M&A契約書のひな形を見ると、必ずのように**「表明保証条項」**が数ページにわたって並んでいます。
- 「表明保証って、結局何を約束しているのか」
- 「M&A契約において表明保証をどこまで広く書くべきなのか」
- 「買い手・売り手のリスク分担はどう変わるのか」
といった疑問をお持ちの方も多いはずです。
表明保証条項は、契約締結時点などにおける事実が真実・正確であることを約束する条項であり、M&Aのように情報の非対称性が大きい取引では、とくに重要な意味を持ちます。
本記事では、「M&Aにおける表明保証条項とは何か【買い手・売り手の基本リスク】」というテーマで、
- 表明保証の基本的な考え方
- M&A契約で使われる表明保証条項の典型例
- 買い手・売り手それぞれの基本リスク
- デューデリジェンス・補償条項・責任制限条項との関係
- 表明保証条項をM&A契約でドラフト・交渉する際のチェックポイント
を、紛争・トラブルを視野に入れながら整理します。
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
Contents
企業法務の無料法律相談実施中!
- 0円!完全無料の法律相談
- 弁護士による無料の電話相談も対応
- お問合せは24時間365日受付
- 土日・夜間の法律相談も実施
- 全国どこでも対応いたします
この記事の位置づけと表明保証の全体像
本記事は、
といった記事と並び、「そもそも表明保証とは何か」を押さえる入口となる記事です。
ここでのゴールは、次の3点です。
- M&Aにおける表明保証の基本的な意味と役割がイメージできること
- 買い手・売り手それぞれの基本リスク・交渉ポイントが分かること
- 今後、表明保証違反・補償条項・責任制限条項の詳細記事を読む際の土台ができること
この記事は、表明保証条項そのものの「入門編」です。実際にトラブルが起きたときの初動対応や損害賠償の考え方は、別途「表明保証違反と損害賠償額・責任制限条項の実務」で掘り下げる前提としてください。
【表明保証条項とは何か【M&Aに特有の約束】
一般的に、**表明保証条項(Representations & Warranties・レプワラ)**は、「契約締結時点などの特定時点において、当事者または対象会社に関する一定の事実が真実かつ正確であることを契約上約束する条項」と説明されます。
M&Aでは、
- 売主や対象会社の財務・法務・ビジネスに関する情報を買主が完全にはチェックしきれない
- しかし、その情報を前提として価格・スキーム・クロージング条件を決める必要がある
という事情から、情報の非対称性を埋めるためのツールとして表明保証条項が発達してきました。
重要なポイントは、
- 日本の民法に「表明保証」そのものを規定する明文条文はない
- 実務上は、債務不履行・契約不適合責任・不法行為などの一般原則+表明保証条項+補償条項を組み合わせて、責任追及の枠組みを作っている
という構造になっていることです。
表明保証条項に重大な虚偽・不実があり、それが損害に結び付くと、契約で定めた補償条項・損害賠償条項に基づき、売主に対して損害賠償・価格調整・解除などを請求できる可能性が出てきます。
M&A契約における表明保証の典型的な項目と範囲
では、具体的にM&A契約において表明保証条項では何が約束されることが多いのでしょうか。
実務でよく見られる項目を、大まかに整理すると次のようになります。
- 権利関係・会社の基本事項
会社の有効な設立・存続、発行済株式数、株主構成、譲渡対象株式の適法な所有と、第三者の権利が付着していないこと など。 - 財務・簿外債務・税務
財務諸表が適正な会計基準に従って作成されていること、重大な簿外債務がないこと、税金の申告・納付が適切であること など。 - 主要契約・許認可・法令遵守
重要な取引契約・リース・ローン契約が有効であること、許認可が有効に維持されていること、重大な法令違反がないこと。 - 訴訟・紛争・クレーム
重大な訴訟・行政調査・顧客クレームが進行中/予見されていないこと。 - 従業員・労務・社会保険
未払残業代・ハラスメント・社会保険未加入など重大な労務問題がないこと。 - 知的財産・IT・個人情報
主要な商標・特許・著作権の保有状況、第三者権利侵害の有無、個人情報の管理体制など。 - 反社会的勢力・コンプライアンス
対象会社・主要役員が反社会的勢力と関係していないこと、贈収賄・カルテルなど重大な不正がないこと。
もちろん、業種・規模・スキームに応じて項目の追加・削除・粒度調整が必要です。
- IT・D2Cなどのビジネスでは、データの正確性・アカウントの健全性
- 医療・薬事・金融などでは、業法・ガイドライン違反
といった、業種特有の表明保証が重要になることが多いでしょう。
買い手・売り手から見た表明保証の基本リスク
同じ「表明 保証 条項 M&A」でも、買い手と売り手では見えている景色がまったく違うことが少なくありません。
買い手にとって、表明保証は
- デューデリジェンスには限界がある(資料が出てこない/時間が足りない)
- それでも、一定範囲のリスクについては売主に責任を負ってもらいたい
というニーズを満たすためのツールです。
- DDで見に行けなかった部分の「安全弁」
- リスクを価格に完全には織り込めない部分の「保険」
- 補償条項・責任制限条項・表明保証保険(R&W保険)と組み合わせたリスク配分の中心装置
近年は、売主の負担を和らげるために、**表明保証保険(R&W保険)**を組み合わせるスキームも増えています。
一方で売り手から見ると、表明保証条項は
- 過去の経営・管理体制に関するリスクをクロージング後も長期間背負い続ける
- 自分も把握しきれていない潜在リスクについても、「真実・正確」と保証させられるおそれがある
という意味で、非常に重い条項です。
そのため、売り手側としては、
- 表明保証の対象を、自分が合理的に把握し得る範囲に限定する
- ディスクロージャーレターで、既に開示したリスクについては**例外(carve-out)**を設ける
- キャップ・バスケット・サバイバル期間などの責任制限条項をセットで交渉する
といった防御が重要になります。
DD・補償条項・責任制限条項との関係【三層構造で理解する】
表明保証条項を理解するうえで便利なのが、
DD(デューデリジェンス) → 表明保証 → 補償・責任制限
という三層構造のイメージです。
- DD
→ 買い手側が資料・インタビュー・現地調査などを通じて、リスクを「見に行く」プロセス - 表明保証
→ 売り手側が、自らの知り得る範囲も踏まえて、「この事実は真実・正確である」と契約上保証するプロセス - 補償条項・損害賠償条項・責任制限条項
→ 表明保証違反などがあった場合に、どの損害をどの範囲まで負担するかを具体的に定めるプロセス
裁判例(いわゆるアルコ事件:東京地裁平成18年1月17日判決など)では、
- 買主がDDを実施していたか
- どこまで情報にアクセスできたか
- 買主が違反事実を知っていた/重過失で知らなかったか
といった事情を踏まえ、表明保証責任・補償責任の有無を判断した例が知られています。
アルコ事件などの裁判例は、「DDをしていれば全て買主の自己責任」「表明保証があるから何でも売主責任」という極端な図式を採用していません。DDの範囲・売主の開示状況・契約文言・買主の注意義務の尽くし方など、複数の要素を総合的に見て、リスク分配として妥当な落としどころが模索されていると理解するのが自然です。
デューデリジェンス不足・情報開示義務違反と表明保証の関係は、別記事
で詳しく扱う前提です。
表明保証条項のドラフト・交渉チェックポイント
最後に、実務上よく問題になる表明 保証 条項 M&A のチェックポイントを、買い手・売り手共通の視点で整理しておきます。
- ① 項目の網羅性と粒度
→ 自社のビジネスにとってクリティカルな論点(許認可・反社・重要契約・IT・データなど)が、十分な粒度で表明保証に落ちているか。 - ② 実態との整合性・内部確認
→ 売主側として、社内で実態を確認できないレベルの内容まで安易に保証していないか。必要に応じて専門部署・外部専門家と連携して内容を精査しているか。 - ③ ディスクロージャーレターとの関係
→ 既に開示済みのリスク・問題点については、ディスクロージャーレター等で適切に例外を記載し、「買主が知っているのに保証させられた」状態を避けているか。 - ④ 補償条項・責任制限条項とのリンク
→ 表明保証違反時の救済は、補償条項や損害制限条項(キャップ・バスケット・サバイバル条項)によって具体化されます。条文ごとではなく、「セット」として整合性をチェックしているか。 - ⑤ 表明保証保険(R&W保険)の活用可能性
→ 大型案件などでは、表明保証保険を使うことで、売主の責任を一定範囲に留めつつ買主の保護を図るスキームも検討に値します。保険加入を前提として、表明保証項目をどこまで広げるかを設計しているか。
表明保証条項を単体で見るのではなく、「DDのやり方」「補償・責任制限の設計」「表明保証保険の有無」とのセットで設計していくと、どこでリスクを取り、どこで手当てするかが見えやすくなります。
坂尾陽弁護士
まとめ【最低限押さえておきたいこと】
- 表明保証は、契約締結時点などの事実が真実・正確であることを当事者が約束する条項であり、M&Aのように情報の非対称性が大きい取引で中核的な役割を果たします。
- M&A実務において表明保証条項では、権利関係・財務・簿外債務・税務・契約・許認可・訴訟・労務・知財・コンプライアンスなど、広範な項目について真実性が保証され、違反時には補償条項・損害賠償条項に基づく責任追及が問題になります。
- 買い手から見れば、表明保証はDDで拾いきれないリスクをカバーする「安全弁」ですが、売り手から見ると潜在リスクまで含めた重い責任負担となるため、項目の粒度・開示との整合性・責任制限条項とのセット設計が重要です。
- デューデリジェンス不足・情報開示義務違反・買主の善意/重過失の有無などは、裁判例においても、表明保証責任・補償責任の有無を判断する際の重要な要素となっています。条項だけでなく、DDや開示の実務運用も含めてリスク管理が必要です。
- 実際の案件では、スキーム・業種・価格決定方法・契約文言・準拠法などによって結論が大きく変わるため、具体的なM&Aプロジェクトやトラブルでは、表明保証条項の内容・補償/責任制限との関係を含めて、M&Aに詳しい弁護士・専門家に早期相談することが不可欠です。
関連記事・次に読むべき記事
企業法務の無料法律相談実施中!
- 0円!完全無料の法律相談
- 弁護士による無料の電話相談も対応
- お問合せは24時間365日受付
- 土日・夜間の法律相談も実施
- 全国どこでも対応いたします
