M&Aの失敗事例から学ぶデューデリ・契約交渉の落とし穴

M&Aは大きなリターンが期待できる一方で、「思ったほどシナジーが出ない」「買収後に想定外のリスクが噴出する」といったM&A 失敗 事例も数多く存在します。

こうした失敗の背景には、個別の事情だけでなく、共通する「パターン」が見えることが少なくありません。

この記事では、公開情報で語られる典型的なM&Aの失敗パターンを踏まえつつ、特に

  • デューデリジェンス(DD)
  • 契約交渉・ドラフト
  • の2つの局面に焦点を当てて、どこでつまずきやすいのか、どうすれば同じ失敗を避けやすくなるのかを整理します。

まずは、この記事で分かることをまとめます。

  • デューデリ不足から生じる代表的なM&A失敗事例のパターン
  • 契約交渉・契約書ドラフトの詰めが甘くて紛争化した事例類型
  • プロセス・体制設計の甘さから生じるM&Aトラブルの構造
  • 失敗事例から導かれるデューデリ・契約交渉の実務的チェックポイント

坂尾陽弁護士

「成功事例を真似する」よりも、「典型的な失敗パターンを避ける」方が現実的で、効果も大きいことが少なくありません。自社のM&Aに当てはめながら読んでみてください。

執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)

企業法務の無料法律相談実施中!

  • 0円!完全無料の法律相談
  • 弁護士による無料の電話相談も対応
  • お問合せは24時間365日受付
  • 土日・夜間の法律相談も実施
  • 全国どこでも対応いたします


企業法務の無料法律相談 0120-126-050(24時間365日受付)

 

M&Aの失敗事例から何を学ぶべきか

ニュースや書籍で紹介されるM&Aの失敗事例は、業種・規模・国籍もさまざまで、一見すると自社とは関係がないように見えるかもしれません。

しかし、紛争・トラブルの観点から眺めると、背景には次のような共通パターンが見えてきます。

  • 買収前に把握すべきリスクを見落としていた(デューデリ不足)
  • 把握していたリスクを契約に落とし込めていなかった(契約交渉・ドラフトの不足)
  • プロセスや体制が不十分で、懸念が共有・反映されないままクロージングしてしまった

もちろん、M&Aトラブルの全体像はこれだけではありません。表明保証違反や対価調整、仲介会社との紛争など、より広い枠組みについてはM&Aトラブル・紛争の全体像とよくある失敗パターンで整理していますので、併せて確認しておくと、自社のリスクを俯瞰しやすくなります。

本記事では、その中でも「事前に工夫する余地が大きい」

  • デューデリジェンス
  • 契約交渉・ドラフト
  • に絞って、M&A 失敗 事例で繰り返し現れる落とし穴を見ていきます。

デューデリジェンス不足で起こる典型的な失敗事例

まずは、デューデリジェンス(DD)の不足・偏りから生じる失敗パターンです。代表的には、次のような類型が挙げられます。

  • 簿外債務・潜在債務・係争案件の見落とし
    買収後に多額の保証債務・リース債務・環境リスク・税務リスク・訴訟案件が発覚し、「こんなリスクがあるとは聞いていなかった」として紛争になるケース。財務・法務・税務の連携不足や、資料開示の範囲が不十分だったことが背景にあります。
  • 重要契約の条項・継続可能性の見誤り
    主要な取引先との長期契約に「チェンジ・オブ・コントロール条項」や「解約権」が入っているのに十分な検証をせず、買収後に主要顧客が離反してしまうケース。契約書をビジネス的な側面から確認しただけでは見落としがちな論点です。
  • 許認可・規制対応の確認不足
    特定業種で必要な許認可が個人名義だったり、事業譲渡スキームでは承継されない形になっていたりして、買収後に事業を継続できなくなるケース。規制産業や地域ルールに対する理解不足が原因になることがあります。
  • 人材・組織・カルチャーのDD不足
    キーパーソンとなる役職員の退職リスクや、組織風土・インセンティブ設計の問題が十分に把握されておらず、買収後に中核人材が一斉退職するケース。数字中心のDDに偏り、人の面を軽視した場合に起こりがちです。
  • IT・知財・データの権利関係の見落とし
    主要システムが外部ベンダーのカスタマイズで、契約上の制約が大きかったり、重要な商標・ドメイン・著作権が個人や別会社の名義になっていたりするケース。デジタル領域のDDが十分でないと、買収後の事業運営が制約されることがあります。

これらは、発覚した時点で「表明保証違反ではないか」という議論につながりやすい典型パターンです。

表明保証・簿外債務を巡るより詳細なトラブル構造については、表明保証違反・簿外債務のM&Aトラブルを徹底解説や、**M&Aにおける表明保証条項とは何か【買い手・売り手の基本リスク】**で個別に解説する前提とし、本記事では「なぜDDの段階で拾いきれなかったのか」という観点に注目します。

MEMO

デューデリジェンスで全てのリスクをゼロにすることは現実的ではありません。重要なのは、「どのリスクをどの程度まで洗い出し、その結果を契約交渉・価格・スキームにどう反映するか」という割り切りと連携です。

契約交渉・ドラフトの詰めが甘かったことによる失敗事例

次に、契約交渉・契約書ドラフトの段階での詰めが甘く、M&A トラブル 事例として表面化しやすいパターンを見ていきます。代表的には、次のようなケースがあります。

  • 表明保証・補償条項が抽象的で、責任範囲が曖昧
    DDで把握したリスクや懸念を前提に条項を設計していないため、問題が顕在化したときに「表明保証違反なのか、単なるビジネスリスクなのか」が争いになるケース。責任制限条項との関係が整理されていないことも多いです。
  • 責任制限条項(上限・期間・バスケット)の影響を見誤る
    契約上の責任上限やサバイバル期間、バスケット・ディミニマスなどが買い手に不利な形で設定された結果、実際の損害額に見合った請求ができないケース。ドラフト時には十分意識されていなかったが、紛争になってから効いてくるパターンです。
  • 価格調整条項・アーンアウトの算定方法が曖昧
    「EBITDAベース」「純有利子負債±」などといった表現があるものの、具体的な定義・会計方針・例外処理が詰め切れていないため、クロージング後に算定方法を巡って激しい対立が生じるケース。
  • アーンアウト期間中の事業運営ルールが不十分
    買い手の経営判断によってアーンアウト条件の達成が左右されるにもかかわらず、「善管注意義務」「事業維持義務」などのルール設定が弱く、売り手から「意図的に業績を抑え込まれた」と主張されるケース。
  • 仲介契約・FA契約の報酬条項が片務的
    ディールが破談になったにもかかわらず、成功報酬に近い多額の手数料請求を受けたり、テール条項の範囲が広すぎて、別ルートのM&Aでも仲介会社から請求を受けるケース。

これらはいずれも、「あとから契約書を読み返すと、確かにこう書いてある」と言わざるを得ないものが多く、「交渉・ドラフトの段階でどこまで想定しておくか」が重要になります。

表明保証・補償条項と責任制限の関係については表明保証違反と損害賠償額・責任制限条項の実務、アーンアウトの設計と紛争予防についてはアーンアウト条項の失敗事例・紛争予防のポイント、価格調整・ロックボックス・エスクローを含む対価スキームの全体像については価格調整条項・ロックボックス・エスクローの仕組みとトラブル対応で、それぞれ掘り下げています。

注意

「ひな形だから」「相場だから」という理由だけで条項をそのまま受け入れると、自社の事案に合わない責任配分や対価スキームになってしまうことがあります。失敗事例の多くは、「ひな形を自社仕様に落とし込めていなかった」ことに起因しています。

プロセス・体制面の甘さから生じるM&A失敗事例

失敗事例の中には、「個々の条項」以前に、M&Aプロセスや社内体制の設計に問題があり、その結果としてDD不足や契約交渉の詰めの甘さが生じているケースも少なくありません。

典型的なものとして、次のようなパターンが挙げられます。

  • スケジュールありきでDD・契約交渉が圧縮され、懸念事項の検証や条項への落とし込みが間に合わない
  • 経営陣・事業部・法務・財務・人事などの関係者が十分に巻き込まれず、重要な指摘が意思決定に反映されない
  • 仲介会社・FAに過度に依存し、自社側でリスク分析・対案検討を行う体制が整っていない

とくに、「情報格差」と「利益相反」を巡る問題は、M&A トラブル 事例として顕在化しやすい論点です。

たとえば、仲介会社が両者の間に立つストラクチャーでは、

  • どこまでどのような情報を誰に開示するか
  • 誰の利益を優先して助言するのか
  • が明確でないと、後になって「重要なリスクを知らされていなかった」といった不信感につながります。

こうした構造的な問題については、M&A仲介・FAトラブルの典型パターンと対処法仲介会社との情報偏在・利益相反で起こるM&A仲介トラブルで、より具体的な類型・対処策を整理していく想定です。

プロセス・体制面の問題は、一見すると「ソフトな話」のように見えますが、結果として契約条項や対価設計に直結するハードな問題に発展します。失敗事例を読むときには、「条項そのもの」だけでなく、「意思決定プロセス」にも目を向けてみてください。

失敗事例から導かれるデューデリ・契約交渉の実務ポイント(まとめ)

ここまで見てきたM&A 失敗 事例のパターンから、デューデリ・契約交渉の局面で最低限意識しておきたいポイントを整理します。

  • デューデリは「全てを見る」のではなく、「事業価値と紛争リスクに直結する論点」を優先順位付けして深掘りする。簿外債務・重要契約・許認可・人材・IT/知財は、その代表例。
  • DDで把握したリスクや懸念は、必ず「価格」「スキーム」「契約条項(表明保証・補償・責任制限・価格調整・アーンアウト等)」のいずれかに反映する。把握しただけで終わらせない。
  • ひな形・相場に頼りすぎず、自社の事案に即して表明保証・補償条項・責任制限・価格調整・アーンアウトの設計を見直す。特に、責任上限と存続期間、算定方法の定義は後から紛争化しやすい。
  • M&Aプロセス全体の設計(スケジュール、体制、意思決定フロー)を事前に整え、仲介会社・FAへの依存度と情報格差を意識的にコントロールする。
  • 重大な論点については、早い段階で企業法務・M&Aトラブルに通じた専門家(弁護士・会計士・税理士等)に相談し、「どこまでリスクを許容し、どこからは交渉・条件変更を求めるべきか」を整理する。

より総論的な位置づけや他のトラブル類型との関係は、M&Aトラブル・紛争の全体像とよくある失敗パターンで確認しつつ、表明保証・簿外債務・価格調整・アーンアウト・仲介トラブルなどの各論については、

といった個別記事で掘り下げていく構成を想定しています。

実務としては、「全てを完璧にやろう」とするよりも、「失敗事例で繰り返し問題になるポイント」に的を絞って、そこだけは優先的に時間とリソースを割く方が現実的です。自社の状況に照らして、どこにリスクが集中しているかを意識してみてください。

坂尾陽弁護士

ひな形だから大丈夫だろう、買主売主の信頼関係があるから大丈夫だろうはトラブルの種です。

関連記事・次に読むべき記事

企業法務の無料法律相談実施中!

  • 0円!完全無料の法律相談
  • 弁護士による無料の電話相談も対応
  • お問合せは24時間365日受付
  • 土日・夜間の法律相談も実施
  • 全国どこでも対応いたします


企業法務の無料法律相談 0120-126-050(24時間365日受付)