M&Aトラブルの原因として、実務家が必ず挙げるのが
- 情報開示不足(情報開示義務違反・情報隠ぺい)
- デューデリジェンス(DD)の不足・ミス
です。
一方で、最終契約書には表明保証条項が置かれ、「開示した情報は真実かつ正確であり、重大な隠れた事実はない」と売主が約束するのが一般的です。
では、
- DDが甘かった場合
- 売主が情報開示義務に違反した場合
- 表明保証まで含めて見ると、誰がどこまで責任を負うのか
- この三者の関係はどう整理すべきでしょうか。
本記事では、「M&A デューデリジェンス トラブル」という観点から、
- M&Aデューデリジェンスの目的と限界(不足・ミスが招くリスク)
- 売主の情報開示義務違反・情報隠蔽とは何か
- デューデリジェンス不足・情報開示義務違反と表明保証の関係
- 典型的なトラブルパターンと実務上の争点
- 買主・売主別の予防策・チェックポイント
を、紛争・トラブルの観点から整理していきます。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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この記事の位置づけと「DD不足・情報開示・表明保証」の三角関係
M&Aでは、売主が対象会社の内部情報を圧倒的に多く持っており、買主はどうしても情報の非対称性に置かれます。
このギャップを埋めるために、
- 買主は**デューデリジェンス(DD)**でできる限りリスクを洗い出し、
- 売主は**情報開示(資料提供・Q&A)**に協力し、
- そのうえで表明保証条項により「開示情報に虚偽や重大な隠ぺいはない」と契約上約束する、
という三層構造が一般的です。
ただ、現実には
- 売主が不利な情報を積極的に出さない/意図的に隠す
- 買主側のDDが浅く、リスクの洗い出しが不十分
- 契約書やディスクロージャーレターの書きぶりが曖昧
といった事情が重なり、買収後にリスクが顕在化して初めて「誰の責任か」が争われるパターンが少なくありません。
DD・情報開示・表明保証は、それぞれ単独で完結するのではなく、**「情報の非対称性をどこまでどう埋めるか」**という1つの問題を、別々の手段で補い合っているイメージです。
M&Aデューデリジェンスの目的と限界【不足・ミスが招くリスク】
M&Aにおけるデューデリジェンス(DD)は、買主が対象会社の法務・財務・税務・ビジネスなどを調査し、リスクの有無・大小を把握するプロセスです。
特に法務DDでは、
- 株式・持分の帰属
- 許認可・法令遵守状況
- 重要契約・訴訟・紛争
- 知的財産・個人情報・労務・コンプライアンス
などを丹念に確認し、**取引可否・価格・契約条件(表明保証・補償条項など)**の判断材料とします。
しかし、どれだけDDをしても、
- 期間・コストの制約
- データルームの範囲・資料の質
- 売主側の協力度合い・説明の誠実さ
などの事情から、すべてのリスクを100%把握することはできません。
実務家からも、デューデリジェンス不足は
- 簿外債務の見落とし
- 訴訟・契約リスクの未把握
- 労務・組織・人事リスクの放置
などを通じて、買収後の大きな損失や統合不全の原因になると指摘されています。
- 買主の「M&A デューデリ 不足/デューデリ ミス」があると、そもそも取引条件が甘くなり、表明保証でカバーしきれないビジネスリスクを抱え込むおそれがあります。
- 一方で、DDを完璧にしようとすると、コスト・時間が膨らみ、案件自体が頓挫するリスクもあります。
この「DDの限界」を埋める1つの仕組みとして位置づけられているのが、次に見る表明保証条項です。
情報開示義務違反・情報隠ぺいとは何か【売主側の責任】
M&Aでの「情報開示義務」は、明文で書かれているケースと、信義則上の義務として問題になるケースがあります。
実務的には、
- インフォメーションメモランダム(IM)・データルーム資料の充実度
- Q&A対応の誠実さ
- 重要な不利情報(大型訴訟・重大クレーム・規制違反など)を積極的に開示したかどうか
といった点から、売主の情報開示義務違反・情報隠蔽があったかが議論されることが多いです。
DDの現場で問題になりやすいパターンとしては、例えば次のようなものがあります。
- データルームに必要な資料が揃わず、「後で出します」と言いながら実質的に出てこない
- Q&Aでリスクを示唆する質問が出ているのに、売主側が抽象的な回答しかせず、実際の問題点を伏せる
- 重要なクレーム・行政調査・不正の疑いなどを、意図的に開示しない/誤魔化す
- 不利な契約条件・条項があるのに、契約書一式を出さない(特定ページだけ抜けている など)
このようにM&Aにおいて「情報開示 トラブル」が起こると、買主としては
「DDはしたが、そもそも材料が出てこなかった/虚偽説明をされた」
と主張することになり、後で見る表明保証違反・詐欺・不法行為といった主張とも結び付きます。
DD不足・情報開示義務違反と表明保証の関係
表明保証条項は、
「DDをしても把握しきれないリスクについて、売主が一定の事実を真実かつ正確であると約束し、違反したら補償・損害賠償の対象とする」
という趣旨で位置付けられています。
別の言い方をすると、
- DD … リスクを「見に行く」プロセス
- 情報開示 … リスクを「出す」プロセス
- 表明保証 … 残ったギャップを契約で「保証する」プロセス
という役割分担です。
もっとも、日本の裁判例を見ると、
- 買主のDD不足(重過失)がある場合に、表明保証責任をどこまで追及できるか
- 売主の情報開示状況・故意の隠蔽がどのように評価されるか
について、事案ごとに丁寧に判断していることが分かります。
代表例が、いわゆる**アルコ事件(東京地裁平成18年1月17日判決)**です。
- 買主はDDを実施したうえで株式譲渡契約を締結
- 後に、決算処理に問題があり、貸倒引当金が計上されていないことが判明
- 売主は「DDで気付けたはずだ」として、買主の重過失を主張
という状況でしたが、裁判所は
- 売主側に情報隠しに近い対応があったこと
- 買主に重過失があるとまでは言えないこと
などを踏まえ、売主の表明保証違反責任を認めています。
裁判例の流れを見ると、単なるDD不足・ミスがあるだけで直ちに表明保証責任が否定されるわけではない一方で、「わずかな注意で容易に気付けたはずなのに漫然と見逃した」レベルの重過失があれば、買主の請求が制限され得ることが示されています。DDと表明保証は代替関係ではなく、リスク分担の交渉結果として一体で評価されるイメージです。
典型トラブルパターンと実務上の争点
実務でよく見られる「M&A デュー デリジェンス トラブル」のパターンを、ざっくり3つに分けて整理します。
- パターン①:DDはそれなりに実施したが、売主が重要情報を隠していたケース
→ 売主の情報開示義務違反・表明保証違反が中心となり、買主の重過失の有無がサブ争点となる。 - パターン②:売主の開示はそれなりにあったが、DDのスコープ・深さが足りなかったケース
→ 買主側のDD不足・自己責任が問題となり、「表明保証の射程」「開示された情報の重要性」が争われる。 - パターン③:DDで問題の兆候は掴んでいたが、契約書で十分フォローできていないケース
→ ディスクロージャーレターの書きぶり、サンドバッギング/アンチ・サンドバッギング条項の有無など、契約ドラフトの巧拙が問われる。
このとき、争点になりがちなポイントは、例えば次のようなものです。
- DDの範囲・指示内容
→ 買主がどこまで調査を依頼し、専門家がどこまで調査したか。 - 開示された資料・説明の質
→ 重要な不利情報について、売主がどの程度具体的に開示していたか。 - 表明保証・補償条項の文言
→ 「開示資料に虚偽がない」「開示されるべき情報は漏れなく開示した」といった文言があるか。 - ノンリライアンス条項・サンドバッギング条項
→ 海外実務では、**「契約書に書かれた表明保証以外は信用しない」**とする条項や、「買主が知っていた場合でも請求できる/できない」と定める条項も採用されているようです。
日本実務でも、買主のDD不足・知り得た事情が表明保証責任にどこまで影響するかについては、アルコ事件や各種裁判例を踏まえた議論が続いています。**「DDしたから安心」「表明保証があるから全部売主責任」**といった極端な発想は避け、案件ごとにリスク配分を設計することが重要です。
坂尾陽弁護士
トラブルを防ぐための実務的なチェックポイント【買主・売主別】
最後に、M&Aのデューデリジェンス トラブルを減らすためのチェックポイントを、買主・売主それぞれの立場から整理します。
- 買主側のチェックポイント
DDの目的とスコープを明確化し、**重要領域(財務・税務・法務・労務・IT・コンプライアンス等)**を専門家と一緒に設計する。
予算の都合でDD範囲を絞る場合は、**「何を諦め、どこを表明保証・補償条項でカバーするか」**を意識して交渉する。
Q&Aで気になる点が出た場合は、**資料請求と追加質問をセット**で行い、回答・資料を必ず記録として残す。
契約書ドラフトでは、表明保証+補償条項+責任制限条項を一体として検討する。 - 売主側のチェックポイント
「見せたくない情報」がある場合ほど、いつ・どこまで開示すべきかを専門家と相談し、安易な隠蔽は避ける。
データルーム・Q&Aの運営をきちんと記録に残し、後から『情報隠蔽・情報開示義務違反』と誤解されないような運用を心掛ける。
表明保証の文言は、実態と合っているか/開示した内容と整合しているかをチェックし、「保証しきれない事項」はディスクロージャーレターで適切に例外記載する。
ノンリライアンス条項やサンドバッギング条項を安易にコピペせず、日本法・裁判例との関係を含めて検討する。
「DDは安く短く」「表明保証は広く」「データルームは最低限」――この三つを同時に満たすことは現実にはほぼ不可能です。どこで線を引くかを意識的に決め、その結果をDD・情報開示・表明保証の設計に反映させることが、M&Aトラブルを減らす近道になります。
まとめ:M&Aではデューデリジェンストラブルに注意
- M&Aでは、デューデリジェンス不足・情報開示不足・表明保証の設計不備が重なって、「M&A デューデリジェンス トラブル」に発展するケースが少なくありません。
- 表明保証条項は、DDで拾いきれないリスクを契約上カバーする仕組みですが、日本の裁判例では、買主の重過失の有無や売主の情報隠蔽の有無なども含めて総合的に判断されており、「DD不足=即負け」「表明保証があるから何でも請求できる」という単純図式では整理できません。
- 買主としては、DDのスコープ設計・専門家活用・Q&Aの記録化に加え、表明保証・補償条項・責任制限条項を一体として検討し、**「どこまで契約でカバーできているか」**を意識することが重要です。
- 売主としては、開示を渋ったり情報を隠蔽したりすると、後に表明保証違反や損害賠償による重い責任を問われるリスクが高まります。データルーム・Q&A運営やディスクロージャーレターの作成を通じて、「何をどこまで開示したか」を明確に残すことが、最終的には自らを守ることにもつながります。
- 実際の案件では、取引規模・業種・スキーム・契約文言・DDの実態などによって結論が大きく異なり得るため、具体的なトラブルや高リスク案件では、M&Aに詳しい弁護士・専門家に早期に相談することが不可欠です。
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