M&Aを進めるにあたって、多くの中小企業やオーナー企業は「仲介会社」「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」のサポートを受けます。
一方で、成約に至らなかったのに高額な成功報酬を請求されたり、想定とは違う相手や条件で取引をまとめられてしまったりと、M&A仲介トラブルが問題化するケースも増えています。
本記事では、M&A仲介・FAを巡るトラブルの全体像と典型パターン、トラブル発生時の対処法、予防のための契約・実務上のポイントを、紛争・訴訟の観点から整理します。
- M&A仲介会社・FAと企業の間でどのようなトラブルが起こりやすいのか
- 仲介手数料・成功報酬を巡る紛争がどのように生じるのか
- トラブルが起きたときに、どのような対応ステップを踏むべきか
- 将来のM&Aに向けて、契約や実務面でどのような予防策を取れるのか
仲介会社と対立構造になってしまうと、案件自体が頓挫したり、将来のM&Aに悪影響が残ることもあります。早い段階で、冷静に「どこまでが正当な請求なのか」を整理することが重要です。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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M&A仲介・FAトラブルとは何か
M&A仲介会社やFAは、売り手・買い手の間に立って、候補先の紹介、条件交渉の支援、スケジュール管理などを行う「専門家」です。
しかし、仲介会社やFAはあくまで「利害関係者の一人」であり、依頼企業の利益と必ずしも完全に一致するわけではありません。
例えば、
- 成約金額に応じた成功報酬を得る立場であるため、「とにかく成約させる」インセンティブが強い
- 両手取引(売り手・買い手の双方から報酬を得るスキーム)の場合、どちらの利益を優先すべきかが曖昧になりがち
- 自社の営業目標達成を優先し、案件ごとのリスクやデメリットの説明が不十分になることがある
といった構造的な事情があります。
その結果、次のようなM&A仲介・FAトラブルが問題となることがあります。
- 想定していたより著しく不利な条件で契約をまとめられてしまった
- 契約がキャンセルになったのに高額な成功報酬を請求された
- 紹介先との間で深刻なトラブルが発生したのに、仲介会社が責任を負わないと言い張る
- 仲介会社の説明が不十分で、特定の候補先に過度に誘導された
こうした問題は、「仲介会社が直ちに違法」とまでは言えないケースも多く、どこまで仲介側に法的責任を求められるかの見極めが重要になります。
M&A仲介・FAトラブルの典型パターン
M&A仲介・FAトラブルには、ある程度共通するパターンがあります。ここでは代表的なものを整理します。
- 情報格差・説明義務違反
M&Aに不慣れな中小企業側に対し、仲介会社だけが市場環境や相場、候補先の情報を握っているケースです。リスク説明が不十分なまま契約を急がせたり、他に有利な選択肢があるのに提示されなかったりすると、説明義務違反が問題になります。 - 両手取引・利益相反
売り手・買い手双方から成功報酬を受け取る「両手取引」の場合、仲介会社がどちらの利益を優先したのかが問題になりがちです。値段をどこまで上げる(下げる)べきか、どこまで情報を開示すべきかなど、利益相反の管理が不十分だとトラブルに発展します。 - 独占契約・囲い込み・テイル条項
一定期間、他の仲介会社・FAを使えない独占条項や、契約期間終了後も一定期間は同じ相手と成約した場合に成功報酬を請求できる「テイル条項」が問題になることがあります。実質的に企業の選択肢を不当に縛っている場合、公平性が問われます。 - 相手先選定・秘密情報の取り扱い
候補先の選び方が偏っていたり、秘密保持契約(NDA)にもかかわらず意図せず自社情報が広く出回ってしまったりするケースもあります。情報管理に明らかな不備があれば、仲介会社側の責任追及が検討されます。
これらのうち、特に情報格差と利益相反に関する具体的な事例は、個別記事である仲介会社との情報偏在・利益相反で起こるM&A仲介トラブルで詳しく解説していく想定です。
また、「M&Aそのものの失敗パターンを知りたい」というニーズには、クラスター記事のM&Aの失敗事例から学ぶデューデリ・契約交渉のポイントで、デューデリジェンスや契約交渉全体の視点から整理する予定です。
仲介手数料・成功報酬を巡る紛争類型
M&A仲介トラブルで最も相談が多いのが、仲介手数料・成功報酬のトラブルです。典型的には、次のような争点が生じます。
1つ目は、「どの時点で成功報酬が発生するのか」という問題です。
エンゲージメントレター(仲介・FA契約書)上、
- 基本合意の締結時点
- 最終契約書の締結時点
- クロージング(対価の支払と株式・事業の移転)が完了した時点
のいずれを「成約」とみなすかで、支払義務の有無やタイミングが変わります。案件が途中で流れた場合、「ここまで進んだから成功報酬を支払え」という仲介会社側と、「最終的に成立していないのだから払えない」という企業側で対立することがあります。
2つ目は、「誰が紹介した案件か」が争われるケースです。
もともと取引関係のあった相手や、自社で独自に見つけた候補先と成約した場合でも、契約の文言によっては「仲介会社の紹介により成立した案件」として成功報酬を請求されることがあります。テイル条項の有無・内容も含め、「紹介」と評価されうる範囲を契約上どこまで広く定めているかが問題になります。
3つ目は、「成果が十分に出ていないのに最低手数料・中途解約金を請求される」ケースです。
レターの中で、一定の最低報酬や中途解約時の違約金が定められていると、実際には有益なサービス提供がなかったと感じていても、契約書上は支払義務が認められうることがあります。もっとも、事前の説明内容や契約交渉の経緯によっては、当事者が不公平感を強く感じる場合には争われるケースも生じます。
これらの論点をより掘り下げる形で、個別記事M&A仲介手数料・成功報酬のトラブルと返還請求の実務で、返還請求を検討する際のポイントや交渉・訴訟での主張立てを整理していく予定です。
トラブル発生時の対応ステップと法的選択肢
仲介会社・FAとの間でトラブルが顕在化したときに、感情的に対応してしまうと、
- 今後のM&A機会を逃してしまう
- 不用意なメール・発言が証拠として不利に働く
- 支払拒否・契約解除が「債務不履行」と評価されてしまう
といったリスクがあります。冷静に、次のようなステップを踏むことが重要です。
- 事実関係と不満点の整理
いつ、どのような説明を受け、どんな見込みを示されていたのか、メール・議事録・提案資料などをもとに整理します。「何が約束されていたはずか」「何が現実と違ったのか」を明確にすることが出発点です。 - 契約書・レターの確認
エンゲージメントレター、秘密保持契約(NDA)、基本合意書などを読み直し、報酬発生条件や独占期間、テイル条項、利益相反に関する規定を確認します。契約文言と実際の運用が乖離していないかがポイントになります。 - 支払・契約継続に関する当面の方針決定
支払期限が迫っている場合、安易に全額支払うのか、一定額のみ支払うのか、いったん支払を留保するのかを検討します。単に「払わない」と伝えるだけではなく、法的リスクを踏まえた判断が必要です。 - 交渉・ADR・訴訟など解決手段の検討
まずは交渉での解決を目指すのか、第三者を入れた調停・ADRを検討するのか、裁判・仲裁まで視野に入れるのかを検討します。M&A契約全体の紛争解決条項(管轄裁判所・仲裁条項・準拠法)との関係も確認が必要です。 - 弁護士への早期相談
どの程度の金額・リスクがかかっているのか、仲介会社とのこれまでのやりとりが法的にどう評価されうるのかについて、早めに専門家の意見を聞いておくと、後戻りできない一手を打ってしまうリスクを減らせます。
「支払うか・争うか」の二択で考える前に、事実と契約を整理し、「どこまで争う余地があるのか」「どこまで譲歩すべきか」をフラットに評価することが、交渉力を高めるうえでも重要です。
M&A全般の紛争解決手段(裁判・仲裁・調停など)については、別記事**M&A紛争を裁判・仲裁・調停のどれで解決すべきか【メリット・デメリット】**で、より詳しく取り上げる予定です。
M&A仲介・FAトラブルの予防策(契約・実務)
M&A仲介・FAトラブルの多くは、エンゲージメントレターを締結する段階で適切に対応していれば、リスクをかなり抑えられるケースが少なくありません。
特に初めてM&Aを経験する企業では、仲介会社から提示されたレターを「フォーマットだから」とそのまま受け入れてしまい、後になって不利な条項に気づくことがよくあります。
- 仲介会社・FAの選定基準を明確にする
料金だけでなく、過去の成約実績、業界知識、コンフリクト管理の体制、担当者の経験などを評価軸として整理します。複数社から提案を受け、比較検討することが望ましいです。 - 独占期間とテイル条項の範囲を適切に設定する
独占期間が長すぎると、動きづらくなります。テイル条項も、期間・対象となる相手・案件の範囲を具体的に限定し、自社の既存取引先や自力で見つけた相手にまで広がりすぎないよう注意が必要です。 - 報酬体系・成功報酬の定義を具体化する
「どの時点を成約とみなすか」「何をベースに成功報酬を計算するか(株式価値か企業価値か、負債の扱いなど)」を明確にしておきます。最低報酬や中途解約金の有無・水準も含め、将来の紛争の火種になりやすい部分です。 - 情報開示・報告義務・利益相反管理を契約上押さえる
候補先の選定方針、提案を受ける際の情報の出し方、利益相反が生じうる場合の開示方法・事前同意の要否などを、レター上でできる限り明文化しておきます。 - 社内ガバナンスとして「M&A委員会」等の仕組みを整える
経営者一人の判断に依存せず、法務・財務・事業部などを交えた場で、仲介会社の提案や条件を検討できる仕組みを整えると、仲介会社とのパワーバランスも取りやすくなると言われています。
FA・アドバイザリー契約の具体的な条項の見直し方については、個別記事FA・アドバイザリー契約のトラブルと契約条項の見直しで、条項別に詳しく解説していく予定です。
弁護士に相談すべきタイミングと本記事のまとめ
M&A仲介・FAトラブルは、「請求書が届いてから」慌てて相談を受けるケースが少なくありません。しかし、もっと早い段階で弁護士に相談していれば、防げた・小さく済んだという事案も多く見られます。
相談の目安としては、例えば次のようなタイミングが考えられます。
- 初めてM&A仲介会社・FAとエンゲージメントレターを締結しようとしているとき
- 仲介会社から提示された報酬体系や独占条項に違和感があるとき
- 想定と異なる条件・相手先で成約を急かされていると感じるとき
- 成約に至らなかった案件について高額な成功報酬請求を受けたとき
坂尾陽弁護士
M&Aトラブル全般について弁護士に相談すべきタイミングや費用感は、別記事M&Aトラブルを弁護士に相談すべきタイミングと費用感で整理していく想定です。
最後に、本記事のポイントを簡単にまとめます。
-
M&A仲介・FAトラブルは、情報格差・利益相反・独占条項・テイル条項・手数料条件など、契約と実務のギャップから生じることが多い
- 仲介手数料・成功報酬の発生条件や範囲は、エンゲージメントレターの文言が大きく影響し、事前の交渉の有無が紛争リスクを左右する
- トラブル発生時には、事実関係と契約を丁寧に整理し、支払・契約継続の方針を決めたうえで、交渉・ADR・訴訟などの選択肢を検討することが重要
- 予防のためには、仲介会社・FAの選定、独占期間・テイル条項・報酬体系・利益相反管理などを契約上明確にし、社内ガバナンスを整えることが有効
- 「請求書が届いてから」ではなく、契約締結前や違和感を覚えた段階で弁護士に相談することで、M&A仲介・FAトラブルのダメージを大きく減らせる
定期的にM&Aを検討する企業では、「M&A仲介・FA選定・契約の社内ガイドライン」を作っておくと、案件ごとにゼロから悩まずに済みます。将来的にはこのガイドラインに基づき、社内外の関係者が共通認識を持てるようにすることも有効です。
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