休眠会社の売却・譲渡が詐欺に悪用されるリスク|法人口座・通帳を渡す前に確認すべきこと

休眠会社の売却・譲渡自体が一律に違法となるわけではありません。しかし、買主の実態を確認しないまま、法人口座の通帳・キャッシュカード・暗証番号、会社実印、印鑑カード、登記書類などを先に渡すことは非常に危険です。会社や法人口座が詐欺、マネー・ローンダリングその他の犯罪に悪用され、元代表者や売主が銀行・警察・被害者への説明や責任追及に巻き込まれる可能性があります。

とくに、「法人口座が付いているから高く買う」「買主の氏名は後で伝える」「代表者変更はすべて任せてほしい」「契約前に通帳と実印だけ渡してほしい」と言われた場合は、手続を止めてください。通常の会社売却と、口座の利用権限を実質的に売り渡す取引とは区別して考える必要があります。

この記事では、休眠会社の売却を持ちかけられた売主・元代表者に向けて、法人口座が狙われる理由、報道事例と裁判例、売却前の確認事項、すでに書類等を渡した場合の初動を解説します。

  • 休眠会社の売買自体と、法人口座の不正な売買・貸与は別問題
  • 買主本人・実質的支配者・資金・利用目的を確認できない取引は止める
  • 通帳や認証情報を渡すと、刑事・民事上の問題が生じる可能性がある
  • すでに渡した場合は、銀行・登記・証拠・警察対応を同時に進める

坂尾陽弁護士

会社を売る手続と、通帳・キャッシュカードを第三者に自由に使わせることは同じではありません。口座の引継ぎを急かされたときほど、銀行への事前確認と買主調査を優先してください。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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休眠会社の売却・譲渡を持ちかけられたときに最初に確認すべきこと

最初に確認すべきなのは、相手が会社そのものを適法な手続で取得し、事業に利用したいのか、それとも法人口座や会社名義だけを欲しがっているのかという点です。相手が買収後の事業計画を説明せず、口座、通帳、キャッシュカード、会社実印、印鑑証明書だけに強い関心を示す場合は、通常のM&Aとは異なる危険を疑う必要があります。

適法な会社売却と「口座だけを売る取引」を分けて考える

株式会社の売却は、多くの場合、株主が保有する株式を買主へ譲渡する方法で行われます。株式が譲渡されても会社の法人格は同じであり、会社名義の預金債権も引き続き会社に帰属します。ただし、だからといって、旧代表者が通帳、キャッシュカード、暗証番号、ワンタイムパスワード端末等を自由に第三者へ渡してよいことにはなりません。

銀行との預金契約、取引担当者、実質的支配者、インターネットバンキングの管理者、届出印等の取扱いは、銀行の規定と確認手続に従う必要があります。通常のM&Aであれば、株式譲渡契約、代金決済、役員変更、登記申請、銀行への届出、旧権限の停止と新権限の設定を、クロージング時に連動させます。

注意

「株式譲渡で会社が同じままだから、通帳や暗証番号もそのまま渡せばよい」という説明は危険です。株式譲渡の効力と、銀行が認める口座利用権限の変更手続は別に確認してください。

危険な持ちかけかどうかを比較する

確認項目 通常の会社売却で想定される対応 危険を疑うサイン
買主 本人・法人・実質的支配者を特定できる 仲介者しか会わせず、買主名を明かさない
取得目的 事業計画や取得理由を説明できる 「口座がある会社が欲しい」とだけ説明する
資金 譲渡代金と資金原資を確認できる 即日現金、第三者払い、説明のない分割払い
銀行対応 銀行に相談し、届出・権限変更を行う 銀行に知らせず通帳・カード・暗証番号を渡すよう求める
登記 決議・就任承諾等を確認し、司法書士等が申請する 白紙委任状や未記入の議事録への押印を求める
クロージング 代金、株式、登記書類、権限変更を同時に管理する 契約・入金前に実印や口座管理物だけを先渡しさせる

一つの事情だけで直ちに詐欺と断定はできません。しかし、複数の危険サインが重なり、相手が確認を嫌がる場合は、取引を保留して第三者の確認を入れるべきです。悪質な買手やM&A詐欺一般の見分け方は、M&A詐欺・悪質M&Aの手口と被害回復の進め方でも整理しています。


休眠会社・法人口座が詐欺に悪用される理由

「休眠会社」には日常用語と会社法上の意味がある

一般には、営業を停止している会社、売上や従業員がなく実質的に活動していない会社を広く「休眠会社」と呼びます。一方、会社法上の整理作業でいう休眠会社は、最後の登記から12年を経過した株式会社を指します。法務省の休眠会社等の整理作業に関する案内も、この意味で休眠会社を説明しています。

休眠会社の意味

この記事では、会社法上の休眠会社だけでなく、長期間事業を行っていない会社、事実上活動を止めている会社も含めて説明します。みなし解散、清算、税務申告、許認可の状況により、売却前に必要な手続は異なります。

既存の会社と法人口座が「信用の外形」として利用される

犯罪を行う側にとって、法人名義の口座や既存会社の登記情報は、取引相手から見た外形的な信用を作り、入金先や資金の中継先を用意する手段になり得ます。会社の設立から始めるより、既存会社、登録済みの所在地、会社印、本人確認資料、法人口座等をまとめて取得した方が、短期間で活動しやすいと考えられるためです。

  • 法人名義を示せる
    個人名義よりも事業取引らしく見せ、被害者や取引先を信用させる材料に使われることがあります。
  • 既存の法人口座を利用できる
    新規口座開設時の審査を避け、犯罪収益の受領や別口座への送金に使われるおそれがあります。
  • 登記情報を変更できる
    代表者や本店を短期間で変更し、実際に管理している者を分かりにくくすることがあります。
  • 真正な書類・印章を取得できる
    実印、印鑑証明書、定款、株主名簿等が、契約や追加の手続に悪用される可能性があります。
  • 売主が気付きにくい
    事業を停止して口座を確認していない会社では、不自然な入出金や登記変更の発見が遅れることがあります。

警察庁も実体のない・不透明な法人の悪用を指摘している

警察庁の令和7年犯罪収益移転危険度調査書は、実体のない又は実態の不透明な法人が悪用されたマネー・ローンダリング事犯について、令和4年は6件・11法人、令和5年は15件・23法人、令和6年は35件・65法人と整理しています。また、登記直後の口座開設、短期間の高額取引、事業実態と合わない入出金、代表者と異なる人物による口座操作、代表者や連絡先の頻繁な変更等を、疑わしい取引の兆候として挙げています。

同調査書は、休眠会社のみなし解散制度について、転売や不正な登記変更等をされた休眠会社が犯罪に悪用される危険度を低減する制度と位置付けています。他方で、これらの特徴を持つ法人の大部分は健全な事業活動を行っており、特徴だけで全ての法人を疑うべきではないとも明記しています。重要なのは、「休眠会社だから危険」と決め付けることではなく、買主の実体、管理主体、資金の流れ、銀行手続が透明かを確認することです。


報道された具体例:書類・実印・通帳を渡した数日後に詐欺利用された事案

TBS NEWS DIGの2024年8月29日付報道では、会社経営者の男性が、以前から付き合いのあった人物から「会社を買いたい人がいるので仲介する」と持ちかけられ、会社売却の書類、実印、通帳等を渡した事例が紹介されています。

報道によれば、男性は実際の買主を確認せず、仲介者に全権を委ねる形で、会社を25万円で売却したとされています。男性は代表者名義が変更されたと考えていましたが、登記上は自身の名義が残り、通帳等を渡した数日後には口座が詐欺に使われていたと報じられています。発覚後には、別人へ会社を売ったことにするよう求める趣旨のメッセージも送られたとされています。

この報道は裁判所の認定ではなく、登場人物名も仮名です。そのため、個別の刑事責任や民事責任を断定することはできません。ただし、休眠会社の売却で避けるべき行動を具体的に示しています。

  • 実際の買主を確認しない
    仲介者だけを信用し、買主本人・法人・実質的支配者を確認しないまま進めないことが重要です。
  • 登記完了を自分で確認しない
    「変更した」との説明だけでなく、履歴事項全部証明書を取得して結果を確認する必要があります。
  • 通帳等を先に渡す
    銀行の権限変更や不正利用防止措置を経ずに管理物を引き渡すと、即時に利用されるおそれがあります。
  • 手続を全面的に任せる
    白紙委任や全権委任は避け、誰が何をいつ行うかを契約とクロージング資料で管理すべきです。

売却価格が低いことだけで違法となるわけではありません。問題の中心は、買主を確認できず、登記・銀行・代金決済を管理しないまま、会社の支配に必要な物品と情報を先に渡した点にあります。


休眠会社の名義変更が特殊詐欺に使われた裁判例

東京地裁令和3年2月26日判決が扱った特殊詐欺の事案では、特殊詐欺事業に使用する目的で、関係者に休眠会社の名義変更登記手続をさせた事実が認定されています。さらに、架空会社の口座、私設私書箱、詐取金の受領・運搬等を組み合わせて、組織的に詐欺を実行する仕組みが作られていました。

この判決の中心的な争点は、特殊詐欺に関与した者や暴力団の代表者等の損害賠償責任であり、休眠会社の元株主や売主の責任を直接判断したものではありません。それでも、休眠会社の名義変更が、法人口座や私書箱等と組み合わされ、特殊詐欺のインフラの一部として利用され得ることを示す具体例です。

裁判例の読み方

休眠会社が犯罪に使われたという事実だけで、以前の株主・代表者の責任が当然に認められるわけではありません。何を、誰に、どのような説明を受けて渡したか、不正利用を予見できたか、発覚後に何をしたかなど、個別事情と証拠が重要です。

売却時には、株式譲渡契約だけを作れば足りると考えず、登記申請者、銀行手続の担当者、書類の受領者、引渡し後の保管方法まで特定してください。名義変更を仲介者へ任せる場合でも、申請内容と完了後の登記事項を必ず確認する必要があります。


通帳・キャッシュカード・法人口座を渡した側が責任を問われる可能性

刑事上の問題:口座提供の目的と方法が問われる

犯罪による収益の移転防止に関する法律28条は、他人になりすまして預貯金契約に係る役務の提供を受ける目的等があることを知りながら預貯金通帳等を提供する行為や、正当な理由がないのに有償で提供する行為等を罰則の対象としています。

したがって、「法人口座が付いている会社だから買う」「口座を自由に使える状態で渡してほしい」「銀行には知らせないでほしい」といった依頼に応じると、事情によっては口座の不正譲渡等として捜査対象となる可能性があります。会社の譲渡代金という名目が付いていても、実質が口座の利用権限の売買であれば安全とはいえません。

もっとも、適法な株式譲渡に伴い、会社の新代表者へ業務を引き継ぎ、銀行の確認・届出手続を経て口座の取引権限を変更する場面まで、一律に犯罪になるわけではありません。正当なM&Aに伴う権限変更と、銀行に秘した口座売買・貸与を分けることが重要です。

全国銀行協会も口座の売買・貸与・譲渡に関する注意喚起を行い、売買等された口座が振り込め詐欺、SNS型投資・ロマンス詐欺、マネー・ローンダリング等に悪用される危険を説明しています。同協会の集計では、口座不正利用に伴う利用停止・強制解約等の合計は2024年度に12万8,301件でした。

民事上の問題:詐欺を容易にしたとして損害賠償を請求されることがある

口座が詐欺に使われた場合、被害者から、口座を提供した行為が詐欺を容易にしたとして、民法709条又は719条に基づく損害賠償を請求されることがあります。休眠会社売却の売主責任を直接判断した裁判例ではありませんが、預貯金口座を第三者に提供した者の責任を考える参考になる裁判例があります。

  • 東京地裁令和5年2月22日判決
    自己名義の預貯金口座を他人に使用させることは原則として許されず、正当な理由がある場合に例外的に許容されるとの考え方を示し、複数の口座提供者について過失による詐欺の幇助責任を認めました。他方、財布を紛失してカードを悪用されたと主張した者については、第三者へ提供した証拠がないとして責任を否定しています。
  • 静岡地裁平成17年1月11日判決
    氏名や連絡先を十分に知らない者の依頼で口座を開設し、通帳、キャッシュカード、届出印を渡した行為について、詐欺を容易にしたことに過失があるとして損害賠償責任を認めました。
  • 東京地裁平成28年3月23日判決
    内職名目で本人確認書類を送り、自己宛ての書留郵便等を第三者へ転送した結果、第三者が本人名義の口座を開設・利用できる状態を作った事案で、複数の者について過失による幇助責任を認めました。

これらの裁判例から分かるのは、「自分は詐欺の実行者ではない」「自分も仲介者にだまされた」という事情だけで、常に責任を免れるわけではないということです。他方で、責任は口座が使われたという結果だけで自動的に決まりません。

責任は個別事情で決まります

故意・過失、相手方の身元確認、説明の不自然さ、受け取った対価、通帳等を渡した経緯、銀行への届出、発覚後の対応、被害との因果関係などが検討されます。刑事責任と民事責任も別々に判断されます。

法的責任以外にも実務上の負担が生じる

刑事・民事上の責任が最終的に否定される場合でも、元代表者の氏名が登記や銀行記録に残っていれば、捜査機関、金融機関、詐欺被害者、取引先等から事情説明を求められることがあります。

  • 法人口座の利用停止・強制解約等
  • 他の口座開設や金融取引への影響
  • 警察・銀行による事情聴取や資料提出
  • 被害者からの損害賠償請求
  • 取引先や金融機関からの信用低下
  • 不正な登記や契約を是正する費用

このため、売却前の確認に時間と費用をかけることは、単なる形式的な手間ではなく、元代表者自身を守るための対策です。


休眠会社を売却する前に確認すべきチェックリスト

休眠会社を売却するときは、買主調査、会社の現状確認、契約、登記、銀行手続、代金決済を一体として設計します。仲介者がいる場合でも、買主の確認や最終判断まで仲介者任せにしないでください。

買主本人・実質的支配者・取得目的を確認する

  • 買主の本人確認
    個人であれば氏名・住所・職業・本人確認書類、法人であれば登記、所在地、代表者、事業実態を確認します。
  • 実質的支配者
    名目上の買主とは別に、資金を出し、指示し、最終的に会社を支配する者がいないか確認します。
  • 取得目的
    なぜ新会社の設立ではなく休眠会社を取得するのか、買収後に何の事業を行うのか、既存口座を必要とする理由を具体的に聞きます。
  • 資金原資
    譲渡代金の支払能力、支払元口座、第三者資金の有無、資金調達の裏付けを確認します。
  • 過去の取引
    過去のM&A、訴訟・行政処分、反社会的勢力との関係、不適切な買収を繰り返していないかを確認します。
  • 連絡先と事業拠点
    携帯電話やフリーメールだけでなく、事務所、固定的な連絡先、ウェブサイト、担当者の所属を確認します。

中小企業庁も、M&Aにおける不適切な買手への注意を呼びかけ、少しでも違和感がある場合は弁護士等へ相談するよう案内しています。休眠会社の売却でも、相手が確認資料を出さず、即決を迫る場合は、その理由を問い直すべきです。

会社の現状を売主側でも確認する

休眠会社は、長期間管理されていないため、売主自身が会社の状態を正確に把握していないことがあります。売却前に、少なくとも次の点を確認してください。

  • 商業登記
    みなし解散、清算、役員任期、本店、目的、公告方法、発行済株式数等に問題がないか。
  • 株主・株式
    真の株主、株券発行の有無、譲渡制限、相続未処理、名義株等がないか。
  • 債務・税務
    未払税金、社会保険、借入れ、保証、リース、過去の取引債務、申告漏れがないか。
  • 許認可・契約
    許認可が存続しているか、支配権変更で届出や再審査が必要か、契約が解除されないか。
  • 口座・印章・デジタル権限
    全口座、届出印、印鑑カード、電子証明書、会計・税務アカウント、メール、クラウドの管理状況。

買主側だけでなく売主側も会社の状態を調査し、契約の表明保証や開示資料と整合させる必要があります。DDや情報開示、表明保証の関係は、M&AのDD不足・情報開示トラブルと表明保証も参考になります。

銀行へ事前に相談し、口座の権限変更方法を確認する

法人口座がある会社を売却する場合は、クロージング前に取引銀行へ相談し、株主・代表者・実質的支配者の変更に必要な書類、口座継続の可否、インターネットバンキングの利用者変更、カード・トークン・届出印の取扱いを確認してください。

銀行によっては、支配関係や事業内容の変更後に改めて取引目的、実質的支配者、事業実態等を確認します。買主が「銀行に知らせると口座が止まるから黙って渡してほしい」と述べる場合は、それ自体が重大な危険サインです。

契約とクロージングで「先渡し」を防ぐ

株式譲渡契約では、単に「会社を譲渡する」とだけ書かず、引渡しの対象、条件、順番、権限停止、違反時の対応を具体化します。

  • クロージング前の利用禁止
    買主・仲介者が、決済前に口座、印章、電子証明書等を利用しないことを明記します。
  • 同時履行
    譲渡代金の着金確認、株式移転、役員変更書類、銀行手続を同じ場で連動させます。
  • 第三者への再譲渡制限
    買主が直ちに会社や口座管理物を第三者へ流すことを防ぐ条件を検討します。
  • 買主の表明保証
    取得目的、資金原資、反社会的勢力との関係、不正利用目的がないこと等を確認します。
  • 協力義務と補償
    銀行・登記・税務対応への協力、違反による損害の補償、資料返還・廃棄を定めます。
  • 引渡し記録
    何を誰にいつ渡したかを受領書・写真・一覧表で残し、白紙書類や包括委任状を渡さないようにします。

契約条項があっても、不正利用を完全に防げるわけではありません。買主調査と銀行手続を省略し、契約書だけで安全にしようとすることはできません。


すでに通帳・実印・登記書類を渡してしまった場合の初動

すでに書類等を渡した場合は、相手との話し合いだけで様子を見ず、口座の利用停止、登記確認、証拠保全、警察相談、法的措置の検討を並行して進めます。対応が遅れるほど、資金移動、追加登記、第三者への再譲渡が進み、事実関係の解明が難しくなる可能性があります。

初動は次の順番を基本にする

  1. 取引銀行へ直ちに連絡する
    通帳・カード・認証情報を渡した経緯、不正利用の疑い、現在の代表者・権限状況を説明し、利用停止、認証情報の無効化、必要な届出について指示を受けます。自分の権限が既に失われている可能性がある場合は、勝手に資金移動せず、銀行と弁護士の指示に従います。
  2. 最新の登記事項を取得する
    代表者、本店、目的、解散・清算、役員等に変更がないかを確認します。申請中の登記が疑われる場合は、法務局、司法書士、弁護士へ速やかに相談します。
  3. 追加の書類・情報を渡さない
    印鑑証明書、本人確認書類、マイナンバー関係書類、電子署名、ワンタイムパスワード等の追加要求に応じないでください。
  4. 証拠を時系列で保存する
    契約書、委任状、議事録、メール、チャット、通話履歴、仲介者・買主の情報、代金受領記録、引渡し物一覧、銀行通知、登記簿を保存します。メッセージを削除せず、端末変更前にバックアップを取ります。
  5. 警察へ相談する
    詐欺利用や口座売買の疑いがある場合は、最寄りの警察署又は警察相談専用電話「#9110」へ相談します。現に被害が進行し、緊急性が高い場合は110番も検討します。
  6. 法的な停止・是正措置を検討する
    契約解除・取消し、書類返還請求、利用差止め、仮処分、損害賠償、不実登記の是正等について、事案に応じた手段を検討します。
  7. 関係者への二次被害を防ぐ
    税理士、会計担当、主要取引先、許認可官庁等への連絡が必要かを整理し、会社名義で新たな契約や請求がされていないか確認します。

銀行の連絡先が分からない場合は、各銀行の公式窓口を確認するほか、全国銀行協会の金融犯罪に遭った場合の相談・連絡先案内も参考になります。

口裏合わせや虚偽説明に応じない

仲介者や買主から、別人へ売ったことにしてほしい、事実と異なる契約書・議事録を作ってほしいと求められても応じないでください。虚偽説明や資料作成は問題を拡大させ、後の説明の信用性も損ないます。

相手へ連絡する前に証拠と目的を整理する

直ちに「詐欺だ」「警察へ行く」と相手を追及すると、連絡先を消され、資金や書類を移されることがあります。一方、何も連絡しなければ不正利用が続くおそれがあります。相手へ何を要求するか、連絡前に次の点を整理してください。

  • 何をいつ誰に渡したか
  • 現在も自分に残る権限は何か
  • 口座・登記に既に変更があるか
  • 返還・停止・解除のどれを優先するか
  • 相手の資産や所在地を把握できるか
  • 警察・銀行へ何を説明済みか

連絡方法や内容は、刑事相談、民事保全、登記是正の方針に影響します。証拠を確保したうえで、必要に応じて弁護士名の通知、銀行への正式申告、仮処分等を組み合わせます。


休眠会社の売却で弁護士に相談すべきタイミング

休眠会社の売却は、契約締結後や被害発覚後だけでなく、通帳・実印・登記書類を渡す前に相談する方が、選択肢を多く残せます。次のいずれかに当てはまる場合は、いったん手続を止めて相談を検討してください。

  • 買主本人に会えず、仲介者しか連絡先を知らない
  • 買収後の事業より法人口座の有無を重視している
  • 銀行へ知らせない引継ぎを求められている
  • 契約前に実印・印鑑証明・白紙委任状を要求された
  • 代金支払前に通帳・カード・認証情報を求められた
  • 代表者変更や本店移転の申請内容を見せてもらえない
  • すでに銀行・警察・被害者から連絡が来ている
  • 会社名義で身に覚えのない入出金・契約・登記がある

弁護士へ相談すると、買主・仲介者の調査、契約書と委任状の確認、クロージング条件の設計、銀行・司法書士との連携、証拠保全、解除・差止め・損害賠償、警察相談に向けた事実整理を一体として検討できます。

M&Aトラブルは、支配権、口座、登記、契約、資金移動が短期間に動くため、問題が起きてから一つずつ対応すると後手になりやすい分野です。全体像を確認したい場合は、M&Aトラブル紛争の全体像とよくある失敗パターンもご覧ください。


休眠会社の売却と詐欺悪用に関するよくある質問

休眠会社は売却できますか

株主が株式を適法に譲渡できる状態であれば、休眠中の会社を株式譲渡の方法で売却することは可能です。ただし、みなし解散・清算の状況、株主関係、債務、税務申告、許認可、銀行取引等を確認し、必要な手続を整える必要があります。会社が休眠中であることは、買主調査や銀行手続を省略してよい理由にはなりません。

法人口座がある会社を「口座ごと」譲渡してもよいですか

株式譲渡後も口座名義人である会社は存続しますが、旧代表者の通帳・カード・暗証番号等をそのまま買主へ渡し、銀行に知らせず自由に使わせる方法は避けるべきです。銀行へ事前に相談し、新代表者・実質的支配者・取引担当者の確認、認証情報の変更、旧権限の停止等を正式な手続で行ってください。

通帳や実印を渡しただけで責任を負いますか

渡しただけで常に刑事・民事責任が生じるわけではありません。しかし、相手の身元や目的を確認せず、不自然な報酬を受け、銀行に秘して通帳等を渡し、その口座が詐欺に使われた場合には、不正譲渡や過失による幇助が問題となる可能性があります。責任は、認識、予見可能性、引渡しの経緯、発覚後の対応等を踏まえて判断されます。

代表者変更前に口座が使われた場合はどうすればよいですか

直ちに銀行へ連絡し、口座の利用状況と権限を確認したうえで、利用停止や認証情報の無効化等を相談してください。同時に最新の登記を取得し、契約書・メッセージ・引渡し記録を保存して、警察と弁護士へ相談します。自分の権限が不明なまま口座を操作したり、相手の求める虚偽説明をしたりしないことも重要です。

買主調査では何を確認すべきですか

買主本人・法人の実在性、実質的支配者、所在地、事業実態、取得目的、資金原資、過去のM&Aやトラブル、反社会的勢力との関係を確認します。法人口座を必要とする理由、銀行へ説明できる事業計画があるか、仲介者と買主の関係も書面で確認してください。


まとめ

休眠会社の売却は可能ですが、法人口座、通帳、キャッシュカード、実印、登記書類の管理を誤ると、会社が詐欺やマネー・ローンダリングに悪用されるおそれがあります。とくに、買主を明かさない、口座を重視する、銀行への連絡を嫌がる、先に管理物を渡すよう求める取引は止めるべきです。

  • 会社売却と口座利用権限の不正な売買・貸与を区別する
  • 買主・実質的支配者・資金・取得目的を確認する
  • 代金、登記、銀行手続、権限変更を同時に管理する
  • すでに渡した場合は、銀行・登記・証拠・警察対応を急ぐ
  • 責任や手続が不明な段階で弁護士へ相談する

休眠会社や法人口座の引渡しは、一度実行すると短期間で状況が変わります。不審点がある場合は、相手を刺激する前に資料を確保し、追加の引渡しを止め、銀行・登記・法的対応の順序を整理してください。

坂尾陽弁護士

「もう書類を渡したから手遅れ」とは限りません。銀行への連絡、登記確認、証拠保全を早く始めることで、被害拡大を止められる可能性があります。事実と資料を整理したうえでご相談ください。

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休眠会社の売却だけでなく、悪質な買手、契約・DD不足、M&A紛争全般を確認したい場合は、次の記事も参考になります。

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