株主名簿の効力と記載事項(会社法121条~会社法123条)

株式会社は株主名簿を作成しなければなりませんが、株主名簿は単なる書面ではなく、その記載・記録に法的な効力が与えられている重要な書面です。とくにM&Aの文脈では、株主名簿書換請求書の交付を受けることが株式の譲渡代金の対価と言っても過言なぐらい重要です(株券発行会社を除く。)。

ここでは、株主名簿の効力、株主名簿にはどのような事項を記載するべきか、その他の問題点について解説します。なお、株主名簿の書換請求(会社法130条~133条)に関しては別途解説いたします。

なお、振替口座簿(株券不所持制度と異なります。)に関しても多少言及しておりますが、株式の振替制度は上場株式の移転を主に念頭においており、非公開会社・中小企業においては実務上さほど気にしなくても大丈夫です。

1. 株主名簿の効力

株主名簿は、株主が変更する場合に株主名簿上の株主を株主として取り扱うことを許容し、集団的法律関係を画一的に処理する会社の便宜のための制度と言えます。

(1)          会社との関係での効力

株式の取得者は、株主名簿の名義書換えをしなければ会社に対する権利を行使することはできません。従って、会社は、株主が交代したことを知っていたとしても、名義書換請求がなされない限り、名簿上の株主を株主として取り扱えば足りることになります(確定的効力)。

また、株式会社は、株主に対して通知又は催告を行う場合、株主名簿に記載・記録された株主の住所に行えば足り、たとえ到達しなくとも通常到達すべきときに到達したとみなされます(通知・催告に関する免責:会社法126条1項、2項)。株主が引越し等により住所の変更があった場合、株主が会社に対して連絡をしなかったことにより、株主側が重要な通知・催告を受け取れなかったことによる不利益を負担することになります。相続・事業承継によって株主の所在が不明なケースで実務上非常に重要な条文と言えます。

(2)          第三者との対抗力

また、株券不発行会社であり、振替株式ではない場合、株主名簿の記載・記録が第三者との関係でも株式の譲渡・質入れの対抗要件となります(会社法130条1項、会社法147条1項)。

株券発行会社の場合は、株券の交付が株式譲渡の効力発生要件となっているため(会社法128条1項)、そもそも二重譲渡の問題が生じません。同様に振替株式の譲渡・質入れは、振替の申請による振替口座簿への記載・記録が効力発生要件となっているため(

社債、株式等の振替に関する法律140条、141条)、二重譲渡の問題が生じません。

(3)          免責的効力

①免責的効力とは

株式会社は、株主名簿に記載されている株主を株主として取り扱えば一切免責されるかについては議論があるところです(免責的効力)。会社との関係では、株式の移転があった場合に、名簿書換がない限り新たな株主を株主として取り扱う必要はないことに争いはありません。しかし、そもそも名義書換を請求した株主が真の株主と言えるかについて疑義が生じるときもあります。免責的効力はこのような場合を想定した議論です。

②株券発行会社・振替株式

この点に関して、株券の呈示を受けて又は振替口座簿の記載に基づく総株主通知を受けて会社が株主名簿の書換えをした場合は、株券の占有・振替口座簿の記載に権利推定の効力があるので免責的効力が認められると解されます(江頭憲治郎「株式会社法(第7版)」211頁)。もっとも、会社が真の株主でないことにつき、名義書換請求者が無権利者であることを立証できるのに故意・重過失でこれを怠った場合には免責されません(東京地裁昭和32年5月27日判決)。

他方で、

③株券不発行会社の場合

他方で、株券不発行会社の場合、権利推定の効力に基づき名義書換がされたのではないので免責的効力は有しないとする考え方が有力です(江頭憲治郎「株式会社法(第7版)」211頁)。

そうすると、株式会社は、株主名簿上の新たな株主に配当金を支払ったものの、当該株主が真の株主でなかったことが事後的に発覚したような場合に大きなリスクを負うことになります。このようなリスクは、例えば株主=譲渡人のなりすましによって、真の株主でない者が株主名簿上に記載された場合等に生じます。従って、株式会社は、株主名簿上の株主の同一性・権限等の確認、後に偽造等が争われる場合に備えた請求書の保存等について注意を必要があると言われています(江頭憲治郎「株式会社法(第7版)」209頁)。

2. 株主名簿の記載事項

株主名簿に記載する事項は、会社法121条各号のとおりです。

会社法121号

(株主名簿)

第百二十一条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。

一 株主の氏名又は名称及び住所

二 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)

三 第一号の株主が株式を取得した日

四 株式会社が株券発行会社である場合には、第二号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号

(1)          株主の氏名又は名称及び住所

この点で、戸籍上の氏名又は通称以外の仮名による名簿書換えをした場合は、株主であることを会社に対抗できないとした裁判例があります(東京高裁昭和63年6月28日判決等)。

また、株主が外国人である場合は、会社法上は規定がありませんが、「外国株主に関する統一的取扱指針」によって、株主の原名および住所を日本文字で表記することとされています。

(2)          株式を取得した日

文字通り株式を「取得」した日と解する場合は、株式譲渡契約書等によって株式譲渡の効力が生じた日を記載する必要があります。しかし、実務上は会社が名簿書換請求を受けた日をもって、株式を取得した日として記載します(江頭憲治郎「株式会社法(第7版)」205頁)。株式譲渡の効力が生じた後に株主名簿の書換請求がなされることは実務上よくあることであり、効力発生日と書換請求日が必ずしも合致するわけではありません。しかし、会社・第三者の対抗力を画するという趣旨からは、株式会社が名義書換請求を受けた日を記載することが趣旨に合致するからだと考えられます。

3. その他の問題点

株主名簿には、誰が株主であるについて氏名・住所が記載されています。従って、株主名簿を閲覧・謄写することにより(会社法125条)、他の株主の個人情報が取得される可能性があります。

そのため、個人情報保護法等との関係が問題となります。この点、「株主名簿を中心とした株主等個人情報に関する個人情報保護法対応のガイドライン」により、実務上は個人情報保護法に則した取扱いがなされています。もっとも、個人情報保護法23条1項は、個人データを第三者に提供してはならないことを原則としながら、法令に基づく場合は適用除外としています。従って、会社法125条に基づく株主名簿の閲覧・謄写請求権が行使された場合は、個人情報保護法の適用はなく、株式会社は開示を行う必要があります。株主の個人情報保護は会社法125条の要件の範囲内でのみ保護されることになります。

 

企業法務・顧問弁護士の無料相談実施中

  • 企業法務・顧問弁護士法律相談は0円!完全無料
  • 24時間365日受付中/土日祝日夜間
  • 弁護士直通の電話相談・WEB法律相談も実施中

✉メールでお問合せ(24時間受付)

おすすめの記事