出資の履行と株主となる権利(会社法34条~36条)

出資の履行(会社法34条)

(出資の履行)

第三十四条 発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。ただし、発起人全員の同意があるときは、登記、登録その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、株式会社の成立後にすることを妨げない。

2 前項の規定による払込みは、発起人が定めた銀行等(銀行(銀行法(昭和五十六年法律第五十九号)第二条第一項に規定する銀行をいう。第七百三条第一号において同じ。)、信託会社(信託業法(平成十六年法律第百五十四号)第二条第二項に規定する信託会社をいう。以下同じ。)その他これに準ずるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の払込みの取扱いの場所においてしなければならない。

出資を履行するタイミング

募集設立の場合には出資の払込みについて期日・期間が定められますが、発起人が引き受けた設立時発行株式は引受け後に遅滞なく払込み・現物出資をすれば良いとされています。

発起人が出資を履行しない場合(会社法36条)

(設立時発行株式の株主となる権利の喪失)

第三十六条 発起人のうち出資の履行をしていないものがある場合には、発起人は、当該出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、その期日までに当該出資の履行をしなければならない旨を通知しなければならない。

2 前項の規定による通知は、同項に規定する期日の二週間前までにしなければならない。

3 第一項の規定による通知を受けた発起人は、同項に規定する期日までに出資の履行をしないときは、当該出資の履行をすることにより設立時発行株式の株主となる権利を失う。

発起人が出資を履行しない場合は、会社法36条による失権手続きの規定が定められています。すなわち、出資を履行していない発起人に対して2週間前までに期日を定めて通知を行い、期日までに出資の履行をしないときは株主となる権利を失うことになります。

なお、会社法252項によれば、各発起人は設立時発行株式を1株以上引き受けなければならないとされているため、発起人が出資を履行しないため失権した場合には設立無効事由となるおそれがあるので注意が必要です。

 

出資の履行を巡る問題

相殺による出資の履行

会社設立後の出資に関しては会社法2083項により、出資の履行をする債務と株式会社に対する債権を相殺できない旨が定められています。

これに対し、会社設立時には相殺による出資の履行ができない旨の定めがありません。しかし、このような定めがないのは単に会社設立時には株式会社に対する債権が存在することが想定されないためであり、会社設立時においても相殺による出資の履行はできないと考えられます。旧有限会社法に関する裁判例ではありますが大阪高裁昭和391126日判決も同様の考え方を採用したと考えられます。

預合いや見せ金の問題

預合いとは発起人と払込取扱機関が通謀して株式の払込みを仮装する行為をいいます(最高裁昭和35621日決定参照)。

見せ金は、発起人が借入れを行って払込みを行い、会社設立後に払込みに係る株式会社名義の金銭を引き出して、払込みの原資となった借入れの返済を行う行為をいいます。判例は、見せ金について外見上は株式払込みの形式を備えているが、実質的には払込みがあったものとは解し得ないとして、払込みの効力を否定しています(最高裁昭和38126日判決)。

 

株主となる権利の譲渡(会社法35条)

(設立時発行株式の株主となる権利の譲渡)

第三十五条 前条第一項の規定による払込み又は給付(以下この章において「出資の履行」という。)をすることにより設立時発行株式の株主となる権利の譲渡は、成立後の株式会社に対抗することができない。

会社法35条は発起人が出資の履行をする前に株主となる権利を譲渡した場合に、設立後の株式会社に対抗できない旨を定めています。もっとも、会社法35条は「対抗できない」と規定しているだけであり、出資履行前にした株式の譲渡は無効になるわけでなく、株式会社側から譲渡の効力を任意に承認することは許されると考えられます。

執筆者:坂尾陽弁護士

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

 

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