アーンアウト条項や価格調整・エスクローをめぐるM&A対価トラブル
アーンアウト条項と本記事の位置づけ
M&Aの現場では、買い手と売り手の企業価値評価が一致しないことが少なくありません。その「溝」を埋める手段の一つが**アーンアウト条項(アーン アウト 条項)**です。対価の一部を将来の業績に連動させることで、双方のリスクを調整しようとする発想です。
しかし、アーンアウト条項の設計や運用を誤ると、買収後に深刻な対価トラブル・紛争を招くことがあります。たとえば、
- 買い手が経営方針を変えた結果、アーンアウト条件が達成できなくなった
- 計算基礎となるEBITDAや売上の定義を巡って、買い手・売り手が対立した
といったケースは、実務で頻繁に問題になります。
- アーンアウト条項・価格調整条項・エスクローの「役割と違い」
どのような場面でアーンアウト条項が紛争になりやすいか
• トラブルが起きたときに検討すべき法的論点・解決手段
• 事前のドラフト・交渉で押さえるべきチェックポイント
本記事は、「アーンアウト・価格調整・エスクローをめぐるM&A対価トラブル」の総論ページとして、対価計算スキーム全体を俯瞰しつつ、紛争リスクと予防策を整理します。個別の条項ごとの詳しい解説は、アーンアウト条項とは何か【M&A対価の分割・条件付支払】や価格調整条項・ロックボックス・エスクローの仕組みとトラブル対応などの個別記事で掘り下げていく前提です。
本記事の内容は一般的な解説であり、個別案件の結論を示すものではありません。具体的なM&Aトラブルについては、必ず個別に専門家へ相談することを前提にご覧ください。
坂尾陽弁護士
執筆者:弁護士 坂尾 陽(企業法務・M&A担当)
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アーンアウト・価格調整・エスクローの基本スキーム
まずは、対価計算まわりの代表的なスキームを整理します。
■アーンアウト条項(earn-out)とは
買収対価の一部を、クロージング後の一定期間における業績(売上・EBITDA・営業利益など)に連動させて支払う仕組みです。典型的には、
- クロージング時に「固定対価」を支払う
- クロージング後〇年間の業績が一定水準を達成した場合に、追加対価(アーンアウト)を支払う
という構成になります。M&Aアーンアウト取引では、
- 買い手:過大評価のリスクを抑えたい
- 売り手:成長ポテンシャルを価格に反映させたい
という利害を調整するために利用されることが多いです。
指標・期間・算定方法・上限額(キャップ)などを細かく定めておかないと、後のM&A アーンアウト紛争の火種になります。
■価格調整条項(purchase price adjustment)
クロージング時点の純有利子負債や運転資本(NWC)を基準値と比較して、買収対価を増減させる仕組みです。代表的なものとして、
- クロージング・アカウント方式(クロージング後に実際のBSを確定して精算)
- ロックドボックス / ロックボックス(Locked-box)方式(基準日BSを固定し、それ以降のリーケージのみ精算)
などがあります。M&A 価格 調整 条項は、アーンアウトと異なり、通常は「クロージング時点の財務状態の調整」に焦点があり、将来業績そのものには連動しないことが多い点がポイントです。
■エスクロー / ホールドバック
支払対価の一部を第三者(エスクロー口座)に留保し、一定期間経過後、条件に応じて売り手に支払うか、買い手側の補償に充当する仕組みです。表明保証違反・簿外債務などのリスクカバーに使われることが多く、アーンアウトや価格調整条項と組み合わせて設計されます。
坂尾陽弁護士
アーンアウト条項をめぐる典型的トラブル
アーンアウト条項は、一見すると「双方にとってフェアな仕組み」に見えますが、運用段階ではさまざまなトラブルが起こります。代表的な類型を整理します。
- 指標の定義・算定方法を巡る争い
EBITDAや営業利益からどの費用・特別損失を控除するか、投資やリストラ費用をどう扱うかが明確でないと、「本来は達成していた/していない」などの争いになります。 - 買い手の経営判断と売り手の期待の衝突
買い手がPMIの一環として事業構造を変えた結果、アーンアウト達成が困難になった場合に、「買い手の経営裁量の範囲か」「アーンアウトを害する行為として制約されるのか」が問題になります。 - 情報提供・検証プロセスを巡る対立
売り手側が計算根拠の開示を求めても十分な資料が出てこない、第三者会計士による検証プロセスが曖昧、異議申立て期間が短すぎる、といった点から紛争が深刻化することがあります。 - 他条項との関係(表明保証・競業避止など)
基準年度の業績が表明保証違反や簿外債務により実態と異なっていた場合、アーンアウト条項の見直しや損害賠償請求との関係が問題となります。
アーンアウト条項は、買い手・売り手双方にとって「契約書を読むタイミング」が異なりがちです。交渉時にはベストケースを想像しがちですが、実際には業績が予想を下回ったときに初めて条文が細かく読まれます。このギャップが紛争リスクを高めます。
具体的な失敗事例・紛争予防のポイントは、アーンアウト条項の失敗事例・紛争予防のポイントで、より事例に踏み込んで解説していく前提です。
紛争時の法的枠組みと解決プロセスのイメージ
アーンアウト条項をめぐる紛争は、一般に次のような法的構成・プロセスを辿ります。
■法的構成の典型パターン
- アーンアウトの算定・支払い義務自体は、売買契約に定められた債務として位置付けられます。
- 買い手がアーンアウトの支払いを拒む場合、売り手側は「契約上定められた算定方法に従えば、アーンアウト条件を満たしている」と主張して、**債務不履行(未払い)**と主張するのが基本形です。
- 一方、買い手は「指標の定義・算定方法に照らせば条件を満たしていない」「売り手側の表明保証違反により基礎数字が歪められていた」などの抗弁を行うことが多く、表明保証違反や情報提供義務違反が併せて問題になります。
■立証・証拠のポイント
アーンアウト紛争では、単に契約条文の文言だけでなく、
- 当初のビジネスプランやシミュレーション
- DD報告書やマネジメント・プレゼン資料
- クロージング後の月次試算表・管理会計データ
- 双方のメールや議事録(アーンアウト運用に関する協議の経緯)
といった資料が重要な証拠になります。
アーンアウト条項は「会計・ビジネスの理解」と「契約解釈」が交錯する領域です。裁判や仲裁でも、専門家証人や会計士の関与が前提となることが少なくありません。
■解決手段(裁判・仲裁・調停など)
多くのM&A契約では、専属的合意管轄や仲裁合意が設けられています。アーンアウト紛争が発生した場合、
- まずは契約で定められた協議・専門家決定プロセス(Expert Determination)があるかを確認
- それでも解決できない場合に、裁判・仲裁・調停などの紛争解決手段に移行
という流れになります。紛争解決手段の選択やメリット・デメリットは、**M&A紛争を裁判・仲裁・調停のどれで解決すべきか【メリット・デメリット】**でより詳しく整理する想定です。
アーンアウトの算定結果に異議を述べることができる期間(オブジェクション期間)が契約で定められていることが多く、その期間を徒過すると争えなくなるリスクがあります。疑問があれば、早期に資料を入手し、専門家と検討することが重要です。
トラブルを防ぐためのドラフト・実務上のチェックポイント
最後に、アーンアウト条項を設計する際に最低限押さえておきたいポイントを整理します。
- 指標の定義と算定方法をできる限り具体化する
「EBITDA」など一語で済ませず、どの勘定科目を含めるか/除外するか、特別損益やグループ内取引の扱いまで条文で可能な限り明記します。 - 買い手の経営裁量とアーンアウト保護のバランスを取る
買い手に一定の経営自由度を認めつつ、アーンアウト達成を不当に妨げる行為を禁止するコベナンツ(事業の大幅な縮小・グループ内への移管など)を検討します。 - 情報開示・検証プロセスを明確にする
計算結果の提示期限、売り手側の質問権・資料閲覧権限、第三者会計士による決定プロセス(コスト負担や拘束力)を条文として整備します。 - 価格調整条項・エスクローとの整合性を確認する
アーンアウト・M&A 価格 調整 条項・エスクローのいずれでどのリスクをカバーするのかを整理し、二重カウントや抜け漏れがないようにします。 - 責任制限条項・表明保証との関係を設計する
アーンアウトの対象となる指標に影響する簿外債務や粉飾が発覚した場合に、表明保証違反・補償条項・責任制限条項(キャップ・バスケットなど)とどう連動させるかをあらかじめ決めておきます。これは表明保証違反と損害賠償額・責任制限条項の実務とも密接に関わる論点です。
以上を踏まえ、本記事のポイントを簡単にまとめます。
- アーンアウト条項は、M&A対価の一部を将来業績に連動させる有力なスキームだが、設計を誤ると深刻な紛争の火種になる。
- アーンアウト・価格調整条項・エスクローは、それぞれカバーするリスクとタイミングが異なるため、セットで設計する際は条項間の整合性が不可欠である。
- 典型的なトラブルは、指標の定義・算定方法、買い手の経営裁量、情報開示・検証プロセス、他条項との関係を巡って生じる。
- 紛争になった場合には、契約解釈だけでなく、実際のビジネス・会計データや交渉経緯が重要な証拠となるため、早期の資料収集と専門家関与が重要である。
- 予防のためには、指標の具体化、経営裁量とアーンアウト保護のバランス、情報開示・検証プロセス、他条項との連携を意識してドラフト・交渉を行うことが必要である。
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