていること
- 簿外債務や重大な法令違反が存在しないこと
- 提供された資料・情報が真実かつ正確であること
など、特定時点の事実について「真実である」と約束する条項です。
もっとも、表明保証は「事実の表明」であって、必ずしも「何かを実行する義務」ではありません。そのため、表明保証違反それ自体から直ちに債務不履行責任が導かれるとまでは限らないとする解釈があり得ます。
そこで実務では、「表明保証違反があったときには、補償条項に基づき、売主は買主に生じた損害を補償する」といった条文を置き、表明保証条項+補償条項のセットとして金銭補償の枠組みを構成するのが一般的です。
裁判例(アルコ事件など)を見ても、
- 表明保証条項
- それに連動する補償条項(「表明保証違反に起因して生じた損害を補償する」など)
を前提に、損害額・因果関係・買主の善意無重過失などが検討されています。
なお、損害額の具体的な算定(簿価純資産の減少・是正費用・企業価値の差額など)は、
でより詳しく扱う前提とすると、この記事では「どのような請求ルートがあるか」という枠組みの部分にフォーカスします。
M&Aにおける補償条項に基づく責任追及の典型的な構成要素【範囲・因果関係・対象損害】
補償条項・インデムニティを検討するときには、最低限、次のポイントを整理しておく必要があります。
- 補償のトリガー(発動要件)
→ 表明保証違反、誓約事項違反、特定の税務・環境リスクの顕在化など、どの場合に補償義務が発生するか。 - 補償対象となる損害の範囲
→ 「一切の損害」「損害・損失・費用(合理的な弁護士費用を含む)」など、どこまで広げるか。
→ 対象会社の損害も「買主の損害」とみなすかどうか。 - 因果関係の書きぶり
→ 「表明保証違反により生じた損害」「に起因して」「関連して」など、文言によって解釈上の射程が変わり得る。 - 補償を受ける主体(被補償者)
→ 買主だけか、対象会社・買主グループ会社も含むのか。 - 補償の方法・範囲の制限
→ キャップ・バスケット・ディミニマスなどで、金額・件数・期間に制限を設けるか。
特に議論になりやすいのが、
- 対象会社に生じた損害を「買主の損害」といえるか
- どこまでを「起因または関連して生じた損害」と評価するか
という2点です。
裁判例には、簿価純資産方式で価格が決まっていた事案で、対象会社の資産減少が「買主に生じた損害」に含まれると判断したものもありますが、評価方法や契約文言によって結論が変わり得るとされています。
買主側から見れば、対象会社の簿外債務や将来支出は、実質的に自分の損害でもあります。そのため、補償条項で「対象会社その他のグループ会社に生じた損害も買主に生じた損害とみなす」旨を明示するドラフトもよく採用されています。
補償請求の要件と手続き【通知・サバイバル・他の救済との関係】
実際に表明保証違反等が疑われたとき、M&A 補償 責任をどのような流れで追及するかを整理しておくことは非常に重要です。
典型的な流れは、次のようなイメージになります。
- ① 事実関係・違反の有無の確認
→ DD資料・契約書・会計データ・内部メール等から、どの表明保証(または誓約)に違反しているのかを特定する。 - ② 補償条項の適用要件の検討
→ 補償条項が「表明保証違反に起因して生じた損害」に限定されているのか、特別補償条項として独立に働くのかを確認する。 - ③ サバイバル期間・通知期限の管理
→ 表明保証・補償条項ごとに「クロージングから年」「発見から●日以内の通知」などの期間制限が定められていないかチェックする。 - ④ 損害の内容・範囲の仮試算
→ 対象会社の追加支出・是正費用・追徴税・外部専門家費用等を整理し、「キャップ・バスケットを前提に現実的に請求し得る額」を見積もる。 - ⑤ 一般法上の請求との関係整理
→ 補償条項に基づく請求に加えて、債務不履行・不法行為など他の請求ルートを併存させるか、契約上制限されていないかを確認する。
多くのM&A契約では、表明保証違反・補償責任の存続期間は1〜5年程度とされる例が多く、税務・環境など特定リスクについてはより長い期間を設定することもあると紹介されています。
契約によっては、「補償条項に基づく請求は唯一の救済手段とする」といった文言が入っていることもあります。この場合、一般の債務不履行・不法行為による請求がどこまで許されるかが問題になるため、ドラフト段階でのチェックと、トラブル発生時の戦略整理が欠かせません。
ドラフト・交渉の実務ポイント【キャップ・バスケット・特別補償】
補償条項・インデムニティのドラフト・交渉では、次のようなポイントが典型的な争点となります。
- 補償額の上限(キャップ)
→ 一般的には、株式譲渡対価の○%(例:20〜50%程度)を上限とする例が多いと紹介されていますが、案件規模・リスク・交渉力により大きく変動し得ます。 - 補償額の下限(バスケット)・ディミニマス
→ 軽微な損害が多数発生しても補償の対象としないため、累計額が一定額を超えた場合に補償する「バスケット」や、1件あたりの最低額を定める「ディミニマス」を設けるのが一般的です。 - サバイバル期間(存続期間)
→ 一般事項と税務・環境などの高リスク項目で期間を分ける、重大な基礎的表明保証については期間制限を緩やかにする(または設けない)などの設計が検討されます。 - 特別補償条項(Specific Indemnity)
→ DDで既に発見されているリスクについて、表明保証違反とは切り離し、「特定事由が発生したら補償する」という特別補償条項でカバーする手法も広く用いられています。 - サンドバッギング/アンチ・サンドバッギング条項との関係
→ 買主が違反事実を知っていた場合でも請求できるのか(サンドバッギング)、知っていたら請求できないのか(アンチ・サンドバッギング)をどう定めるか。裁判例の傾向も踏まえつつ検討が必要です。
買主サイドの感覚としては、
- キャップはできるだけ高く(少なくとも価格の○%までは)
- バスケットは低く、ディミニマスは小さめに
- サバイバル期間は長めに
- DDで把握済みのリスクは特別補償条項で確実にカバー
という方向が望ましい一方、
売主サイドからは、
- キャップは株式譲渡対価の一定割合までに強く制限したい
- バスケット・ディミニマスで軽微な損害は切り捨てたい
- サバイバル期間はできるだけ短く・項目ごとに細かく設定したい
- 特別補償条項は対象・期間・上限を丁寧に限定したい
という利害対立が生じます。
補償条項のドラフトは、法的な「正解」が1つあるわけではなく、**案件ごとのリスク構造と当事者の交渉力を反映した“リスク配分の設計図”**に近いものです。テンプレートをコピペするのではなく、自社の立場から譲れる部分・譲れない部分を整理したうえで交渉に臨むことが重要です。
まとめ【補償条項を使った責任追及のチェックリスト】
- M&Aにおける補償条項(インデムニティ)は、表明保証違反や契約違反があったときに、どの損害をどの範囲まで補償するかを定める中核条項であり、日本法に明文がない「表明保証違反の金銭的救済」を契約上構成する役割を担っています。
- 表明保証条項は「事実の表明」にとどまり、補償条項とセットで初めて金銭補償の枠組みが形成されます。裁判例(アルコ事件など)でも、表明保証+補償条項を前提に、損害額・因果関係・買主の善意無重過失などが検討されています。
- M&A 補償 責任を検討する際には、①トリガー、②損害範囲(対象会社損害・弁護士費用など)、③因果関係の文言、④被補償者の範囲、⑤キャップ・バスケット・ディミニマス・サバイバル期間といった要素を一体として設計・確認する必要があります。
- 実際にトラブルが発生した場合には、事実関係の整理 → 該当する表明保証・補償条項の特定 → サバイバル期間・通知期限の確認 → 損害の仮試算 → 一般債務不履行・不法行為との関係整理、という順に検討し、補償条項を軸に責任追及の戦略を構築することが重要です。
- 補償条項は案件ごとの交渉結果を反映した「リスク分配の設計図」であり、テンプレのままでは機能しません。自社の立場(買主・売主)や取引の性質に応じて、キャップ・バスケット・特別補償・サンドバッギング条項などを組み合わせ、M&Aトラブルや将来の紛争を見据えた設計・見直しを行うことが不可欠です。
関連記事・次に読むべき記事
企業法務の無料法律相談実施中!
- 0円!完全無料の法律相談
- 弁護士による無料の電話相談も対応
- お問合せは24時間365日受付
- 土日・夜間の法律相談も実施
- 全国どこでも対応いたします
