譲渡制限株式のみなし承認(会社法145条)

会社法145条は、一定の場合に譲渡制限株式の譲渡について株式会社が承認したものとみなすことを規定しています。みなし承認の制度は、譲渡等承認請求をしたものの株式会社側の手続きが行われなかったような場合に、譲渡等承認請求者が浮動的な立場に置かれることを回避するためのものです。

この記事では会社法145条を紹介するとともに、みなし承認について問題となる点について解説します。

(株式会社が承認をしたとみなされる場合)
第百四十五条 次に掲げる場合には、株式会社は、第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をする旨の決定をしたものとみなす。ただし、株式会社と譲渡等承認請求者との合意により別段の定めをしたときは、この限りでない。
一 株式会社が第百三十六条又は第百三十七条第一項の規定による請求の日から二週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百三十九条第二項の規定による通知をしなかった場合
二 株式会社が第百三十九条第二項の規定による通知の日から四十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百四十一条第一項の規定による通知をしなかった場合(指定買取人が第百三十九条第二項の規定による通知の日から十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に第百四十二条第一項の規定による通知をした場合を除く。)
三 前二号に掲げる場合のほか、法務省令で定める場合

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株式の譲渡を承認したとみなされる場合

みなし承認となる場合については、会社法1451号乃至3号、会社法施行規則26条が以下の場合としています。定めています。

  • 譲渡等承認請求から2週間以内に不承認の通知がない場合
  • 不承認の通知の日から40日以内に株式会社が買取通知・供託を証する書面の交付をしなかった場合
  • 不承認の通知の日から10日以内に指定買取人が買取通知・供託を証する書面の交付をしなかった場合
  • 譲渡等承認請求者が株式会社又は指定買取人との間の売買契約を解除した場合

(承認したものとみなされる場合)
第二十六条法第百四十五条第三号に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一株式会社が法第百三十九条第二項の規定による通知の日から四十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に法第百四十一条第一項の規定による通知をした場合において、当該期間内に譲渡等承認請求者に対して同条第二項の書面を交付しなかったとき(指定買取人が法第百三十九条第二項の規定による通知の日から十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に法第百四十二条第一項の規定による通知をした場合を除く。)。
二指定買取人が法第百三十九条第二項の規定による通知の日から十日(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)以内に法第百四十二条第一項の規定による通知をした場合において、当該期間内に譲渡等承認請求者に対して同条第二項の書面を交付しなかったとき。
三譲渡等承認請求者が当該株式会社又は指定買取人との間の対象株式に係る売買契約を解除した場合

要するに株式会社が譲渡を承認しない場合の手続きを履践しなかった場合や、株式会社・指定買取人が譲渡制限株式の売買価格を支払わなかったため売買契約が解除された場合に、譲渡を承認したものとみなされることになります。

株式会社と指定買取人1名が共同して買い取ることもできると解されていますが、このような共同買取りの場合には、株式会社・指定買取人の両者からの通知や書面交付が必要であり、いずれかが欠けている場合は全ての株式について譲渡を承認したとみなされることになります。

なお、株式会社が譲渡を承認しない場合にどのような手続きが必要になるか、どのような問題点があるかについては下記記事を参考にしてください。

(参考)株式の譲渡を承認しない場合の買取義務(会社法140条~143条)

 

会社法126条とみなし承認

供託を証する書面の交付への適用

供託を証する書面(供託書正本・供託証明書)を株式会社が買い取る場合は40日以内、指定買取人が買い取る場合は10日以内に交付しない場合はみなし承認が成立します。

そして、譲渡等承認請求者が株主名簿上の株主であったとしても、書面の交付は会社法126条の通知又は催告に当たらないため、会社法126条の適用はなく書面の到達時に書面の交付がなされたと考えられます。

譲渡不承認通知・買取通知への適用

会社法126条は株式会社が株主名簿上の株主に行う通又は催告知についてのみ、通常到達すべき時に到達したものとみなす規定です。そのため、譲渡等承認請求者が株主名簿上の株主である場合、株式会社による譲渡不承認通知や買取通知についても会社法126条の適用があるとも考えられます。

しかし、、譲渡等承認請求者が株主名簿上の株主に対して行う株式会社による譲渡不承認通知・買取通知について会社法126条の適用があるとすると、譲渡等承認請求者が株主名簿上の株主でない場合や指定買取人が通知を行う場合と平仄が合わないことになります。そのため、譲渡不承認通知・買取通知には会社法126条の適用はないと考えられています。

そのため、民法971項の原則通り、譲渡不承認通知・買取通知の日は現実の到達日であり、現実の到達日の翌日を起算日として、期間末日の終了時までに通知が到達することを要することになります(民法140条乃至143条参照)。

なお、会社法126条のその他の問題点については下記記事を参考にしてください。

(参考)株主名簿の免責的効力(会社法126条)

 

株式の二重譲渡がなされた場合

株式の二重譲渡がなされた場合、株式会社が一方の株式取得者について承認した場合には、他方の株式取得者の手続きを無視した場合にもみなし承認の効果は生じないと考えられます(東京高裁兵士江20424日判決参照)。

 

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執筆者:坂尾陽弁護士

  • 2009年 京都大学法学部卒業
  • 20011年 京都大学法科大学院修了
  • 2011年 司法試験合格
  • 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
  • 2016年 アイシア法律事務所設立

 

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