会社法130条は株券発行会社に関して、株券の占有者が株式についての権利を適法に有することを推定されること、及び株券が交付された場合における株式の善意取得について定めています。この記事では会社法131条の条文を紹介し、株券に関する問題について解説します。
(権利の推定等)
第百三十一条 株券の占有者は、当該株券に係る株式についての権利を適法に有するものと推定する。
2 株券の交付を受けた者は、当該株券に係る株式についての権利を取得する。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない。
株券の占有者についての権利推定
権利推定の趣旨
株券発行会社において、株券を交付することが株式譲渡の効力発生要件とされています(会社法128条1項)。そのため、株券の占有者は、株式の譲渡により株券を交付された可能性が非常に高いといえます。そこで、会社法130条1項は、株券の占有者は適法な権利者であると推定される旨を定めています。
権利推定による効果
株券の占有者は適法な権利者であると推定されるため、自身が真の株主であると主張して株券の返還を請求するためには、株券が紛失したり又は盗難されたりして法律上の原因なく株券が移転したこと、及び占有者によって株式が善意取得されていないことを証明する必要があります。
また、株券の占有者は適法な権利者であると推定されることから、株券を提示すれば株主名簿の名義書換えを単独で請求することができます(会社法133条2項、会社法施行規則22条2項1号)。
相続・合併等により株式を取得した場合
株式が移転する場合には、当事者間の契約による株式の譲渡される場合だけでなく、相続・合併等により株式が包括承継される場合もあります。そして、相続・合併等の包括承継により株式が取得された場合については、株券の占有者は適法な権利者であると推定されないとする考え方が有力です。会社法130条の対抗要件については株式の譲渡と包括承継が区別されない一方で、会社法130条1項の権利推定は両者が区別されるという違いがあるので注意が必要です。
株式の善意取得(会社法130条2項)
株式の善意取得とは
会社法130条2項は、株券の交付を受けた場合において取得者が善意無重過失であるときは株式を善意取得することを定めています。
民法192条においては即時取得の制度が認められていますが、株式の善意取得は、民法上の即時取得に比べて軽過失であっても取得者が保護される点や盗品・遺失物の場合でも適用が制限されない点において、取得者を手厚く保護しています。すなわち、株式の善意取得は、株券の流通を保護する必要性が高いことから即時取得の要件を緩和したものと考えられます。
(即時取得)
第百九十二条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
(盗品又は遺失物の回復)
第百九十三条 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
振替株式の善意取得
株券と同様に振替株式の場合は口座の記載に加入者が株式を適法に有すると推定する効力が認められています(社債株式振替法143条)。そのため、他の加入者の口座からの譲渡により自己の口座に増加の記載を受けた場合には、社債株式振替法144条によって振替株式を善意取得することができます。
株式を善意取得するための要件
株式の善意取得が認められるためには、株券の交付を受けることが要件となります。そして、株券の交付を受ける、つまり株券の占有を移転するための方法のうち、現実の引渡し、簡易の引渡し又は指図による占有移転については善意取得が認められると考えられます。これに対し、占有改定については、判例は動産の即時取得は占有改定によっては成立しないとしています(最高裁昭和35年2月11日判決)。
株式の善意取得における重過失の判断基準
また、株式の善意取得が成立するためには、取得者が善意かつ重過失がないことが必要です。重過失の判断基準としては、会社法130条2項が株券の流通を保護するために善意取得の要件を緩和した趣旨に鑑み、譲渡人が無権利者であると疑うべき事情がなければ特に調査をしなくても重過失はないと考えられています。
裁判例においては、株式の善意取得が争われるケースとして、金融業者が株券を担保として取得した事例が少なくありません。このような場合、裁判所は、取引条件等に異常性が認められるにもかかわらず、譲渡人の身元等を調査しなかったようなときは重過失があるとして株式の善意取得を認めない傾向があるようです。例えば、東京地裁平成16年9月16日判決は、譲渡人が初対面で取引を急いでおり、証券会社に持ち込めば株式を時価で売却できるにもかかわらず、あえて大幅な減額をするという不利な取引条件を甘受していることを指摘し、このような場合には株式の真の権利者が誰かを確認するべきとしています。
また、譲渡制限株式については、一般の株式に比べて譲渡承認を受けられる見通し等について慎重に調査する必要性が高く、譲渡制限株式の場合には特段の調査をせずに株式を取得した場合には重過失が認められやすいと考えられます。東京高裁平成5年11月16日判決は、譲渡制限株式の善意取得が問題となった事案において、発行会社や株券上の最後の取得者に照会する等の調査をする必要があることを指摘し、株券の記載に不自然な点があったことや譲渡対象となった株式が発行済株式総数の半数を超える大量の株式であったこと等から十分な調査をせずに株式を取得したことについて重過失があるとして善意取得を認めませんでした。
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- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立