株式会社の設立
第二十五条 株式会社は、次に掲げるいずれかの方法により設立することができる。
一 次節から第八節までに規定するところにより、発起人が設立時発行株式(株式会社の設立に際して発行する株式をいう。以下同じ。)の全部を引き受ける方法
二 次節、第三節、第三十九条及び第六節から第九節までに規定するところにより、発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法
2 各発起人は、株式会社の設立に際し、設立時発行株式を一株以上引き受けなければならない。
発起設立と募集設立
株式会社を設立する方法としては発起設立と募集設立があります。実務上は発起設立の方法により株式会社を設立することがほとんどです。会社法においては最低資本金の制度がないため、設立時に多額の出資を必要とすることがなくなったためです。
もし設立後の株式会社が多額の出資を要するような場合でも、最低限度の出資額で発起設立し、その後に募集株式の発行等により資金調達をすれば足りることになります。
発起人の意義
会社法における発起人の意義について、形式的に定款に発起人として署名・押印した者と実質的に設立手続きを行った者のいずれをいうのかが問題となります。発起人が誰であるかを巡って争いになるのは、設立時に発行された株式の株主が誰かが問題になることがあるからです。
この点について、古い判例では実際に設立手続きに関与していたとしても、定款に発起人として記載されず署名がない場合は発起人とは扱われないとしています(大審院明治41年1月29日判決)。
これに対し、東京地裁平成17年10月4日判決は、定款に署名押印した者が短期間名前を貸して欲しいと依頼されただけであり、会社設立の資金を別の者が用意したような場合には会社設立の資金を用意した者を発起人としています。
定款の作成
(定款の作成)
第二十六条 株式会社を設立するには、発起人が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印しなければならない。
2 前項の定款は、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)をもって作成することができる。この場合において、当該電磁的記録に記録された情報については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。
定款は電磁的記録をもって作成することができるとされています。電磁的記録については会社法施行規則224条に定められています。要するにフロッピーディスク、CD/DVD、ハードディスクに記録されたファイルということになります。
(電磁的記録)
第二百二十四条 法第二十六条第二項に規定する法務省令で定めるものは、電子計算機に備えられたファイル又は電磁的記録媒体(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって電子計算機による情報処理の用に供されるものに係る記録媒体をいう。第二百二十八条を除き、以下この章において同じ。)をもって調製するファイルに情報を記録したものとする。
電磁的記録により定款を作成する場合は発起人の署名又は記名押印に代わる措置を取る必要がありますが、具体的には会社法施行規則225条1項により電子署名を付すべきとされています。実務上は、電磁的記録による定款を公証人に認証して貰うために法務省オンライン申請システムを用いる必要があり、このシステムを用いるためにアドビシステムズ社のソフトによって電子署名を行うことになります。
(電子署名)
第二百二十五条 次に掲げる規定に規定する法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置は、電子署名とする。
一法第二十六条第二項
二法第百二十二条第三項
三法第百四十九条第三項
四法第二百五十条第三項
五法第二百七十条第三項
六法第三百六十九条第四項(法第四百九十条第五項において準用する場合を含む。)
七法第三百九十三条第三項
八法第三百九十九条の十第四項
九法第四百十二条第四項
十法第五百七十五条第二項
十一法第六百八十二条第三項
十二法第六百九十五条第三項
2前項に規定する「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
定款に記載・記録するべき事項(絶対的記載事項;会社法27条)
(定款の記載又は記録事項)
第二十七条 株式会社の定款には、次に掲げる事項を記載し、又は記録しなければならない。
一 目的
二 商号
三 本店の所在地
四 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
五 発起人の氏名又は名称及び住所
株式会社の目的について
過去においては類似商号規制があったため、株式会社の目的は具体的でなければなりませんでした。しかし、類似商号規制が廃止されたため、会社の目的の具体性については審査されないとするのが登記実務となっています。したがって、製造業や販売業等のように抽象的・概括的な定め方も可能です。
ただし、株式会社の目的が業法規制の関係で不適法なものではないか問題になることがあります。例えば、会社の目的として債権の取立業務や特許出願手続相談を掲げることは弁護士法・弁理士法に抵触するため不適法なものとして許容されません。
また、銀行業は資本金の額から許認可を得る可能性がない場合には認められない場合があります。例えば、資本金50万円相当の株式会社において銀行営業を目的とする登記申請は受理されなくても相当と判断されるのが登記実務と言えます。
なお、定款に記載された目的により株式会社の権利能力が制限されるかについては下記記事を参考にしてください。
商号に関する規定
株式会社の定款には商号を記載する必要があります。商号に関して、会社法は、商号中に「株式会社」の文字を用いること(会社法6条2項)、不正の目的をもって他の会社と誤認されるおそれのある商号を用いてはならないことを定めています(会社法8条1項)。
また、商業登記法において、他人の登記した商号と同一であり、かつ、本店所在場所が同一であるときは登記することができないとされています(商業登記法27条)。
(同一の所在場所における同一の商号の登記の禁止)
第二十七条商号の登記は、その商号が他人の既に登記した商号と同一であり、かつ、その営業所(会社にあつては、本店。以下この条において同じ。)の所在場所が当該他人の商号の登記に係る営業所の所在場所と同一であるときは、することができない。
本店の所在地とは
定款に記載するべき本店所在地は、最小行政区画単位(市区町村等)で足りると解されています。したがって、具体的な所在場所(地番)まで定める必要はありません。仮に具体的な所在場所(地番)まで定款で定めてしまうと、市区町村内で本店を移転した場合でも定款変更のために株主総会の特別決議が必要となってしまうので注意が必要です。
発起人の氏名・名称及び住所
発起人の氏名・名称となっているのは、発起人が自然人である場合には氏名を、発起人が法人である場合には名称を記載するためであり、法人も発起人になることを会社法は明確化していると言えます。実務上も完全子会社を設立する際に親会社が発起人になることは少なくありません。
また、定款に発起人という肩書が付されていなくても、定款の記載自体から発起人であることが確認できるのであれば、発起人の記載として取り扱ってよいと解されています(大審院昭和8年9月12日判決)。
発行可能株式総数(会社法37条)
(発行可能株式総数の定め等)
第三十七条 発起人は、株式会社が発行することができる株式の総数(以下「発行可能株式総数」という。)を定款で定めていない場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、定款を変更して発行可能株式総数の定めを設けなければならない。
2 発起人は、発行可能株式総数を定款で定めている場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、発行可能株式総数についての定款の変更をすることができる。
3 設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の四分の一を下ることができない。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない。
発行可能株式総数は会社法27条に掲げられた事項ではありませんが、会社法37条により会社設立時までに定款に定めを設けることとされており、会社法113条1項により発行可能株式総数の定めを廃止できないため、定款の絶対的記載事項にあたります。
定款に記載しないと効力を生じない事項(変態設立事項;会社法28条)
第二十八条 株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、第二十六条第一項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じない。
一 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数(設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合にあっては、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数。第三十二条第一項第一号において同じ。)
二 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称
三 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称
四 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)
現物出資の対象となる財産
現物出資の対象となる財産について会社法上はとくに制限を加えていないため、貸借対照表上に計上できる財産以外も現物出資の対象となり得ると考えられます。例えば、営業権やのれんは貸借対照表に計上されない場合もありますが、営業権やのれんを現物出資することは認められるべきだといえます。
なお、ライセンス等の利用権を現物出資する場合には合意された期間内は解約の可能性が排除される必要があるとドイツの会社法では解釈されているようで、このような解釈が日本でも妥当するかもしれません。
詐害的な現物出資への対応
現物出資が行われたことにより、現物出資を行った者の債権者が害されたような場合には詐害行為取消権の行使が認められています(東京地裁平成15年10月10日判決等)。
もっとも、現物出資の方法として事業譲渡や会社分割が用いられた場合には、詐害事業譲渡や濫用的会社分割に対応するための規定が平成26年会社法改正で設けられたため当該規定による救済も考えられます。
(参考)詐害事業譲渡と譲受会社に対する履行請求(会社法23条の2)
現物出資の価額
定款で記載するべき現物出資の価額は、発起人の間で合意された価額を意味し、現物出資の対象財産の時価である必要はありません。発起人は、定款で定められた資本金額(会社法27条4号)を満たすか、現物出資の填補責任が発生しないか(会社法52条1項)を考慮して、現物出資の価額をどの程度の金額と評価するか決めることになります。
財産の譲受けと開業準備行為
会社法は、開業準備行為のうち財産の譲受けのみを会社法28条2号によって変態設立事項としています。
変態設立事項は、定款に記載することや検査役の調査を経ること等の厳格な要件を満たすことで設立後の株式会社に効力を及ぼすものです。そのため、判例は会社法は財産引受けのみが例外的に許容されており、それ以外の開業準備行為は成立後の株式会社に効力を及ぼすことはできないとしています(最高裁昭和38年12月24日判決)。
相対的記載事項と任意的記載事項(会社法29条)
第二十九条 第二十七条各号及び前条各号に掲げる事項のほか、株式会社の定款には、この法律の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項及びその他の事項でこの法律の規定に違反しないものを記載し、又は記録することができる。
会社法29条は相対的記載事項と任意的記載事項について規定しています。
このうち、「法律の規定により定款の定めがなければその効力を生じない事項」を相対的記載事項といいます。例えば、単元株式数や、取締役会・委員会の設置に関するものが相対的記載事項となります。
「その他の事項でこの法律の規定に違反しないもの」を任意的記載事項といいます。実務上は定款において事業年度や役員数等を記載することがありますが、事業年度や役員数の記載は相対的記載事項となります。
- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立
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