発起人・設立時取締役等の責任(会社法52条~56条)

現物出資・財産引受けに関するてん補責任(会社法52条)

(出資された財産等の価額が不足する場合の責任)

第五十二条 株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額(定款の変更があった場合にあっては、変更後の価額)に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う。

2 前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、発起人(第二十八条第一号の財産を給付した者又は同条第二号の財産の譲渡人を除く。第二号において同じ。)及び設立時取締役は、現物出資財産等について同項の義務を負わない。

一 第二十八条第一号又は第二号に掲げる事項について第三十三条第二項の検査役の調査を経た場合

二 当該発起人又は設立時取締役がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合

3 第一項に規定する場合には、第三十三条第十項第三号に規定する証明をした者(以下この項において「証明者」という。)は、第一項の義務を負う者と連帯して、同項の不足額を支払う義務を負う。ただし、当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

会社法52条は、財産出資・財産引受けに関して発起人・設立時取締役等の関係者が財産価額てん補責任を負うことを定めたものです。現物出資・財産引受けの譲渡人以外の発起人等については、てん補責任を負うのは検査役調査を経なかった場合であるため、会社法52条は現物出資・財産引受けについて例外的に検査役調査が必要ないときに問題になります。

会社法522項はかっこ書きにおいて、発起人についてのみ現物出資・財産引受けの譲渡人である場合に検査役調査を経た場合でも責任を負い、その責任は無過失責任とされています。この趣旨は、譲渡人は定款に記載された価額に見合う対価を得ていることから当然に不足分をてん補するべきということにあります。そうすると、同様の趣旨が妥当する財産引受けの譲渡人である設立時取締役も、検査役調査を経ていても無過失のてん補責任を負うと考えられます。

会社法52条に基づき財産価額てん補責任が履行された場合、現物出資・財産引受けの給付者が履行をした場合にはその他資本剰余金に計上されます(会社法計算規則211号)。これに対し、給付者以外の発起人・設立時取締役が責任を履行した場合にはその他利益剰余金に計上されると考えられます。

(設立時又は成立後の株式の交付に伴う義務が履行された場合)

第二十一条次に掲げる義務が履行された場合には、株式会社のその他資本剰余金の額は、当該義務の履行により株式会社に対して支払われた金銭又は給付された金銭以外の財産の額が増加するものとする。

一 法第五十二条第一項の規定により同項に定める額を支払う義務(当該義務を履行した者が法第二十八条第一号の財産を給付した発起人である場合における当該義務に限る。)

二 (以下略)

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仮装払込みに関する責任(会社法52条の2

(出資の履行を仮装した場合の責任等)

第五十二条の二 発起人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める行為をする義務を負う。

一 第三十四条第一項の規定による払込みを仮装した場合 払込みを仮装した出資に係る金銭の全額の支払

二 第三十四条第一項の規定による給付を仮装した場合 給付を仮装した出資に係る金銭以外の財産の全部の給付(株式会社が当該給付に代えて当該財産の価額に相当する金銭の支払を請求した場合にあっては、当該金銭の全額の支払)

2 前項各号に掲げる場合には、発起人がその出資の履行を仮装することに関与した発起人又は設立時取締役として法務省令で定める者は、株式会社に対し、当該各号に規定する支払をする義務を負う。ただし、その者(当該出資の履行を仮装したものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

3 発起人が第一項各号に規定する支払をする義務を負う場合において、前項に規定する者が同項の義務を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。

4 発起人は、第一項各号に掲げる場合には、当該各号に定める支払若しくは給付又は第二項の規定による支払がされた後でなければ、出資の履行を仮装した設立時発行株式について、設立時株主(第六十五条第一項に規定する設立時株主をいう。次項において同じ。)及び株主の権利を行使することができない。

5 前項の設立時発行株式又はその株主となる権利を譲り受けた者は、当該設立時発行株式についての設立時株主及び株主の権利を行使することができる。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。

 

(出資の履行の仮装に関して責任をとるべき発起人等)

第七条の二法第五十二条の二第二項に規定する法務省令で定める者は、次に掲げる者とする。

一出資の履行(法第三十五条に規定する出資の履行をいう。次号において同じ。)の仮装に関する職務を行った発起人及び設立時取締役

二出資の履行の仮装が創立総会の決議に基づいて行われたときは、次に掲げる者

イ当該創立総会に当該出資の履行の仮装に関する議案を提案した発起人

ロイの議案の提案の決定に同意した発起人

ハ当該創立総会において当該出資の履行の仮装に関する事項について説明をした発起人及び設立時取締役

発起人・設立時取締役が負う責任の性質と範囲

設立時発行株式についての出資の履行を仮装した発起人及びこれに関与した発起人・設立時取締役の責任を定めるのが会社法52条の2です。仮装払込みに関与した発起人・設立時取締役の範囲は会社法施行規則7条の2に定められたとおりとなります。発起人が払込みを仮装した場合、失権手続きが取られない限り発起人は出資の履行義務を負うことになるため、この場合は会社法52条の2は出資に関する支払義務を負うという当然のことを確認した規定といえるでしょう。

仮装払込みによる設立時発行株式の譲渡を阻止する方法

仮装払込みがなされた場合でも、設立時発行株式や権利株が善意無重過失の第三者に譲渡されると株主としての権利を行使されることになります(会社法52条の25項)。このような設立時発行株式等が譲渡されていくのを阻止するための方法が問題となります。

この点、仮装払込みによる株式は未成立だと考えることで会社を被告に株式の不存在確認訴訟が提起できることを前提に、仮装引受人・発起人による譲渡の禁止を命じる仮処分を申請できると考えることが有力です。

義務が履行された場合の責任処理

出資を仮装した発起人が会社法52条の2に基づく支払義務を履行した場合、会社法計算規則212号により支払額はその他資本剰余金に計上されます。これに対し、出資の仮装に関与した発起人が支払義務を履行した場合は支払額はその他利益剰余金に計上されると考えられます。

(設立時又は成立後の株式の交付に伴う義務が履行された場合)

第二十一条次に掲げる義務が履行された場合には、株式会社のその他資本剰余金の額は、当該義務の履行により株式会社に対して支払われた金銭又は給付された金銭以外の財産の額が増加するものとする。

一 (略)

二法第五十二条の二第一項各号に掲げる場合において同項の規定により当該各号に定める行為をする義務

三 (以下略)

発起人等の損害賠償責任(会社法53条・53条)

(発起人等の損害賠償責任)

第五十三条 発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、株式会社の設立についてその任務を怠ったときは、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

2 発起人、設立時取締役又は設立時監査役がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

(発起人等の連帯責任)

第五十四条 発起人、設立時取締役又は設立時監査役が株式会社又は第三者に生じた損害を賠償する責任を負う場合において、他の発起人、設立時取締役又は設立時監査役も当該損害を賠償する責任を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。

 会社法53条は発起人・設立時取締役等が株式会社の設立について任務を懈怠したときに株式会社・第三者に対して損害賠償責任を負うことを規定しています。

第三者の範囲について、債権者・株式の引受人であった株主・会社成立後に株式を取得したもの等を含むと考えられています。もっとも、会社設立時に出資の仮装等があったとしても、会社設立から相当期間が経過して取引に入った会社債権者が会社法53条により保護されるのは現実的には困難と言えるでしょう。例えば、新潟地裁昭和521226日判決は、発起人の任剥懈怠を認めつつも、会社債権者が損害を被ったのは過剰な設備投資による倒産であるため任務懈怠と損害に因果関係がないとして損害賠償請求を否定しています。

 

発起人・設立時取締役の責任の免除(会社法55条)

(責任の免除)

第五十五条 第五十二条第一項の規定により発起人又は設立時取締役の負う義務、第五十二条の二第一項の規定により発起人の負う義務、同条第二項の規定により発起人又は設立時取締役の負う義務及び第五十三条第一項の規定により発起人、設立時取締役又は設立時監査役の負う責任は、総株主の同意がなければ、免除することができない。

会社法55条による責任の免除は、会社法521項、52条の21項・2項及び53条を対象としています。もっとも、発起人・設立時取締役の責任が総株主の同意により免除されるとしている趣旨は、総株主の同意がなければ免除できないというものではなく、会社の業務執行として責任を免除できるのが原則であるところ総株主の同意という要件を加重したと考えられます。そのため、責任の免除について規定がない場合は、会社の業務執行の一環として免除が許されるものと考えられます。

 

株式会社が不成立の場合の責任(会社法56条)

(株式会社不成立の場合の責任)

第五十六条 株式会社が成立しなかったときは、発起人は、連帯して、株式会社の設立に関してした行為についてその責任を負い、株式会社の設立に関して支出した費用を負担する。

会社不成立の場合、発起人は設立に関してした行為について責任を負い、設立に関して支出した費用を負担するとされており、この責任は無過失責任とされています。

なお、会社が成立したものの設立が無効とされた場合には、会社法56条にいう会社が不成立である場合には含まれませんので注意が必要です。

執筆者:坂尾陽弁護士

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

 

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