特定株主からの自己株式取得(会社法155条~160条)

自己株式取得は様々な弊害があるものの、会社法上は原則として自己株式取得を容認した上で手続等に関して規制しています。自己株式取得は、効率的な資本政策を構築するためや、株主間の紛争解決のために実務上しばしば使用されます。

ここでは自己株式取得の方法として使用される頻度の高い特定株主からの自己株式取得を中心に気を付けるべき点や論点について解説します。

1. 自己株式取得の目的

(1)          財務上の観点

上場会社においては自己株式取得を行う上で財務上の観点が重要です。自己株式取得は、株式の対価として金銭を株主に支払うものであり株主還元の意味を有するとともに、自己資本の額が減少することによりROEが改善する等の効果もあります。また、経営陣が自社の株式価値が割安だと考える場合に、自己株式取得を公表することで市場に対して株価が過少評価されているとメッセージを送ることができるとも言われています(シグナリング効果)。

日本企業は内部留保が多いと言われることがありますが、過剰なキャッシュを手元に置いて厚い自己資本の額を有することはROEを低下させることになります。効率的な経営の指標としてROEを意識するのであれば、有効な資金活用・投資方法がない場合には、自己株式取得を行って株式還元・ROE向上を図ることも有力な手段だと思われます。

他方で、日本においては株主還元の方法としては自己株式取得よりも配当の方が好まれているようです(アメリカでは株主還元はむしろ自己株式取得による方がメジャーであるようです。)。この理由として、(i)自己株式取得は過去においては原則禁止とされていたこと、過去において上場時の審査基準として配当実績が設けられていたことから、企業にとって配当による株主還元が伝統的に受け入れられていることや、(ii)自己株式取得に応じずらい持合い株主は配当の方を選好すること等が指摘されているようです。

(2)          株主間の紛争解決の観点

例えば、相続により兄弟や親族が株主となっている場合に経営に関与していない株主グループが会社に対して株式取得を求める場合、JV等で経営方針について意見が対立した場合に株式取得を求める場合等で自己株式取得が選択肢に上がることがあります。

もっとも、自己株式取得は手続が煩雑なことや、一般的に譲渡人側株主にとっては株主間譲渡の方が税負担が軽減されることから、最終的には自己株式取得を回避するスキームで譲渡人側株主の株式を買い取ることになるケースも多いように思われます。

2. 自己株式取得ができる場合

(1)          株主との合意による自己株式取得(会社法155条3号)

株主との合意による取得は、自己株式取得についての原則的な取得の方法です。特定の株主から取得すること、株主全員に対して自己株式取得の行うこともできます。上場会社におけるTOB(公開買付:Take Over Bid)も自己株式取得の類型の一つと言えます。

(2)          種類株式の効果としての自己株式取得(会社法155条1号、4号、5号)

取得条項付株式や取得請求権付株式の場合は、種類株式の効果として自己株式取得を行うことが予定されています。従って、要件を満たした場合には種類株式の効果として自己株式取得が行われることになります。

(3)          非公開会社における自己株式取得(会社法155条2号、6号)

譲渡承認請求がなされた場合にこれを不承認して会社で買い取る場合や、定款で会社の相続人に対する売渡請求を定めたような場合には自己株式取得ができます。非公開会社においては、株主間の信頼関係が重要であり、このような閉鎖性を維持するために自己株式取得と認められます。

(4)          株式の整理に伴う自己株式取得(会社法155条7号~9号)

単元未満株式や所在不明株主の株式等の株式の整理が必要になった場合に自己株式取得が認められております。

(5)          組織再編に伴う自己株式取得(会社法155条10号~12号)

例えば合併消滅会社が合併存続会社の株式を保有していた場合に、合併により合併存続会社は自己株式取得を行うことになります。このように組織再編に伴って自動的に自己株式取得が生じる場合にこれが認められています。

(6)          その他

上記以外に会社法施行規則27条により、以下の場合については自己株式取得を行うことができるとされています。

会社法施行規則27条

(自己の株式を取得することができる場合)

第二十七条 法第百五十五条第十三号に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。

一 当該株式会社の株式を無償で取得する場合

二 当該株式会社が有する他の法人等の株式(持分その他これに準ずるものを含む。以下この条において同じ。)につき当該他の法人等が行う剰余金の配当又は残余財産の分配(これらに相当する行為を含む。)により当該株式会社の株式の交付を受ける場合

三 当該株式会社が有する他の法人等の株式につき当該他の法人等が行う次に掲げる行為に際して当該株式と引換えに当該株式会社の株式の交付を受ける場合

イ 組織の変更

ロ 合併

ハ 株式交換(法以外の法令(外国の法令を含む。)に基づく株式交換に相当する行為を含む。)

ニ 取得条項付株式(これに相当する株式を含む。)の取得

ホ 全部取得条項付種類株式(これに相当する株式を含む。)の取得

四 当該株式会社が有する他の法人等の新株予約権等を当該他の法人等が当該新株予約権等の定めに基づき取得することと引換えに当該株式会社の株式の交付をする場合において、当該株式会社の株式の交付を受けるとき。

五 当該株式会社が法第百十六条第五項、第百八十二条の四第四項、第四百六十九条第五項、第七百八十五条第五項、第七百九十七条第五項又は第八百六条第五項(これらの規定を株式会社について他の法令において準用する場合を含む。)に規定する株式買取請求に応じて当該株式会社の株式を取得する場合

六 合併後消滅する法人等(会社を除く。)から当該株式会社の株式を承継する場合

七 他の法人等(会社及び外国会社を除く。)の事業の全部を譲り受ける場合において、当該他の法人等の有する当該株式会社の株式を譲り受けるとき。

八 その権利の実行に当たり目的を達成するために当該株式会社の株式を取得することが必要かつ不可欠である場合(前各号に掲げる場合を除く。)

3. 特定株主からの自己株式取得の手続き

非公開会社で自己株式取得を行う場合、実務上利用頻度が高いと考えられるのが特定株主からの自己株式取得です。そこで、特定株主から自己株式取得を行う場合の手続について概要を解説します。

(1)          株主総会決議(会社法156条1項、160条1項)

特定株主から自己株式取得を行う場合、原則として予め株主総会の特別決議によって、(i)取得する株式の種類・数、(ii)対価の内容・総額、及び(iii)株式を取得することができる期間を決定しなければなりません(会社法156条)。自己株式取得は一定期間内に複数回、機動的に行うのが通常であるため、株主総会において自己株式の取得枠を決定することになっています。

また、自己株式取得を具体的に行う場合は、原則として株主全体に対する勧誘を行うことになります。しかし、自己株式取得の取得枠を決定する株主総会決議において、特定株主に対してのみ勧誘を行うことを決議することができます(会社法160条1項)。特定株主からの相対取得をする場合は株主総会においてその旨も決議することになります。

(2)          売主追加請求権に関する手続(会社法160条2項、3項)

特定株主からの自己株式取得を行うとする場合、他の株主は自己も売主に加えた株主総会議案にするよう請求することができます(売主追加請求権:会社法160条3項)。これは、換金困難な株式について売却機会の平等を図る趣旨の制度です。

実務上は会社法156条1項、160条1項の株主総会の招集通知と同時に、売主追加請求ができる旨の通知を発送することになります(会社法160条2項、会社法施行規則28条)。

そして、原則として、非公開会社にあっては3日前、公開会社にあっては5日前までに売主への追加を希望する株主は売主追加請求権を行使することになります(会社法160条3項、会社法施行規則29条)。

(3)          取得価格等の決定(会社法157条)

株主総会で決議するのは自己株式の取得枠であり、具体的な取得価格等はその都度決議しなければなりません(会社法157条1項)。具体的には、その都度、(i)取得する株式の種類・数、(ii)交付する金銭等の内容・数・金額又は算定方法、(iii)交付する金銭等の総額、及び(iv)株式譲渡の申込期日を決定する必要があります。

取締役会設置会社においては、取締役会決議においてこれらの事項を決議することになります(会社法157条2項)。他方で、取締役会非設置会社においては明文はないものの、実務上は株主総会決議で決定するべきだと思われます(江頭憲治郎「株式会社法(第7版)」257頁)。

(4)          取得価格等の株主に対する通知(会社法158条)

株式会社は、株主総会の特別決議で定められた特定の株主に対して、取得価格等の会社法157条1項各号の事項を通知することになります(会社法158条、160条)。

(5)          株主による譲渡の申込み(会社法159条)

会社から通知を受けた特定の株主は、譲渡の申込みをする場合は、会社に対して申込みを行う株式の種類・数を明らかにします(会社法159条1項)。そして、会社法157条1項4号で決定した株式譲渡の申込期日において、株式会社は譲受けを承諾したものとみなされて売買契約が成立します(会社法159条2項)。

なお、申込総数が取得総数を超える場合は按分比例・端数切捨てにより売渡株式が確定することになるので注意が必要です(会社法159条2項)。

 

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