詐害事業譲渡と譲受会社に対する履行請求(会社法23条の2)

(詐害事業譲渡に係る譲受会社に対する債務の履行の請求)

第二十三条の二 譲渡会社が譲受会社に承継されない債務の債権者(以下この条において「残存債権者」という。)を害することを知って事業を譲渡した場合には、残存債権者は、その譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として、当該債務の履行を請求することができる。ただし、その譲受会社が事業の譲渡の効力が生じた時において残存債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

2 譲受会社が前項の規定により同項の債務を履行する責任を負う場合には、当該責任は、譲渡会社が残存債権者を害することを知って事業を譲渡したことを知った時から二年以内に請求又は請求の予告をしない残存債権者に対しては、その期間を経過した時に消滅する。事業の譲渡の効力が生じた日から十年を経過したときも、同様とする。

3 譲渡会社について破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定があったときは、残存債権者は、譲受会社に対して第一項の規定による請求をする権利を行使することができない。

 詐害的な事業譲渡や会社分割の利用に対応するため、平成26年会社法改正により詐害事業譲渡についての会社法23条の2及び濫用的会社分割について残存債権者を保護する規定が設けられました。

企業法務・顧問弁護士の無料相談実施中

  • 企業法務・顧問弁護士法律相談は0円!完全無料
  • 24時間365日受付中/土日祝日夜間
  • 弁護士直通の電話相談・WEB法律相談も実施中

✉メールでお問合せ(24時間受付)

詐害事業譲渡の要件:債権者を害することを知って

詐害事業譲渡の要件である債権者を害することを知ってとは、事業譲渡により譲渡会社が残存債権者の債務を完済することができない状態にあることをいいます。

会社法23条の2は、民法上の詐害行為取消権とは異なる制度ではありますが、債権者を害することを知っての解釈は基本的に民法上の詐害行為取消権におけるものと同様と考えることができるので、詐害行為取消権に関する判例を参考にすることができます。

詐害事業譲渡に害するかについては以下のような判例を参考にすることができるでしょう。

最高裁昭和35426日判決

債務を完済することができないかは、単に債務超過かどうかだけでなく、譲渡会社の信用等があるかどうかも考慮して判断するとしています。

最高裁昭和481130日判決

相当な対価を得ての財産処分であっても債権者を害することを知ってに該当するのが判例の立場であり、事業譲渡の対価が相当な場合でも詐害事業譲渡に該当する可能性があります。

倒産法上の否認権との相違

債権者を害することを知っての要件を解釈するためには、類似の制度として倒産法上の否認権も参考になります。倒産法上の否認権に関しては有害性・不当性が要件として論じられていますが、詐害事業譲渡についても事業譲渡による社会的価値や市域社会経済に果たしている役割等を踏まえて不当性がないと判断される可能性もあるでしょう。

 

詐害事業譲渡による効果

民法上の詐害行為取消権との違い

民法上の詐害行為取消権は総債権者のために責任財産を保全するものです。これに対し、詐害事業譲渡に関する会社法23条の2は残存債権者が譲受会社に対して履行を請求することができるものであるという違いがあります。したがって、詐害事業譲渡は、詐害行為取消権と性質が異なるものであり、詐害行為取消権の特則というわけではありません。

元々は、詐害的・濫用的な事業譲渡や会社分割に対応するために実務上は民法上の詐害行為取消権による解決が図られていました。しかし、とくに会社分割の取消し等においては、会社分割自体の取消しを認めてよいか等の困難な問題が生じるため、平成26年会社法改正により残存債権者が譲受会社・承継会社に直接履行を請求できる制度に整理されたのです。

なお、会社法23条の2は民法上の詐害行為取消権の特則ではないため、残存債権者は会社法23条の2に基づく履行請求と民法上の詐害行為取消権の行使のいずれをも選択できると解されています。もっとも、最高裁平成241012日判決は、新設分割について詐害行為取消権の行使を認めたものの、会社法その他の法令における諸規定を検討して判断すると判示しており、この判例の趣旨からすると会社法上の制度を優先的に利用するべきと判断される可能性もあるかもしれません。

特定物債権者と会社法23条の2

会社法23条の2は、「譲受会社に承継されない債務」を対象としており、金銭債務には限定されていません。そのため、詐害事業譲渡によって特定物が譲受会社に移転した場合には、特定物債権者は譲受会社に対して特定物の引渡しを請求できると考えられます。

もっとも、このような場合、譲渡会社において特定物引渡債務が履行不能となり、特定物債権者は譲渡会社に対して損害賠償債権を有していることから、譲受会社に対して損害賠償債権の履行を請求することになるとも考えられます。

転得者に対する履行の請求

会社法23条の2は、残存債権者が譲受会社に対して履行請求をすることを認めるものであり、譲受会社からの転得者に対しての規定はありません。そのため、会社法23条の2に基づいて転得者に対する請求を行うことはできないと考えられます。

ただし、民法上の詐害行為取消権は転得者に対する行使も認められていることから、詐害事業譲渡が民法上の詐害行為取消権の対象となるときは転得者に対して詐害行為取消権を行使する余地はあるでしょう。

 

譲渡会社・譲受会社が倒産した場合

残存債権者が譲受会社に対して債権の履行を請求し、その弁済を受けた後に譲渡会社・譲受会社が倒産した場合にどのような扱いになるかは倒産法上の解釈に委ねられていると考えられます。

この点、譲渡会社が倒産した場合には倒産手続開始前に倒産会社と不真正連帯債務を負う者が弁済した場合と同じく考えることができるでしょう。また、譲受会社が倒産した場合には一般の債権者に対する弁済と同じく考えることができるでしょう。

執筆者:坂尾陽弁護士

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

 

企業法務・顧問弁護士の無料相談実施中

  • 企業法務・顧問弁護士法律相談は0円!完全無料
  • 24時間365日受付中/土日祝日夜間
  • 弁護士直通の電話相談・WEB法律相談も実施中

✉メールでお問合せ(24時間受付)

おすすめの記事