M&Aトラブル紛争の全体像とよくある失敗パターン

M&Aは、事業承継や成長戦略の有力な手段である一方、金額規模も大きく、関係者も多いため、ひとたび「M&A トラブル」が起きると長期化・複雑化しがちです。

  • 「どんな種類のM&Aトラブルがあるのか」
  • 「自社の状況は、どのパターンに近いのか」
  • 「どの専門記事から読めばよいか」

こうした疑問を持ってこのページにたどり着いた方も多いと思います。

このページは、M&Aトラブル・紛争クラスター全体の入口となる総論ピラーページとして、全体像とよくある失敗パターンを整理し、関連する個別記事への道筋を示すことを目的としています。

まず、この記事で分かることを簡単にまとめます。

  • M&Aトラブル・紛争の基本的なイメージと、なぜ複雑化しやすいのか
  • 表明保証違反・仲介トラブル・価格調整・事業譲渡・経営者保証・紛争解決など、主なトラブル類型の「地図」
  • M&Aのどのフェーズで、どのようなM&A 後 のトラブルが起きやすいか
  • よくある失敗パターンと、その背景にある考え方・体制上の問題
  • 予防と発生後対応の基本的な考え方と、次に読むべき専門記事

坂尾陽弁護士

まずは「自社の状況が全体のどこに位置しているのか」をざっくり把握することで、次に何を検討すべきかが見えやすくなります。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

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M&Aトラブル・紛争とは何か(全体像と基本イメージ)

「M&Aトラブル」「M&A紛争」といっても、その中身はさまざまです。

典型的には、次のような場面が含まれます。

  • 買収後に簿外債務や粉飾が発覚し、「話が違う」として表明保証違反が問題となるケース
  • アーンアウトや価格調整条項の解釈をめぐって、対価の増減に激しく争いが生じるケース
  • M&A仲介会社・FAの説明不足や利益相反が疑われるケース
  • 事業譲渡や会社分割後に、債務・契約・従業員の承継を巡って対立が起きるケース
  • 経営者保証・役員・従業員の処遇を巡るトラブル
  • これらがこじれた結果、訴訟・仲裁・調停などの正式な紛争手続に発展するケース

いずれも、

  • 金額が大きくなりやすい
  • 契約・会計・税務・人事など多くの要素が絡み合う
  • 当事者の感情的対立も強くなりがち
  • という特徴を持っています。

「M&Aトラブル」は、単なる売掛金の未回収や日常的な取引トラブルとは質の違う、事業と経営判断に直結する紛争であることが多い、という点をまず押さえておくとよいでしょう。

M&A紛争の解決手段や、訴訟・仲裁・調停の使い分けについては、別途M&A紛争の解決手段【訴訟・仲裁・調停】と戦略で詳しく解説していきます。

M&Aトラブルの主な類型とクラスター全体のマップ

次に、本サイトで扱うM&Aトラブルを、大きな「クラスター」として整理します。

本クラスターでは、M&Aトラブルを大きく次の6つの類型に分け、それぞれに専用のまとめページを設けて掘り下げていく構成としています。

  • 表明保証違反・簿外債務トラブル
    買収後に簿外債務・粉飾・潜在債務が発覚した場合など、表明保証違反や補償条項・責任制限条項が問題となる類型を、表明保証違反・簿外債務のM&Aトラブルを徹底解説で総論的に扱います。
  • M&A仲介・FAトラブル
    仲介会社・FA・アドバイザーとの情報格差や利益相反、高額な報酬請求などを中心に、M&A仲介・FAトラブルの典型パターンと対処法で整理します。
  • アーンアウト・価格調整・エスクロー
    業績連動のアーンアウト、クロージング後の価格調整条項、エスクローなど対価スキーム周りのトラブルを、アーンアウト・価格調整・エスクローをめぐるM&A対価トラブルで扱います。
  • 事業譲渡・会社分割トラブル
    事業譲渡・会社分割・事業承継M&Aに特有の、債権債務・契約・許認可・従業員承継などを巡る紛争を、事業譲渡・会社分割・事業承継M&Aのトラブルと責任で整理します。
  • 経営者保証・従業員・経営陣トラブル
    経営者保証・連帯保証、役員の退任、M&A後の従業員の退職・処遇を巡るトラブルなど、人に紐づく義務・地位の問題を、経営者保証・従業員・経営陣をめぐるM&Aトラブルで扱います。
  • 紛争解決・訴訟・仲裁
    紛争が顕在化した後の解決手段(訴訟・仲裁・調停)の選択や、紛争解決条項・準拠法などを、M&A紛争の解決手段【訴訟・仲裁・調停】と戦略で整理します。

これらのクラスターに加え、総論的な位置づけとして、

といった記事で、相談タイミング・典型的な失敗事例・詐欺的スキームの問題を別角度から取り上げていく構成を想定しています。

MEMO

「どの記事から読めばよいか迷う」という場合には、まずこの総論ページで全体像をつかみ、自社の状況に近いクラスター(表明保証、仲介、アーンアウトなど)と以上の総論記事のどれかを組み合わせて読む、という進め方がおすすめです。

M&Aトラブルが起きやすい局面・フェーズ

M&Aトラブルは、「M&A後に突然起きるもの」というイメージを持たれがちですが、実際には、もっと前の段階から芽が生じていることが多いです。時間軸ごとに整理すると、次のようなイメージになります。

  1. 検討・初期交渉段階
    戦略や買収目的が十分に詰め切れていないまま、「相場だから」「税金が有利だから」といった理由だけでM&Aを急ぐと、後のPMIやシナジー実現で齟齬が生じやすくなります。怪しいM&A勧誘による「M&A詐欺」の入口も、この段階で現れることが少なくありません。
  2. デューデリジェンス(DD)段階
    財務・法務・税務・ビジネス・人事などのDDが不足・偏っていると、表明保証違反・簿外債務・契約・許認可・従業員といった論点の「見落とし」につながります。0-2の記事では、この段階の失敗事例を詳しく掘り下げる予定です。
  3. 契約交渉・ドラフト段階
    DDの結果を契約条項(表明保証・補償・責任制限・価格調整・アーンアウト・仲介契約など)に十分反映できていないと、後に紛争になったとき、「契約上どう評価されるか」が買い手・売り手の想定と大きくずれてしまいます。
  4. クロージング前後〜M&A直後(PMI初期)
    引き継ぎ・移行計画が不十分だと、取引先・従業員・許認可などの承継でトラブルが表面化しやすくなります。M&A後の対価支払い(アーンアウト・価格調整)を巡る対立も、この時期に顕在化しがちです。
  5. M&A後数年〜シナジー検証の段階
    想定していたシナジーが出ていない、業績が計画に届かない、役員・従業員の離職が続く、といった形で「M&Aの失敗」が意識され始める時期です。この段階で初めて過去のDD・契約・PMIの問題が振り返られ、紛争化するケースもあります。
  6. 紛争化〜訴訟・仲裁・調停の段階
    交渉での解決が難しい場合、訴訟・仲裁・調停などの手続が検討されます。どのルートを選ぶか、どのタイミングで切り替えるかについては、先述の「紛争解決」クラスターで詳述していきます。

坂尾陽弁護士

「自社のM&Aは、いま時間軸のどこにいるのか」「トラブルの芽は、どの段階から存在していたのか」を意識して整理すると、取るべき次の一手が見えやすくなります。

M&Aトラブルのよくある失敗パターン・根本原因

M&Aトラブルの具体的な事例は千差万別ですが、原因という観点から眺めると、共通する「よくある失敗パターン」が見えてきます。代表的なものを挙げると、次のようなものがあります。

  • デューデリジェンスの不足・偏り
    財務・法務・税務・人事・ITなどのDDのうち、どれかに偏りがある、範囲や深度が不足している、DDの結果が意思決定に十分反映されていない、といったケースです。結果として、「把握できたはずのリスク」を見落としてしまう形でM&A 問題が生じます。
  • 契約条項の詰めの甘さ・ひな形への過度な依存
    表明保証・補償・責任制限・価格調整・アーンアウトなどの条項を、自社事案に合わせて設計せず、「ひな形」「相場」に頼りすぎると、後で紛争になったときに想定と違う結論になりやすくなります。
  • 仲介会社・FAへの過度な依存と情報格差
    仲介会社やFAの説明に頼りきりで、自社側でリスク分析や対案検討を行う体制が不十分な場合、「重要な情報を知らされていなかった」「利益相反があったのではないか」といった不信感が生じやすくなります。
  • PMI(統合プロセス)・現場との温度差
    戦略・バリュエーションの段階では前向きだったものの、統合計画や現場とのコミュニケーションが不十分で、従業員の離職や主要顧客の離反を招くケースです。M&Aの「数字」と「現場」のギャップが原因になることが多いです。
  • トラブル発覚後の対応の遅れ・場当たり的対応
    問題の兆しが見えた段階での初動が遅れたり、場当たり的なメール返信や口頭交渉を続けてしまうことで、証拠が散逸したり、交渉ポジションが悪化したりするパターンです。

これらの失敗パターンを、より具体的なM&A 失敗 事例の形で整理していくのが、M&Aの失敗事例から学ぶリスクと予防策の役割になります。

M&Aトラブルの予防と発生後対応の基本(まとめ)

最後に、M&Aトラブル・紛争全体の総論として、予防と発生後対応の基本的な考え方を整理します。

まず、予防の観点からは、次のようなポイントが重要です。

  • 戦略・目的とシナジーのイメージを明確にし、「なぜこの相手と、どのようなスキームでM&Aを行うのか」を最初に言語化しておくこと
  • 事業価値と紛争リスクに直結する論点(簿外債務・表明保証・価格調整・アーンアウト・許認可・従業員・経営者保証など)に優先順位をつけて、DDと契約交渉に十分な時間とリソースを割くこと
  • 仲介会社・FAをどう使うかを含め、社内の意思決定プロセスとガバナンスを整え、「誰が、何を見て、どのように判断するか」を明確にしておくこと
  • 重要な契約やスキームについては、M&Aトラブルに通じた専門家(弁護士など)のチェックを事前に受けておくこと

次に、トラブルが発生した後(またはその兆しを感じた段階)には、

  • 追加の支払いや新たな書面へのサインを安易に行わず、一度立ち止まること
  • 契約書・メール・チャット・資料・資金の動きなど、関連資料をできる限り早期に整理・保全すること
  • 事案の緊急性(時効・通知期限・資産の散逸リスクなど)を踏まえつつ、M&Aトラブルを弁護士に相談すべきタイミングと費用感も参考に、専門家への早期相談を検討すること
  • 詐欺的なスキームや悪質なM&A勧誘が疑われる場合には、「M&A詐欺」と呼ばれるトラブル類型と被害回復の進め方で整理するような、民事・刑事・行政を含めた対応の全体像を視野に入れること

これらを踏まえて、M&Aトラブル・紛争全体のポイントを箇条書きでまとめると、次のとおりです。

  • M&Aトラブル・紛争は、表明保証・簿外債務、仲介・FA、アーンアウト・価格調整、事業譲渡・会社分割、経営者保証・従業員、紛争解決プロセスなど、多様な類型に分かれる。
  • トラブルは「M&A後」に突然起きるのではなく、戦略・DD・契約交渉・PMIといった前段階の意思決定・プロセスに原因が潜んでいることが多い。
  • よくある失敗パターンとして、デューデリ不足、契約条項の詰めの甘さ、仲介会社への過度な依存、PMIの失敗、発覚後の対応の遅れなどが挙げられる。
  • 予防のためには、重要論点への優先順位付けと、DD→契約→PMIへの反映、そしてM&Aトラブルに通じた専門家の関与が不可欠。
  • トラブル発生後は、追加対応を急がずに事実と証拠を整理し、交渉・訴訟・仲裁・調停などのルート選択も含めて、戦略的に対応方針を検討することが重要である。

この総論ページで全体像を把握したうえで、自社の状況に近いクラスター(表明保証、仲介、アーンアウト、事業譲渡、経営者保証、紛争解決など)と、総論記事を組み合わせて読んでいただくことで、より具体的な検討に進みやすくなるはずです。

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