会社法126条は、株主に対する通知について定めています。会社法126条1項・2項は、株式会社が行う通知・催告について株主名簿の記載に沿って行えば免責される効果(免責的効力)について定めています。また、会社法126条3項・4項は株式が共有に属する場合の通知についての規定です。
この記事では会社法126条の条文を紹介し、株式会社が行う通知についての問題を解説します。
(株主に対する通知等)
第百二十六条 株式会社が株主に対してする通知又は催告は、株主名簿に記載し、又は記録した当該株主の住所(当該株主が別に通知又は催告を受ける場所又は連絡先を当該株式会社に通知した場合にあっては、その場所又は連絡先)にあてて発すれば足りる。
2 前項の通知又は催告は、その通知又は催告が通常到達すべきであった時に、到達したものとみなす。
3 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、株式会社が株主に対してする通知又は催告を受領する者一人を定め、当該株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければならない。この場合においては、その者を株主とみなして、前二項の規定を適用する。
4 前項の規定による共有者の通知がない場合には、株式会社が株式の共有者に対してする通知又は催告は、そのうちの一人に対してすれば足りる。
5 前各項の規定は、第二百九十九条第一項(第三百二十五条において準用する場合を含む。)の通知に際して株主に書面を交付し、又は当該書面に記載すべき事項を電磁的方法により提供する場合について準用する。この場合において、第二項中「到達したもの」とあるのは、「当該書面の交付又は当該事項の電磁的方法による提供があったもの」と読み替えるものとする。
株主名簿の免責的効力
免責的効力の概要
会社法126条1項・2項は、株式会社が株主に対してする通知・催告は株主名簿上の住所に行えば足り、この場合、通知・催告は通常到達すべきであった時に到達するとしています。
意思表示は原則として到達した時から効力が生じるとされています(民法97条1項:到達主義)。会社法126条1項・2項は民法97条1項の例外規定であり、会社の便宜を図るとともに法的安定性を高める趣旨となります。
また、株主総会の招集通知を行うときには株主総会参考書類や議決権行使書面等の書面を交付する必要があります。株主総会の招集通知について免責的効力が及ぶとしても、株主に対して交付する書面に免責的効力が及ばなければ、結局、株式会社は株主名簿にかかわらず一々株主の住所を確認する必要が生じてしまい意味がありません。そのため、株主総会・種類株主総会の招集通知に際して株主に交付する書面についても免責的効力の規定が準用されています(会社法126条4項)。
株主以外に対する通知について
会社法126条は株主に対する通知に定めたものですが、募集株式の引受けの申込者や株式交付の申込者に対して行われる通知についても同様の規定が設けられています(前者について会社法203条6項・7項、後者について774条の4第6項・7項)。
他方で、組織再編行為における債権者保護手続きにおいては、債権者に対して行う催告について会社法126条と同様の規定は設けられておらず、民法の原則通り到達主義が採用されていると考えられるので注意が必要です。
免責的効力が認められない場合
会社法126条の適用があるため、原則として株主名簿上の住所宛てになされた通知・催告は、株主に届かなかった場合でも効力が生じることになります。しかし、株主が正しく届出を行ったにもかかわらず、株式会社が株主名簿の記載を誤ったため通知・催告が到達しなかったような場合は免責的効力が認められないと考えられています(大審院昭和12年3月12日判決参照)。
他方で、株主名簿の記載に軽微な間違いがあるに留まる場合には免責的効力は認められます。具体的には、住所の同一性が害される程度の間違いかどうかが判断の基準になると考えられます。
株主が株主名簿記載の住所にいないことが明らかな場合であっても、株主名簿記載の住所に通知・催告を行う必要があると考えられます。古い判例ではあるものの、株主が頻繁に住所変更をするため、株式会社が招集通知自体を出す必要がないと主張したのに対し、裁判所は少なくとも株主名簿記載の旧住所宛てに招集通知を出すべきと判断しているのが参考になるところです(大審院明治42年3月25日判決)。
株主名簿が実務上変更できない場合
株主の住所が変更された場合、住所変更を株主名簿に反映できるように以下のような実務的な取扱いがなされています。
例えば、招集通知は原則として基準日現在の株主名簿に沿って行われますが、株主名簿管理人がいる場合は基準日から1か月以内程度の住所変更であれば変更後の住所に招集通知が発送されるようです。
また、振替株式については、基準日等の一定の場合になされる総株主通知に基づいて株主名簿が変更されるため、株主名簿の記載は基本的に直近の基準日の状況を反映したものにすぎません。もっとも、株主通知は株主情報と株数情報により構成されますが、株主の住所等に関連する株主情報は、逐次株主名簿管理人宛てに通知されるため、株主情報に係る通知に基づいて株主名簿上の住所が変更されます。
しかし、事務手続きを行う上で時間的な限界があるため、株主が届けた最新の住所宛てに通知がなされない場合があります。もっとも、これは事務手続上の限界としてやむを得ず、株主名簿上の住所に通知・催告がなされているため免責的効力は及ぶと考えられます。
外国人株主に対する通知
会社法126条1項括弧書きは、株主が通知・催告を受けるための場所や連絡先を株式会社に通知することにより、当該場所や連絡先を利用することを認めています。とくに外国人株主については、株式会社が通知・催告をその都度海外の住所宛てに行うことは煩雑であり過大なコストも必要になります。
そのため、実務上は株式取扱規程等において外国人株主に対して常任代理人を選任するか、又は国内に通知先を指定することを義務付けることとしています。
常任代理人とは、会社法上の規定はありませんが、証券会社や銀行等の金融機関が役割を担っており、株主としての権利を包括的に受任し、株式会社との関係で株主の地位に代わる権限を有していると考えられています。そのため、常任代理人は株主宛ての通知・催告を受領する権限があると考えられますが、実務上は常任代理人選任届の委任事項として諸通知の受領権限を明記することとされています。
株式が共有にある場合の通知・催告
会社法126条3項・4項は株式が共有にある場合の通知・催告について定めています。具体的には、株式が共有に属する場合、共有者内で通知・催告の受領者を決めて株式会社に通知する必要があり、その受領者に対して通知・催告がなされます。通知・催告の受領者が通知されない場合、共有者の一人に対して通知・催告をすれば足りるとされています。
もっとも、会社法106条によって共有株式については権利行使者の通知がなければ権利を行使することができません。そして、株主総会の決議事項の全部について議決権を行使できない株主に対しては、株主総会等の招集通知を送る必要がありません。そのため、権利行使者が通知されていない場合には株主総会の招集通知をそもそも発する必要がありません。
他方で、権利行使者の通知がなされた場合、異なるものが受領者として通知された場合でも権利行使者に対して株主総会の招集通知が送付されるべきです。そうすると、権利行使者の通知と無関係に、株主宛ての通知・催告に関する会社法126条3項・4項が問題となる場面はあまり考えられないとも思えます。
なお、共有株式に係る権利行使者の通知については下記記事を参考にしてください。
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- 2009年 京都大学法学部卒業
- 20011年 京都大学法科大学院修了
- 2011年 司法試験合格
- 2012年 森・濱田松本法律事務所入所
- 2016年 アイシア法律事務所設立